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一人と二人

謎の光

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 十回目の七月十一日。私と十一はレンタル会議室で同じ部屋を一日予約した。
 不死原は十一の家に行きカメラを持って慈悲心鳥崖に行き十一久刻の像の足元にカメラを設置してから合流する予定。
 私はホテルに余計な荷物を預かってもらい、朝一で家電量販店に行きパソコンとタブレットと外付けHDを購入して待ち合わせである会議室でパソコンとタブレットのセットアップをする。
 十一と私は同じ部屋にいるものの連絡を取り合えないから、一人食べ物や飲み物を飲みながらここで待つしかない。
 朝からずっと移動と作業を行っている不死原のために冷たい飲み物と朝食も用意しておいた。
 一時間前に不死原からカメラのセットを終えたと連絡はあったからそろそろ着くだろう。

 十時過ぎに不死原はレンタル会議室にやってきた。今日は珍しくTシャツとラフな格好だ。十一とは会話しながらきているので、イヤホンをつけている。
 十一が開設したリモート会議室に入り、崖に設置した動画もそこに繋ぎ検証会議はスタートする。
 カメラで撮影した映像はHDに録画し、あとで見直せるようにしてある。

 外はやはり暑かったようで、セットアップが終わったら不死原は顔を洗いに行って、部屋の隅で汗に濡れたグリーンのTシャツを脱いで着替えている。
 細身に見えていたが、筋肉もちゃんと付いていて男らしい身体なんだなとつい見入ってしまう。
 髪も解いているの為か、いつもより色っぽく見える。
「今、渉夢何してんの?」
 突然十一から画面から話しかけられて私は我にかえる。
「外が暑かったのでしょうね。着替えています」
 私がそう返すと十一は目を細める。
「へぇ~やらし。
 おーい、渉夢! 痴女がお前を見ているぞ!! 気をつけろ!」
 十一が大声をあげたので今から新しい淡いピンクのシャツを着ようとしていた不死原がコチラに視線を向けてくる。
 目を丸くして私を見た不死原は噴き出すように笑う。
「残刻、そうやってすぐに人を揶揄う。
 佐藤さん本当に申し訳ない。コイツこういう奴で」
 着替えるために解いていた髪をまた縛りながら不死原は近づいてくる。
 私が変な目で見ていたと思われなくて良かったとホッとする。
「いえ、崖の方ですが、まだ何の異常もないです。一組観光客が来ていただけですね」
 話題を逸らすためにも私はそう報告し、席を立つ。不死原に飲み物と食事を用意するために。
 不死原が画面越しに十一を叱っている。
 何となく分かってきたが、十一が態と嫌な言い方をしてくるのは、それを不死原が叱るというまでが一つの流れで、それが二人のじゃれ合いの仕方。
 私が冷たい飲み物とサンドイッチを渡すと不死原は外向けの紳士的な笑みでお礼を返してくる。
「それ、どこのサンドイッチ? うまそ!」
「このビルの向かいのパン屋さんですが」
 私が答えると十一は舌打ちをする。
「残念! そこ今工事中だから食えねえか」
「確かコレ、大学前にもあるお店だよ。学生にも人気ある」
 不死原は、ショップカードを画面に示す。
「へぇ、今度行ってみよ!」
 こんな感じで話しているのを聞いていると本当に仲が良いなと思う。
 私は二人の邪魔をしないように映像のチェックを続けることにする。
 土曜日だからか、一時間に一組とか人は来ていて驚く。常世海外に向かい神社に寄った人がついでにこちらにも来ているようだ。
 よく私が柵の外で立っている状態の時に、普通の観光客とカチ合わせにならなくて良かったと思う。
「思ったよりも人きているのね」
「あそこの宮司がなかなかの遣り手の商売人なんだ。御朱印も数種類可愛いの用意したり、売れ筋なお守りを新たにバンバン作っていやがる」
 十一は私の呟きにもちゃんと反応しそんな言葉を返してくる。
 不死原は、色んな所にメールなどして何やら村の人と連絡を取り合っているようだ。
 不死原はこの現象の事だけでなく、あの地震で村に問題がなかったか確認していたり、末時村のことなどの情報を仕入れたりしているようだ。
「そろそろですね」
 十時五十五分になり、不死原がそう声をかけて来て、私たちは画面に集中する。
 まだ目の前に広がる崖の上の広場の平和な状態を映しているだけ。
 私と不死原のスマホが警告音を発する、
 十一時九分ごろ画面の中の風景が一回跳ねるように揺れる。
 そのあと横に小刻みに揺れるようになっていく。地面にの上の石が爆ぜるように動き、地面にヒビが走り出す。
 崖の端から重力に耐えられなくなった部分が砕けていき画面から消えていく。
 画面のこちらも地震で揺れているだけに、さらに揺れている画面を見ていると気持ち悪くなりそうだ。
 大きく広場の真ん中あたりで蜘蛛の糸のようにヒビは広がっていきその溝は開いていく。
 そして十一時十分超えたところで地面は完全に崩壊し落ちていった。
 だんだん揺れは穏やかになり、そして何事もなかったように青い空と海の風景となる。
「すげ~な」
 十一は極々普通な感想だけを漏らした。
「それよりさ、大丈夫か顔色、白くなってんぞ」
 十一が映像の中から声をかけてくる。
「大丈夫ですか?」
 不死原も私に声をかけてくる。
「少し画面酔いしたのかも」
『無理すんだよ。少し寝てろよ』
 まさか十一がそんな事を気にかけてくるとは思わなかった。
 十一のそんな言葉に、不死原が言っていた『根は良いやつ』という言葉はあながち嘘ではないんだなと思う。
 私は言葉に甘えて、部屋の端に置かれたソファーに休ませてもらうことにした。
 不死原が渡してくれたペットボトルの水を飲んでから目を閉じた。
「ふーん珍しい。残刻がそんな言葉かけるんなんて」
『別にふつーだろ!」.』
「小学生のような事していると」
『だからちげえって!』
 二人の会話が、なんか昔の教室の雰囲気に似ている。
 二人のそんなやりとりを聞きながらウトウトと眠りに沈んでいった。

 ※   ※   ※

 また私は夢で過去を見ている。場所は三軒茶屋にあるレストラン。リーズナブルだけどお洒落な気分を楽しめる素敵なお店だった。
 「アサヒおめでとう!」
 結婚の報告をする親友は照れつつもとても幸せそうだった。
「ありがとう! でもこれからが大変かも。あちらのご両親との顔合わせとかもあるし不安もいっぱい」
 そう言いながらもニコニコしている。遠距離恋愛に関わらず愛を貫いた友人なら、どんなことも問題なく乗り越えていけるだろう。
「レイカもその頃にはなんとか帰国してお祝いに駆けつけるって言ってたよ。
 でも彼女は向こうで白人イケメン男性とか捕まえてそう」
「もしかして、イケメン黒人男性だったりして!」
「それもありそう!」
 二人で笑いながらレイカのInstagramを開いて、そこに写っている誰が彼氏かという遊びを楽しむ。
「それにしてもアサヒが奥様か~なんかイメージが」
『失礼な、私は実家暮らしだから家事はダメダメかもしれないけど、これから頑張るわよ!
 周子先生! 色々学ばせてください!」
 アサヒは両手を合わせ拝むように私に縋ってくる
「仕方がないな! ビシバシいくよ!」
「お手柔らかに」
 そんなおバカなやりとりをして二人で笑い合う。
「そうだ、今度誠司くんの友達と飲みにいくんだけど、周子も来ない?」
 何か言いたげなアサヒの表情。
「いい人いっぱいいるから……きてよ!」
 私の親友は、私と彼氏の関係をよく思ってない。理由は分かるし、いわば惰性でここまで付き合ってきてしまった。
「じゃあ、行ってみようかな」
 私は笑顔を作りそう答えた。でも心の中で彼を捨てて新しい恋を始めるべきなのかどうかグルグルと悩んでいた。もう恋人との関係は、セックスとかは普通にしていたけど、もう恋愛感情ではなかったダメ男に対する母性愛とちがう。もう愛情という気持ち自体尽きていたような気がする。アイツに対する感情は何だったのだろうか? 

 ※   ※   ※

 珈琲の香りが鼻口を擽る。その香りの刺激でゆっくりと目が覚めていく。
 聞こえてくるのは男性二人の声。

『お前ここにいた時どうだったんだ?』
「この瞬間にここにいたのは一回だけだったし、覚えてないよ」
『でも雷が来ていて気づかないことあるか?』
 二人は真面目に動画を検証していたようだ。
 私が起き上がったことに不死原が気がついたようだ。
 こちらを見て柔らかく微笑んでくる。
「あ、佐藤さんお加減はいかがですか?」
「申し訳ありません、眠ってしまっていて。何か見つかったんですか?」
 私は少し乱れてしまっていた髪を整えながらパソコンの前に行く。
 画面の方で十一が手をあげ私に挨拶してくる。
『あんたさ、あの瞬間あそこで変な光を見なかったか?』
「光?」
 私は記憶を辿る。一度目は不死原に抱きしめられていて周りは殆ど見えてない。
 二回目は地面をずっと見ていてそれが崩れて……。
「光ってどういう光ですか?」
 私が聞くと、不死原があの崖の動画をスロー再生したものを見せてくれる。
 地面に亀裂が入りそれが広がり大きな破片となって崩れていった後に映像に雷のような光が走る。
 もう一度再生し直してその光の部分で止めると時間が十一時十一分十一秒だった。
「……雷? でもあの時そんな雷とかは鳴ってなかったと思います。
 そしてこれって私達が落下した後ですよね。そうなると……」
 そうだとしたら見ている訳がない。
「あの辺りには電気を発するものなんてない。
 このカメラが振動で画像の方になんだかの影響を与えたという可能性も捨てきれないが……」
 十一はそう呟き三人で悩む。しかしここで考えても答えなど出るはずもなかった。
 この映像においては十一時十一分十一秒に謎の光が発生した。それだけが真実だった。
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