相方募集中!

白い黒猫

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まだまだ相方募集中! ~大人な恋の始まり~

二人で一緒に

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相方さかた! お前、痴漢で逮捕されたんだって?」
 とんでもない言葉でからかってくる人がいる。手下てが先輩の言葉を、俺は速攻否定する。ふざけた事をよく言う部長の下で働いている所為か、営業にはこういう冗談を言ってくる人が多い。
「逆です! 痴漢を逮捕しただけ!」
 必至で反論してくる俺が楽しいのか男性陣はニヤニヤしている。
 女性陣は『相方くん勇敢だわ! 素敵!』と感心してくれそうだけど、ニコニコして話を聞いているだけで援護はしてくれない。
「なる程、痴漢されたから捕まえたと」
 眼鏡の奥で目を細めた鬼熊きぐま主任がそう言ってくるので、首を横にふる。
 ワイルドな名前と見た目の鬼熊さんだけど、意外と細やかな気遣いをしてくれる人。彼女のからかいは低めな声で話しかけてくるので、浮ついていた空気が少し落ち着く。
「今回は違いますよ!」
 思わずそう答えると、皆にキョトンとされてしまう。
「あるんだ、痴漢されたこと」
 同期の仲間なかま雪絵がポツリと呟いた事で、皆の視線が集中して余計に恥ずかしくなる。とんだ黒歴史を披露してしまった事に俺も慌てる。
「中学校くらいの時ですよ! その時の俺はもっとチッコかったからウッカリ間違えたみたいで!」
 俺は必至で説明する。
「ホント最悪だよ! 頭にくるし、情けないやら、悔しいやら。どこが女の子に見えるんだという感じで、ちょっとしたトラウマになっています!
 だから痴漢にあった女の子の気持ちは良く分かるし、許せないんですよね」
 男の反応は相変わらず面白がっている。それに比べ、女性は共感するものがあったのか、優しいというか同情するかの表情で聞いてくれた。
「でも、あんたの場合トラウマの意味が女性とは少し違うような……。
 で、その時は泣き寝入りしたの?」
 鬼熊さんはそんな事を聞いてくる。からかうと言うよりも、純粋に好奇心のようだ。
「なワケないじゃないですか!
 ムカついたんでソイツをひっつかんで降ろして駅員に引き渡してやりましたよ」
 何故か痴漢を目撃して私人逮捕した事より、以前の逮捕話の方に感心したかのような声があがる。
 しかしこの時の逮捕には、もっとムカつくオマケがある。
 痴漢犯のヤロウが、逮捕された事による動揺と、加え俺が男と分かったショックでとんでもない事言いやがった。
『相手が女の子じゃなく、男だったんだから。今回は間違えたということでノーカウントにしようよ!』

 今思い出しても腸煮えくり返る言葉である。皆に話をしていても、またムカついてきた。
「流石、痴漢をするような奴。まともな思考回路じゃないよな。しかし痴漢したくなるほど中学校時代のお前って可愛かったんだな」
 先輩の言葉の後半部分にムッとしていると、鬼熊さんは苦笑しながら首横にふる。
「そう言う風に言っちゃうのが普通の男性の感覚なのね。
 アイツらはねそうではないの。そう言う美人とかそそられる身体だとかではない基準で、相手選んでないから質悪いのよ」
 俺は首を傾げてしまう。変態の気持ちは良く分からない。しかし痴漢って可愛い女の子に触りたいからやっているのではないだろうか? と思う。
 実際今朝痴漢にあっていた女性は少し地味な感じだけどまあ可愛い子だった。
「奴らは一人でいて、しかも大人しくて騒げなさそうな相手を選んで触ってくるのよ!
 騒がれたらヤバいのは分かっているから。
 元々の趣味もあるかもしれないけど、中高生とか狙うのもそこがあるのかと私は思う! その年齢の子だとパニクって固まり何も出来ないから」
 仲間ら女性陣は『そうそう、本当に卑怯なのよね』と言葉を受ける。忌々しそうな表情で頷く様子から、鬼熊さんが言っている事が真実である事を察する。
 今朝、痴漢にあってた子も大人しいタイプだった。あんなに大勢の人に囲まれていながら一人で震えて耐えていた。
 ますます痴漢しているようなヤツへの怒りが込み上げてくる。
「変態なだけでなく、卑劣で最悪なヤツらだよな」
 顔をしかめた手下先輩の言葉に、俺は強く頷く。
「今度から遭遇した奴、一人残らず捕まえてやろ~」
 俺の本気の言葉に、何故か皆は笑った。隣でクスクス笑っている仲間をみると、『ん?』という顔をして猫のような目でコチラをみてくる。
「頼もしいなと思っただけよ。
 本当に、相方くんを全車両に一人配備してもらいたいくらい」
 でも笑いながら言われるとやはり馬鹿にされているようにしか見えない。
「どうせ、頼りないと思っているんだろ」
 仲間はビックリしたように目を見開き、慌てて首を横にふる。
「本気で言ってるのよ! 痴漢を二度も逮捕した勇者が電車にいるって最高でしょ!」
「あ? あぁ」
 たぶん褒めてくれているのだろう。いつもズケズケと言ってくる毒舌の仲間に、こういう感じで言われるとむず痒い。どう反応していいのか悩んでいる所で昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り散会となる。業務に戻ることにした。

 午後も頑張り、程よい疲れを感じながら伸びしていると、机の上にレジ袋がポンと置かれる。「ん?」その袋を置いた手の先を見ると仲間がニッカリと笑っていた。
「今日は大活躍だったから、ご褒美!」
 レジ袋の中をのぞくと、何やらスィーツの包みが二つはいっていた。パッケージを見ると『君想いショコラ』と書いてある。
 今朝社内刷りで見ていたスィーツ。以前、雑誌のタイアップ企画に強制参加させられたやつ。初恋について語らされるという辱めをうけたスィーツの関連商品に顔を顰めた。
 憎き「初恋ショコラ」にハートのマカロンが載っただけでバレンタイン仕様にしたモノ。
「よりによって、コレかよ!」
 恥ずかしい過去を思い出し、お礼よりも先に文句を言ってしまった。
「相方くんに関係深いモノだから買ってきてあげたんじゃん! あんだけ宣伝にも協力したんだからコレも味わうべきでしょう?
 別にバレンタインは関係な……から」
 怒ると思った仲間は何故か必死な様子でそんな事を言ってくる。理論はよく分からない。彼女なりに俺の事を気を使い色々考えてコレを買ってきてくれたんだなというのが分かり反省する。
「ありがとう。嬉しいよ」
 必死になったのが恥ずかしかったのか仲間は、少し赤くなって目を逸らした。
「珈琲を入れてくるね」
 そう言ってから仲間は離れ、珈琲を二つ持って戻ってきて一つ俺の前に置く。
「あ、サンキュー」
 仲間はニッコリ笑って「どういたしまして」と返してくる。俺の机の上のレジ袋から一つ『君想いショコラ』を持っていく。そして自分の机に座り嬉し気にそのパッケージを開けマカロンをつまみ口に入れた。二つ俺にくれた訳ではなかったようだ。
 俺もパッケージを開け、同様に上に載ったマカロンをつまみ口に入れる。バニラ味の風味が口の中に広がった。疲れていただけに甘いものが心に染みた。
「ひょっとしてさ」
 下のケーキ部分も味わいながら、幸せそうにケーキを楽しむ仲間を見てふと思う。
「コレさ、俺の為じゃなくて、お前が単にコレを食べたかっただけなんじゃねえの?」
 仲間は俺の言葉に、ムッとした顔をして唇を突き出す。
「一緒に食べたいから買ってきたの!」
 俺が首を傾げて視線を仲間に向けると、彼女は困った顔になる。
「だから……こういうモノって、誰かと食べるから美味しいんじゃん!」
 確かに、そういうものかもしれない。
 コンビニスィーツでも、一人で家とかで食べるよりもこうして友達と食べるとなんだか楽しい。そしてさらに美味しく感じる。
「確かにね、俺の場合男だからスィーツとか少し食べにくい事があるか。こうして食べるのってスッゲー嬉しいかも。ホントありがと!」
 仲間と視線を合わせてフフフと笑いあってしまう。
「じゃあ、今度美味しいスィーツでも食べにいく?  付き合ってあげるわよ!」
 彼女がいない事でそういう事を楽しめなくなっている。
「いいね!」
 そんな会話をしながら二人で楽しくチョコケーキを食べて仕事を再開する。ケーキのおかげで元気も出て面倒な書類仕事も捗った。
 チョコレートや糖分が脳を活性化するというのもあながち嘘ではないのかもしれない。
 今度は逆に仲間に何かを買ってきてあげたい。そう考えてる。何が良いだろうか?  同じコンビニスィーツだと芸がないしなとパソコンの電源を落としながら考える。
 まだ仕事をしているらしい仲間が視線に気が付いたのか不思議そうにコチラを見てくる。
「俺もう終わるけど、お前はまだやってくの?」
 仲間はため息をつく。
「ちょっとね、やっとかないと明日がつらいから」
 几帳面で真面目な仲間らしい言葉である。
「俺、手伝える事ある?」
 仲間は『え?!』という顔をしてから、ブルブルと首を横にふる。
「だ、大丈夫! もうちょいで終わるから」
 一生懸命すぎて、人を頼れないで、一人で頑張るのが仲間の仕事の良い所であり困った所。
「そか、あまり無理はすんなよ! ケーキおごってくれた分、貸しもあるからいつでも俺に言ってくれれば、協力するから」
 仲間は小さく頷き『ありがとう』と返す。
「今日は大丈夫。でも、大変な時は、いろいろ頼んじゃおうかな」
 ニヤリと笑って、そんな言葉を続ける。こんな顔をする余裕があるなら大丈夫かと思って、『じゃ、あ、また明日! お先に!』と挨拶をして俺は会社をでた。
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