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箱庭の生活
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この土地での箱庭世界の生活。
残刻は窮屈だと嫌がっていた。
しかしここは非常に良く出来た社会。
人間が集合体として平和に過ごせる最適人数を保持し運営された非常に合理的で生産性のあるシステムが構築されている。
だからそこの中にいても快適な生活が約束されている。
俺自身もこの社会を気に入っている、いや愛していると言っても良い。
世界に一人で飛び出していったとしても、やって行けるだけの才能とバイタリティを持つ残刻には狭すぎるの否めない。
俺は才能はそこそこあるものの、強烈な個性がある訳でもない。
一人で何かを興すだけの能力も気力も無い俺には、ここでの生活は悪くは無いものだった。
むしろ生活に困る事なく、好きな絵を仕事として続けさせてくれる優しい最高な場所とも言える。
残刻は俺に、そんな籠の中の鳥のような生活をやめて一緒に海外にでも飛び出そう。
そう何度も、誘ってくれていたがそれに応じなかったのもそれが理由。
とは言え、外の世界に憧れが無いわけでは無い。
だからこそ自分の異なる世界を知る、異なる価値観をもつ女性に惹かれて愛した。
ズレが多いだけに関係も長く続くわけもなく直ぐに別れてしまってはいたが、俺にとってはそれはそれで良い刺激だった。
残刻には女の趣味が悪いといつも怒られていたが……。
皆、俺だけを見て俺だけを愛し俺の愛を必死に求める可愛い女性達だったというのに。
確かに最後に付き合った女性は大ハズレで最悪だった。モーションに応じたのは大失敗だった。
顔だけは今まで付き合った中で断トツで美しく花のある容姿をしていた。
自分が美しいと理解した上で、それが最も生かされる装いをする事にも長けていた。
しかし内面は自己愛の塊で傲慢でずる賢いエゴイスト。
不死原の名を穢す為に近付いてきていた許しがたい欺瞞者……。
「渉夢さん何書いているの?」
最近珈琲ドリップに嵌っている周子がマグカップを手に近付いてくる。
俺の家に残刻が趣味で買い集めた様々な珈琲器具が残っている。それを見て興味を覚えたらしい。
絵に集中しすぎてしまう俺に、飲み物を用意したりご飯作ったりと、世話を焼きたがる所は残刻に似ているのかもしれない。
周子は残刻とは違って俺を強引に引き離すのではなく、優しく見守ってそっと促す。そう言う所も俺を落ち着かせてくれて心地よい。
周子は俺の手元を見て顔を赤らめて、視線を外す。
「私なんて描いても……」
「なんで? 俺が今一番興味を惹かれ描きたいものなんだけど」
周子は華やかさは無いものの、顔立ちは整っていて凛とした美しさをもっているのに、自己評価が低い。
「君は美しいよ。妻だから、愛しているからそう言っているのではなく。
画家としての俺がそう言っているのになんでそんな顔をするのかな」
俺が微笑むと周子の顔はますます真っ赤になる。そして何かモゴモゴ言いながらテーブルの上にカップを置き俺の隣に座る。
俺より一つ年上なこともあり真面目でしっかりしていて大人っぽい人なのに、こうして時々とても幼い感じになって面白い。
俺を構い甘やかしてくれる所も好きだけど、甘やかす事で可愛くなる所も堪らない。
一方的に依存するのではなく互いに良い塩梅で甘やかして甘えられる。
今まで付き合った女のように、ただただ甘えて構われたがるような面倒くささもなく、頭も良いから理性的な会話も楽しめる。
そう言う意味でも最高のパートナー。自分はこういうタイプの女性を求めていたのだと実感している。
なんでもっと早く出会えなかったのか? とすら考えてしまう程。
そしたら彼女の病気も早めに見つける事ができて、まだ治療も出来て未来への道も開けていたのでは? という事も悔しい。
彼女と本当に結婚して、子供を産んで家族を作りという最高の未来もありえたのかもしれない。
しかし今の状況。未来のない病を抱えている彼女と過ごすにはこれ以上ないベターな環境。
考え方を変えたら、俺はもうここで、余計な煩わしいことに振りまわされることもない。彼女も病気の症状が進むこと怯える必要も永遠になく、小康状態を保っていられる。
二人にとってベストな状況なのでは? と思っている。
「君が淹れた珈琲は、とても甘くて美味しい」
二人で並んで珈琲を楽しんでいると、何故か周子は照れくさそうに下を向く。
「なんで渉夢さんって。そんなキザな言葉サラリと言えるの?!」
「え? 単に珈琲の感想言っただけだろ?」
「そうなんだけど、雰囲気が……」
俺は首を傾げるしかない。
「美味しいものは美味しい、綺麗なモノは綺麗だと、愛しいモノは愛しいと素直に言っているだけだけど」
「そういうところよ」
何故か怒ったように唇を尖らせる周子。その唇がまた可愛らしい。
マグカップをサイドテーブルに置いて周子をの持っているマグカップも取り上げられてテーブルに置き抱き寄せる。
何か言おうとしたのかコチラを向いたのを良いことにそのままキスをする。
初め少し抵抗していた彼女もキスを深めていくにつれ俺に身を委ねてくる。
周子の背中に手を回しワンピースのファスナーを下ろしながらキスする場所を下げていく。
周子も俺のベルトを外しパンツのボタンを外しファスナーを下ろし脱がしてくる。深く愛し合うために。
愛する人と気ままに話して、気ままに愛し合って、今のこの生活は確かに最高に楽しい。
「これはこれで、自由で最高に楽しい世界だろ」
残刻の言葉を最初に聞いた時、信じられないと驚いたが、今になってその意味が良く分かる。
確かに程よく自由で、必要な物は全て揃った最高に楽しい世界。ここでは俺は不死原の人間のまま自由に過ごせる。
穏やかで優しい、決して終わることのない愛しい時間。
一つだけ不満があるとしたら、その時間を毎回深夜零時にぶった切られ、離される事。
出来ることなら可愛い周子と二人で抱き合った状態で朝を迎えたいが、それだけは絶対叶わない。そのことだけが不満。
今日も愛し過ぎて俺の腕の中で眠る周子を抱きしめてその暖かさを堪能していたのに、零時過ぎた段階で、安アパートの風呂場に飛ばされる。
俺に降り注ぐ熱めのシャワー。足元を流れていく、暗紅色の汚れた水。
俺は前に置かれたシャンプーで、念入りに髪を洗い、そして香りの強目の女が好みそうなボディーソープの香りは気に入らないが身体をじっくりと洗っていく。
あの女達のせいで汚れたものを綺麗に落とす為に。
サッパリした事で俺は浴室から出て、女の家にあった男物の服に着替える。
脱衣所の床には二重にしたゴミ袋。
中には汚れた俺の服と、この部屋にあった俺のモノ。今使ったタオルもここに放り込む。
廊下に出るとリビングの方からは、荒い息遣いと悲鳴が聞こえている。
それは流しっぱなしになっているスプラッターホラー映画の音。
有り得ない程血が飛び散る品のない映画。そんなものを大音量で見ながらセックスをしようなんて悪趣味極まりない。
しかし今はその映像が流れる前で、自分たちがその映画の登場人物のように血塗れで殺されているのだから、その状況は状況で皮肉が効いていて笑える。
映画で有り得ない程血が飛び散るといったが、実際人間って壊れた水道管のように液体を迸らせるものなのだと知った。
リビングの壁も扉も床。女とあの女の本当の恋人の血が飛び散り、なかなかアバンギャルドな世界となっている。
あんな奴らの為に俺は犯罪者となり。その所為で不死原の名が傷つけられてしまう。そう考えると絶望しかなかった。
この部屋での俺の痕跡をできる限り消し、手元にある証拠になりそうな物は全て焼却したものの、現代の警察の目を何処までごまかせるのか分からない。
交際は誰にも秘密にしていたし、殺した男の背中にはいかにもな刺青が掘られていた事から、もしかしたら俺へ容疑は向けられないかもしれない。
しかし俺が人を殺してしまったという現実は変わらない。
だから俺はあの時、絶望し死を選ぶことにした。そして恐らく崖から落ちて死んだのが真実なのだろう。
しかし運命は俺の味方だった。
俺の罪は大地と共に流れて泥土の中に沈んでしまい、少しだけ自分の死後の世界の様子を調べるチャンスを与えてくれた。
俺は最初に、山の上から末時の土地がどうなったか確認した。
あの土地にあった建物・木々も関係なく、一緒くたにミキサーに放り込んだように畝り砕け土に飲み込まれながら流れていた。
万が一遺体が発見されてもマトモな状況では無いだろう。
撲殺されたのものか、地滑りで破壊された身体なのか区別がつくものだろうか?
色々調べてみたが、今日のあの土地において、誰一人遺体がみつかっていない。
災害救助応援に行った消防団や警察関係の複数の知り合いからも話を聞いてみた。
見つかったのは人体の欠片のみ。人の形をした遺体が出てくることがなく悲惨な状況だという。遺体がそんな感じなので、人物特定も出来るかどうか怪しい状況だと嘆いていた。
水分を多く含んだ滑落部分はまだズルズルと動いていっているので重機も使えず、本格的な捜索には踏み出せないとの事。
しかも今は夏。暑さと水分を多く含んだ土砂がそこにある物質を腐敗させていっている。時間と共に異臭を強めていっていて地獄の状況だという。
現在複数の台風が再び接近してきており、明日からまた激しい雨が降り出すだろうと予報にでている。
あの女と男の遺体はどんどん腐敗を進めて検視も難しい状況になっていくはず。
あの土地で大勢死んだ中に紛れた二人の死と、少し離れた場所の崖で死んだ俺と周子さんの事故。それを一つの事件として結びつける人はいないだろう。
俺の罪から村を無事守ることができたと思う。
村のみんなは、残刻に続き俺まで事故で死亡したことに関しては悲しませてしまうが、彼らのショックが俺の死だけに留められたことは良かったと思っている。
俺は俺でこの快適な箱庭世界を楽しむだけ。
多分周子さんは俺たちの奇妙な運命に巻き込まれてしまっただけで、そこは申し訳ないとは思う。
同時に感じるのは。彼女という存在は、こうして頑張った俺へのご褒美だったのではということ。
彼女はなんとも絶妙にこの箱庭世界にハマるパーツ。
愛すべき箱庭世界の中で、俺のコントロール下で、俺に頼って生きるしかない可愛く健気なパートナー。愛しく思わない訳が無い。
さてと、この部屋にはもう用はない。さっさと帰ってこのゴミを焼却して泥で汚れた車の洗車して、周子さんに会いにいこう。
俺はゴミ袋を助手席に放り投げ車に乗り込む。
エンジンをかけお気に入りのジャズを流す。そして鼻歌を歌いながら俺は車をスタートさせた。
神に見放されるこの場所を離れて、愛しい日常へと帰ろう。
残刻は窮屈だと嫌がっていた。
しかしここは非常に良く出来た社会。
人間が集合体として平和に過ごせる最適人数を保持し運営された非常に合理的で生産性のあるシステムが構築されている。
だからそこの中にいても快適な生活が約束されている。
俺自身もこの社会を気に入っている、いや愛していると言っても良い。
世界に一人で飛び出していったとしても、やって行けるだけの才能とバイタリティを持つ残刻には狭すぎるの否めない。
俺は才能はそこそこあるものの、強烈な個性がある訳でもない。
一人で何かを興すだけの能力も気力も無い俺には、ここでの生活は悪くは無いものだった。
むしろ生活に困る事なく、好きな絵を仕事として続けさせてくれる優しい最高な場所とも言える。
残刻は俺に、そんな籠の中の鳥のような生活をやめて一緒に海外にでも飛び出そう。
そう何度も、誘ってくれていたがそれに応じなかったのもそれが理由。
とは言え、外の世界に憧れが無いわけでは無い。
だからこそ自分の異なる世界を知る、異なる価値観をもつ女性に惹かれて愛した。
ズレが多いだけに関係も長く続くわけもなく直ぐに別れてしまってはいたが、俺にとってはそれはそれで良い刺激だった。
残刻には女の趣味が悪いといつも怒られていたが……。
皆、俺だけを見て俺だけを愛し俺の愛を必死に求める可愛い女性達だったというのに。
確かに最後に付き合った女性は大ハズレで最悪だった。モーションに応じたのは大失敗だった。
顔だけは今まで付き合った中で断トツで美しく花のある容姿をしていた。
自分が美しいと理解した上で、それが最も生かされる装いをする事にも長けていた。
しかし内面は自己愛の塊で傲慢でずる賢いエゴイスト。
不死原の名を穢す為に近付いてきていた許しがたい欺瞞者……。
「渉夢さん何書いているの?」
最近珈琲ドリップに嵌っている周子がマグカップを手に近付いてくる。
俺の家に残刻が趣味で買い集めた様々な珈琲器具が残っている。それを見て興味を覚えたらしい。
絵に集中しすぎてしまう俺に、飲み物を用意したりご飯作ったりと、世話を焼きたがる所は残刻に似ているのかもしれない。
周子は残刻とは違って俺を強引に引き離すのではなく、優しく見守ってそっと促す。そう言う所も俺を落ち着かせてくれて心地よい。
周子は俺の手元を見て顔を赤らめて、視線を外す。
「私なんて描いても……」
「なんで? 俺が今一番興味を惹かれ描きたいものなんだけど」
周子は華やかさは無いものの、顔立ちは整っていて凛とした美しさをもっているのに、自己評価が低い。
「君は美しいよ。妻だから、愛しているからそう言っているのではなく。
画家としての俺がそう言っているのになんでそんな顔をするのかな」
俺が微笑むと周子の顔はますます真っ赤になる。そして何かモゴモゴ言いながらテーブルの上にカップを置き俺の隣に座る。
俺より一つ年上なこともあり真面目でしっかりしていて大人っぽい人なのに、こうして時々とても幼い感じになって面白い。
俺を構い甘やかしてくれる所も好きだけど、甘やかす事で可愛くなる所も堪らない。
一方的に依存するのではなく互いに良い塩梅で甘やかして甘えられる。
今まで付き合った女のように、ただただ甘えて構われたがるような面倒くささもなく、頭も良いから理性的な会話も楽しめる。
そう言う意味でも最高のパートナー。自分はこういうタイプの女性を求めていたのだと実感している。
なんでもっと早く出会えなかったのか? とすら考えてしまう程。
そしたら彼女の病気も早めに見つける事ができて、まだ治療も出来て未来への道も開けていたのでは? という事も悔しい。
彼女と本当に結婚して、子供を産んで家族を作りという最高の未来もありえたのかもしれない。
しかし今の状況。未来のない病を抱えている彼女と過ごすにはこれ以上ないベターな環境。
考え方を変えたら、俺はもうここで、余計な煩わしいことに振りまわされることもない。彼女も病気の症状が進むこと怯える必要も永遠になく、小康状態を保っていられる。
二人にとってベストな状況なのでは? と思っている。
「君が淹れた珈琲は、とても甘くて美味しい」
二人で並んで珈琲を楽しんでいると、何故か周子は照れくさそうに下を向く。
「なんで渉夢さんって。そんなキザな言葉サラリと言えるの?!」
「え? 単に珈琲の感想言っただけだろ?」
「そうなんだけど、雰囲気が……」
俺は首を傾げるしかない。
「美味しいものは美味しい、綺麗なモノは綺麗だと、愛しいモノは愛しいと素直に言っているだけだけど」
「そういうところよ」
何故か怒ったように唇を尖らせる周子。その唇がまた可愛らしい。
マグカップをサイドテーブルに置いて周子をの持っているマグカップも取り上げられてテーブルに置き抱き寄せる。
何か言おうとしたのかコチラを向いたのを良いことにそのままキスをする。
初め少し抵抗していた彼女もキスを深めていくにつれ俺に身を委ねてくる。
周子の背中に手を回しワンピースのファスナーを下ろしながらキスする場所を下げていく。
周子も俺のベルトを外しパンツのボタンを外しファスナーを下ろし脱がしてくる。深く愛し合うために。
愛する人と気ままに話して、気ままに愛し合って、今のこの生活は確かに最高に楽しい。
「これはこれで、自由で最高に楽しい世界だろ」
残刻の言葉を最初に聞いた時、信じられないと驚いたが、今になってその意味が良く分かる。
確かに程よく自由で、必要な物は全て揃った最高に楽しい世界。ここでは俺は不死原の人間のまま自由に過ごせる。
穏やかで優しい、決して終わることのない愛しい時間。
一つだけ不満があるとしたら、その時間を毎回深夜零時にぶった切られ、離される事。
出来ることなら可愛い周子と二人で抱き合った状態で朝を迎えたいが、それだけは絶対叶わない。そのことだけが不満。
今日も愛し過ぎて俺の腕の中で眠る周子を抱きしめてその暖かさを堪能していたのに、零時過ぎた段階で、安アパートの風呂場に飛ばされる。
俺に降り注ぐ熱めのシャワー。足元を流れていく、暗紅色の汚れた水。
俺は前に置かれたシャンプーで、念入りに髪を洗い、そして香りの強目の女が好みそうなボディーソープの香りは気に入らないが身体をじっくりと洗っていく。
あの女達のせいで汚れたものを綺麗に落とす為に。
サッパリした事で俺は浴室から出て、女の家にあった男物の服に着替える。
脱衣所の床には二重にしたゴミ袋。
中には汚れた俺の服と、この部屋にあった俺のモノ。今使ったタオルもここに放り込む。
廊下に出るとリビングの方からは、荒い息遣いと悲鳴が聞こえている。
それは流しっぱなしになっているスプラッターホラー映画の音。
有り得ない程血が飛び散る品のない映画。そんなものを大音量で見ながらセックスをしようなんて悪趣味極まりない。
しかし今はその映像が流れる前で、自分たちがその映画の登場人物のように血塗れで殺されているのだから、その状況は状況で皮肉が効いていて笑える。
映画で有り得ない程血が飛び散るといったが、実際人間って壊れた水道管のように液体を迸らせるものなのだと知った。
リビングの壁も扉も床。女とあの女の本当の恋人の血が飛び散り、なかなかアバンギャルドな世界となっている。
あんな奴らの為に俺は犯罪者となり。その所為で不死原の名が傷つけられてしまう。そう考えると絶望しかなかった。
この部屋での俺の痕跡をできる限り消し、手元にある証拠になりそうな物は全て焼却したものの、現代の警察の目を何処までごまかせるのか分からない。
交際は誰にも秘密にしていたし、殺した男の背中にはいかにもな刺青が掘られていた事から、もしかしたら俺へ容疑は向けられないかもしれない。
しかし俺が人を殺してしまったという現実は変わらない。
だから俺はあの時、絶望し死を選ぶことにした。そして恐らく崖から落ちて死んだのが真実なのだろう。
しかし運命は俺の味方だった。
俺の罪は大地と共に流れて泥土の中に沈んでしまい、少しだけ自分の死後の世界の様子を調べるチャンスを与えてくれた。
俺は最初に、山の上から末時の土地がどうなったか確認した。
あの土地にあった建物・木々も関係なく、一緒くたにミキサーに放り込んだように畝り砕け土に飲み込まれながら流れていた。
万が一遺体が発見されてもマトモな状況では無いだろう。
撲殺されたのものか、地滑りで破壊された身体なのか区別がつくものだろうか?
色々調べてみたが、今日のあの土地において、誰一人遺体がみつかっていない。
災害救助応援に行った消防団や警察関係の複数の知り合いからも話を聞いてみた。
見つかったのは人体の欠片のみ。人の形をした遺体が出てくることがなく悲惨な状況だという。遺体がそんな感じなので、人物特定も出来るかどうか怪しい状況だと嘆いていた。
水分を多く含んだ滑落部分はまだズルズルと動いていっているので重機も使えず、本格的な捜索には踏み出せないとの事。
しかも今は夏。暑さと水分を多く含んだ土砂がそこにある物質を腐敗させていっている。時間と共に異臭を強めていっていて地獄の状況だという。
現在複数の台風が再び接近してきており、明日からまた激しい雨が降り出すだろうと予報にでている。
あの女と男の遺体はどんどん腐敗を進めて検視も難しい状況になっていくはず。
あの土地で大勢死んだ中に紛れた二人の死と、少し離れた場所の崖で死んだ俺と周子さんの事故。それを一つの事件として結びつける人はいないだろう。
俺の罪から村を無事守ることができたと思う。
村のみんなは、残刻に続き俺まで事故で死亡したことに関しては悲しませてしまうが、彼らのショックが俺の死だけに留められたことは良かったと思っている。
俺は俺でこの快適な箱庭世界を楽しむだけ。
多分周子さんは俺たちの奇妙な運命に巻き込まれてしまっただけで、そこは申し訳ないとは思う。
同時に感じるのは。彼女という存在は、こうして頑張った俺へのご褒美だったのではということ。
彼女はなんとも絶妙にこの箱庭世界にハマるパーツ。
愛すべき箱庭世界の中で、俺のコントロール下で、俺に頼って生きるしかない可愛く健気なパートナー。愛しく思わない訳が無い。
さてと、この部屋にはもう用はない。さっさと帰ってこのゴミを焼却して泥で汚れた車の洗車して、周子さんに会いにいこう。
俺はゴミ袋を助手席に放り投げ車に乗り込む。
エンジンをかけお気に入りのジャズを流す。そして鼻歌を歌いながら俺は車をスタートさせた。
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