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正義の味方

正義の見(え)方

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【銀崎三丁目ひったくり未遂事件に置いての報告書】

事件発生時間:七月二十九日午後四時二十七分

被害者:星野ふみ子 (二十四歳)
 星野ふみ子が高松屋デパート裏道路にて歩いている所、背後から男が忍び寄りそのバックを奪おうとしたが、激しい抵抗に合い、目撃者も現れた為に、犯人はそのまま逃亡。目撃者の証言から犯人は春川大通りに出てすぐに右側へと逃亡した。防犯カメラから犯人と思われる男の画像を多数入手。(添付資料A-D)ここ一ヶ月周辺で同様の事件も起きている事から、同一犯の可能性もあり。

目撃者証言一:青山 誠 (二十四歳)
「俺が三階の廊下を仲間と歩いていると、下の裏道を花柄のワンピースにつばの広い帽子を被った女性が歩いていました。するとその背後からアロハシャツっポイ服に浅い色のジーンズ姿の男性が怪しく近付いてきてきたので、窓を開けてその女性に叫んで危険を知らせました。女性がその男に気が付いたのは男性が鞄に手をかけていた時でした。女性はとっさに鞄を抱きかかえた事で男の揉み合いになったので、『その手を放せ!』といった感じの言葉を仲間と男に向かって叫びました。するとその男性はコチラに見上げギョッとした顔をして大通りの方に走って逃げて行きました。男のシャツの色? 多分白ではなくて、淡い色に大きな花柄の上着。二十代くらいの長髪の柄が悪そうな感じでした」

目撃者証言二:赤城 啓二 (二十七歳)
「外で事件が起こっているのをみて、リーダーの指示で白井さんの後をついて下に降りていきました。するともう男は逃げたあとでした。通りに出てみたら、演芸場の方面を全力で逃げていっている姿が見えました。追いかけてみたのですが、既に最初からかなりの距離があって追いつけませんでした。犯人ですか? 色はよく分かりませんが、アロハシャツにジーンズそれにスニーカーの横にナイキの大きいマークが見えました。スニーカーの色は濃い色。黒ではないけど濃い色と感じました」

目撃者証言三:神本かみもと正義まさよし (四十二歳)
「みんなの反応から、何か外で事件が起こっているのを察しました。すぐに小翠、白井、桃山に指示して下に走らせました。そして黒田と青山にその動揺していた女性を保護して控え室に来てもらいました。そうして警察の到着をみんなで待っていました。犯人? すいません俺はイマイチ視界がよくなくて事件そのものは見ていません」

目撃者証言四:小翠こみどり 恵 (二十二歳)
「警察に通報したのは私です。三階から見下ろすと、女性が襲われていました。私は叫んで思わず手にもっていたペットボトルを男に向かって思わず投げたら……もちろん空に近い軽いヤツですよ。だからそんなに危なくないです。だってか弱い女性を襲うなんて許せないじゃないですか。ペットボトルは男の背中に当たり、それでコチラに気が付いて私達の姿を見ました。そして慌てたように逃げちゃいました。男の姿ですか? 頭悪そうな感じで女にも馬鹿にされそうなタイプですねアレは。アロハシャツの柄は多分色は青とか赤の図案化されたハイビスカスでした。いさった恰好の割に目が丸くて童顔で、ドラマとかの小者のチンピラみたいです。髪は明るめな色に染めていて、パサパサと傷んだ感じでした」

目撃者証言五:白井 修司 (二十九歳)
「青山さんが窓を開けて叫んだので外をみたら、女性が派手なシャツを着た男性に襲われていました。神本さん指示で俺は慌ててそのまま階段へと走り道路に出た時は、男は逃げた後で女性がバックを抱えて蹲っていました。男の洋服ですか? ジーンズにアロハみたいなシャツでした。派手で赤とか青か紺のような濃い色の花が飛び散ったデザインでした。ヤンキーという感じでいかにもタチが悪い男という感じです」

目撃者証人六:桃山 浩 (二十七歳)
「外の騒ぎに気がついて、赤城さんと、白井さんと下に降りていきました。女性の介抱を修さんに任せて。修さんは白井さんの事です。そして赤城さんと二人で犯人を追いかけたのですが意外にすばしっこいヤツで結局見失ってしまいました。髪の毛は多分茶髪で、アロハシャツにジーンズでした。ジーンズは淡い色のものでした」

 報告書を読み田沼警視正は首を傾げる。田沼はガタイがよく厳めしい顔をしているために、こうして書類を読んでいるだけで威圧感のある光景となる。部下もいい加減慣れてきて今更怯える事はないのだが、外部の人と会うときは警察官よりも暴力団関係者と間違えられる事が多いのが悲しい所である。
 先日起きたこの事件は、目撃者が多かった事に加え、近隣に防犯カメラも比較的に多い地域であった事から直ぐに犯人の顔の特定が出来て、犯人確保にも時間はそうかからないだろうという見通しだった。田沼が首を傾げたのが、この報告書に不自然な部分が多いからだ。
「おい、この目撃者証言、状況をかなり冷静に正確に伝えているのにどうして揃いも揃って色が曖昧なんだ?」
 報告にきていた越後屋警部補は、その事に「ああ」と頷 き 切れ長の目を、さらに細め苦笑する。
「実はこの目撃者、ジョイアートというイベント会社のスーツアクターだったからです。」
 田沼は首を傾げる。
「スーツアクター?」
 歳のせいか、田沼にはどうもこう横文字の職業はピンとこない。
「ヒーローとかの格好をしてショーを行う人達です。この日『コスモ戦隊メテオレンジャー』のショーが終えて控え室に戻る途中で目撃したようです。そのヒーローマスクというのがデザイン上、目の所はカラーシートとなっていて、濃い色の眼鏡をかけている状態になるんでまともな色が分からない状態だとか」
 田沼は納得し頷く。そして改めて今回の事件の状況を想像してみてつい笑ってしまう。まさかひったくり犯も悪事を働いている時に、声がして上を向いたら正義の味方がズラリと並び見下ろしていたのだったら、そりゃギョッともするだろう。
「しかし、正義の味方六人もいて、犯人を捕まえられないとは情けないな。
 颯爽と飛び降りて、犯人を華麗に倒してくれれば俺達の仕事も楽になったのに」
 上司の冗談に越後屋もフフと吹き出す。しかし何かを思いついたのか企んでいるかのような顔でニヤリとする。別にこの男は性格も真面目で悪くないのに、神経質そうな薄い唇につり上がった狐目のため何処か悪人顔でただ笑うだけでそういう顔になるのだ。田沼と越後屋のコンビが話していると、警察署内なのに、山吹色のお菓子が受け渡しされているように見えると揶揄られる。
「いやいや、正義の味方は三人で、残りの三人は怪人と戦闘員で悪の手先ですよ。悪の秘密結社の戦闘員が犯人逮捕の大手柄! とニュースになってもそれもどうかという感じになりますから。
 それにグループのリーダーの神本正義は怪人の着ぐるみをきていた為に身動きが取れない状態だったようです。
 だから、戦闘員の赤城と桃山が犯人を追いかけたという状況です」
 つまり積極的に犯人を追跡したのは、ヒーローではなく戦闘員だったようだ。ひったくり犯とそれを追いかける戦闘員、どちらが悪人か分からない光景に道行く人は何を思ったのだろうか?
 田沼はふとある違和感を覚えて、もう一度首を傾げる。報告書にある目撃者らの名前の後ろに、今聞いたどうでも良いが気になった情報を書き加える。
「青山と小翠は何役なのか?」
 吉良は手帳を取り出し、生真面目な顔でそれを読み上げる。
「青山がメテオレッド、白井がメテオブルー、小翠がメテオホワイトです」

 目撃者証言一 青山 誠  (メテオレッド)
 目撃者証言二 赤城 啓二 (戦闘員)
 目撃者証言三 神本 正義 (怪人)
 目撃者証言四 小翠 恵 (メテオホワイト)
 目撃者証言五 白井 修司 (メテオブルー)
 目撃者証人五 桃山 浩 (戦闘員)

「……もう少し、このキャスティングどうかならなかったのか? 名前と配役がまったく合ってないぞ!」
 どうでも良い事な筈なのに、田沼は名前と配役のズレに納得のいかないものを感じ、気になってしまう。
「私もそう思い、聞いてみたのですが苦笑されてしまいました。それぞれの得意なアクションと、キャラの特徴とかもあって名前で配役を決める訳にはいかないようです」
 それは、そうなのだろう。それに彼らはこの緊急時に最良の行動をシッカリとってくれた訳である、そこで警察が文句言う筋合いはまったくない。
 報告を終えた部下を下がらせて、田沼はもう一度報告書に目をやる。

 警察にとっては日常的におこっていてありきたりなひったくり事件が、とんだ集団が絡んだ事でチョット素敵な珍事件になったものである。
「しかし、ヒーローか……」
 田沼は悪人面で低くつぶやく。戦隊ヒーローに仮面ライダーはかつて幼かった自分も憧れた正義の味方達。そしてかつてそういうイベントで夢中になった子供時代を思い出し、少し暖かい懐かしい気持ちになる。
「時代は変わっても、そういうヒーローは変わらず存在しているのだな」
 かつては憧れて自分もなりたいと思った正義のヒーロー。それで警察官になったという程単純な自分ではないけれど、久しぶりのあの独特な空気を味わってみたくなった。お盆に家にやってくる孫をヒーローショーでも連れて行って喜ばせるのも良いかもしれない。田沼はそう考えてニヤリと笑った。

 ※   ※   ※

 コスモ戦隊メテオレンジャー

 宇宙飛行士三人が、宇宙で作業をしている時に怪光線をうけた事で正義のヒーローとなる。
 メテオレッドは太陽のパワーを力として戦い、炎を纏った武器を扱う。 メテオブルーは地球のパワーを力として戦い、水を操り敵と戦う。
 メテオホワイトは月のパワーを力として戦い、光の矢を武器とする。
 怪人が巨大化した時は、ロケットを呼び出し、三人がロケットに乗り込むとそれがロボットへと変身して応戦する。
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