優しくて美しい世界

白い黒猫

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センセイに逢いに

私の家族は……

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 交換留学生としてやって来た人間が、友好国の貴族に対して精神干渉の魔法を発動した。
 そして、その魔法は開発中の魔法と言い逃れをしようとしているがどう考えても対象者を絞っているように思える事。
 今後友好的な関係を築いて行きたいと両国で合意して今回の使節団の派遣に至ったと言うのにこのような事が起きてしまっては信頼関係が築けない事を王女は隣国の皇帝に抗議するらしい。

 その事をルーカスから聞いたブリジットは驚き、そして王族が動く程の大事になってしまったとは、と萎縮してしまっているようで顔色が若干青褪めている。

「そのような事に……。私が迂闊だったばかりに……」
「──っ、ブリジットのせいじゃない! あんな事、避けようも無いだろう? あれは、魔力を持たず防ぎようも無い人に対して魔法を悪用した人間が悪いんだ」

 ブリジットの手を握り、ルーカスはブリジットの顔をしっかりと見つめ元気付けるよう笑って見せた。
 ルーカスの言葉に、ブリジットも眉を下げて何とか笑みを浮かべる。
 自分自身を責めないでくれと言うルーカスの気持ちを素直に嬉しい、と感じる。

「……けれど、何故ノーズビート卿はそんな事をしでかしてしまったのか……。魔法の効果の調査をこの国の人間にしたかったのでしょうか? でも、そんな事をすれば交換留学生としてやって来た彼らだって咎められる、と分かっている筈です。……まさか、帝国の意図は……」
「意図……。帝国の、と言うよりあれは個人の暴走のような物だろう……」

 深刻な方、深刻な方へと思考が傾いて行ってしまっているブリジットに対してルーカスは呆れたように伝える。

 ブリジットは、自分自身がどれだけ魅力的か理解していないのだ。
 ちっとも淑女らしくなく、婚約者と口喧嘩ばかりをする自分は目を引くような存在だとは思っていない。
 艶やかな黒髪に、どれだけ貴族の子息達が見惚れている事か。
 強い意志を宿している、一見強そうに見えるローズピンクの瞳も愛らしく、庇護欲を誘う。
 そして、ブリジットは淑女らしくなく、お転婆だ、と思ってはいるが強い意志を持ち、自分の意見をハッキリと口にして自分の考えを貫き通す姿は貴族令嬢達から密かに憧れの存在になっているのだ。

 それらを分かっていないブリジットにルーカスはどうしたものか、と苦笑する。

「個人の暴走……? ノーズビート卿一人の判断でこんな事をしでかしてしまった、と言うのですか……? けれど……そんな事をしてしまう人とは……」
「何であの留学生が暴走したのか……あの男の気持ちが俺には分からんでも無いよ……」
「……ルーカス様が逆の立場だったら、同じ事をしてしまうと言う事ですか?」

 そんな馬鹿な、と言うようにブリジットに見られてルーカスはふ、と考える。

(もし……俺が他国に使節団として渡り、ブリジットに出会ったとしたら……。確かに惹かれる。自分の婚約者にしたい、と思うだろう。だけど……)

 そこまで考えたルーカスはふるふると首を横に振って答えた。

「──いや。俺は国に迷惑を掛けてしまうような事は避けるかな。いくらブリジットに惹かれたとしても、無理矢理国に連れ帰ろうとはしない」
「……え? 惹かれ……? ──……え!? まさかそんな事で……っ」

 自分に惹かれたと言う人間が大事を起こした、とは考えられないのだろう。
 未だにピンと来ていないような様子のブリジットにルーカスも苦笑する。

「……イェルガ・ノーズビート卿はブリジットを自国に連れて帰りたかったのだろう、と俺はそう考えている。そしてそれを無理なく実行するために魔法を開発していたのだろう。……魔法士では無い俺には分からないが、どうも王女殿下が仰るには、隣国の魔法士は執着心がとても強いらしいんだ」

 執着心が強い、と言う言葉を聞いてブリジットも「な、なるほど」と少しだけ納得したようで。

「私たちには理解出来ない執着心があるのであれば……。私の何かにノーズビート卿が執着した、と言う事ですね……。もしかしたら我が家の侯爵家にも何か狙いがあったのかもしれません。思えば、学院でお会いした時からとても親切でしたから……、親切にして警戒心を解こうとしていたのかもしれませんわ」

 ぱっ、と閃いた、と言うようなキラキラとした表情でルーカスを見上げるブリジットに何とも言えない表情を浮かべる。
 分かっているようで本当に分かってはいない。

 ルーカスはそれ以上ブリジット自身に、イェルガが自分に惹かれていると言う事を自覚させなくても良いか、と考えて話を変えた。

(ノーズビート卿の事をこれ以上意識してもらいたくも無いし、いいか……)






 ざり、と靴底が地面の小石を踏む。
 ブリジットのアルテンバーク侯爵邸の正門に、一人の男がゆっくりと近付いて来る。
 門の前に立っている侯爵邸の門番は、近付いて来る男を制止しようと声を掛けた。
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