バッドエンドはもう来ない……

白い黒猫

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BADENDはもう来ない

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 今までの恋愛が何だったのか? と思うほど、不死原との恋愛は最高の一言だった。
 紳士でエスコートがとにかくスマート。日本人でここまで出来る人って少ないのではないかというレベル。
 優しくて甘いだけではなく、厳しいことも言ってくる不死原。
 年齢は彼の方が一つ下だけど、彼の方が大人に感じる。それだけに人に甘え頼るということの楽しさ覚えた。
 不死原の忠告を受けて、私は自分の人生に向き合う覚悟もできた。万が一皆からそっぽ向かれても、側で見守ってくれている人がいるという事が心強い。

 親友のレイカには黙って一人で色々進めていたことに対して激しく怒られた。
『近々、日本に帰るから覚悟して! 貴方を直に抱きしめて、そして思う存分私の愛を貴方にぶちまけるから!』
 そう言って怒りつつ、泣きつつ、笑顔で沸るという器用なことをしながら私への強く変わらない友情を示してくれた。

 アサヒは、私に抱き付き「嘘だ! 嫌だ」と言いながらひたすら泣きつかれた。
 私がアサヒへの気持ちを伝えると彼女は泣きながらも私の顔をまっすぐ見て口を開く。
「当たり前じゃん!
 むしろ私の方が周子を愛しているし、大切に思っているんだから!
 だから私は周子が嫌だと言っても側にいるからね!
 一緒に居られないレイカの分まで付き添うから!」
「でも結婚の準備が……」
 そう言うと怒られた。
「私は散々、わがまま言って周子に迷惑かけて来たんだよ!
 そのまま逃げるなんて許さないから!
 しかも最後まで黙っているつもりだったんでしょ?
 私に変な気を遣わないでよ!」
 アサヒは私の遠慮の気持ちも吹き飛ばす勢いで叫び、強く抱きしめてきた。その力の強さに私は、アサヒの友情の強さを感じ私も抱きしめ返した。そして黙って去ろうとした事に申し訳なさ覚え、自分が選択した最期につい深く反省をした。

 二人には不死原という恋人がいるというパターンで彼を交えての対話をしてみたら、より二人を安心させ喜ばせる結果となった。
 逆にそれだけ元彼の事で二人を心配させてしまったこともあるのだろう。
 そしてもし元の時間に戻れた時に不死原がいてくれたら二人に余計な心配をかける事もなく死んでいけると感じた。

 試しに元彼にも病気の事を話してみた。
 私が、もう助からない状況という事にショックを受けていたようだが、出てきた言葉はいかにもコイツらしいものだった。
「そんな……ヒロちゃん。
 困るよヒロちゃんが居なくなってしまったら。俺どうしたら良いの?」
 私はため息をつくしかない。『知らんがな』というのが正直な感想。
「好きにしたら良いのでは?」
「今、仕事もそんなに無いし、住むところもなくて後輩の家に転がり込んでいる状態なんだ」
 あのマンションももう売ってしまったんだよね……。
 あっ、俺への遺産ってどう」
 コイツの頭ってどういう構造をしているのだろうか?
「は? 無関係のアンタがなんで?」
「でも十年近く家族として」「単に居候していただけよね? それにもう別れている」
「で、でも俺、今お金無くて……」
 そうおずおずの答える元彼。
「医療費で何も残らないでしょうね」
 残る事は残るだろうけど、それをコイツに話す必要もない。
「残ったとしても私が何故、世界で最も嫌悪し軽蔑している相手にお金残さないといけないの? アンタと会った事が私の人生の最大の汚点」
 何故私の言葉にコイツは傷付いた顔をするのだろうか?
「そんな…俺は愛していた、いや今も。楽しく過ごしていたじゃん」
「私の愛は貴方に振り回されてすり減ってとうの昔に消えたよ。
 私を笑わせてくれると言っていたけど、私アンタといて笑っていた?
 二人の生活? アンタ一人が楽をしてアンタだけ楽しんでいただけでしょ?
  私はアンタといてまったく楽しくなかった。アンタといて全く笑えなかった。
 一つだけ最後に言わせて貰うとね、アンタに大して憎しみと怒りしかない!
 あの家は私にとって家族と過ごした思い出のある大切な場所だったの。
 それをあんな風に汚したアンタを絶対許さない!
 それを言いたかっただけだから。もう連絡してこないで」
 私はファミレスのテーブルに自分の飲み物代を置いて、半ば怯えた顔で呆然としている元彼を置いて外に出た。
 少し離れて様子を見守ってくれていた不死原が後から出てきて私の肩に手を回す。
「お疲れ様。
 今はどういう気分? バァっと飲みたい? それとも……」
 私は甘えるように頭を不死原の胸に寄せる。
「飲みたいかな? そうだせっかく東京にいるんだからならニシムクサムライに行かない? 佐藤宙さんか土岐野廻さんが来ているかもしれないし」
「でもまだオープンには時間あるか。なら、少しだけ東京観光しますか」
 二人で微笑みあって、東京デートを楽しむ事にした。

 ※   ※   ※

 そして七月十一日を繰り返して千日ほど経過したものの、他の仲間に会える事はないし、大きな発見というものもなかった。
 十一は十一で気ままに過ごしているようで、最近は日廻永遠の作品を廻る旅を楽しんでいるようだ。
 タイミングが合えば三人で飲んで状況を確認し合う。もう会議のような形で話し合うこともなくなった。
 そして東京に行く時は、親友のアサヒも誘ってニシムクサムライで飲んでみたりと、気ままに今日を楽しむ事が出来るようになっている。

 今日は不死原と函館のニシムクサムライにも行ってみようということで、昼間は函館の観光を楽しんでいた。
 観光名所であるカトリック教会の荘厳な佇まいに私は圧倒され見入ってしまう。雰囲気もよく海外に旅行している気分を味わえる。
 そんな私を不死原は何故か楽しそうに見つめている。恋人同士ならばこういう視線当たり前なのかもしれないけど。
 自分本意な男としか付き合ってこなかった私には、いまだにこういう視線は照れて慣れることができない。
「何? 渉夢さん」
 私をみてニコニコしている。
「聖堂も見学出来るみたいだから行こう」
 差し出された手を取り私はそのまま聖堂へと足を踏み入れる。厳かな雰囲気でつい小声でも会話になってしまう。
 祭壇へと続く道を二人で歩いていると何とも不思議な気持ちになる。正面にあるキリスト像を二人で見上げる。
「周子さん、ここでこのまま結婚しちゃいますか?」
「え?」
「俺は、健やかなる時も、病める時も貴方を永遠に愛し続けることをここに誓います」
 そう宣言し私に向き直る。
「もう病んでいますが」
「はい、それでも周子さんを愛しています」
 まっすぐ向き合って伝えられる愛の言葉。
「私も渉夢さんを愛しています。永遠に」
 二人で微笑み合い軽く触れるだけのキスをする。
 ダイヤの指輪が不死原の手にあることに気がつく、私の手を取り不死原はそれを私の薬指にはめる。
「え、これは」
 おそらくは二カラット以上はあるようなサイズのダイヤのハマった指輪に驚いてしまう。
「祖母が孫たちに、結婚する相手に渡すようにと二十歳の時に贈ってくれたものなんだ。サイズもいいみたいで良かった」
「そんな大切な指輪をいいの?」「君だから」
 そういいながら私の手を取りその指輪にキスをする。

 私の人生はこれまで最悪だった。次々と家族を亡くし天涯孤独となり、付き合った男性は自己中心的な無邪気なクズ男。挙句に自分までも末期癌となり、もうバッドエンド確定な人生だった。
 そんな私に、こんな幸せが訪れるなんて誰が予想できただろうか?
 私たちには未来はないかもしれない。でもこんなにも幸せな今は果てしなくある。
 どんな状況でも、助け合い共に歩いていける相手がいれば怖くない。
 もう未来に怯えて生きる必要もない。バッドエンドなどもうこないのだから。
 私は不死原を見上げる笑いかける。すると私が大好きな柔らかい笑みが返ってくる。
「じゃあ、次の場所にいきましょうか旦那様」
 自分でそう言っておきながらすごく恥ずかしくなり照れてしまう。
 私の言葉に不死原はフフと笑私に手を差し出してきたので私はその手をとる。
 今貰った指輪のある手を絡ませて握り、二人で外へと歩き出した。
 
 
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