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式場選び
いつかの君へ
しおりを挟む『さようなら』より優しい別れの言葉がある。
『またね』という三文字だけど、その意味する内容は広い。
本来なら再会する事を前提に使われるこの言葉。この言葉を最後に会わなくなった人は意外に多い。
小学校、中学校、高校、大学の卒業式で等様々な人生の節目に私はこの言葉を使い、人と別れて来た。
別にその人生の一ページを過ごした人々が、嫌いになったからとかいうのでない。
新しい環境や人間関係、それらにかかりっきりになっているうちに時間だけが過ぎてフェードアウトしていっただけ。
私の初恋の相手で恋人だった星野秀明との別れの言葉もこの『またね』だった。
東京駅のホーム。まるでチョット里帰りをする相手を送り出すような感じの会話で、私は星野秀明に『さよなら』をした。
この薫さんとも『百合ちゃんが大学合格したらお祝いに三人で飲もうよ、じゃまたね』という言葉で別れた。
その後、薫さんは私の前から姿を消した。揶揄でもなく文字通り行方不明になってしまったのだ。
半年に一度くらい出したメールに返事をくれたけど、会うことは拒絶され続けた。
もう会える事できないのではないかと諦めていた時に、突然『良かったら、デートしない?』という電話がきた。そして今では親友となっている。
婚約者である、大陽くんとはどうだったのだろうか? 小学校六年の教室で、引っ越しの為転校する彼にどんな言葉をかけたのだろうか?
記憶にも残ってない。さほど親しくもなかった男子に対して『またね』という言葉を使わなかったと思う。
大して別れも悲しむこともなく『元気でね、頑張って、さようなら』とかいった言葉を言ったと思う。それなのに関東で再会して結婚するまでの関係になった。
こう考えてみると人間の縁って本当に不思議である。こっちの想いとか感情とか関係ないところで人との繋がりが決まっているようにも感じる。
簡単に婚約者とのなれそめと、結婚の経緯の説明を聞きながら、薫さんは複雑な顔をしている。そして大きく溜息をつく。
「そっか……。ゴメンネ、おめでとうって言うべきなのに、言葉は上手く出てこない……。
私にとってヒデと百合ちゃんって理想のカップルだったんだ。
高校の時にはさ、自分がまともな恋愛は出来ないってなんか分かっていたから。
男だったらこういう感じで女の子を愛したいな、女の子だったらこういう風に愛されたいって」
薫さんはずっと、私が片想いしているときから星野秀明との関係を見守ってくれていた。
「ごめんなさい、薫さんには本当に応援してもらったのに」
「コチラこそ、ゴメン二人が大変な時に自分の事でいっぱいになっていて側にいてあげれなかった」
私はその言葉に首を横に振る。
「薫さんには、逆にあの時優しくされてたら、私甘えん坊のダメ人間になってたよ」
薫さんが高校時代からズッと苦しんでいたのを、私は気付く事も出来ていなかった。ただ薫さんの優しさに甘えていた。
「なに、それ?」
薫さんが笑った顔をみせてくれるようになった薫さんにホッとする。
でもその笑顔を引っ込め真面目な顔でコチラをジッとみてくる。
「相手、ヒデよりも良い人?
オカシなヤツだったら承知しないよ。まあ、ヒデも最高に良い男というわけではないか」
どちらが素敵な人かというと、難しい質問である。好みのタイプとかいうのでは星野秀明の方なのかもしれない。
「良い人というか、とにかくユニークな人なの。
私って、昔から小さいことでウジウジ悩んでしまう所あったじゃないですか? コンプレックスの固まりで。
自分が大嫌いで、そんな自分を必死で隠して。
私じゃない人になろうと一生懸命で。でもね、その人と出会って、自分はコレで良いんだ! って開き直ることができたの。
残念な子だけどなかなか可愛いヤツじゃんって、今は思えるんだ。自分でいることが楽しい」
薫さんは、クスリと笑う。
「私から見たら、今も昔も変わらず、面白い可愛い子だけどね。でも、良い女になったと思うよ」
「薫さんには敵いませんが」
薫さんはンっという顔をして、クククと笑う
「まあね、そんだけ悩んだし苦労したからね~」
そう言って華やかに笑う。
元々綺麗だったけど、確かに凄く綺麗になったと思う。でも薫さんが格好いいのは昔からだ。真っ直ぐな性格とか変わらない。
「でも、薫さん昔も今も変わらず素敵ですよね」
イヤイヤと首をふる。
「なんで、君らって……。
こんだけ頑張って変わった私に、『昔のままで嬉しい』といった事いうんだろうね。
時々、どっちとした会話だったのか分からなくなる。
でもさっきの月ちゃんの言葉でなんかなるほどなって思った。
私だけでないだな。みんな自分受け入れて本当の自分になるために色々悩んで頑張って成長するものなんだって。
今の月ちゃんの顔見て安心した。
結婚おめでとう! 喜んで出席するから! 相手もスッゴク気になるし」
いつもの優しい笑顔で、出席を承諾してくれた事が嬉しくて、私は両手で薫さんの手を握る。
「ありがとうございます! 嬉しい!」
ニコニコと笑っていた薫さんが、ハッとあることに気が付いたように聞いてくる。
「そういえば、日程聞いてなかった。百合ちゃんの結婚式っていつ?」
「九月の二周目の土曜日です! スケジュールの調整お願いします!」
私のニコニコとした返事に、薫さんは何故か困った顔をして大きく溜息をつく。
「もしかして、何か予定が?」
薫さんは苦笑しなら、首を横にふる。
「いや、土曜日は開いているから大丈夫、ただね~。ったく」
どうしたのだろうか? この微妙な反応は。
「二人には心配を散々かけたのに、式に招待してもらって文句言える立場ではないのは分かるけど。
なんで同じ週にやるかな。どこまで仲良いんだよ。そんなんなら二人が結婚してくれたら良かった。
そしたら一日で済んだし、お祝いも一つで済んだ」
「あの、もしかして アチラも二周目が結婚式でした?」
ちょっとマズイ事教えたかなという顔を、薫さんはする。でも、何か、ショックというより嬉しい。
上手く説明できない。恋人とかではなくなったものの、星野秀明さんとは、まだ縁で繋がっているという感じに、ホッとする。
「ん、まあ、そう、あっちは家が旅館って事もあって、流石に週末には出来ないから、水曜日なんだけどね」
「すいません、なんか私達の為に九月、散財させてしまって」
私は申し訳なくなって頭を下げる。薫さんは、イヤイヤと慌てて首をふる。
「たださ、もう一度三人でお酒飲みたかったかな」
私はその言葉に頷きながら、『今の状況では、ソレは難しいだろうな』と考えていた。
会ったから、愛が再び再燃するとは思えない。しかし星野秀明さんと再び友人に戻るにはまだ時間が足りてない。それだけ密な時間を過ごしてきたから。
どのくらいの時間があれば、元恋人が友人とか親友というよい関係となれるのだろうか?
「といっても、三人で飲んだ事はなかったか、お茶や御飯食べたりは散々したけど」
薫さんが悪戯っぽく笑う。
「そういえば! まっ、取りあえず今日は二人で飲みに行きますか!」
私も戯けて言葉を返す。視線を窓の外にやった。それぞれの目的に向かって歩く人々が行き交っている。沢山の人生が窓の外で交差していた。
※ ※ ※
食事をするために、お店をでて二人で仲良く並んで歩く。薫さんとは、大陽くん程でもないにしても一緒に歩くと凸凹コンビになる。
「なんかさ、娘が結婚する時って、こういう気分なのかな」
薫さんがふと、そんな事言ってくる。ふと隣をみると、唇をチョット突き出してコチラをみている。
私をチラりと見てから、おもむろに抱きしめてくる。
「あのさ、結婚しても、こうやってデートしてほしいな。旦那様、それは許してくれるよね?」
私は薫さんの暖かい胸に包まれながら頷く。
「大丈夫! 嫉妬したり、細かい事気にしたりする事ない、大物だから」
薫さんは腕の力をゆるめ私から離れてニヤリと笑う。
「ノロケ?」
私は、チョット恥ずかしくなって笑って誤魔化す。
そして私達は、二人で楽しくデートを続けた。
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