優しくて美しい世界

白い黒猫

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コドクナセカイ(眞邉樹里から見た世界)

天性の人たらし

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 私の上司は天性の人たらしだ。
 あの不死原家の人間だというだけでも、人が寄ってきてしまうのはのは仕方がない事なのかも知れない。
 でも不死原渉夢はそれに加えて、有り得ないほど良い奴なのだ。しかも顔も良い。
 困った人、悩んでいる人にソッと寄り添ってくれる。
 そんな優しさを持つ。彼の優しさに一度でも触れた人は彼に堕ちてしまう。そんな所がある。
 渉夢は、ビンビンに尖ったカリスマ性とリーダーシップを持つもつアクが強すぎる不死原一族の人間とは思えない柔らかい性格をしている。
 他の不死原家の人間が性格が悪いとは言わないが、厳しくキツい人間ばかり。
 良くも悪くも漢気のある男性か、女傑ばかり。
 尊敬はしているが、恐ろしくもある方々。
 頭の回転も早く思考の速さが常人とは異なり、ついていくのも大変。
 その一族で最も苛烈と言われる渉也さんの子供で、不死原本家の家庭で、何故一人だけあんなに穏やかな子供に育ったのか? 今世紀最大の謎とまで里では言われている。

 そんな中で渉夢は家族から浮いているのか? というとそんな事は全くなく、逆にシックリとハマっている。
 あの柔らかさが、厳しい一族間のよい緩衝材としての役割を果たしているのかもしれない。
 そして一族こぞって渉夢を可愛がる事を競ってる所さえある。
 そんな可愛がりに甘える訳では無く、愛情と誠意を返して向き合うから、家族も可愛くて堪らないのだろう。

 当主をはじめ土地の重鎮である不死原フジハラ一族や、十一トカズ一族という個性的でアクの強い人達から可愛がられ、あの圧を受けて全く緊張する素振りもなくニコニコと話が出来る所をみると、不死原の血をひく大物なのだと思う。

 子供の時、新年のご挨拶にて無邪気な笑顔で当主を単なる好々爺にしてしまい、当主は渉夢を膝に抱きあげた状態でその後の挨拶を受けていたというエピソードは有名。

 誰に叱られても反発する芸術家気質の十一残刻が、渉夢に注意受けると逆に嬉しそうな顔になり話を聞く。
 クセのある人の好意を特に受けやすい体質なようだ。
 里の中でそういう伝説を数々作ってきているのが渉夢という男。
 
 里において微笑ましさを振りまく平和なたらしぶりは構わないのだが、彼の預かり知らぬところで勝手に堕ちて勝手に夢中になってしまう人が出てくるのは困った所。

 大学の学生にそれは多い。その三割は自分の才能を過信して野心を心の奥秘めて近付き渉夢の魅力に平伏してしまった人。残りの七割は憧れやミーハーな気持ちから盛り上がってしまった人。

 基本前者は現実を分かれば大人しくなる。
 後者はアイドルに対する感情に似たもの。そのため推しに対する敬愛から、配慮ある行動を心掛けてくれるので平和なモノ。
 良識から外れた行動をした存在を止めてくれるという自浄作用もある。

 イラストレーター希望の人の多いアートデザインコースの学生には「フジの君」「プリンス」ので呼ばれていてファンクラブまである。
 そんなファンクラブの人は、渉夢に対して適度の距離感を持って接しているので、例え肌色の多いファンアートを彼女らが裏で描いていたとしてもソッとしておく事にしている。
 渉夢にもあえて見せたりしていないので、表面的には穏やかに挨拶だけを交わす平和な世界がそこには広がっていた。
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