優しくて美しい世界

白い黒猫

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センセイを巡る旅

大丈夫、何も無かったから

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 センセイの事を考えていると、センセイに無性に逢いたくなる。
 私は本箱の所にいき、本の後ろに隠していた缶を取り出す。親にスマホも通帳もカード取り上げられてしまった為、不自由極まりない。
 遊行費も何か手伝い程度の仕事して受け取れる小遣い程度の現金。
 何か欲しい時は、それが買える金額のみ渡される。
 私をこの村に閉じ込めて置く為。
 でも家族は知らない。実は私の部屋にへそくりが十万程度あることを。夢の中で私はこのお金を使ってセンセイに会いに行った。
 シミュレーション体験では無いけれど、あの夢のように直接センセイの家に行くのは危険な気もする。
 あの土地では私は指名手配犯なのか? という感じで警戒されている。
 ならば大学周辺に行けばセンセイと遭遇することもあるのかもしれない。五万程取り出して出かける事にする。
 私は白いお気に入りのワンピースに着替えて、出掛ける事にする。化粧も念入りにして。目をメイクで大きめに見せ、ふんわりチークをすると、私なんかでもそれなりに良い感じになる。
 ただ困るのはずっと続く猛暑。化粧崩れが心配である。
 異常気象にも程がある。毎日毎日晴れ渡り、最後に雨が降ったのはいつだったのだろうか? と言うくらい雨の記憶がない。私は携帯扇風機をバッグに入れて日傘を手に部屋を出る。 
 家をコッソリ出ようとしたが、祖母に見つかってしまう。
「まぁ、メイちゃん可愛い格好してどこに?」
「駅前に、本買いたくて」
 祖母は私を嬉しそうに見ている。
「それは良いわね、なんか若い子に人気の珈琲屋出来たみたいよ。良かったら行って行ってらっしゃい」
 そう言いながら、二千円をそっと渡してくれた。
 駅前にスタバが出来たのは結構前なのに、祖母には最近な事のようだ。
 私はお礼を言って受け取り高速バスの方に乗って街に行く事にする。お金はかかるが、こちらの方が暑い外を移動する時間が少なくて済む。

 バスの中で今日の計画を練ることにする。
 あの街はセンセイとの思い出に溢れている。大学はもう入れないから、大学近くの喫茶店【Jack Beans】に行きたい! あそこのプリンを食べたい!
 センセイの経営するギャラリーカフェにも行きたいが、眞邉樹里と鉢合わせしそうだ。
 やめた方が安全かもしれない。
 そうだ、従姉妹が結婚式を挙げたあのホテルに先生の絵を見に行くのも良いかもしれない。そして海岸線にある壁画。センセイを巡る旅をしよう。

 計画が組み上がっていくにつれワクワクも高まってくる。
 バスを降りて、私はそこから歩いていけるところにある霜月しもつき小学校に向かう。
 そこにはセンセイと小学生が一緒になって描いた壁画ある。
 その壁画は子供が気ままに描いた絵に、センセイが仕上げをして作品としてまとめたもの。
 センセイの作品としては異色のものだけど、別の意味でセンセイの優しさが感じられるから好き。
 YouTubeでも制作風景が紹介されているのだが、そのセンセイは本当に楽しそうで、子供と一緒に笑顔で筆を動かす姿が素敵だった。
 その時のセンセイの姿を思い浮かべながら小学校へ向かい、現場近くで私は戸惑う。
 なんか異様な事になっている。見渡すと学校の前の家の庭がグシャグシャに乱れていて窓ガラスも割れている。何があったのだろうか?
 パトカーが停まっていてさらに規制線が貼られ近付けない。
 マスコミの人とかいて、何やら中継をしている。
 何故か私の心臓は激しく脈打ってくるが、身体が冷えてきた。
 身体が震えるのを必死に抑えながら、野次馬をしている近所の住民と思われる人に声をかける。
「あの、ここで何が起こったのですか?」
 私の質問にオバサンは汗を拭きながら振り返る。
「なんか、小学校を竜巻が襲ったみたいなのよ~。
 それで外で体育してきた子供も何人か怪我したみたい。
 怖いわよね。でも大怪我した人とか死者はいなかったみたい。
 ほら、今日は日曜日だったからグランドにいたのは部活の子だけで……」
 口で言う程怖そうでもなくそう説明してくる。私が気になったのは壁画が無事なのかということ。

 人混みを押しのけ前の方にいき、現場を確認する。
 校門は酷く壊れているが、壁画の方は端が少し壊れただけで無事だ。
 校舎は無事だが、校内の木が避けるように倒れており、校門の鉄柵部分は激しく損傷しておりそ、手前の道路のアスファルトに飛んできた何がが幾つか刺さっている。
 それを見た瞬間身体に激しい恐怖と痛みが走っ気がした。
 自分の身体を見るが何の異常もない。そう、何も無い。
 壊れた周りの家は改めて見ると竜巻が舐めていったと聞くと納得の状況で、庭の物は吹き飛ばされたおり、外装がボロボロ。
 窓ガラスや外壁はやられているけど建物そのものは無事に見えた。
 センセイの絵が無事な事を確認しても、私の胸の動悸は収まらない。
 呼吸も荒くなり私はふらつきながら、少し離れた日陰に逃げ込む。
 何故こんなに動揺しているのか自分でも分からない。
『早く建物の中に!』
 目を瞑ると子供の悲鳴や、大人の叫び声が聞こえてくる。
 此処で起こったであろう光景を払うように頭を横にふる。

「大丈夫、大丈夫。何もなかった」

 自分に言い聞かせるように、その言葉を繰り返す。

 ダイジョウブ。ナニモナカッタ。

 ダイジョウブ。ナニモナカッタ。

 私は呪文のようにその言葉を繰り返した。
 
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