優しくて美しい世界

白い黒猫

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センセイを巡る旅

悪夢から醒めて

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 私は身体を、大きく震わせて目を覚ます。
 ゆっくりと薄暗い辺りを見回した。勉強机にラノベの並んだ本箱に、閉じられた花柄のカーテン。
 此処が自分の部屋だと認識する。
 嫌すぎる夢を見たようだ。センセイが居らず死んだと言われる世界で、私も車で兄と崖から堕ちて死ぬなんて、散々な夢。
 私は落ち着くために大きく深呼吸をする。
 ベッドの上で壁に凭れたままの格好で寝ていた為に身体が強ばり痛いので、ゆっくり身体を動かし解して行く。
 サイドテーブルに置かれた保冷マグカップには入ったジュースを飲み喉を潤す。
 横に落ちているタブレットを見ると朝の2:36とある。電池の残量が少なくなっている為に充電ケーブルを刺す。
 何とも夢見が悪くて、気分も良くない。私はもう一度寝直す事にした。

 次目を覚ました時は部屋は明るくなっていた。時間は十時少し前。閉じているカーテンの隙間から光が漏れている。この部屋は東向きの為午前中は、無駄に明るいところが困った所。カーテンが無いと容赦ない光が私を攻撃してくる。

 お腹も空いていたので欠伸をしながら部屋を出た。
 台所にいき冷蔵庫を開け、まず麦茶ポットを取りだしコップに二回お茶を注ぎ喉を潤す。
「あら、メイちゃん起きたのね~。お腹空いたでしょう」
 祖母がのんびりとした口調で声を掛けてくる。
 祖母は農作業で足を捻挫したことで農作業を免除してもらっていることで家の中に居ることが多い。
 とは言えもうかなり日にちが経っているのにまだ治らないのだろうか?
 サボりたいから足の悪いふりをしているなんて事は祖母に関してはないようだ。
 足を少し引き摺りながらも農作業出来ないならと、家の事を色々して逆にゆっくり休めと家族に怒られている。
 今も私の為に味噌汁を暖めなおし、ご飯をよそい私の朝食を用意してくれている。 
 焼き鮭にベーコンエッグに昨日の残りのフキと揚げの煮物とポテトサラダ。それにご飯と納豆。
 毎日変わり映えしないメニューで田舎臭くて溜め息がでる。
「……いただきます」
 お茶を手にコチラをニコニコ見てくる祖母に挨拶をしてから食べ始める。祖母は私の前に座りお茶を飲んでいる。私と違って家の掃除など一仕事終えた後なのだろう。
「メイちゃん、体調はどう?」
 祖母は最近私の顔を見ると、必ずそう聞いてくる。
「見ての通り元気だよ! でもスゴく嫌な夢見て気分は悪い」
「そうなのね~怖い夢は嫌よね~辛いことあったものね。でも大丈夫よ、大抵の事は時間が解決してくれるから」
 祖母にとっては、私はいつになっても幼い子どもなのだろう。小さい子に話しかけるように会話をしてくる。
「命架! 今頃起きてきたのか。ホント良い身分だな。
 起きているならこっちを手伝え! 収穫もあって忙しいんだ」
 縁側の外から兄の声がしてきて嫌な気分が蘇る。
 私を居ないかのように無視してくる父の方がまだ楽で、兄は顔を合わす度に小言を言ってきてハッキリ言うとウザイ。
「私は忙しいの! 頼まれたイラスト描かないといけないから」
 兄が農協の人から勝手に受けてきたお小遣い稼ぎ程度のショボい仕事がある。
「あんなの、夜にパパっとやれるだろ! 遅くまでお前はおきてるんだから!」
 それは本当の事で、私なら一時間もしないで出来る仕事。
「まぁまぁ、メイちゃんは繊細だから、そんなキツい言い方やめましょうね」
 祖母が、私を庇ってくれる。
 祖母だけがこの家で私の味方。
「そうやって、バァバが命架を甘やかすから、ますます図に乗ってグウタラになるんだよ。
 もう、子供じゃないんだ。自分の力で生きていく為にも働かないとダメなんだよ!
 ウチは穀潰しを置いておくほど余裕ないんだからな!」
  就職もしないで、イラストレーターとしてのキャリアも失った私は、単なる厄介者でそう言われても仕方がないだろう。
「誰のせいよ!
 アンタ達がアタシの仕事ダメにしたんでしょ! あんな、書類サインしたから、私は犯罪者扱いになったのよ!」
 私を庇う事も守る事もしなかった家族に何言われても、私に響く訳がない。
 私は怒鳴り部屋に戻った。
 

 
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