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~剣と誇り~
3-1 <近衛隊長の剣>
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ダンケに伴われ、近衛兵用の武器庫にやってきたフリデリックは、その光景の目を丸くする。
様々な形状の剣が、所狭しと壁に飾れている。それらは武器であり、人を傷つけるための道具。その能力を最大限生かすべく、機能を追求した形状には、とてつもなく威圧感があった。
「剣は、大きく長剣と短剣に分類されています」
ダンケは説明を始める。
「長剣は一般的な戦闘にメインで使うものであることに比べ、短剣は防御の為など補助的に使うものになります。」
フリデリックは真剣な表情で壁に掛けられた剣を見つめ頷く。
「私や、近衛がよく使っているのがコチラのスバタ。ショートソードの一種です」
そういって、八十センチくらいの剣をダンケは示す。
「え、こんなに大きくてショートソードなのですか!」
ショートソードを、短剣くらいのサイズを想像していたフリデリックは、そのサイズに驚く。
しきりに驚くフリデリックを見て、ダンケは笑う。
「ショートソードは、もともと普通の剣の事を示す言葉なのですよ。
騎兵の出現によって、馬上で戦うために、より長く大きい剣が生まれるようになりました。それがロングソードと呼ばれるようになり、それに対応して普通の剣を、総称してショートソードと呼ばれるようになったのです」
フリデリックはその言葉聞いて首を傾けてしまう。
「そうだったのですか……」
おかしな話である。別に態々ショートと名前つけ直さなくてもよいのでは? と想うのはフリデリックだけだろうか。
「現在、様々な場面で利用されている剣は、こちらにあるようなものですが……
王子、パッと見て、ご興味をもたれたものありますか?」
あまりにも禍々しい存在感を発した剣に対して、正直言うと興味という好奇心があまり沸いてこない。
その中で細くて、優美なラインをもったものを見つけ「コレ?」と指さす。
「そちらは……エストックといいまして、突く事を専門にした剣で戦場において鎧の間から相手を攻撃するというもので、やや特殊な使い方するものです」
「たとえば コチラのバスタードソードです。王国軍の方がよく使われています。
レジナルド様やレゴリス殿が、使われているものはコチラです」
フリデリックは二人がいつも腰に下げている剣を思い出してみる。
レジナルドの方が幅広い感じで、レゴリスは長くて細めの剣を下げている。二人の剣はかなり形状が違うように感じた。
「レジナルドお兄様と、レゴリス殿の剣って、同じ種類なのですか? ずいぶん形が違うように思えますが」
あまり武器などに興味のないフリデリックの目からみても、その二つは同じ剣に見えなかった。
「レジナルド様は、戦場で使われる事が多い事もあるのでしょうね。幅広いブロードソードに近い形状をしています。
レゴリス殿は馬上で鋭く切り込んでいくために、スピードと切れ味を重視した結果あの形状になったのでしょう。
お二人とも師団長ですので、馬上で戦う事を前提に、剣を作られているのでどちらにしても、長めですね」
フリデリックは今まで気にもしてなかった、ダンケの腰に下がっている剣を改めて見つめる。
派手な装飾といったものは無いが、その抑えた装飾、手になじみ良さそうな柔らかな曲線をもった柄の、ガッシリと厚みと重さを感じさせる剣。
優しさと強さを併せもったその剣は、ダンケが持つのに相応しものに思えた。
「ダンケの剣も、素敵な剣ですね。力強くてなんか暖かいそんな感じがします」
ダンケはフリデリックの言葉を聞き、最初驚いた顔をしたが、クシャとした照れた顔で笑った。
「ありがとうございます。剣を志すものにとっては、剣は相棒のような物だけに、褒められると嬉しいです」
ダンケは、愛おしいげに剣の柄を撫でる。
「剣を志した物は皆そうですが、自分の戦い方を見つけたらそれを形にするため、刀匠と供に試行錯誤しながら自分の剣を作ります。自分だけの剣を見つけ、唯一の剣をもつ。剣を志すものが一番に目指すべき所です」
自分が剣をもつという以前の状態フリデリックには、まだまだ実感のわかない世界。しかしそういう剣を持ち、己に誇りもって生きているダンケを格好良く感じた。
「王子も、自分の剣というのを持たれる日が、早く来ると良いですね」
「はい!」
暖かい笑顔で笑いかけるダンケの言葉、以前の自分だったら躊躇するであろう内容なのにフリデリックは、素直に本心から頷いた。
※ ※ ※
『忠義の人』、歴史においてのダンケ・ヘッセンの印象はその一言。残されたどの文書においても真っ直ぐで誠実な彼の姿を読み取る事が出来る。
『素晴らしい騎士だったかもしれないが、人を見る目はなかったようだ。彼の残念な所は、フリデリック・ベックバードに出会い、彼に忠義を尽くしたこと』とも揶揄られている。この様々な英雄が生まれた時代に、何故よりにもよって、フリデリック・ベックバードに仕えたのか? というのが彼の人生の最大の謎とも言われている。
フリデリック・ベックバードの絵に多く登場するダンケ・ヘッセン。どの時代の彼の絵を見ても、敬愛する君主に仕えることのできた幸せな騎士の顔がそこにある。描き手とモデルとの間に溢れんばかりの信頼と親愛の想いがそこには存在しているようで、他者の評価など関係なく二人にとってはその主従関係は幸せだったようだ。
~ウォルフ・サクセン記~
様々な形状の剣が、所狭しと壁に飾れている。それらは武器であり、人を傷つけるための道具。その能力を最大限生かすべく、機能を追求した形状には、とてつもなく威圧感があった。
「剣は、大きく長剣と短剣に分類されています」
ダンケは説明を始める。
「長剣は一般的な戦闘にメインで使うものであることに比べ、短剣は防御の為など補助的に使うものになります。」
フリデリックは真剣な表情で壁に掛けられた剣を見つめ頷く。
「私や、近衛がよく使っているのがコチラのスバタ。ショートソードの一種です」
そういって、八十センチくらいの剣をダンケは示す。
「え、こんなに大きくてショートソードなのですか!」
ショートソードを、短剣くらいのサイズを想像していたフリデリックは、そのサイズに驚く。
しきりに驚くフリデリックを見て、ダンケは笑う。
「ショートソードは、もともと普通の剣の事を示す言葉なのですよ。
騎兵の出現によって、馬上で戦うために、より長く大きい剣が生まれるようになりました。それがロングソードと呼ばれるようになり、それに対応して普通の剣を、総称してショートソードと呼ばれるようになったのです」
フリデリックはその言葉聞いて首を傾けてしまう。
「そうだったのですか……」
おかしな話である。別に態々ショートと名前つけ直さなくてもよいのでは? と想うのはフリデリックだけだろうか。
「現在、様々な場面で利用されている剣は、こちらにあるようなものですが……
王子、パッと見て、ご興味をもたれたものありますか?」
あまりにも禍々しい存在感を発した剣に対して、正直言うと興味という好奇心があまり沸いてこない。
その中で細くて、優美なラインをもったものを見つけ「コレ?」と指さす。
「そちらは……エストックといいまして、突く事を専門にした剣で戦場において鎧の間から相手を攻撃するというもので、やや特殊な使い方するものです」
「たとえば コチラのバスタードソードです。王国軍の方がよく使われています。
レジナルド様やレゴリス殿が、使われているものはコチラです」
フリデリックは二人がいつも腰に下げている剣を思い出してみる。
レジナルドの方が幅広い感じで、レゴリスは長くて細めの剣を下げている。二人の剣はかなり形状が違うように感じた。
「レジナルドお兄様と、レゴリス殿の剣って、同じ種類なのですか? ずいぶん形が違うように思えますが」
あまり武器などに興味のないフリデリックの目からみても、その二つは同じ剣に見えなかった。
「レジナルド様は、戦場で使われる事が多い事もあるのでしょうね。幅広いブロードソードに近い形状をしています。
レゴリス殿は馬上で鋭く切り込んでいくために、スピードと切れ味を重視した結果あの形状になったのでしょう。
お二人とも師団長ですので、馬上で戦う事を前提に、剣を作られているのでどちらにしても、長めですね」
フリデリックは今まで気にもしてなかった、ダンケの腰に下がっている剣を改めて見つめる。
派手な装飾といったものは無いが、その抑えた装飾、手になじみ良さそうな柔らかな曲線をもった柄の、ガッシリと厚みと重さを感じさせる剣。
優しさと強さを併せもったその剣は、ダンケが持つのに相応しものに思えた。
「ダンケの剣も、素敵な剣ですね。力強くてなんか暖かいそんな感じがします」
ダンケはフリデリックの言葉を聞き、最初驚いた顔をしたが、クシャとした照れた顔で笑った。
「ありがとうございます。剣を志すものにとっては、剣は相棒のような物だけに、褒められると嬉しいです」
ダンケは、愛おしいげに剣の柄を撫でる。
「剣を志した物は皆そうですが、自分の戦い方を見つけたらそれを形にするため、刀匠と供に試行錯誤しながら自分の剣を作ります。自分だけの剣を見つけ、唯一の剣をもつ。剣を志すものが一番に目指すべき所です」
自分が剣をもつという以前の状態フリデリックには、まだまだ実感のわかない世界。しかしそういう剣を持ち、己に誇りもって生きているダンケを格好良く感じた。
「王子も、自分の剣というのを持たれる日が、早く来ると良いですね」
「はい!」
暖かい笑顔で笑いかけるダンケの言葉、以前の自分だったら躊躇するであろう内容なのにフリデリックは、素直に本心から頷いた。
※ ※ ※
『忠義の人』、歴史においてのダンケ・ヘッセンの印象はその一言。残されたどの文書においても真っ直ぐで誠実な彼の姿を読み取る事が出来る。
『素晴らしい騎士だったかもしれないが、人を見る目はなかったようだ。彼の残念な所は、フリデリック・ベックバードに出会い、彼に忠義を尽くしたこと』とも揶揄られている。この様々な英雄が生まれた時代に、何故よりにもよって、フリデリック・ベックバードに仕えたのか? というのが彼の人生の最大の謎とも言われている。
フリデリック・ベックバードの絵に多く登場するダンケ・ヘッセン。どの時代の彼の絵を見ても、敬愛する君主に仕えることのできた幸せな騎士の顔がそこにある。描き手とモデルとの間に溢れんばかりの信頼と親愛の想いがそこには存在しているようで、他者の評価など関係なく二人にとってはその主従関係は幸せだったようだ。
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