優しくて美しい世界

白い黒猫

文字の大きさ
上 下
18 / 24
コドクナセカイ(眞邉樹里から見た世界)

天性の人たらし

しおりを挟む
 私の上司は天性の人たらしだ。
 あの不死原家の人間だというだけでも、人が寄ってきてしまうのはのは仕方がない事なのかも知れない。
 でも不死原渉夢はそれに加えて、有り得ないほど良い奴なのだ。しかも顔も良い。
 困った人、悩んでいる人にソッと寄り添ってくれる。
 そんな優しさを持つ。彼の優しさに一度でも触れた人は彼に堕ちてしまう。そんな所がある。
 渉夢は、ビンビンに尖ったカリスマ性とリーダーシップを持つもつアクが強すぎる不死原一族の人間とは思えない柔らかい性格をしている。
 他の不死原家の人間が性格が悪いとは言わないが、厳しくキツい人間ばかり。
 良くも悪くも漢気のある男性か、女傑ばかり。
 尊敬はしているが、恐ろしくもある方々。
 頭の回転も早く思考の速さが常人とは異なり、ついていくのも大変。
 その一族で最も苛烈と言われる渉也さんの子供で、不死原本家の家庭で、何故一人だけあんなに穏やかな子供に育ったのか? 今世紀最大の謎とまで里では言われている。

 そんな中で渉夢は家族から浮いているのか? というとそんな事は全くなく、逆にシックリとハマっている。
 あの柔らかさが、厳しい一族間のよい緩衝材としての役割を果たしているのかもしれない。
 そして一族こぞって渉夢を可愛がる事を競ってる所さえある。
 そんな可愛がりに甘える訳では無く、愛情と誠意を返して向き合うから、家族も可愛くて堪らないのだろう。

 当主をはじめ土地の重鎮である不死原フジハラ一族や、十一トカズ一族という個性的でアクの強い人達から可愛がられ、あの圧を受けて全く緊張する素振りもなくニコニコと話が出来る所をみると、不死原の血をひく大物なのだと思う。

 子供の時、新年のご挨拶にて無邪気な笑顔で当主を単なる好々爺にしてしまい、当主は渉夢を膝に抱きあげた状態でその後の挨拶を受けていたというエピソードは有名。

 誰に叱られても反発する芸術家気質の十一残刻が、渉夢に注意受けると逆に嬉しそうな顔になり話を聞く。
 クセのある人の好意を特に受けやすい体質なようだ。
 里の中でそういう伝説を数々作ってきているのが渉夢という男。
 
 里において微笑ましさを振りまく平和なたらしぶりは構わないのだが、彼の預かり知らぬところで勝手に堕ちて勝手に夢中になってしまう人が出てくるのは困った所。

 大学の学生にそれは多い。その三割は自分の才能を過信して野心を心の奥秘めて近付き渉夢の魅力に平伏してしまった人。残りの七割は憧れやミーハーな気持ちから盛り上がってしまった人。

 基本前者は現実を分かれば大人しくなる。
 後者はアイドルに対する感情に似たもの。そのため推しに対する敬愛から、配慮ある行動を心掛けてくれるので平和なモノ。
 良識から外れた行動をした存在を止めてくれるという自浄作用もある。

 イラストレーター希望の人の多いアートデザインコースの学生には「フジの君」「プリンス」ので呼ばれていてファンクラブまである。
 そんなファンクラブの人は、渉夢に対して適度の距離感を持って接しているので、例え肌色の多いファンアートを彼女らが裏で描いていたとしてもソッとしておく事にしている。
 渉夢にもあえて見せたりしていないので、表面的には穏やかに挨拶だけを交わす平和な世界がそこには広がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界終わりで、西向く士

白い黒猫
ホラー
 ある事故をきっかけに土岐野 廻の世界はすっかり終わってしまう。  その為、引きこもりのような孤独な生活を何年も続けていた。  暇を持て余し、暇潰しのにネットで配信されているコンテンツを漁る毎日。  色々やって飽きた廻が、次に目をつけたのはウェブラジオだった。  適当な番組を選んで聞いた事により、ギリギリの平和を保っていた廻の世界は動き出す……  11:11:11シリーズ第二弾   他の作品と世界は同じなだけなので単体で楽しめます。  小説家になろうでも公開しています。

11:11:11 世界の真ん中で……

白い黒猫
ホラー
それは何でもない日常の延長の筈だった。 いつものように朝起きて、いつものように会社にいって、何事もなく一日を終え明日を迎える筈が……。 七月十一日という日に閉じ込められた二人の男と一人の女。 サトウヒロシはこの事態の打開を図り足掻くが、世界はどんどん嫌な方向へと狂っていく。サトウヒロシはこの異常な状況から無事抜け出せるのか?

『盆綱引き』

篠崎俊樹
ホラー
福岡県朝倉市比良松を舞台に据えた、ホラー小説です。時代設定は、今から5年前という設定です。第6回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリーいたします。大賞を狙いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ねぎ(ポン酢)
ホラー
短編で書いたものの中で、怪談・不思議・ホラー系のものをまとめました。基本的にはゾッとする様なホラーではなく、不思議系の話です。(たまに増えます)※怖いかなと思うものには「※」をつけてあります (『stand.fm』にて、AI朗読【自作Net小説朗読CAFE】をやっております。AI朗読を作って欲しい短編がありましたらご連絡下さい。)

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

処理中です...