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~王子と剣~
2-3 <始まりの一歩>
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バラムラスの執務室は、装飾は控え目で、シンプルに木目の味わいを生かしたデザインの部屋。元帥の風格ある雰囲気そのもので、落ち着いた空気が流れていた。
執務室の窓際にある応接セットに、上座にフリデリック、隣にクロムウェル公爵、正面にレジナルドとレゴリスが腰掛け、お茶をふるまわれる。
「今日、おいでになって頂いたのは先日お話した、剣技と兵法の師となる人と会って頂くためです」
バラムラスの語る言葉の内容にフリデリックは緊張していく。
「はい……」
フリデリックは神妙な顔で頷いた。
「現在、我が部隊には二十三人の連隊長がおります。
彼らから剣術と兵法の師を選んでもらいます」
レジナルドはその言葉に眉をひそめ、レゴリスは短くため息をつく。
「連隊長というのはご存じだと思いますが、千人を超す部下を従え育て動かす立場にあるものです。すなわち戦場において核となるべき存在。連隊長とは戦場全体の様子を把握しつつ、上の指示を理解し部下と共に戦況を動かしていく。それが彼らの役割を持つ者です。
彼らが肌で感じ培ってきたことは、フリデリック王子にとってもきっと役立つものとなるはずです。
彼らの中にある兵法も、机上の頭デッカチなものではなく生きた学問。それ以上のものはないでしょう。」
「はい……」
フリデリックは、バラムラスの前に頷く事しかできない。
「そして剣術の講師に一名と戦史と兵法の講師に二名、フリデリック王太子に学びたいと思う人物を指名して任命して下さい」
「え!」
フリデリックは動揺した様子でバラムラスの顔を見返した。バラムラスの顔は笑ってはいるが、冗談ではないようだ。
「何の為に学びたいのか? それによってフリデリック王子が求めるものも変わります。
それによって講師も自ずと変わるものですし、ご自分でそれを見極めるのも貴方の勤めです。
もちろん、彼らは兵士ですので、王都を留守にする事もありますので、その場合はその部分を残りの二名はフォローするという形で対応させてもたいます。よほどの事がない限り、三名全てが留守にすることはないでしょうから」
今まで、講師といったら宮内官が厳選して任命した人物を素直に受け入れていただけ。それが当たり前だったフリデリックにとって、その提案は驚きを通り越して、呆然としてしまう内容だった。
動揺し考え込んでしまっているフリデリック王子をなだめるように、バラムラス微笑む。
「まあ すぐに決めろと言っている訳ではないですのでゆっくり考えて下さい。
出ている者もいるので今日連隊長全員と会えるわけでもありませんし! まあ三ヶ月もあれば、全員と面談できるでしょう」
「はい……」
バラムラスはダンケの方を向き、近くによるように指示する。
「ダンケ殿それまでの間は、近衛隊が剣術の基本を、フリデリック王太子に指導しておいて下さい」
「え 我々が?」
いきなり振られた内容に、驚いたようにダンケが答える。
「フリデリック王太子は、剣を持った経験があまりないと聞いています。そんな王太子が何の準備もなく、連隊長レベルの剣の指導をうけるというのも、無謀すぎるでしょう。
せめて武器や防具の理解と、自分にあった武器の選択、剣の基本的使い方、そういった事をお願いしたいのです。
剣とどう向き合うべきかを、フリデリック王太子が熟考する期間は、フリデリック王太子をより身近でみてきた、あなた方が見守るのが良いと思いませんか?」
「は! 我々が責任もって勤めさせて頂きます」
ダンケは深々とバラムラスに頭を下げた。真面目なダンケらしい誠実さの現れたその態度に、バラムラスは微笑む。フリデリックは、暖かく包みこむようなダンケの視線をうけ、頷いて覚悟を決める。
それは遅すぎる、甘えからの脱却の第一歩だった。
執務室の窓際にある応接セットに、上座にフリデリック、隣にクロムウェル公爵、正面にレジナルドとレゴリスが腰掛け、お茶をふるまわれる。
「今日、おいでになって頂いたのは先日お話した、剣技と兵法の師となる人と会って頂くためです」
バラムラスの語る言葉の内容にフリデリックは緊張していく。
「はい……」
フリデリックは神妙な顔で頷いた。
「現在、我が部隊には二十三人の連隊長がおります。
彼らから剣術と兵法の師を選んでもらいます」
レジナルドはその言葉に眉をひそめ、レゴリスは短くため息をつく。
「連隊長というのはご存じだと思いますが、千人を超す部下を従え育て動かす立場にあるものです。すなわち戦場において核となるべき存在。連隊長とは戦場全体の様子を把握しつつ、上の指示を理解し部下と共に戦況を動かしていく。それが彼らの役割を持つ者です。
彼らが肌で感じ培ってきたことは、フリデリック王子にとってもきっと役立つものとなるはずです。
彼らの中にある兵法も、机上の頭デッカチなものではなく生きた学問。それ以上のものはないでしょう。」
「はい……」
フリデリックは、バラムラスの前に頷く事しかできない。
「そして剣術の講師に一名と戦史と兵法の講師に二名、フリデリック王太子に学びたいと思う人物を指名して任命して下さい」
「え!」
フリデリックは動揺した様子でバラムラスの顔を見返した。バラムラスの顔は笑ってはいるが、冗談ではないようだ。
「何の為に学びたいのか? それによってフリデリック王子が求めるものも変わります。
それによって講師も自ずと変わるものですし、ご自分でそれを見極めるのも貴方の勤めです。
もちろん、彼らは兵士ですので、王都を留守にする事もありますので、その場合はその部分を残りの二名はフォローするという形で対応させてもたいます。よほどの事がない限り、三名全てが留守にすることはないでしょうから」
今まで、講師といったら宮内官が厳選して任命した人物を素直に受け入れていただけ。それが当たり前だったフリデリックにとって、その提案は驚きを通り越して、呆然としてしまう内容だった。
動揺し考え込んでしまっているフリデリック王子をなだめるように、バラムラス微笑む。
「まあ すぐに決めろと言っている訳ではないですのでゆっくり考えて下さい。
出ている者もいるので今日連隊長全員と会えるわけでもありませんし! まあ三ヶ月もあれば、全員と面談できるでしょう」
「はい……」
バラムラスはダンケの方を向き、近くによるように指示する。
「ダンケ殿それまでの間は、近衛隊が剣術の基本を、フリデリック王太子に指導しておいて下さい」
「え 我々が?」
いきなり振られた内容に、驚いたようにダンケが答える。
「フリデリック王太子は、剣を持った経験があまりないと聞いています。そんな王太子が何の準備もなく、連隊長レベルの剣の指導をうけるというのも、無謀すぎるでしょう。
せめて武器や防具の理解と、自分にあった武器の選択、剣の基本的使い方、そういった事をお願いしたいのです。
剣とどう向き合うべきかを、フリデリック王太子が熟考する期間は、フリデリック王太子をより身近でみてきた、あなた方が見守るのが良いと思いませんか?」
「は! 我々が責任もって勤めさせて頂きます」
ダンケは深々とバラムラスに頭を下げた。真面目なダンケらしい誠実さの現れたその態度に、バラムラスは微笑む。フリデリックは、暖かく包みこむようなダンケの視線をうけ、頷いて覚悟を決める。
それは遅すぎる、甘えからの脱却の第一歩だった。
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