Zazzy people

白い黒猫

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The eyes

Slapping

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 取材が終わり俺は、皆と別れロイを誘う。二人で歩き出すと、何故かロイがフフフと笑い出す。
「しかしケンは変わらないな、元彼の前であんなに堂々とナンパするか? しかもお前はもう既婚者だろ」
 俺も笑う。こうして並んで歩くのも久しぶり。穏やかなこの空間を楽しんだ。
 風がロイの白金プラチナブロンドの髪を揺らす。その柔らかく心地よい手触りを俺の手が思い出し、痺れに似た震えを覚え拳を握り締める。
「ナンパなんてしてないだろ、紳士的に接していたつもりだけど」
 ロイは淡いブルーの瞳を俺に向けてくる。俺への恋慕、怒り、哀しみそんな感情に揺れているその目に見つめられ心が震える。
「あんなヤラシイ目で見つめていたのに?」
 俺がインタビュアーに笑いかける時、イーラの話をする時、コイツの瞳が複雑に感情が揺れているのをずっと感じていた。ピュア過ぎて感情が丸出しになるその顔はいつも俺を夢中にさせた。
「お前も知っているだろ? 俺は面倒になるのは苦手。だからああいうタイプには手を出さないよ。
 恋愛にロマンと夢を持つ女の子の大切なモノを壊す程、鬼畜ではない」
 ロイは溜め息をつき。重そうなカメラの入ったバックを持ち直した。なんか猫が気分を落ちつかせるために毛繕いを始めているようなその様子にニヤついてしまう。
 俺は顔を寄せロイにキスをした。ロイは慌てたように身体を動かし、目を見開き俺を見つめてくる。
「お前のその視線を、もっと強く感じたくて、煽る為にやってたんだ」
 身体を抱き寄せ耳元でそう囁くと、ロイは白い頬を真っ赤にさせ怒り出す。
「あんた、結婚しているのに、まだそんなこと言うのか?」
 俺と異なり純粋のゲイであるロイにはその部分は余計に引っかかる。
「だって俺、お前に惚れているから。
 お前程俺を感じさせてくれる男はほかにいない。お前もそうだろ?」
 そう言うと睨んでくる。
 俺の気持ちは本気だがコイツには絶対に通じない。ロイはゲイである事を除けば至ってノーマルな倫理観を持っている。
 愛を尊み、愛した相手に真っ直ぐに心を捧げる。
 俺にとっては音楽でギグやセッションを楽しむのと同じ感覚での、他の奴とのセックスもコイツにとっては裏切りでしかない。
 一年間同棲して付き合ってきたが、俺の気侭さに耐えきれずロイが出ていって、その関係は終わっていた。
「何故結婚した? しかも女と……そして俺に何故、今更……」
 ロイの言葉に、俺は悩む。インタビュアーに返したような適当な言葉は返したくない。
 何故イーラと結婚したのか? そんな社会制度なんて無意味でクソ喰らえと思っていた俺が。それは勢いとしか言い様がない。
 イーラに惚れているかというと、違う気もする。一緒にいてここまで違和感なくシックリきた相手はいない。
 鏡に映った自分のようだ。だからこそ同じモノを見て、好きになり共有も出来る。
「説明しにくいけど、普通の夫婦ではないと思う。
 共同体なんだ俺と彼女は。一緒に同じ感覚で演奏プレイ出来る。
 気持ち悪い程似た感覚と感性を持つから。一緒に何でも興奮して楽しめる」
 俺の言葉に呆れたような顔を返す。
「同類って事か……」
 言ってしまえばそうなるのだろう。
「やはり俺とあんたは違う世界を生きる存在なんだな」
 惚れている相手にそう切り捨てられるのは、流石に俺だって辛い。
「違わねえだろ、こうして隣に立っていて、手を伸ばせば触れられる」
 俺は掌でロイの頬を撫でた。そして揺れる瞳を見つめながら囁く。キスするくらいの距離感で。指先で頬を優しく愛撫する。
「そしてビリビリするくらい、お前に感じてるんだ」
 触れるか触れないかくらいの柔らかいタッチでキスをして少し離れた所で待った。
 目尻に赤みが差した瞳が俺を映し滲む。俺だけでなく、ロイも俺を感じているのだろう。俺の前で揺れていた。
 コイツは感情が高まると淡いブルーの瞳が赤みを帯びたグレーに変化する。グレーの瞳が細められて俺に近づいてきて、ロイは俺に惹き寄せられるようにキスをする。俺はその熱いキスを受けながらロイを抱きしめた。

 タクシーを呼び、マンションへと急いで移動し、俺達は互いを貪るように求め合う。
「……ッケン! ケン、ゥ」
 俺を求める声と、俺の心を蕩けさせる瞳、ロイのあらゆる要素が俺を燃えさせる。
 ロイのモノを銜え舌で刺激すると、身体中を震わせて喜ぶ様子がまた可愛い。だから思いっ切り焦らしてやる。
「お、お願い! 早くッ、ケンッ、ケン!! ケーンッン」
 叫びながら、悶え求めさせるようになってから、俺をロイの中へと挿入させた。最近あまりしていたかったのか、ロイの中はとても狭く俺を締め付ける。しかし脈打つそこは俺をたまらなく感じさせ興奮させる。
 思わずイキそうになるのを深呼吸して落ち着けてから腰を動かした。
 あまりの心地よさにあっけなく達してしまった。しかしロイのうねる熱が俺を直ぐにいきり勃たせる。そのまま互いの身体が溶け合うのではないかというくらい、絡ませてあって抱き合った。

 程よい気だるさの中、俺はロイをベッドで抱きしめる。身体を寄せてくる様子に愛しさが強まる。
「実はあんたのライブに行ったんだ。奥さんと一緒にやっていた夏のライブ」
 ロイが俺の胸の中で囁くように告白してくる。
「知ってるよ。お前の視線を感じてた」
 フフという笑う吐息が、胸を擽る。
「嘘」
「二階席の左側だろ」
 言い当ててやると、ロイは目を見開く。しかし首を横にふる。
「舞台の上には、誰も入れない二人の世界があった。俺はそれを遠くから見る事しか出来ない……」
 俺が口を開こうとするが、ロイは遮る。
「被写体と撮影者側、どうしようもなく超えられない壁がある。俺とケンの間には」
「何言ってるんだ、あんな目で俺を見ていながら。
 俺はやられるのは趣味じゃないが、お前の視線なら犯されてもいいぜ。いや、お前は目で俺をいつも犯しているくせに!」
 そう言ってもピロートーク程度にしか感じないのだろう。ロイは困ったように笑う。
「……そういう愛し方が俺にあってるのかもな。
 あんたは麻薬みたいだ。近づきすぎると俺は酔って狂って壊れてしまう。
 俺は素面でケンと向き合いたいんだ! 俺らしくあんたを何時までも感じていたい」
 そう虚ろな言葉でつぶやき、ロイは視線を俺から外した。その目が彼のバックで止まる。ロイは俺の腕の中から離れ、バックの方へいきカメラを手にとり戻ってきた。
 俺から少し離れた場所で全裸のままカメラを構える。体内から俺の放ったモノが垂れ、内股を濡らすのも気にせずシャッターを切っていく。
 俺は近づきカメラを取り上げ直にその瞳に俺を写し、再びロイの中に入り感じたい。しかしそうすることを躊躇ってしまう何かが、この時のロイにあった。
 俺は離れた距離でロイを見つめる事しか出来ない。ビリビリしたロイの視線に晒されながら。
「ねえ、ピアノ弾いて! 聴きたいんだケンの音を」
 ロイがシャッターをきりながら、そう求めてきた。俺はその声と眼差しにゾワゾワとするものを感じる。そういうプレイも面白いのかもしれない。
 そこまで言うならば、俺はお前をピアノでイカせてやる。だからお前も俺を感じさせろ、その視線で! そして、一緒に昇天しよう! 俺は笑い頷いた。


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 Slapping=弦を叩きつける様に当てるベース奏法
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