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白い黒猫

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レーザー照射? どこから?

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 社会人になってのバレンタインは、まさに義理だけの世界になる。数は貰えるが、価格的価値で考えても、ガックリする内容。かえって虚しくなる。仕事とか色々バタバタしている内に月日がアッと言う間に流れた気がする。またプライベートにおいても今は色気がない。友人からフットサルチームに誘われて遊んでいた為、野郎としかつるんでいなかった。こう言う方面で頑張る事をうっかり怠っていたのも悪かったのだろう。
 そろそろ、真面目に恋愛相手を見つけたいものである。

 俺がボヤきながら、義理チョコのを机の上で積んでいた。鬼熊さんが苦笑して、仲間は呆れ顔で見ている。
「俺のもやるから、そう泣くな」
 清酒さんが義理チョコの入った紙袋を俺の机にドサッと置く。義理チョコが増えた所で俺の虚しさは減らない。
 久しぶりにグループ四人が揃った状態は少し嬉しいけれど。今は義理チョコだけのバレンタインという状況に対するやるせなさに、うちひしがれていた。
 仲間は大きくため息をつく。
「仕方がないから、コレあげる!
 …………あなたにも!」
 そう言った仲間から渡されるピンクの紙袋。覗くと淡いブルーの柔らかい包みをリボンで巾着のように包んだモノが入っている。
 この雰囲気は、手作り物っポイ。久しぶりのこう言う感じ。チョッと嬉しい。
 俺がビックリして顔をあげると、仲間は慌てたように、口をパクパクしている。
「色々助けてもらったから、それで、別に、そう言う……」
 ブツブツ呟くように言う仲間のその様子が、なんか可愛くて笑ってしまう。鬼熊さんも、清酒さんも面白そうに見ていた。
 コイツも女だったんだなと思う。しかし、俺同様あんなに慌ただしく仕事に追われていた。それなのに態々手作りのお菓子を作って渡したくなる相手を見つけているなんて、女はタフだ。
「分かっているって。手作りチョコもらったからコイツ俺に気があるな。なんて自惚れるほど俺はイタくないから。友チョコサンキュー。
 お陰でチョイと浮上できた、お前は頑張れよ」
 仲間は何故か戸惑うように頷く。
「仲間、今日は駄目だとしても、食べ物で釣りつつ距離縮めていく手もありだぞ。気長に頑張れ」
 清酒さんの言葉に仲間は顔を真っ赤にして俯く。成る程な、清酒さんだけにバレンタインプレゼントをあげる訳にはいかない。これはカモフラージュなのかと俺は納得する。
 清酒さんはそれに気が付いているのか、いないのか? そんな無関係者を装った言葉を仲間にかける。こんな感じだと、二人の恋愛は上手くはいかなさそうでチョット可哀想だ。
 俺はどうしたものかと考えながらガサガサと包みを開ける。中に入っていたチョコクッキーをつまむ。ナッツなどザクザク感のあるモノが入っていて思った以上に旨かった。
「スッゲーこれ旨いよ! お菓子作るの上手いんだな! 尊敬するよ!」
 俺が褒めても嬉しくはないだろう。友チョコだとはいえ貰ったからにはちゃんと誠意をもった言葉は返すべき。鬼熊さんはフフフと笑う。
「清酒くんの言葉、言えているわね。男は単純だから胃袋を掴んでしまえばコロリよ! 仲間ちゃん」
 仲間は眉を寄せて『ンー』と唸る。
「食い意地がはっている単純な人ほど効くからそれは!」
 鬼熊さんの言葉に俺も『うーん』と思う。清酒さんはグルメだけど食い意地ははってないだろう。それにコレから二人でそういう時間を過ごす事もなさそうだ。応援はしたいけど、難しい。俺は溜息をつく。
「この今日もらった義理チョコはどうする? 俺こんなにいらないし、みんなで山分けしない?」
 なんとなく不思議な空気になってしまったので、俺は話を少し変える事にした。
 鬼熊さんや仲間も仕事で色々チョコを交換していたらしい。四人で今日もらったチョコを持ち寄るとかなりの量が集まった。被ったものや、入っているお菓子の個数が少ないものはそれぞれの希望を聞きつつ分けあった。素敵で美味しそうだなというものは関係部署に配ったり、仕事中にみんなで楽しむ置きチョコにする。

 こうやって、この四人でこういう事をするのは今年で最期。そう思うとチョット寂しい気持ちにもなった。経理は元部署という事もあり仲間が配り、庶務には俺が行く。たかだかチョコなのに大歓迎されて、結局もっていったよりも倍量のチョコを持って帰る事になる。流石女子も多くいて関係部署も多い職場。隠し持っている義理チョコの埋蔵量が会社で一番多かったようだ。夕方行ったのが良かったのか、在庫一掃とばかりに持たせてくれた。お陰で営業に戻り、皆に笑われる。

 業務を終え四人で会社を出てすぐに、私鉄組の俺と清酒さん。JR組の鬼熊さんと仲間で左右に別れる事になる。清酒さんと帰りながら、俺はなんかシミジミしてしまう。
「清酒さん、四月から異動ですよね? 別れるのが滅茶苦茶寂しいです」
 清酒さんは、フッと笑う。
「あのな、会社を辞める訳じゃないぞ!」
 それは分かっているが、やはりずっと身近で見守ってきてくれた人が離れる事は大きい。
「もっともっと、清酒さんから多くを学んで、いい男になるつもりだったのに」
 俺のぼやきに清酒さんは、『おぁ?』と謎の音を発して立ち止まる。

「何を目指してるわけ? お前」
 再び歩きだし、俺を見下ろしそう聞いてくる。
「清酒さんみたいな男!」
 清酒さんは反応に困ったといった表情を返してくる。
「それって何の得がある? お前らしく生きて行く方が絶対人生イイ感じだろうに。その方が楽しいし良いと思うけどな」
 それって、清酒さんから見て笑える人生を送っているというのだろうか?
「人との付き合いはお前の方が上手いと思うし。何よりも人から愛されるキャラクター。営業にとってそれは最高の資質だろ?」
 俺は唇を突き出して考えた。目のつぶらさとかまつげの長さくらいしか勝てるものがないような気がする。愛されるというならば、取引先から信頼され強い絆をつくっている清酒さんの方がそう。

「マメゾンで評判の美青年営業マンだぞ! お前は」
 俺はその言葉に咽る。
「何ですか! 美青年って。童顔で女顔だけですし、女の子のウケ滅茶苦茶悪い」
 清酒さんはクククと笑う。駅に辿り着いたので俺は落ち着こうと、冷静にみえる顔を作る。
「もっと自信を持て! いや危機感を持てかな? そういう意味では。
 色んな相手から熱いレーザー照射うけていているのも気付けば?
 いっそ、そのままどれかの弾に撃ち抜かれてしまえ。でも防弾チョッキを着ておかないと、穴だらけだぞ」
 レーザー照射? なに? それ? 穴だらけ?
 ポケットから定期を取り出して、改札にあて通りぬける。
「それって、女性からって事ですよね?」
 隣のレーンから入った清酒さんは俺の言葉に苦笑して頷く。
「さっき、恋愛したいとか言っていたが、だったら一度落ち着いて周りを見てみろよ!
 結構素敵なモノも転がっているかもしれないぞ」
 その言葉に首を傾げるしかない。
「じゃ、俺は上りだから、ここで」
 そう言って、清酒さんは手をふって去っていった。

 俺はその背中を姿が見えなくなるまで見つめて見送った。そして考える、そんなに熱く俺の事を見てくれる女性なんて何処にいるんだろうと。分からない。胸元をみるが、そこに赤いポインターの点が見えているわけもなく俺は首を傾げた。
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