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相方募集中
季節とともに変化する
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そのまま清酒さんといるのも恥ずかしくなり、俺も先に社食でお昼を食べる事にする。トンカツ定食をもって開いている席を探す。
仲間がテーブルでパスタを食べながら相変わらず難しい顔をしているのが見えた。ノートを見ながら、仕事の事を考えているようで顔を顰めてている。俺は定食の載ったトレイを持って、その前に座る事にした。俺の登場に気付いて、仲間は何故か溜息をつく。
「食べている時くらい、仕事を頭から離したら?」
俺の言葉に、仲間はまた溜息をつく。
「そんな余裕ないよ、今の私に。だってまだまだ覚える事もイッパイあるし、未熟だし」
いつも勝ち気で明るい仲間らしくない、元気のない暗めのトーンの言葉に俺は戸惑う。
「そんな事ねえよ! お前は良く頑張ってる! だからこそ鬼熊さんも清酒さんも仕事を任せているわけだし」
俺の言葉に、仲間が『え!』と目を見開く。でも直ぐに顔を曇らせ首を横にふる。
「でも、いつも注意されてばかりだし」
なんか、こういうらしくない仲間に俺はどうしたものかと悩む。取りあえず味噌汁を飲んで、トンカツに囓りつく。サクサクの衣が美味しい! 社食のオバチャンは良い仕事をしている。
俺はカツを飲み込んでから仲間の方に視線を戻す。
「そんなの当たり前だろ? 部下なんだから。
上司としてはキチンと部下を育てる義務もある。
俺だっていつも言われまくっているよ。
清酒さんも部長とか鬼熊さんとかからも注意されているし」
そんなに驚く事をいったつもりはない。しかし仲間は目を見開き俺をジッとみたまま固まっている。
「お前は十分ちゃんとやっているよ! 配属されて一月も経っていないのに、仕事を確実にこなしていっている。それってすげえよ!
ただ今のお前の一番の問題は、一生懸命過ぎる所なんじぁねえの? もっと肩の力抜けば? でないとお客様とも落ち着いてちゃんと話せないだろ?」
仲間の見開いた眼が、ふっと緩む。そこに安心したものの、その瞳が潤んできた事で俺は慌てる。ここで泣かれると俺が虐めたみたいだ。
しかしギリギリの所で踏みとどまったようで、仲間は涙を流すのを耐えた。
「……ありがとう。少し今の言葉で楽になった」
小さい子供のような声で、仲間が俺にお礼を言ってくる。
「あっあ、ああ……」
こういう時、どう返せば良い? 上手い言葉というのは見つからないものだ。
「相方くんはスゴイよね。経理の時は分からなかったけど、営業に来てスゴイって分かった」
なんかとても恥ずかしい。仲間から、こんな風に言われるなんて思わなかった。
「そんな、事ないだろ。凄くもなんともないよ俺は」
仲間は首を横にふる。
「誤解していた。お調子もので、脳天気にヘラヘラとして、ノリだけで営業をやっているだけだと思っていたの。でも、上手く言えないけど……ちゃんと仕事をしているんだなと感じたの」
これは褒められているのだろうか? 俺ってどんだけ最初の評価が低かったのか。
「そりゃ……仕事はちゃんとしなきゃ駄目だろ」
俺の言葉に仲間はフフフフと笑う。
「確かにね!」
仲間らしい本来の笑顔だ。良かった、元の仲間に戻って俺はホッとする。
男性であれ女性であれ、知り合いの意外な面を見てしまうとなんかハッとする。俺はどこかムズムズした居心地の悪さを感じた。とはいえ仲間と昔のようなテンポの会話に戻った事が嬉しかった。
「じゃ、お色直ししてから、外勤頑張ってくるよ!」
明るくそう言い放って、仲間は立ち上がる。『化粧しても変わらないのに?』と、KYの事はあえて言わない。俺も少しずつ大人になってきたようだ。
「そうだ、Joy Walkerさんに行くんだよな? だったら煙草さんに俺が宜しくと言っていたと伝えてくれない?」
俺の言葉に仲間は一瞬首を傾げるが、『煙草』が人間であった事を思い出したのだろう。納得したように頷き『オッケー』と言って去っていった。
送り出した後に気が付く。アレから俺がJoy Walkerさんを訪れる機会が何故かない。煙草さんとは全然会えてないな~なんて事を考えていた。
梅雨が終わり夏が本格的にきた。緊張により堅くやや異物感のある存在になっていた仲間も仕事も慣れてきた。職場にも馴染み、すっかり良い仲間。
そんな心地良い関係を築きながらも、清酒さんは着々と目的の為に進み行動をしている。
優秀な清酒さんが何故なかなか希望が通らず営業から出させて貰えなかったのか? というと彼が営業マンとして優秀過ぎるからだ。
様々な企業の人からの信頼もあり幅広いパイプをもつ。それだけに社内での業務が中心となる商品開発部への異動はそれらを失うという事。それが会社としては勿体なく出来なかったからだ。頑張ってそれなりの結果を出しているのに、思うような未来へ繋げる事が出来ない。そんな所を見ていると、無器用というのもなんか分かる気がした。
最近、社内で清酒さんが様々な部署の部長と、楽しげに会話をしている姿をより多く見る。営業で必要な存在だから営業を出してもらえない。ならば今度は他の部署に対して、そこでも役に立ちそうな自分をアピールする。俺は清酒さんの行動をそう理解した。媚びを売っているのではない。活発に意見を交わし、どういうビジョンをもった人間であるかをアピールしているのだ。そこがまた清酒さんらしく格好いい。
清酒さんが営業部を去るのはかなり寂しい。だが俺はそういう清酒さんを応援したいなと思い、より一層営業の仕事を頑張る事にした。安心して他の部署に行けるように。
秋頃から清酒さんは商品開発部と広報戦略企画部の共同プロジェクトに営業として参加している。その為に通常の業務をする時間が減っていった。冬辺りから清酒さんは通常の営業業務を鬼熊さんや俺や仲間へと任せている。清酒さんはプロジェクトの仕事をメインの業務で忙しそうだ。だんだん営業から離れていく清酒さんを感じて俺は溜息をつく。
そんな俺に鬼熊さんは。『どうしたの?』と聞いてくる。
「いや、清酒さんの異動ってもう決まりなのかなと」
鬼熊さんは優しく笑う。
「まだ、ハッキリと決定の話が来たわけではないけれど、多分来年の春にはそうなるかもね」
応援したいのは俺の正直な本音。清酒さんなら何処でもバリバリとやっていけるだろうから心配はしてない。だがやはりそれは寂しいなと思う。
「何? 愛しい先輩がいなくなるのが寂しいの?」
からかうような鬼熊さんの言葉に仲間が笑う。
「だって、社会人としてピヨっと生まれた瞬間に前にいた。そんな存在ですよ! そりゃ寂しいですよ!」
鬼熊さんはハハハハと明るく声をだして笑った。
「大丈夫! 可愛いヒヨコくん! 私が引き続き面倒は見てあげるから」
自分で言った表現ではあったけれど、そう言われると恥ずかしい。
「ありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
でも、俺、そろそろ立派な鶏冠つけた雄鶏になっていますよね」
仲間はブブブと笑う。
「ちっちゃくて可愛い雄鶏~! 手のりでコケッとか言ってそう!」
「うるせ~」
俺は一番言われたくない身長を揶揄られて、仲間にそう返す。
「そんな唇を尖らせていると、本当にヒヨコみたいよ」
鬼熊さんの言葉に、みんなで笑ってしまう。なんやかんや言って、清酒さんのいない営業部という空気にも慣れてきている俺もいた。
俺はこの二年間で少しは、成長できたのだろうか? まだまだ二年目。清酒さんのような男には程遠い。年齢の差があるとはいえ、四年後にはああいう感じになれる自信はまだない。なかなか良い男になるって大変なようだ。
仲間がテーブルでパスタを食べながら相変わらず難しい顔をしているのが見えた。ノートを見ながら、仕事の事を考えているようで顔を顰めてている。俺は定食の載ったトレイを持って、その前に座る事にした。俺の登場に気付いて、仲間は何故か溜息をつく。
「食べている時くらい、仕事を頭から離したら?」
俺の言葉に、仲間はまた溜息をつく。
「そんな余裕ないよ、今の私に。だってまだまだ覚える事もイッパイあるし、未熟だし」
いつも勝ち気で明るい仲間らしくない、元気のない暗めのトーンの言葉に俺は戸惑う。
「そんな事ねえよ! お前は良く頑張ってる! だからこそ鬼熊さんも清酒さんも仕事を任せているわけだし」
俺の言葉に、仲間が『え!』と目を見開く。でも直ぐに顔を曇らせ首を横にふる。
「でも、いつも注意されてばかりだし」
なんか、こういうらしくない仲間に俺はどうしたものかと悩む。取りあえず味噌汁を飲んで、トンカツに囓りつく。サクサクの衣が美味しい! 社食のオバチャンは良い仕事をしている。
俺はカツを飲み込んでから仲間の方に視線を戻す。
「そんなの当たり前だろ? 部下なんだから。
上司としてはキチンと部下を育てる義務もある。
俺だっていつも言われまくっているよ。
清酒さんも部長とか鬼熊さんとかからも注意されているし」
そんなに驚く事をいったつもりはない。しかし仲間は目を見開き俺をジッとみたまま固まっている。
「お前は十分ちゃんとやっているよ! 配属されて一月も経っていないのに、仕事を確実にこなしていっている。それってすげえよ!
ただ今のお前の一番の問題は、一生懸命過ぎる所なんじぁねえの? もっと肩の力抜けば? でないとお客様とも落ち着いてちゃんと話せないだろ?」
仲間の見開いた眼が、ふっと緩む。そこに安心したものの、その瞳が潤んできた事で俺は慌てる。ここで泣かれると俺が虐めたみたいだ。
しかしギリギリの所で踏みとどまったようで、仲間は涙を流すのを耐えた。
「……ありがとう。少し今の言葉で楽になった」
小さい子供のような声で、仲間が俺にお礼を言ってくる。
「あっあ、ああ……」
こういう時、どう返せば良い? 上手い言葉というのは見つからないものだ。
「相方くんはスゴイよね。経理の時は分からなかったけど、営業に来てスゴイって分かった」
なんかとても恥ずかしい。仲間から、こんな風に言われるなんて思わなかった。
「そんな、事ないだろ。凄くもなんともないよ俺は」
仲間は首を横にふる。
「誤解していた。お調子もので、脳天気にヘラヘラとして、ノリだけで営業をやっているだけだと思っていたの。でも、上手く言えないけど……ちゃんと仕事をしているんだなと感じたの」
これは褒められているのだろうか? 俺ってどんだけ最初の評価が低かったのか。
「そりゃ……仕事はちゃんとしなきゃ駄目だろ」
俺の言葉に仲間はフフフフと笑う。
「確かにね!」
仲間らしい本来の笑顔だ。良かった、元の仲間に戻って俺はホッとする。
男性であれ女性であれ、知り合いの意外な面を見てしまうとなんかハッとする。俺はどこかムズムズした居心地の悪さを感じた。とはいえ仲間と昔のようなテンポの会話に戻った事が嬉しかった。
「じゃ、お色直ししてから、外勤頑張ってくるよ!」
明るくそう言い放って、仲間は立ち上がる。『化粧しても変わらないのに?』と、KYの事はあえて言わない。俺も少しずつ大人になってきたようだ。
「そうだ、Joy Walkerさんに行くんだよな? だったら煙草さんに俺が宜しくと言っていたと伝えてくれない?」
俺の言葉に仲間は一瞬首を傾げるが、『煙草』が人間であった事を思い出したのだろう。納得したように頷き『オッケー』と言って去っていった。
送り出した後に気が付く。アレから俺がJoy Walkerさんを訪れる機会が何故かない。煙草さんとは全然会えてないな~なんて事を考えていた。
梅雨が終わり夏が本格的にきた。緊張により堅くやや異物感のある存在になっていた仲間も仕事も慣れてきた。職場にも馴染み、すっかり良い仲間。
そんな心地良い関係を築きながらも、清酒さんは着々と目的の為に進み行動をしている。
優秀な清酒さんが何故なかなか希望が通らず営業から出させて貰えなかったのか? というと彼が営業マンとして優秀過ぎるからだ。
様々な企業の人からの信頼もあり幅広いパイプをもつ。それだけに社内での業務が中心となる商品開発部への異動はそれらを失うという事。それが会社としては勿体なく出来なかったからだ。頑張ってそれなりの結果を出しているのに、思うような未来へ繋げる事が出来ない。そんな所を見ていると、無器用というのもなんか分かる気がした。
最近、社内で清酒さんが様々な部署の部長と、楽しげに会話をしている姿をより多く見る。営業で必要な存在だから営業を出してもらえない。ならば今度は他の部署に対して、そこでも役に立ちそうな自分をアピールする。俺は清酒さんの行動をそう理解した。媚びを売っているのではない。活発に意見を交わし、どういうビジョンをもった人間であるかをアピールしているのだ。そこがまた清酒さんらしく格好いい。
清酒さんが営業部を去るのはかなり寂しい。だが俺はそういう清酒さんを応援したいなと思い、より一層営業の仕事を頑張る事にした。安心して他の部署に行けるように。
秋頃から清酒さんは商品開発部と広報戦略企画部の共同プロジェクトに営業として参加している。その為に通常の業務をする時間が減っていった。冬辺りから清酒さんは通常の営業業務を鬼熊さんや俺や仲間へと任せている。清酒さんはプロジェクトの仕事をメインの業務で忙しそうだ。だんだん営業から離れていく清酒さんを感じて俺は溜息をつく。
そんな俺に鬼熊さんは。『どうしたの?』と聞いてくる。
「いや、清酒さんの異動ってもう決まりなのかなと」
鬼熊さんは優しく笑う。
「まだ、ハッキリと決定の話が来たわけではないけれど、多分来年の春にはそうなるかもね」
応援したいのは俺の正直な本音。清酒さんなら何処でもバリバリとやっていけるだろうから心配はしてない。だがやはりそれは寂しいなと思う。
「何? 愛しい先輩がいなくなるのが寂しいの?」
からかうような鬼熊さんの言葉に仲間が笑う。
「だって、社会人としてピヨっと生まれた瞬間に前にいた。そんな存在ですよ! そりゃ寂しいですよ!」
鬼熊さんはハハハハと明るく声をだして笑った。
「大丈夫! 可愛いヒヨコくん! 私が引き続き面倒は見てあげるから」
自分で言った表現ではあったけれど、そう言われると恥ずかしい。
「ありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
でも、俺、そろそろ立派な鶏冠つけた雄鶏になっていますよね」
仲間はブブブと笑う。
「ちっちゃくて可愛い雄鶏~! 手のりでコケッとか言ってそう!」
「うるせ~」
俺は一番言われたくない身長を揶揄られて、仲間にそう返す。
「そんな唇を尖らせていると、本当にヒヨコみたいよ」
鬼熊さんの言葉に、みんなで笑ってしまう。なんやかんや言って、清酒さんのいない営業部という空気にも慣れてきている俺もいた。
俺はこの二年間で少しは、成長できたのだろうか? まだまだ二年目。清酒さんのような男には程遠い。年齢の差があるとはいえ、四年後にはああいう感じになれる自信はまだない。なかなか良い男になるって大変なようだ。
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