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コドクナセカイ(眞邉樹里から見た世界)
大学のプリンス
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「……プリンスって、こんな思いっきり日本人顔の俺の何処が……」
渉夢は話を聞いて苦笑しているが、常に紳士的な態度で柔らかい笑みを浮かべているイケメン男性ときたら、そう呼ばれても仕方がないだろう。
「不死原先生は、変に気取るとか、格好付けるとか一切せず、自然体で紳士的な行動してくるから!
ウチの学生らは、余計に『イイ! リアルプリンス!』となって萌えるのよ」
イラストレーターであるSHOUKA先生は明るくそんな言葉を返している。
退廃的で耽美なイラストで人気のSHOUKA先生にとっても、渉夢は創作意欲を掻き立ててくれる存在ならしい。最高な目と心の保養にもなると良い笑顔で言い切っていた。
渉夢は何度も講義でのモデルを依頼されてきて断り続けている。
「それにね、整っている顔立ちって、魅せる人の顔を描くには、どうパーツを配置したらそうなるかという勉強になるのよ。
私達は自分で人物を作っていくから、脳内に使えるパーツ材料を貯めていくのも勉強なの」
「うっかりモデルを引き受けたら、解体されそうで怖いな……」
渉夢は苦笑する。渉夢が大学での時間を気に入っているのは、こうした様々なアーチストとの気儘な話が出来るのもあるようだ。
「でも、SHOUKA先生が表現する俺って、少し興味あるかな?
貴方の目から見た俺に興味がある。どんな男に見えているのかな? それを見てみたい」
そうやって真っ直ぐ見詰めて微笑む。こういった言動が女心を擽るというのに気がついていない。
「いいの?! 描いちゃう描いちゃう!
……そういえば不死原先生は人物は描かないの」
SHOUKA先生は既婚者で萌えとか創作欲と日常をキッチリ分ける人。
だから恋愛的な意味で堕ちるという事はなく純粋にアートについて語り合えるから、渉夢も友情を楽しんでいるのかもしれない。
ジャンルが違っていても仲良く話し合える良い関係で、他愛なくお茶をしている事が多い。
「身内はよく描くけど……注文されて肖像画を描くというのはやりたくないかな。
相手への好奇心とか興味があってこそ、筆が進むというのがあるし、俺から見えている姿とモデルとなった人が感じている自分の姿に乖離があると色々面倒な事にもなりそうで。
それに人物画は売り物にしにくいとも言われてしまってるしね。
肖像権の問題もあるし、本人や家族以外は部屋に飾りたいと思わないジャンルの絵だからね人物画は。
俺の祖父とかの肖像画なんて、ギャラリーに置いても売り物にはならないよね」
「農林水産大臣の絵は欲しくは無いかな~。
イケオジだとしても、リアルな存在感が強烈過ぎて萌えあがらせにくい」
SHOUKA先生はケラケラ笑う。
「そういえば、不死原先生。
新入生から強烈なアプローチうけたんだって?」
渉夢は苦笑し顔を横に振る。
「アプローチというより、ただ挨拶されただけですよ」
貢門命架という学生という学生の話はやはり有名になっているようだ。
彼女のその挨拶の様子は、共同アトリエを静まりかえらせた。それくらいインパクトある出来事だった。
渉夢は『挨拶されただけ』と言ったがそんな優しいものではなかった。
興奮で目を血ばらせて『大好きですー!」と裏返った高音で唾を飛ばしながら叫ぶ小太り女性の異様さ。
極度の緊張からくる奇行だとこの時は皆は流したが、その異様さは新入生ながら一躍話題の人となり、彼女の存在を学内に知らしめた。変な人という笑いモノとして。
彼女が自己紹介という形でかなり細かい自分の情報を告げて来たことも悪く作用したのだろう。
渉夢も動じることなく笑うこともせず穏やかに言葉を返したのは流石というべきだろう。
まぁ私も驚いたが、強烈な個性の人ならば不死原一族と十一一族の人達を知っているだけに、この時は彼女の奇人ふりはまだまだ甘いものに思っていた。
不死原の人はその圧だけでその場を凍え震える場にしてしまうから。彼女のように笑える要素があれば、まだまだ大した事はないとさえこの時は思っていた。
渉夢ファンクラブの人は気になったのか、貢門命架の詳しい情報を収集して私達に届けてくれた。それによるとその学生は命華の名で既にイラストレーターとしてデビューをしているという事だった。
そのイラストを書いた作品が、今度アニメ化になる。
彼女の表紙のお陰というか、作家の次の作品が評判がよく、その影響で一つ前に出版された作品も注目されるようになった流れなようだ。
そのためアニメ化されるのは、貢門命架の作ったキャラクターではなく、アニメ化に向けて作られた同作品の漫画の方のキャラクター。
渉夢のファンクラブの子らからは推しに擦り寄った危ない女という事で、敵意を持たれていることもあるのだろう。貢門命架の絵への評価は低かった。
とは言え、彼女は既にイラストレーターとして一度仕事をしているという実績を利用しAO受験で入学してきた。
本人曰く、「プロとしてより一層の活躍する為に大学で学ぶことにしました。絵画を基礎から学び、自分の能力を高めていきたいです」という事を言っていたらしい。
ネットにあった彼女の作品というのを見たが、そういったイラストレーションに馴染みもない事もあり、私にはその魅力が全く分からなかった。
渉夢もチラッとだけ見て、コメントすらしなかった所からも作家としてもイマイチという事だろう。
優しい渉夢だがアートに関してはシビアで、学生の作品であっても彼の審美眼に叶わない作品に対しては冷淡な反応を示す。
だから渉夢にとっては、気に掛ける価値もないその他大勢の一人の学生。それが渉夢にとっての貢門命架だった。
渉夢は話を聞いて苦笑しているが、常に紳士的な態度で柔らかい笑みを浮かべているイケメン男性ときたら、そう呼ばれても仕方がないだろう。
「不死原先生は、変に気取るとか、格好付けるとか一切せず、自然体で紳士的な行動してくるから!
ウチの学生らは、余計に『イイ! リアルプリンス!』となって萌えるのよ」
イラストレーターであるSHOUKA先生は明るくそんな言葉を返している。
退廃的で耽美なイラストで人気のSHOUKA先生にとっても、渉夢は創作意欲を掻き立ててくれる存在ならしい。最高な目と心の保養にもなると良い笑顔で言い切っていた。
渉夢は何度も講義でのモデルを依頼されてきて断り続けている。
「それにね、整っている顔立ちって、魅せる人の顔を描くには、どうパーツを配置したらそうなるかという勉強になるのよ。
私達は自分で人物を作っていくから、脳内に使えるパーツ材料を貯めていくのも勉強なの」
「うっかりモデルを引き受けたら、解体されそうで怖いな……」
渉夢は苦笑する。渉夢が大学での時間を気に入っているのは、こうした様々なアーチストとの気儘な話が出来るのもあるようだ。
「でも、SHOUKA先生が表現する俺って、少し興味あるかな?
貴方の目から見た俺に興味がある。どんな男に見えているのかな? それを見てみたい」
そうやって真っ直ぐ見詰めて微笑む。こういった言動が女心を擽るというのに気がついていない。
「いいの?! 描いちゃう描いちゃう!
……そういえば不死原先生は人物は描かないの」
SHOUKA先生は既婚者で萌えとか創作欲と日常をキッチリ分ける人。
だから恋愛的な意味で堕ちるという事はなく純粋にアートについて語り合えるから、渉夢も友情を楽しんでいるのかもしれない。
ジャンルが違っていても仲良く話し合える良い関係で、他愛なくお茶をしている事が多い。
「身内はよく描くけど……注文されて肖像画を描くというのはやりたくないかな。
相手への好奇心とか興味があってこそ、筆が進むというのがあるし、俺から見えている姿とモデルとなった人が感じている自分の姿に乖離があると色々面倒な事にもなりそうで。
それに人物画は売り物にしにくいとも言われてしまってるしね。
肖像権の問題もあるし、本人や家族以外は部屋に飾りたいと思わないジャンルの絵だからね人物画は。
俺の祖父とかの肖像画なんて、ギャラリーに置いても売り物にはならないよね」
「農林水産大臣の絵は欲しくは無いかな~。
イケオジだとしても、リアルな存在感が強烈過ぎて萌えあがらせにくい」
SHOUKA先生はケラケラ笑う。
「そういえば、不死原先生。
新入生から強烈なアプローチうけたんだって?」
渉夢は苦笑し顔を横に振る。
「アプローチというより、ただ挨拶されただけですよ」
貢門命架という学生という学生の話はやはり有名になっているようだ。
彼女のその挨拶の様子は、共同アトリエを静まりかえらせた。それくらいインパクトある出来事だった。
渉夢は『挨拶されただけ』と言ったがそんな優しいものではなかった。
興奮で目を血ばらせて『大好きですー!」と裏返った高音で唾を飛ばしながら叫ぶ小太り女性の異様さ。
極度の緊張からくる奇行だとこの時は皆は流したが、その異様さは新入生ながら一躍話題の人となり、彼女の存在を学内に知らしめた。変な人という笑いモノとして。
彼女が自己紹介という形でかなり細かい自分の情報を告げて来たことも悪く作用したのだろう。
渉夢も動じることなく笑うこともせず穏やかに言葉を返したのは流石というべきだろう。
まぁ私も驚いたが、強烈な個性の人ならば不死原一族と十一一族の人達を知っているだけに、この時は彼女の奇人ふりはまだまだ甘いものに思っていた。
不死原の人はその圧だけでその場を凍え震える場にしてしまうから。彼女のように笑える要素があれば、まだまだ大した事はないとさえこの時は思っていた。
渉夢ファンクラブの人は気になったのか、貢門命架の詳しい情報を収集して私達に届けてくれた。それによるとその学生は命華の名で既にイラストレーターとしてデビューをしているという事だった。
そのイラストを書いた作品が、今度アニメ化になる。
彼女の表紙のお陰というか、作家の次の作品が評判がよく、その影響で一つ前に出版された作品も注目されるようになった流れなようだ。
そのためアニメ化されるのは、貢門命架の作ったキャラクターではなく、アニメ化に向けて作られた同作品の漫画の方のキャラクター。
渉夢のファンクラブの子らからは推しに擦り寄った危ない女という事で、敵意を持たれていることもあるのだろう。貢門命架の絵への評価は低かった。
とは言え、彼女は既にイラストレーターとして一度仕事をしているという実績を利用しAO受験で入学してきた。
本人曰く、「プロとしてより一層の活躍する為に大学で学ぶことにしました。絵画を基礎から学び、自分の能力を高めていきたいです」という事を言っていたらしい。
ネットにあった彼女の作品というのを見たが、そういったイラストレーションに馴染みもない事もあり、私にはその魅力が全く分からなかった。
渉夢もチラッとだけ見て、コメントすらしなかった所からも作家としてもイマイチという事だろう。
優しい渉夢だがアートに関してはシビアで、学生の作品であっても彼の審美眼に叶わない作品に対しては冷淡な反応を示す。
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