カッコウの子供

白い黒猫

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イラナイ!

チョウダイ

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 陽一にとってリュウキとの暮らしは思った以上に楽しかった。
 そもそも他の家族にはその姿が見えないのだからバレる事もない。
 ただ二人で騒いでいるのに、怒られるのは陽一だけというのが納得いかないけれど楽しい事のほうが大きい。
  リュウキはモノには触れて動かす事は出来るようで、ゲームをすることもできる。
 ゲームをするのも一人でより二人で遊んだ方がはるかに面白かった。
 リュウキは頭いいので陽一がゲームで困った時とかにいい方法を思いつくのですごく便利。
 二人のお気に入りの場所は三階にあるロフト部分。そこで話したりゲームしたりして遊んでいた。そして誰かの足音が近づいたら、一人で遊んでいる振りをする。
 そんな大人に隠れてコソコソとしている状況も陽一を楽しくさせた。
  陽一がリュウキとの時間が面白いのは、やたら陽一の生活を羨ましがるから。それがまた気分を良くした。
 ご飯とか食べることが出来ないらしいリュウキの前でオヤツを食べたりするときとも、自分が特別な存在になったようで楽しかった。
  しかし理解できない事が一つ、リュウキはあのガミガミ煩いママのことも羨ましいという。
 陽一が楽しく遊んでいるのを邪魔するだけだというのに。そいうとリュウキは顔を顰め、「それはヨウちゃんがワガママだから!」と面白くない事を言ってくる。
 なんでそういう時リュウキは陽一ではなくママの味方をするのか分からない。
  陽一がインフルエンザになった時も、寝ているのに飽きて歩き回っていたら、ママのようにリュウキは『ちゃんと寝ていないとダメ』『咳をするときは口を手で抑えてしないと!』は注意してくる。
 あまりにも煩いから、その時はジイジとバアバと遊んでいた。
  バアバもインフルエンザになり続けてジイジも寝込んでしまうようになり遊べなくなったので、陽一はまたリュウキと遊んであげることにした。
 しかしリュウキと楽しく遊んでいたらママがジイジやバアバを病院に連れていくとかでバタバタしていて邪魔をしてくる。
 公園に遊びに行きたくても『今は我慢しなさい』といってくるので面白くなかった。
  そういう状態だったから、陽一はママがインフルエンザになった聞いたとき、正直ザマミロと思った。
 「俺にいつも意地悪したりガミガミしたりするからバチが当たったんだ!」
  そうリュウキに話したら、珍しく怒った顔をしてそのまま話もしてくれなくなってしまった。
 仕方がないのでDSを持ってパパとママが寝ている部屋にいき、寝ているママの横で【ボンバーボンバー】を楽しむ。
 「陽ちゃんごめん、音小さくしてくれるか、他の部屋でゲームしてくれない?」
 「大丈夫!」
  そう口ごたえしてもママは病気のお蔭でいつものようにガミガミ言ってこない。
 何度かそういうやり取りをしたら何も言ってこなくなったのをいいことにそのままゲームをし続けた。
 ふと目を上げママのベッドの横にある時計を見ると三時ちょっと前だった。
 「ママ! オヤツは?」
  陽一が勝手に棚を開けお菓子を出して食べる事をしていた為にお菓子の入っているカゴを高い場所に移動されてしまった。
 大人にお願いしないとオヤツが食べられない。だからお願いしたのにママは目を開けて溜息をつく。
 「ジイジに貰ってきなさい」
  そう言うので仕方がなしにジイジにお菓子を出してもらう事にした。
 この一週間、色々我慢したので、オバケスナックを買ってもらう約束をしていた。
 だから今日はそれを食べるのを朝から楽しみにしていたのだ。
 ジイジに言ってオヤツカゴをとってもらったがそこにはクッキーとかお煎餅はあるけれどオバケスナックはない。
 陽一は走ってドアを激しく開けママに聞く。
 「ママ~オバケスナックは」
 「買かってないかな……うん……ないわね。他のオヤツでガマンしなさい」
  ママは頭に手をやり小さい声でそう答える。その言葉に陽一はムカついてしまう。他のオヤツなんかで良い筈がない。
 「えぇ~こないだ買ってくれるっていったじゃん」
  そう言うとママはやっと少し身体を起こし陽一の方を見てくれる。
 「ゴメン陽ちゃん、そのあとバァバと、ジイジも病気になって買いにいけなかったの」
 「約束したじゃん!! すぐ買ってきてよ」
  そう言うとママは眉を寄せた事から、怒られると思ったけど陽一の肩にそっと手を置いてくる。
 「だからゴメンナサイ。でも今ママお熱で辛いの。だから元気になったら買ってくるから」
  ママはすぐに買ってくる気はないようだ。
 「そういうのってイイワケっていって、ダメなんだよ! ズルいよ!」
 「陽ちゃん、ママは病気なんだよ、そんな我儘いって困らせたらダメだよ。ママを休ませてあげないと」
  いつのまにかジイジが部屋に入ってきていて陽一を宥める。
 「そんなの、オマエのタイマンじゃん! 本当にツカエないヤツだな~」
  イマイチ意味は分かっていなかったけどこないだ観たテレビでお笑い芸人が言っていた言葉をそのまま言い放つ。
 陽一がそう言った瞬間、頬っぺたが熱くなる。叩かれたのに気が付いたのは、ママが手を挙げたまま泣きそうな顔をしていたのを見た時だった。
 ママに叩かれたと分かった瞬間感じたのは激しい怒りだった。
 「ママって最低!! ウルサイし、イジワルだし! ママとしてシッカク! サイテー!!
  そんなママいらない! 知らない!」
  また叩かれると思ったけど、ママは目を見開いたまま陽一をジッとみているだけだった。そしてジイジが珍しく怒りだす。
 「陽一、お前はなんてこと言うんだ!! お前のような子はオヤツ抜きだ! 一人で反省しなさい!」 
  いつになく叱ってくるジイジが怖かったので、三階のロフトに逃げこみ、怒っているのか哀しいのか分からない気持ちを持て余しバタバタしていると、リュウキがやってくる。
 「ヨウちゃん、ヒドいよ!」
  リュウキまでも陽一を責めてくる。
 「なんで、約束守らないママが悪いんじゃん! オレは悪くない!」
 「ママ病気なんだよ、
  ママ辛そうだったよ、
  ……ママのことイラナイなんて、なんで言ったの?
  ママ可哀想だよ。
  ジイジも怒ってたよ。
  ママ泣いていた」
  リュウキは方的に言葉を続け陽一をどんどん追いつめる。
 「イラナイのは本気だよ! ガミガミ煩いし、意地悪だし! ワガママだし!
 いてもメイワクなだけ! 本当に邪魔じゃんアイツ! それにジイジもママの味方することないのに頭くる! みんな馬鹿で、みんなウザい! みんなイラナイ!!」
  そう言い張る陽一の気持ちはリュウキには通じないようで、怒ったようでそのまま俯いて何も言わなくなる。
 しばらく何か考えていたリュウキは顔をあげて陽一を見つめてくる。
 「だったらヨウちゃん、いらないならチョウダイ! 僕に! イラナイんでしょ?」
  リュウキがそんな事を言ってくる。陽一が首を傾げるとリュウキは二ッコリと笑ってきた。
 「交換するんだよ! ボクがヨウチャンとしてその身体に入ってママの子供になって、ヨウチャンはボクのように自由にすごすの」
  陽一はその言葉にワクワクする。考えるだけにすごく楽しそうだ! どんなに自由に遊んでいても誰にも怒られない。今よりずっと自由で楽しそうだ!
 「いいよ! オレの身体あげる! あの煩いママの文句がなくなるなんて最高!」
  リュウキのように面白おかしく生きられる。それでリュウキと交換することにした。
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