37 / 51
~見えてきたのは~
5-5 <踏み出した一歩>
しおりを挟む
フリデリックが希望していた巡察の日程が決定したのは、意志を伝えたあの日から二週間程後の事だった。
王都から近いという事でヴォーデモン公爵領にて孤児院を訪問して、一泊し次の日は果樹園を見学するというスケジュールとなった。一週間前からその時の衣装合わせなど宮殿内でもその準備が行われ思った以上に大事になっている事にフリデリックも戸惑いを覚えるものの、泊まりで出かけるという事自体も初めてであることもあり、喜びと期待の方が多い。ようやく王族としての仕事が出来るという事がフリデリックの気持ちを奮い立たせる。しかしその事が思った以上に色々大変な事であるというのを行く前から思い知らされた。
大きい鍔の帽子に宝石と金糸が施された赤いビロードのプールボワンに、白のキュロットにマントとなんとも大仰な恰好に異を唱えたものの、王族たるものは人前に立つときはそれなりの装いをすることが皆への示しであり礼儀であると諭される。この巡察で出会う人に敬意をもって接する為にもこの恰好で頑張るしかないとフリデリックは溜息をつき諦めた。とはいえ胸幅を厚くみせる為に詰め物をしてあるプールボワンはなんと着心地が悪く、レースがふんだんに使われた絹のブラウスもフリデリックの首を刺激して落ち着かなくさせていた。着付けをした人が離れたタイミングでフリデリックは溜息をつき、ソッと侍女のマールに話しかける。
「あの、この恰好の私はなんか変に見えませんか?」
その質問にマールは少し困った顔で笑う。
「まあ、今はそういう恰好が貴族の間でも流行しているようなので、皆さんもそういう感じの装いをされています」
フリデリックは、母親がドレス着る為にウェストを心配になるほど締め付けていたり、身体が倍くらい大きくなったのではないかと思うくらいの膨らんだ肩のデザインのドレスを着ていたりしているのを思い出す。ファッションに気を使い着こなすというのも大変なようだ。
「どんな恰好しても、フリデリック殿下はフリデリック殿下です。いつもの笑顔でこれから会われる方とお話すれば、絶対伝わります貴方様の想いも。頑張って下さい」
一番共にいる時間が長く、心を許しているマールからのその言葉はフリデリックにとって強い心の支えとなる。
「ありがとうございます。頑張ります。
お土産何が良いですか?」
マールは明るい緑の瞳を見開く。
「お仕事ですので色々お忙しいでしょうに。そういう事はお気になさらずに、色々なお話を聞かせていただくのを楽しみにしています」
マールのニッコリとした笑顔でフリデリックは気負いや緊張が解けていくのを感じ、いつもの笑みを返す事ができた。その笑顔でマールも嬉しそうに笑う。いつもの穏やかな空気が二人の間に広がった。フリデリックはマールと話す事で落ち着きを取り戻し自分の目的を取り戻す事が出来た。
たった二日空けるだけなのだが、盛大に見送る宮殿内の人達に挨拶して、フリデリック人生初の旅行が始まる事になった。街の人は何事かと視線を向けている中、馬に乗った近衛兵の五十人に囲まれた華麗なデザインの馬車は首都アルバートを抜けていく。
街道へと進んだことでカーテンを開けて外を見る事が許される。殆ど出た事のない首都の外の風景をフリデリックは楽しむ。 馬車は車輪もよく、シートのクッションも効いている為が揺れも噂に聞くほど酷くもなく、快適なものだった。同行していた次女がお茶等の世話をしてくれたし、何より首都アルバートの外に広がる森や平原と次々装いをかえていく風景はフリデリックを夢中にさせた。秋色にそまっているだけに、より鮮やかなその光景にフリデリックは何度も小さい感嘆の声をあげる。向かいに座るクロムウェル公のそれぞれの場所に纏わる話も面白くヴォーデモン公爵領までの時間はあっという間だった。
領内にある絶景と言われるモルタナ湖畔にあるヴォーデモン公爵の別荘にまず案内され、そこで遅めの昼食を頂く事となった。ヴォーデモン公爵夫妻とその娘テリシアに歓迎され和やかな会食が始まる。婦人は榛色の豊かな髪に明るい緑色の瞳を持つ美しい女性だったが、夫同様ふくよかな身体が、見る人に美しさよりも威圧感を与える結果となっていた。その娘もテレシアは黒い髪に母親譲りの緑の瞳で愛らしい顔立ちをしていたが、平均よりもポッチャリとした身体が彼女を十六歳という年齢よりも幼く見せていた。また無邪気な様子でどこか必死な感じでフリデリックに話かけてくる感じがまた、彼女も淑女といくより少女のように子供っぽく見せていたのかもしれない。
昼食として出された食事はヤマシギのベリーソースかけに、ナッツやドライブフルーツをふんだんに使ったパンに、子羊のパイに、宝石のように輝く採れたてのフルーツ。内容もさることながらフリデリックとクロムウェル公、ヴォーデモン公爵ファミリーだけで頂くには明らかに量は多すぎた。すぐにお腹いっぱいになってしまいナイフとフォークを置いてしまったフリデリックとは異なり、他の四人のペースは止まらず口を喋る事、食べる事にフル活用され賑やかな昼食の時間は進んでいく。テラスから外を見るとそこには静かに水を称えたモルタナ湖の見事な風景が広がっている。しかしフリデリック以外は誰もその風景等の興味なんてないようだ。フリデリックとは異なり彼は既に何度も見ている見なれた風景画なのだろう。
フリデリックの気持ちは目の前風景を映しつつも、これから出会うであろう子供達、農場の人達らの事を想う。全てはここからなのだ。彼らと直に触れ合う事で見えて来るモノは何なのか? そして歩むべき道とは? そう思いながらテーブルに視線を戻すと、そこでは昼間から馳走とワインを楽しみ談笑する優雅な貴族らしい世界が広がっている。そこにいる人達のはしゃいで朗らかな姿を一人ただ静かに見つめていた。
王都から近いという事でヴォーデモン公爵領にて孤児院を訪問して、一泊し次の日は果樹園を見学するというスケジュールとなった。一週間前からその時の衣装合わせなど宮殿内でもその準備が行われ思った以上に大事になっている事にフリデリックも戸惑いを覚えるものの、泊まりで出かけるという事自体も初めてであることもあり、喜びと期待の方が多い。ようやく王族としての仕事が出来るという事がフリデリックの気持ちを奮い立たせる。しかしその事が思った以上に色々大変な事であるというのを行く前から思い知らされた。
大きい鍔の帽子に宝石と金糸が施された赤いビロードのプールボワンに、白のキュロットにマントとなんとも大仰な恰好に異を唱えたものの、王族たるものは人前に立つときはそれなりの装いをすることが皆への示しであり礼儀であると諭される。この巡察で出会う人に敬意をもって接する為にもこの恰好で頑張るしかないとフリデリックは溜息をつき諦めた。とはいえ胸幅を厚くみせる為に詰め物をしてあるプールボワンはなんと着心地が悪く、レースがふんだんに使われた絹のブラウスもフリデリックの首を刺激して落ち着かなくさせていた。着付けをした人が離れたタイミングでフリデリックは溜息をつき、ソッと侍女のマールに話しかける。
「あの、この恰好の私はなんか変に見えませんか?」
その質問にマールは少し困った顔で笑う。
「まあ、今はそういう恰好が貴族の間でも流行しているようなので、皆さんもそういう感じの装いをされています」
フリデリックは、母親がドレス着る為にウェストを心配になるほど締め付けていたり、身体が倍くらい大きくなったのではないかと思うくらいの膨らんだ肩のデザインのドレスを着ていたりしているのを思い出す。ファッションに気を使い着こなすというのも大変なようだ。
「どんな恰好しても、フリデリック殿下はフリデリック殿下です。いつもの笑顔でこれから会われる方とお話すれば、絶対伝わります貴方様の想いも。頑張って下さい」
一番共にいる時間が長く、心を許しているマールからのその言葉はフリデリックにとって強い心の支えとなる。
「ありがとうございます。頑張ります。
お土産何が良いですか?」
マールは明るい緑の瞳を見開く。
「お仕事ですので色々お忙しいでしょうに。そういう事はお気になさらずに、色々なお話を聞かせていただくのを楽しみにしています」
マールのニッコリとした笑顔でフリデリックは気負いや緊張が解けていくのを感じ、いつもの笑みを返す事ができた。その笑顔でマールも嬉しそうに笑う。いつもの穏やかな空気が二人の間に広がった。フリデリックはマールと話す事で落ち着きを取り戻し自分の目的を取り戻す事が出来た。
たった二日空けるだけなのだが、盛大に見送る宮殿内の人達に挨拶して、フリデリック人生初の旅行が始まる事になった。街の人は何事かと視線を向けている中、馬に乗った近衛兵の五十人に囲まれた華麗なデザインの馬車は首都アルバートを抜けていく。
街道へと進んだことでカーテンを開けて外を見る事が許される。殆ど出た事のない首都の外の風景をフリデリックは楽しむ。 馬車は車輪もよく、シートのクッションも効いている為が揺れも噂に聞くほど酷くもなく、快適なものだった。同行していた次女がお茶等の世話をしてくれたし、何より首都アルバートの外に広がる森や平原と次々装いをかえていく風景はフリデリックを夢中にさせた。秋色にそまっているだけに、より鮮やかなその光景にフリデリックは何度も小さい感嘆の声をあげる。向かいに座るクロムウェル公のそれぞれの場所に纏わる話も面白くヴォーデモン公爵領までの時間はあっという間だった。
領内にある絶景と言われるモルタナ湖畔にあるヴォーデモン公爵の別荘にまず案内され、そこで遅めの昼食を頂く事となった。ヴォーデモン公爵夫妻とその娘テリシアに歓迎され和やかな会食が始まる。婦人は榛色の豊かな髪に明るい緑色の瞳を持つ美しい女性だったが、夫同様ふくよかな身体が、見る人に美しさよりも威圧感を与える結果となっていた。その娘もテレシアは黒い髪に母親譲りの緑の瞳で愛らしい顔立ちをしていたが、平均よりもポッチャリとした身体が彼女を十六歳という年齢よりも幼く見せていた。また無邪気な様子でどこか必死な感じでフリデリックに話かけてくる感じがまた、彼女も淑女といくより少女のように子供っぽく見せていたのかもしれない。
昼食として出された食事はヤマシギのベリーソースかけに、ナッツやドライブフルーツをふんだんに使ったパンに、子羊のパイに、宝石のように輝く採れたてのフルーツ。内容もさることながらフリデリックとクロムウェル公、ヴォーデモン公爵ファミリーだけで頂くには明らかに量は多すぎた。すぐにお腹いっぱいになってしまいナイフとフォークを置いてしまったフリデリックとは異なり、他の四人のペースは止まらず口を喋る事、食べる事にフル活用され賑やかな昼食の時間は進んでいく。テラスから外を見るとそこには静かに水を称えたモルタナ湖の見事な風景が広がっている。しかしフリデリック以外は誰もその風景等の興味なんてないようだ。フリデリックとは異なり彼は既に何度も見ている見なれた風景画なのだろう。
フリデリックの気持ちは目の前風景を映しつつも、これから出会うであろう子供達、農場の人達らの事を想う。全てはここからなのだ。彼らと直に触れ合う事で見えて来るモノは何なのか? そして歩むべき道とは? そう思いながらテーブルに視線を戻すと、そこでは昼間から馳走とワインを楽しみ談笑する優雅な貴族らしい世界が広がっている。そこにいる人達のはしゃいで朗らかな姿を一人ただ静かに見つめていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『神山のつくば』〜古代日本を舞台にした歴史ロマンスファンタジー〜
うろこ道
恋愛
【完結まで毎日更新】
時は古墳時代。
北の大国・日高見国の王である那束は、迫る大和連合国東征の前線基地にすべく、吾妻の地の五国を順調に征服していった。
那束は自国を守る為とはいえ他国を侵略することを割り切れず、また人の命を奪うことに嫌悪感を抱いていた。だが、王として国を守りたい気持ちもあり、葛藤に苛まれていた。
吾妻五国のひとつ、播埀国の王の首をとった那束であったが、そこで残された后に魅せられてしまう。
后を救わんとした那束だったが、后はそれを許さなかった。
后は自らの命と引き換えに呪いをかけ、那束は太刀を取れなくなってしまう。
覡の卜占により、次に攻め入る紀国の山神が呪いを解くだろうとの託宣が出る。
那束は従者と共に和議の名目で紀国へ向かう。山にて遭難するが、そこで助けてくれたのが津久葉という洞窟で獣のように暮らしている娘だった。
古代日本を舞台にした歴史ロマンスファンタジー。

復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

聖女は聞いてしまった
夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」
父である国王に、そう言われて育った聖女。
彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。
聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。
そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。
旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。
しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。
ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー!
※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる