14 / 51
~王子と剣~
2-5 <盤上の兵士>
しおりを挟む
フリデリックはチェス盤を前に、困り果てた顔をしていた。
隣ではさらに難しい顔をした第八連隊長のトムが腕を組んでうなっている。
チェス盤の向こうには第六連隊長のサムソンが頭を抱えていた。
レジナルドと、バラムラスと、レゴリスと、クロムウェル公爵、ダンケが、そして十四人の連隊長がその様子を見守る。
「あ……あの……ごめんなさい……」
フリデリックは二人の連隊長に、恐縮しきった様子で謝るが、目を反らされる。
「いえ、お気になさらず……」
二人の連隊長も、なんとも困った表情で答えて離れていった。
事の発端は、バラムラスが娯楽室に皆を招いて、チェス大会を始めたことにある。
「お前らに、処世術の実施訓練をさせてもらおう、そこでフリデリック王子に来て頂いた」
バラムラスはそういって、フリデリック王子を皆に紹介する。
「二人ずつ今からフリデリック王子とチェス楽しんでもらう。
一人はフリデリック王子と組んで王子が楽しく勝てるようにお助けしろ。
一人は王子と対戦して王子を気持ちよく勝てるように駒を動かせ」
連隊長は戸惑うように、お互いの顔をみる。
「ただし十分毎に盤を回転させる。その状態で三十分で決着つけろ。フリデリック王子をお助けする者は、具体的な駒の位置を指示するなんて野暮な事するな!
対戦する者は、キングを全面に押し出して取らせるというあからさまな事をするな。
ゴマすりチェスは、相手に分からないように、自然やってこそ意味があるからな!」
ハッハッハと楽しそうに笑うバラムラス。
接待されるはずのフリデリックにもシッカリ聞こえており、別の意味で戸惑ってしまう状況だ。
一組目の試合が行われたのだが、フリデリックがチェスを殆どした事ない事もあり、最初にゲームをすることになったトムとサムソンは無残な結果に終わってしまった。
すごすごと仲間の元に戻る二人を、他の連隊長は、意外なことにニヤニヤと迎える。
次にゲームでは、第二連隊長のガイルがフリデリックの協力者で、第九連隊長レナードが対戦相手となりゲームが再開される。
ガイルは、フリデリックがチェスに関して殆ど初心者と理解した上で、ルールの説明を交えながら駒を進めさせた。レナードはゆっくりしたペースでその戦いを受け、三十分あたりで良い感じに決着をつく。
それ以降の連隊長はより明確に、一つのパターンを踏襲するようになる。協力者・対戦相手、共に最初の十分を無難に動かし、次の十分で対戦相手を攻撃的に動かす形で対応し、残り十分で形成が有利になっている盤を自由に動かし勝利を演出する。
その中で印象的だったのは、七組目の第四連隊長ナイジェルと第二十三連隊長テリーだった。
「大丈夫ですか? お疲れですよね?」
テリーは微笑みながら、フリデリックに声を掛けてきた。
花が咲いているかのような、美しい笑みにフリデリックの顔もつられて綻んでしまう。
美しい人といったら、身近にレジナルドがいたので慣れていると思っていた。
しかし彼の存在はまた別なようで、このように間近で微笑まれるとドキドキする。
金の瞳をもつ者は、皆こんなに風に美しいものなのだろうか? とフリデリックは素朴な疑問を感じながら、その美しすぎる顔を不躾なほど見つめてしまう。
レジナルドが夏の太陽とすれば、テリーは春の穏やかな日差しで、その美しさは春の王宮のあの花に満ちた庭園にも勝るように思う。
「いえ、お付き合いしてくださっている、皆さんのほうこそ……」
「いえいえ、私達は楽しんでいますので。
フリデリック王子、私とテリーどちらと対戦いたしますか?」
ナイジェルがフリデリックに礼の姿勢をとり訊ねてくる。
「え……あの」
「隣は私のような暑苦しいものより、テリーがいたほうがいいですよね。お相手させて頂きます」
穏やかに笑いナイジェルは対戦席の方につく。
暑苦しいと自分を称したナイジェルだが、男気に溢れているが、どちらかと言うと爽やかで格好良い。
他の連隊長のような圧迫感を与えることなく感じの良い人物である。
「なら私が隣を失礼します」
テリーも礼をして隣に座る。
王族として育ったフリデリックから見ても、テリーの所作はなんとも上品で優雅だった。どこか育ちの良さを感じさせた。
隣ではさらに難しい顔をした第八連隊長のトムが腕を組んでうなっている。
チェス盤の向こうには第六連隊長のサムソンが頭を抱えていた。
レジナルドと、バラムラスと、レゴリスと、クロムウェル公爵、ダンケが、そして十四人の連隊長がその様子を見守る。
「あ……あの……ごめんなさい……」
フリデリックは二人の連隊長に、恐縮しきった様子で謝るが、目を反らされる。
「いえ、お気になさらず……」
二人の連隊長も、なんとも困った表情で答えて離れていった。
事の発端は、バラムラスが娯楽室に皆を招いて、チェス大会を始めたことにある。
「お前らに、処世術の実施訓練をさせてもらおう、そこでフリデリック王子に来て頂いた」
バラムラスはそういって、フリデリック王子を皆に紹介する。
「二人ずつ今からフリデリック王子とチェス楽しんでもらう。
一人はフリデリック王子と組んで王子が楽しく勝てるようにお助けしろ。
一人は王子と対戦して王子を気持ちよく勝てるように駒を動かせ」
連隊長は戸惑うように、お互いの顔をみる。
「ただし十分毎に盤を回転させる。その状態で三十分で決着つけろ。フリデリック王子をお助けする者は、具体的な駒の位置を指示するなんて野暮な事するな!
対戦する者は、キングを全面に押し出して取らせるというあからさまな事をするな。
ゴマすりチェスは、相手に分からないように、自然やってこそ意味があるからな!」
ハッハッハと楽しそうに笑うバラムラス。
接待されるはずのフリデリックにもシッカリ聞こえており、別の意味で戸惑ってしまう状況だ。
一組目の試合が行われたのだが、フリデリックがチェスを殆どした事ない事もあり、最初にゲームをすることになったトムとサムソンは無残な結果に終わってしまった。
すごすごと仲間の元に戻る二人を、他の連隊長は、意外なことにニヤニヤと迎える。
次にゲームでは、第二連隊長のガイルがフリデリックの協力者で、第九連隊長レナードが対戦相手となりゲームが再開される。
ガイルは、フリデリックがチェスに関して殆ど初心者と理解した上で、ルールの説明を交えながら駒を進めさせた。レナードはゆっくりしたペースでその戦いを受け、三十分あたりで良い感じに決着をつく。
それ以降の連隊長はより明確に、一つのパターンを踏襲するようになる。協力者・対戦相手、共に最初の十分を無難に動かし、次の十分で対戦相手を攻撃的に動かす形で対応し、残り十分で形成が有利になっている盤を自由に動かし勝利を演出する。
その中で印象的だったのは、七組目の第四連隊長ナイジェルと第二十三連隊長テリーだった。
「大丈夫ですか? お疲れですよね?」
テリーは微笑みながら、フリデリックに声を掛けてきた。
花が咲いているかのような、美しい笑みにフリデリックの顔もつられて綻んでしまう。
美しい人といったら、身近にレジナルドがいたので慣れていると思っていた。
しかし彼の存在はまた別なようで、このように間近で微笑まれるとドキドキする。
金の瞳をもつ者は、皆こんなに風に美しいものなのだろうか? とフリデリックは素朴な疑問を感じながら、その美しすぎる顔を不躾なほど見つめてしまう。
レジナルドが夏の太陽とすれば、テリーは春の穏やかな日差しで、その美しさは春の王宮のあの花に満ちた庭園にも勝るように思う。
「いえ、お付き合いしてくださっている、皆さんのほうこそ……」
「いえいえ、私達は楽しんでいますので。
フリデリック王子、私とテリーどちらと対戦いたしますか?」
ナイジェルがフリデリックに礼の姿勢をとり訊ねてくる。
「え……あの」
「隣は私のような暑苦しいものより、テリーがいたほうがいいですよね。お相手させて頂きます」
穏やかに笑いナイジェルは対戦席の方につく。
暑苦しいと自分を称したナイジェルだが、男気に溢れているが、どちらかと言うと爽やかで格好良い。
他の連隊長のような圧迫感を与えることなく感じの良い人物である。
「なら私が隣を失礼します」
テリーも礼をして隣に座る。
王族として育ったフリデリックから見ても、テリーの所作はなんとも上品で優雅だった。どこか育ちの良さを感じさせた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『神山のつくば』〜古代日本を舞台にした歴史ロマンスファンタジー〜
うろこ道
恋愛
【完結まで毎日更新】
時は古墳時代。
北の大国・日高見国の王である那束は、迫る大和連合国東征の前線基地にすべく、吾妻の地の五国を順調に征服していった。
那束は自国を守る為とはいえ他国を侵略することを割り切れず、また人の命を奪うことに嫌悪感を抱いていた。だが、王として国を守りたい気持ちもあり、葛藤に苛まれていた。
吾妻五国のひとつ、播埀国の王の首をとった那束であったが、そこで残された后に魅せられてしまう。
后を救わんとした那束だったが、后はそれを許さなかった。
后は自らの命と引き換えに呪いをかけ、那束は太刀を取れなくなってしまう。
覡の卜占により、次に攻め入る紀国の山神が呪いを解くだろうとの託宣が出る。
那束は従者と共に和議の名目で紀国へ向かう。山にて遭難するが、そこで助けてくれたのが津久葉という洞窟で獣のように暮らしている娘だった。
古代日本を舞台にした歴史ロマンスファンタジー。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

聖女は聞いてしまった
夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」
父である国王に、そう言われて育った聖女。
彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。
聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。
そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。
旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。
しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。
ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー!
※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

特技は有効利用しよう。
庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。
…………。
どうしてくれよう……。
婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。
この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる