優しくて美しい世界

白い黒猫

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センセイに逢いに

私の家族は……

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 突然名前を呼ばれ我に返る。

「家族が迎えにきたぞ、出ろ!」

 中年の警察官がそう声を掛けてくる。良かった今回はここに寝泊まりしなくて済みそうだ。
 警察官について行くと兄が別の警察官と話をしているところだった。

「くれぐれも手綱をしっかり握っておいてください。こんな事本当に困りますので!」

「妹がご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。二度とこんな事にはさせませんので。不死原フジハラ様には何卒……」

 兄は卑屈な様子で頭を下げている。私はその不甲斐なく情けない姿に失望を感じた。家族すら味方では無いのだと。
 兄は私に気がつくとツカツカと近付き思いっきり頬を張ってきた。予想外の暴力に私は倒れ込んでしまう。

「面倒ばかりかけやがって!」

 床で頬の痛みに必死に耐えている私に兄は怒鳴りつけてくる。
 無駄に声と態度がデカい品の無い田舎者丸出しのイキり方。その事にも恥ずかしくなる。
 警察の人は女性の私が目の前で暴力を受けたというのに、兄とのやり取りを冷めた目で見ているだけ。
 警察にはヘコヘコ頭を下げながら、兄は腕を乱暴に掴み引っ張るように歩き出し駐車場に停めていた自分の車へと向かう。
 泥で汚れたバンに乗せられ私は不本意ながら無理やり帰路につくことになってしまった。
 私の家は大学の友達を呼ぶのも恥ずかしい田舎にある。大学まではバスと電車で一時間半の距離。
 農家をしている為、土地も広く建物も大きいが木造のボロ屋。隣の家と百メートル離れているといった感じで畑に囲まれている。
 そんな家に祖父母、両親と一緒に住んでいる。
 今、車を運転している兄は同じ敷地内に建てた家で家族とくらしているので、ほぼ四世代で一緒に生活しているといっていい。
 そんな閉塞的な世界で私は育った。

「ったく、お前は何で懲りずに馬鹿ばかりするんだ」

 兄は運転しながらブツブツ文句を言っている。

「あの土地には近付かないって誓約書交わしただろ!」

「アンタらが勝手に交わしただけで、私は納得してないし」

 長い物には巻かれろな家族が勝手にセンセイの家族と交わした契約なんて私は知らない。
 私は顔を背ける窓の外に視線を向ける。早くも車は県境超えて山に囲まれた道を進んでいる。
 私を封じ込めるあの山村の田舎へと続く道。ドナドナの歌の子牛の気分。

「しかしどうしてあそこまでいけたんだ? お金もどうしたんだ? バアチャンにうまいこといってせしめたか?」

 余計な情報を兄に渡さない為に、視線も合わせず私は無視する。

「よりにもよって不死原先生の一周忌にこんな事件起こすなんて。
 もうお前の相手は死んでいないんだ。もう忘れてやり直す為に生きろよ!」

 私はオカシナ事いってくる兄を睨みつける。

「は? 何いってんの? センセイが亡くなっている?
 嘘つくなら、もっとマシな嘘つきなよ。センセイ死ぬわけないじゃん! 元気だし!」

 怒鳴った私に対して兄は大袈裟な感じでため息をつく。

「お前こそ何いってんだよ! 今日あそこの神社に行ったなら見てきただろ!
 不死原先生の法事をしていたの。お前は、だから乱入して邪魔しようとしていたんだろ!」
 尚も、馬鹿な嘘を続ける兄に怒りが込み上げる。

「お前が、センセイを、こ、殺すな!」
 私は叫びながら、兄に感情のまま掴み掛かる。
「おい、運転中危ないだろ!」
 私は激情を止められない。抵抗してくる兄に構わず体を掴み揺する。

「ウルサイウルサ~イ!!!」

「おい! まてっ! あ……」

 押した為にハンドルを掴んでいた兄の手が大きく動きます、私たちの乗っていた車は大きく曲がりそのままガードレールを突き破って空中に飛び出してしまう。
 その事に気がつき、しばし二人で間抜けな顔でみつめあってしまう。
 車は宙にあり、もうどうしようもない。そんな状況で、咄嗟に兄が私に覆い被さり抱きしめ守る行動をした事は以外だった。そのまま私達は落下して、車ごと地面い叩きつけられた。
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