優しくて美しい世界

白い黒猫

文字の大きさ
上 下
22 / 24
コドクナセカイ(眞邉樹里から見た世界)

幼馴染

しおりを挟む
 退部により一年の貢門命架が履修している講義に一歳関係ないアートラボでの行動を封じた筈なのに、彼女は渉夢に会いに来たと言って何度も突入してきた。
 何故、あそこまでの怒りを買ったのに、そんなことなかったように近付いてくるのか? 私の中では貢門命架の存在は最高警戒対処となり、出来る限り渉夢と行動を共にして守る事にした。
 
 今日もアートラボに来たので会議中と追い返した。
 私は十一番アトリエの横にある研究室に戻りため息をつく。
 研究室という名だが、アトリエに併設された個室で、事務作業が出来るデスクとチェア。それにソファーセットがある部屋。
 苦笑して見ている幼馴染の十一残刻と、顔を顰めた渉夢が私に視線を向けてくる。
 残刻は彫刻家で彫刻コースの講師をしている作家とのコラボイベントの打ち合わせに大学に来ていた。渉夢の知り合いのギャラリーでそれ行うことで会議をしていたというのは、嘘でもない。打ち合わせは終わったようで、残刻はソファーで寛いでいる。
「実際見てみたけど、強烈な女だな」
 残刻の言葉に、またため息が出てくる。
「前ラウンジで、渉夢に私が作った弁当を食べさせていたのを見てから、食べ物を差し入れしようとする事も増えて」
 私はため息をつく。
「へえ、樹里の手作り弁当か」
 残刻がニヤニヤ笑う。
「美味しかったよ。房恵さんの味を受け継いでいて」
 それにニコニコそう答えてくる渉夢に顔が赤くなるの感じ睨む。
 子供の頃から付き合いの幼馴染だけに、いろいろ裏の事情が見えてしまうのがこの三人での会話に困ったところ。
 私の作った弁当が恋人で婚約者である眞光サネミツ崇裕タカヒロの家の味である事をからかってきている。
「俺も食べてみたいな! 樹里の料理。今度、崇裕の家で飲み会するか!
 ……それにしても、あの女の持ってきた食いもんは怖いな。怪しげなモノ入ってそうだ」
 私の睨みの視線で残刻は顔を真顔にし、話を戻す。
 手元に貢門命架について不死原本家お抱えの調査会社が調べた報告書を持っている。
 渉夢が依頼していたものを婚約者の崇裕が朝一で届けてくれたもの。
「私がそんな危ないモノ、渉夢に食べさせるわけないでしょ! それどころか近くに置くつもりもないわよ!」
「そちゃそうだ。その点も頼りにしてるよ樹里」
 離れてコーヒー飲んでいる渉夢は私達の会話を聞きながら何や考え込んでいるような顔をしている。
 真面目で責任感の強い彼だけに、何とか自分の力で穏便に事を済ませようと思っているのだろう。
 渉夢が私の方を真っ直ぐ見て口を開く。
「樹里、君はあの学生にもうこれ以上関わるな。
 大学の問題だしね。
 アレは話とか常識が通じるような相手ではない」
「だからこそ!」
 私は代々不死原家に仕え守ってきた眞邉の人間として、危ない人間から渉夢の盾となり護る為に生きている。
「君は俺の大切なビジネスパートナーであって警護や護衛では無い」
 私は不満からつい顔を顰めてしまう。大切なビジネスパートナーと言われた事は嬉しいが、眞邉の人間としての意味を否定されたのは悲しい。
「もし君の身に何かあってからでは遅い。
 房枝さんや崇裕を心配させない為にも危険は避けてくれ」
 一応武術も嗜んでいるし、あえて渉夢にではなくコチラにヘイト溜まるように行動していた。
 渉夢の優しさが、やや面倒な形で出てしまったようだ。
「そうでなくても、樹里は渉夢の気儘さにふりまわされてんから、荒事関連は野蛮担当に任せたら?
 眞壁の所がもう動いてるし。樹里にしか出来ない仕事もあるだろ」
 残刻までがそんな事言ってきて私は大きく息を吐く。
 不死原家の人間だけでなく、十一家の人間にまで言われてしまうと従うしかない。
 納得いっていない私の表情を気にしつつ、講義の時間が来たので渉夢はアトリエの方へと移動していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界終わりで、西向く士

白い黒猫
ホラー
 ある事故をきっかけに土岐野 廻の世界はすっかり終わってしまう。  その為、引きこもりのような孤独な生活を何年も続けていた。  暇を持て余し、暇潰しのにネットで配信されているコンテンツを漁る毎日。  色々やって飽きた廻が、次に目をつけたのはウェブラジオだった。  適当な番組を選んで聞いた事により、ギリギリの平和を保っていた廻の世界は動き出す……  11:11:11シリーズ第二弾   他の作品と世界は同じなだけなので単体で楽しめます。  小説家になろうでも公開しています。

本を喰む子

凪司工房
ホラー
約6000字のホラー短編。よく利用している本屋である日、あなたは店主から奇妙な子どもの話を聞かされるが

11:11:11 世界の真ん中で……

白い黒猫
ホラー
それは何でもない日常の延長の筈だった。 いつものように朝起きて、いつものように会社にいって、何事もなく一日を終え明日を迎える筈が……。 七月十一日という日に閉じ込められた二人の男と一人の女。 サトウヒロシはこの事態の打開を図り足掻くが、世界はどんどん嫌な方向へと狂っていく。サトウヒロシはこの異常な状況から無事抜け出せるのか?

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ねぎ(ポン酢)
ホラー
短編で書いたものの中で、怪談・不思議・ホラー系のものをまとめました。基本的にはゾッとする様なホラーではなく、不思議系の話です。(たまに増えます)※怖いかなと思うものには「※」をつけてあります (『stand.fm』にて、AI朗読【自作Net小説朗読CAFE】をやっております。AI朗読を作って欲しい短編がありましたらご連絡下さい。)

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

処理中です...