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不器用な男
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鬼熊さんは、『ウーン』と小さく唸ってから、俺の方を見て口を開く。
「女の子の立場から言わせてもらうね。清酒くんより君のほうが付き合いやすく可愛い感じがするけれど」
「女の子!?」
つい、出てしまった言葉に、鬼熊さんは睨む。
「そこ突っ込まないで!」
『すいません』と頭は下げておく。
「でも、経理や総務の女の子なんて、清酒さん狙っている人多いですよ。俺なんか軽くあしらわれるのに、清酒さんは大歓迎されてますよ」
鬼熊さんもその状況は分かっているからかフフと笑う。
「まあ、そこはもう、ないだろうね、彼は社内恋愛懲りてるから」
鬼熊さんは、チラリと気になる事をまた言った。しかし余り詳しく聞くと社内という事だけにやぶ蛇な状態にもなりかねない。スルーすることにする。
「でもね、女が付き合うなら、アンタのようなタイプの方が私は良いと思うよ、可愛げがあるから」
鬼熊さんは『女の子』を、さりげなく『女』と言い換えてきたのも気が付く。そこもあえて突っ込まなかった。
「男で可愛いと言われてもね」
清酒さんは顔は滅茶苦茶格好良いわけではない。でも、格好良く見えるのは、男前の性格で頭がキレて仕事も有能で出来る男だからだ。仕事に関して自分にも人にも厳しい。だからこそ俺も泣きたくなる事が何回かあった。それでも尊敬しているからこそ、すがり付いでも頑張っているのである。男から見て格好良いのだから、女性からみるともっと輝いて見えるのだろう。それに対して『可愛さ』だけが勝っていると言われても嬉しくない。
「可愛いいなんて、男の価値じゃないですよ。女ならともかく」
その可愛さを最大限の魅力にしている、今日会った煙草さんの事を頭に思い浮かべる。女性ならむしろそういう可愛さはもっともっと持ってて欲しい。
俺の拗ねた返答に、鬼熊さんは真面目な顔で首を横にふる。
「分かっていないわね、可愛さは男女関係なく人間にとって大切なモノなのよ」
納得出来ないから、俺は首を傾げるしかない。
「逆に、清酒くんはその部分がまったくないのが困った所。心に壁を作ってしまって人を寄せ付けない。仕事もすぐ抱え込んでしまい、一人で解決しようとする」
そういう部分は、清酒さんには確かにあるのかもしれない。朝の打合せの時。人が代行しても良いような仕事を、強引に俺とか他の人に鬼熊さんが振り替える事も多い。でもその責任感の強さは、長所だと思う。しかし鬼熊さんは悲しそうに溜め息をついた。その表情に一瞬女を感じで少しビビる。
「そう言う事をヤツは、恋愛においてもしてくるから……。そういう意味では無器用なヤツなのよ。相手に自分をさらけ出す事が絶対に出来ない」
鬼熊さんの切なげな口調に俺はフリーズする。
えっ、と……どういう事? 清酒さんは社内恋愛に懲りていて、加えこの鬼熊さんの言葉……。二人はもしかして付き合っていた? やはり、トンでもない裏が隠されていた。俺は不味いと思い、鬼熊さんから目を反らして今やっている作業を終わらせようとする。清酒さんと、鬼熊さんが恋人として仲良くしている姿も想像が出来ない。イヤ想像もしたくない。
「アンタさ、変な何か誤解をしてるでしょ、私らはそんな関係じゃないわよ! 互いにタイプじゃないし! 清酒くん可愛げないし、向こうはかなりのメンクイだし」
その言葉に若干ホッとする。先程の言葉の雰囲気は決して無関係だったようにも思えず、チラリと見上げてしまった。その俺の好奇心に満ちた視線に呆れたような溜め息をつく。そして困ったように笑う。
「……付き合っていたのは私じゃなくて、私の友達なの」
「友達! まさか……って、後輩とかですよね?」
いかん、思った事を一旦頭で整理してから話せと、清酒さんに言われている。即言葉にするのが俺の悪い癖。でも鬼熊さんのお友だちというと、凄いオバサンにならないか? と思ってしまったから。案の定、鬼熊さんもジロリと睨み付けてくる。
「私の大学時代の同級の友達! 別に四歳違いなんて不思議でもないでしょう!」
『鬼熊さんって、まだ三十二歳だったんですね。四十越えているのかと思ってました』とは口に出して言わない。
「鬼熊さんが、紹介したんですか?」
「まさか!」
ビックリしたように目を見開き否定する。
「清酒くんが出入している会社に、その子が勤めていたから。それで知り合ったんじゃない? 街でデートしている二人にバッタリ会って私も驚いたわよ」
清酒さんは意外とチャッカリと仕事中に相手見つけていたんだ……。その部分に俺は驚く。
「じゃあ、今も清酒さんはその女性と?」
年上女性と大人の恋愛を楽しむとは、格好良いというか羨ましい。しかし鬼熊さんは悲しそうに首を横にふる。
「結局、ダメになっちゃった。勿論、清酒くんだけが悪い訳でもない。その子にも問題があったからお互い様なんだけどね。端からみて好きあってるのにすれ違っていって見ていられなかった」
そう言い、悲しげに大きく溜め息をつく。俺としてはいきなりそんなディープな事を聞かされてどう反応して良いのか分からなかった。
俺は曖昧な反応だけしか返せない。
「ごめん、変な事話して。こんな事言ったって、絶対清酒くんには話さないでよ!
何でこんな話しちゃったかな、アンタが相手だからなのかな?」
困ったように笑う鬼熊さん。
「誰にも話しませんよ! 大丈夫ですから」
俺はシッカリと頷きそんな言葉を返す。
「女の子の立場から言わせてもらうね。清酒くんより君のほうが付き合いやすく可愛い感じがするけれど」
「女の子!?」
つい、出てしまった言葉に、鬼熊さんは睨む。
「そこ突っ込まないで!」
『すいません』と頭は下げておく。
「でも、経理や総務の女の子なんて、清酒さん狙っている人多いですよ。俺なんか軽くあしらわれるのに、清酒さんは大歓迎されてますよ」
鬼熊さんもその状況は分かっているからかフフと笑う。
「まあ、そこはもう、ないだろうね、彼は社内恋愛懲りてるから」
鬼熊さんは、チラリと気になる事をまた言った。しかし余り詳しく聞くと社内という事だけにやぶ蛇な状態にもなりかねない。スルーすることにする。
「でもね、女が付き合うなら、アンタのようなタイプの方が私は良いと思うよ、可愛げがあるから」
鬼熊さんは『女の子』を、さりげなく『女』と言い換えてきたのも気が付く。そこもあえて突っ込まなかった。
「男で可愛いと言われてもね」
清酒さんは顔は滅茶苦茶格好良いわけではない。でも、格好良く見えるのは、男前の性格で頭がキレて仕事も有能で出来る男だからだ。仕事に関して自分にも人にも厳しい。だからこそ俺も泣きたくなる事が何回かあった。それでも尊敬しているからこそ、すがり付いでも頑張っているのである。男から見て格好良いのだから、女性からみるともっと輝いて見えるのだろう。それに対して『可愛さ』だけが勝っていると言われても嬉しくない。
「可愛いいなんて、男の価値じゃないですよ。女ならともかく」
その可愛さを最大限の魅力にしている、今日会った煙草さんの事を頭に思い浮かべる。女性ならむしろそういう可愛さはもっともっと持ってて欲しい。
俺の拗ねた返答に、鬼熊さんは真面目な顔で首を横にふる。
「分かっていないわね、可愛さは男女関係なく人間にとって大切なモノなのよ」
納得出来ないから、俺は首を傾げるしかない。
「逆に、清酒くんはその部分がまったくないのが困った所。心に壁を作ってしまって人を寄せ付けない。仕事もすぐ抱え込んでしまい、一人で解決しようとする」
そういう部分は、清酒さんには確かにあるのかもしれない。朝の打合せの時。人が代行しても良いような仕事を、強引に俺とか他の人に鬼熊さんが振り替える事も多い。でもその責任感の強さは、長所だと思う。しかし鬼熊さんは悲しそうに溜め息をついた。その表情に一瞬女を感じで少しビビる。
「そう言う事をヤツは、恋愛においてもしてくるから……。そういう意味では無器用なヤツなのよ。相手に自分をさらけ出す事が絶対に出来ない」
鬼熊さんの切なげな口調に俺はフリーズする。
えっ、と……どういう事? 清酒さんは社内恋愛に懲りていて、加えこの鬼熊さんの言葉……。二人はもしかして付き合っていた? やはり、トンでもない裏が隠されていた。俺は不味いと思い、鬼熊さんから目を反らして今やっている作業を終わらせようとする。清酒さんと、鬼熊さんが恋人として仲良くしている姿も想像が出来ない。イヤ想像もしたくない。
「アンタさ、変な何か誤解をしてるでしょ、私らはそんな関係じゃないわよ! 互いにタイプじゃないし! 清酒くん可愛げないし、向こうはかなりのメンクイだし」
その言葉に若干ホッとする。先程の言葉の雰囲気は決して無関係だったようにも思えず、チラリと見上げてしまった。その俺の好奇心に満ちた視線に呆れたような溜め息をつく。そして困ったように笑う。
「……付き合っていたのは私じゃなくて、私の友達なの」
「友達! まさか……って、後輩とかですよね?」
いかん、思った事を一旦頭で整理してから話せと、清酒さんに言われている。即言葉にするのが俺の悪い癖。でも鬼熊さんのお友だちというと、凄いオバサンにならないか? と思ってしまったから。案の定、鬼熊さんもジロリと睨み付けてくる。
「私の大学時代の同級の友達! 別に四歳違いなんて不思議でもないでしょう!」
『鬼熊さんって、まだ三十二歳だったんですね。四十越えているのかと思ってました』とは口に出して言わない。
「鬼熊さんが、紹介したんですか?」
「まさか!」
ビックリしたように目を見開き否定する。
「清酒くんが出入している会社に、その子が勤めていたから。それで知り合ったんじゃない? 街でデートしている二人にバッタリ会って私も驚いたわよ」
清酒さんは意外とチャッカリと仕事中に相手見つけていたんだ……。その部分に俺は驚く。
「じゃあ、今も清酒さんはその女性と?」
年上女性と大人の恋愛を楽しむとは、格好良いというか羨ましい。しかし鬼熊さんは悲しそうに首を横にふる。
「結局、ダメになっちゃった。勿論、清酒くんだけが悪い訳でもない。その子にも問題があったからお互い様なんだけどね。端からみて好きあってるのにすれ違っていって見ていられなかった」
そう言い、悲しげに大きく溜め息をつく。俺としてはいきなりそんなディープな事を聞かされてどう反応して良いのか分からなかった。
俺は曖昧な反応だけしか返せない。
「ごめん、変な事話して。こんな事言ったって、絶対清酒くんには話さないでよ!
何でこんな話しちゃったかな、アンタが相手だからなのかな?」
困ったように笑う鬼熊さん。
「誰にも話しませんよ! 大丈夫ですから」
俺はシッカリと頷きそんな言葉を返す。
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