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~王子と剣~
2-2 <コーバーグの名をもつもの>
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天使のような清麗な少年は、ゆっくりとした歩みでフリデリックを無言で導く。修練場からの喧噪は相変わらず聞こえているものの、その少年と一緒だと、恐怖や嫌悪といった感情が不思議と消え、穏やかな気持ちで歩く事ができた。
あの美しい瞳に見つめられることのない後ろ姿だからこそ、少年の事も落ち着いて見る事が出来る。
少年の身体を包む軍服と、腰の左右に下がる細身の剣により彼が兵士であることを教えてくれた。
まだ、青年としての逞しさも持たない、細いしなやかな体躯。フリデリックと同じくらいの十四・五歳といった所だろう。
どちらかというと 勇ましい雰囲気を放つはずの軍服も、その少年が着ると優美に見えた。
袖口から見える包帯を見てフリデリックの心が激しく動揺する。先ほど見た修練場でみた激しい訓練を、こんな少年が耐えているのかと思うと心が痛む。
自分とあまり変わらない年齢の者が、軍隊にいて闘っているという事実に、少なからず衝撃をうける。
「フリデリック様!!」
よく知る近衛隊長のダンケの声に、フリデリックの意識が現実に戻る。
後ろから、ダンケが必死な表情で走ってきた。かなり探させてしまったようで申し訳なくなるフリデリック。
「ご無事でしたか? 姿がいきなり見えなくなり心配したしましたよ!」
常磐色の瞳が、フレデリックの顔をのぞき込みながら心配そうに揺れる。
フリデリックはダンケに頭を下げて必死で謝ると、『ご無事で良かったです』とダンケはいつもの優しい笑みを返してくる。
そんな様子をそっと伺っていた少年は、二人の会話が終わった事を見計らって声をかける。
「お連れの方も見つかったようで良かったですね、彼方の扉がブルーム元帥の執務室となっております。
それでは私は失礼いたします」
その少年は、緩やかなスロープの上にある龍をあしらった彫刻が施された大きな扉を指さす。
ダンケは近くに立っている少年の顔を改めて見て、その顔に一瞬息をのむ。
少年は口の端を少しあげ笑みを作り、フレデリックに丁寧に礼の姿勢をとる。そのまま立ち去ろうとするのを、フリデリックは慌てて呼び止めた。
「あ……有難うございました……あの」
「テリー! どうかしたのか? どうしてここに……」
名前を聞こうとしたときに背後から、レゴリス・ブルーム大将が少年に向かって声をかけてきた。
「フリデリック王子を、ご案内しておりました。
あとご指示のあった資料をお持ちしたのですが、取り込み中なようなのでまた後ほど参ります」
ブルーム大将は今気がついたかのように、フレデリックの方を見て不愉快そうに顔をしかめる。
レジナルドの片腕とも言われる存在のブルーム大将だが、フリデリックの事は最初に出逢った時から露骨に馬鹿にしたような態度で接してきた。
軍人であるバラムラスに育てられた彼にとって、フリデリックは軟弱で敬意を示す資格すらない相手のようだ。
フリデリックの事を気に入らない事を隠そうともしない冷たい視線と態度に、気分が暗くなる。
「いや、資料は今、貰おう!」
レゴリスは、テリーと呼ばれた少年から、書類ケースを受け取り、それを開き中の文書を確認する。
ダンケに促されてフレデリックは、仕事の話を始めた二人の横を通り、執務室へと向かう。
「こちらは引き続き警戒を続けてくれ、は何か変化があったら報告を……では仕事に戻ってよい。あと……今日の業務が終わったら私の部屋まで来てくれ、話がある」
仕事の話をしているらしいレゴリスとその少年の隣を通り過ぎるとき、少年に感謝の意をこめてお辞儀するが、真剣な顔でレゴリスの話を聞いている少年は、コチラを気付いていないようだ。
部屋に近づくと、扉が開き車椅子のバラムラスの姿が見える。態々出迎えに出てきてくれるたようだ。
その後ろに宮内官のクロムウェル公爵とレジナルドの姿が見えた。人の良い穏やかなバラムラスの笑顔にフリデリックは少しホッとする。バラムラスはフリデリックに笑いかけ、その後ろに息子と少年がいるほうに目をやる。レゴリスとの会話が終わったらしい少年が礼の姿勢をとりその場を離れようとした時、バラムラスが声をかける。
「コーバーグ! 待て!」
クロムウェル侯爵がその名を聞いたとたんに顔をしかめ、ダンケも「えっ」という顔をしたのをフリデリックは気がついてなかった。
「どこいくのだ? レゴリスにお前を呼びに行かせたはずだが……」
コーバーグと呼ばれた少年は、視線をチラリとレゴリスへと向ける。
「父上……」
レゴリスが慌てたように反論しようと口を開くが、バラムラスに視線だけで牽制され黙らせられる。
そんなレゴリスの様子を、不思議そうに見つめる少年に、バラムラスはニヤリと笑いかける。
「話がある! 上級修練場で待機していてくれ!」
ブルーム親子を怪訝そうに見つめる少年に、バラムラスは『行け!』と促す。
「はっ!」
敬礼し、少年はその場を離れていった。
バラムラスは、フリデリックに視線を戻す。
「さて……フリデリック王子……ようこそ来てくださいました」
器用に車椅子を操りながら執務室の中に入りソファーへと促す。
あの美しい瞳に見つめられることのない後ろ姿だからこそ、少年の事も落ち着いて見る事が出来る。
少年の身体を包む軍服と、腰の左右に下がる細身の剣により彼が兵士であることを教えてくれた。
まだ、青年としての逞しさも持たない、細いしなやかな体躯。フリデリックと同じくらいの十四・五歳といった所だろう。
どちらかというと 勇ましい雰囲気を放つはずの軍服も、その少年が着ると優美に見えた。
袖口から見える包帯を見てフリデリックの心が激しく動揺する。先ほど見た修練場でみた激しい訓練を、こんな少年が耐えているのかと思うと心が痛む。
自分とあまり変わらない年齢の者が、軍隊にいて闘っているという事実に、少なからず衝撃をうける。
「フリデリック様!!」
よく知る近衛隊長のダンケの声に、フリデリックの意識が現実に戻る。
後ろから、ダンケが必死な表情で走ってきた。かなり探させてしまったようで申し訳なくなるフリデリック。
「ご無事でしたか? 姿がいきなり見えなくなり心配したしましたよ!」
常磐色の瞳が、フレデリックの顔をのぞき込みながら心配そうに揺れる。
フリデリックはダンケに頭を下げて必死で謝ると、『ご無事で良かったです』とダンケはいつもの優しい笑みを返してくる。
そんな様子をそっと伺っていた少年は、二人の会話が終わった事を見計らって声をかける。
「お連れの方も見つかったようで良かったですね、彼方の扉がブルーム元帥の執務室となっております。
それでは私は失礼いたします」
その少年は、緩やかなスロープの上にある龍をあしらった彫刻が施された大きな扉を指さす。
ダンケは近くに立っている少年の顔を改めて見て、その顔に一瞬息をのむ。
少年は口の端を少しあげ笑みを作り、フレデリックに丁寧に礼の姿勢をとる。そのまま立ち去ろうとするのを、フリデリックは慌てて呼び止めた。
「あ……有難うございました……あの」
「テリー! どうかしたのか? どうしてここに……」
名前を聞こうとしたときに背後から、レゴリス・ブルーム大将が少年に向かって声をかけてきた。
「フリデリック王子を、ご案内しておりました。
あとご指示のあった資料をお持ちしたのですが、取り込み中なようなのでまた後ほど参ります」
ブルーム大将は今気がついたかのように、フレデリックの方を見て不愉快そうに顔をしかめる。
レジナルドの片腕とも言われる存在のブルーム大将だが、フリデリックの事は最初に出逢った時から露骨に馬鹿にしたような態度で接してきた。
軍人であるバラムラスに育てられた彼にとって、フリデリックは軟弱で敬意を示す資格すらない相手のようだ。
フリデリックの事を気に入らない事を隠そうともしない冷たい視線と態度に、気分が暗くなる。
「いや、資料は今、貰おう!」
レゴリスは、テリーと呼ばれた少年から、書類ケースを受け取り、それを開き中の文書を確認する。
ダンケに促されてフレデリックは、仕事の話を始めた二人の横を通り、執務室へと向かう。
「こちらは引き続き警戒を続けてくれ、は何か変化があったら報告を……では仕事に戻ってよい。あと……今日の業務が終わったら私の部屋まで来てくれ、話がある」
仕事の話をしているらしいレゴリスとその少年の隣を通り過ぎるとき、少年に感謝の意をこめてお辞儀するが、真剣な顔でレゴリスの話を聞いている少年は、コチラを気付いていないようだ。
部屋に近づくと、扉が開き車椅子のバラムラスの姿が見える。態々出迎えに出てきてくれるたようだ。
その後ろに宮内官のクロムウェル公爵とレジナルドの姿が見えた。人の良い穏やかなバラムラスの笑顔にフリデリックは少しホッとする。バラムラスはフリデリックに笑いかけ、その後ろに息子と少年がいるほうに目をやる。レゴリスとの会話が終わったらしい少年が礼の姿勢をとりその場を離れようとした時、バラムラスが声をかける。
「コーバーグ! 待て!」
クロムウェル侯爵がその名を聞いたとたんに顔をしかめ、ダンケも「えっ」という顔をしたのをフリデリックは気がついてなかった。
「どこいくのだ? レゴリスにお前を呼びに行かせたはずだが……」
コーバーグと呼ばれた少年は、視線をチラリとレゴリスへと向ける。
「父上……」
レゴリスが慌てたように反論しようと口を開くが、バラムラスに視線だけで牽制され黙らせられる。
そんなレゴリスの様子を、不思議そうに見つめる少年に、バラムラスはニヤリと笑いかける。
「話がある! 上級修練場で待機していてくれ!」
ブルーム親子を怪訝そうに見つめる少年に、バラムラスは『行け!』と促す。
「はっ!」
敬礼し、少年はその場を離れていった。
バラムラスは、フリデリックに視線を戻す。
「さて……フリデリック王子……ようこそ来てくださいました」
器用に車椅子を操りながら執務室の中に入りソファーへと促す。
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