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白い黒猫

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相方募集中

それは今でしょう

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 ジッと俺を見つめている煙草さんの顔を見つめ返した。コレはチャンスなのではないかという事にも気が付いた。より煙草さんと近しい関係になれそうな気がする。
「ありがとうございます。
 そしてごめんなさい。ちょっとみっともなかったですね。でも、煙草さんって何か話しがやすくて、つい……。
 あの、お詫びに今度何か食べに行きませんか? 奢ります! その時はこんな愚痴じゃなくて、楽しい話しで盛り上げますから!
 いや煙草さんとは、もっとお話しする機会が欲しかったんですよ」
 そこまで一気にまくしたて、煙草さんを見ると、一寸キョトンとした顔をされてしまう。しかし突然クスクスと笑いだす。
「私もそうですよ」
 やった! OKしてくれた。
「社交辞令ではないですよ!
 食事行くのはマジですから。
 じゃあ、メアド交換してくれませんか? 連絡出来るように」
 さらに詰め寄るために、スマフォを出し、アドレス交換しようとした時、後ろに微かな音がした。何でだろうか、なんか寒い。殺気のような気配をこの平和な日本の日常生活で感じる事があるなんて。
「なんだ、姿見えないと思ったら、相方、ここでナンパか?」
 聞き慣れた声にゆっくり振り向くと、上司である清酒さんが俺を軽く睨んでいる。顔は笑っているから怒っているようには見えないが、なんか怖かった。
 清酒さんの登場にニッコリ挨拶する煙草さん。とんだ邪魔の登場でこの笑顔が俺だけのモノではなくなってしまった事に気が付きガッカリする。
 煙草さんは田邊さんに呼ばれているという事で、給湯室から消えてしまう。もう少しでアドレス交換が出来ていたというのに、俺は溜息をつくしかない。
「何、仕事中に盛っているんだ」
 まったく間違えているとは言わないけれど、えらい言われようだ。そりゃ、あの豊満な胸に顔を埋めたい。あとあの色っぽい唇にキスしてみたいとかいう願望はあるけれど。
「盛ってなんていないですよ。ただ、よりマメゾンの煙草さんと交流を深めたいなと思って。今後の為にも」

 チッ

 清酒さんの舌打ちの音。冷たい視線をこちらに向けてくる。ちゃんとこの仕事を頑張ったのだから、これくらいのご褒美があっても良いと思う。しかしクレーム処理で機嫌がかなり悪い清酒さんに、何を言っても無駄なのかもしれない。俺は溜息をつく。
「今日はご苦労だった。コチラは俺が引き継ぐ。お前は高島建設事務所と、RITソシューションの方、今から代わりに行ってくれないか?」
 その言葉に俺は思いっきりガッカリとした顔をしてしまう。別に頼まれた仕事が嫌な訳ではない。ただ関わったからにはこのイベントに最期まで参加したかったからだ。それにまだ、煙草さんとメールアドレスの交換も出来ていない。
「え? 俺コチラ責任をもってやりますから、清酒さんがそちらをされた方が良くないですか?」
 その二つの企業も清酒さんの担当の会社。俺はそう答え命令を回避しようと試みる。清酒さんはそんな俺をギロリと睨む。
「田邊さんに、この仕事は俺が依頼された。しかし実際蓋をあけてみたら人任せで放り出していました、なんて訳にもいかないだろ。だからソチラをお前に頼む」
 確かにそういうものなのかもしれない。俺は、後ろ髪退かれる思いで営業車のキーを交換し、ここを去る事にした。アドレス交換が出来なかったので、自分の名刺にアドレスと電話番号を書きいれる。それを控え室にあった煙草さんの鞄のポケットにさしておく。あまり格好いい行動でもないけれど、せめても俺のアドレスだけは煙草さんに伝えたかったから。すぐに何かがどうなるという訳ではないだろう。これで煙草さんとイイ感じで素敵な関係を始めていきたい。俺は淡い期待を胸に車を発進させた。


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