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白い黒猫

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相方募集中

はじめましてサカタです

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「ほう、清酒せいしゅくんも、頼もしい相方が出来た訳だな!」
 そう言う会ったばかりの楽しそうなお客様に、俺はハハハと力なく笑う。
 もう行く先々で交わされるこの会話に、俺も疲れてきた。珈琲豆のメーカーであるマメゾンの営業に配属されて、連れまわされる取引先への挨拶回り。必ずといってこの言葉を言われ続け、もう笑いも渇いてきた。

「頼もしいかどうかは、悩ましい所ですが、まあコレから彼と頑張っていきたいと思います」
 先輩である清酒さんは、『またか!』という素振りを一切見せずに楽しげに会話をしている所は流石だと思う。
 この先輩も『清酒』という珍名で、違った意味で同じような体験をしてきている。それだけに名前弄りにも慣れているようだ。珍名で生きていると、初対面の人と会う度にいらぬやり取りの繰り返しをしなければならない。基本疲れているものである。相手にとって新鮮でも、当事者はその反応を何百回と経験してきている事だからだ。
 俺の名前は『相方 友寄』といい、苗字も名前も意味が被っているから、見た感じから面倒臭い。苗字が読みにくい珍名ならば、名前は悩まず読めるものにしてく欲しかった。この字で俺は『ともき』となっている。微妙に読み辛い。
 この苗字を見て、図々しいヤツならば、『お前が俺の相方あいかたか~宜しくな!』といった事を言ってニヤリと笑う。そういう事を最初の出会いから言ってくるヤツは大抵面倒臭いヤツ。俺はその後あまり関わらない事にしている。

 しかし最期に回った株式会社Joy Walkerでの反応だけは違った。
「今度はそう来たか~! いや~マメゾンの営業は珍名でないと入れない決まりがあるのかな?」
 俺の名刺を見て、羽毛田はげた編集長は感心する。そう言われても仕方がない程、確かにうちの部署には不思議な苗字の人が多い。この隣に立っている清酒さんにしてもそうだ。そしてさらに上の先輩も鬼熊きぐまさんという。この鬼熊さんにいたってはこの名前で女性だから可哀想だ。

「でもいいですよね! 格好いい珍名で!」
 しきりに羨ましがるのは、ウチの担当だという煙草たばこさん。俺と同じくらいの年齢なんだろうか? 丸顔でクリっとした目がなんとも可愛い女性である。
 主役ではなくその付属品みたいな意味が強い相方という名前も格好いいとは思わない。しかも読み方も『サカタ』であるならば、素直によくある『坂田』だったほうがどれ程良かったのかと思う。
 しかし彼女は嫌煙家なのにその苗字。俺とは別の意味で『何だかな~』という想いを続けてきた人には、俺の方が条件が良く見えるらしい。

 珍名同士という事からか、彼女からは親近感を持たれたようで、『これからも宜しくお願いしますね!』と弾けるような笑顔で挨拶された時は、内心ラッキーと思ったものだった。これから煙草さんと交流を深めて行くのも悪くないなとかも思っていた。

 しかし、この会社の正式な担当は先輩の清酒さん。このJoy Walkerに俺が出向けるチャンスというのは殆どなかった。
 清酒さんはシッカリ仕事をこなす方。かなり忙しく仕事をしている割に、担当している会社の面倒をキッチリみることをしている。よほどの事がない限り俺が代わりにJoy Walkerに向かえる事がなかった。それにも関わらず、俺がたまに訪れると煙草さんは笑顔で迎えてくれる。
『相方くん、久しぶり。背広姿も板について、格好良くなったね~』
 とか言いながら歓迎してくれて、その事に感動と喜びを感じていた。

 偏見かもしれないが女性はバリバリ仕事をすると男勝りになり可愛げがなくなりそうなもの。このように可愛く仕事をしている女性もいるのだと学んだ。
 俺よりも一歳上の為、お姉さんぶって接してくるのに、その様子も可愛いから面白い。彼女の隣で威圧感たっぷりに俺に話しかけてくる井上いない女史とはえらい違いである。
 そんな取引先の三ヶ月に一度くらいしか会えない相手で、俺も社会に出たばかりで余裕もない状態、関係が進む訳もなく。ぼんやりと『なんか、この人良いな~』とだけ思って月日はただ流れていった。




※   ※   ※

相方さんは、全国で15301位で92世帯数の苗字。
サカタ サガタ サガカタ アイガタ アイカタ という読み方されます。
清酒さんは、26115位 36世帯いらっしゃるそうです。 
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