バッドエンドはもう来ない……

白い黒猫

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十一残刻という

誰の為に選んだ死か?

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 少し体調が良くないなとは思っていた。職場の健康診断でも引っかかっていた
 しかしその時恋人の母親が介護で腰を痛めその通院の手伝いと、お婆さんの介護の手伝いなどあり忙しかったのとそのストレスのせいだと思っていた。
 そして若さと気力で乗り越えられると思っていた。しかし風邪で倒れ病院に行った際、精密検査を勧められた。その結果が全身に癌が転移していて手の施しようもないと診断を受けた。若いので癌の成長も早かった。
 何もしなかったら数カ月の命と言われ、緩和医療の病院を紹介される。
 それからされるのは治癒を目指す治療ではなく、少しだけ進行を緩め、症状を抑える為だけの治療。
 一番に考えたのは終活の進め方。
 いかに他人に迷惑をかけずに人生を終わらせられるか?

「ご家族は、君が一人でそうやって死を選んだら余計に悲しむのでは?」
 不死原の言葉に私は顔を横に振る。
「私には親兄弟はいません。頼れるような親戚もいませんし、結婚もしていない」
『で、恋人も友達もいないってか?』
 十一の言葉に私は顔を横に振る。
「友人や恋人はいます。しかし大切な人だからこそ、甘える訳にはいかない。
 死を見守りその後始末をする。それは身内だからこそ出来る事。そんなことを押し付けられない」
 流石の十一も黙り込む。
「しかし、恋人さんは後で貴方の選択を知ったとしたら納得は出来ないでしょうに」
 意外な事に不死原の方が言葉を返して来るようだ。
「癌の人を最期まで見届ける事の辛さ分かりますか?
 私は小学校の時に父を、高校の時に母親も看取りました」
 弱っていくというより、毀れていくという感じで衰弱していく。窶れ果て会話もできなくなっていき、最後の方は苦しんでいる様子を見続けるしかない。
「私なら、事実を伝えて欲しい。そして残りの時間を共に過ごす選択を選ばせて欲しいと思う」
 不死原の言葉で、この人が本当に誠実で恋愛に関しても真面目な人なんだと感じる。
 私の彼氏がこういうタイプなら、私の考えも少し違っていたかもしれない。
「私の恋人は、恐らくは逃げ出すでしょう。弱い人だから」
 それでなくても恋人は自分の家のこと何もしない。自分の家の問題も逃げていた。
 そんな人が今度私の癌治療という項目が加わったらどう対処しようとするのか? 今となってはそれはそれで見てみたい気もする。
「親友は海外で仕事していたり、来年結婚するのでその準備に忙しい状態。
 だから誰にもこの事を話さず、家も家財道具も全て整理し、死後事務委任契約も済ましました」
 不死原は静かな瞳で私をじっと見つめ続けている。逆にこれだけディープな話をすれば、このループから抜け出せた時に、不死原は安易に死を選ばないのではないか? そんな期待もする。
「それが終わった上で、私の自分の足取りを消しヒッソリと世界から消える事が一番平和なのでは? という結論に至りました。
 不死原さん。
 あの時崖にいた私は、身分を示すものは何も持っていない正体不明の女です。ホテルにも偽名で泊まっていました。
 ただ身元不明の遺体となるだけ。
 遺留品も私があまり好まないような服装やバッグですから私だとまず繋がることはないでしょう。
 私自身は世間的に東京のマンスリーマンションで暮らしていることになっていますから」
 マンスリーマンションも、契約期間が終われば空き室になり次の人が何事もなく入るだけ。
「自己満だな」
 十一はそう言い放ち方笑みを浮かべながらもまっすぐ視線を向けてくる。
「残刻!」
 不死原は叱るような声を上げると十一は肩を竦める。
「人を傷つけない為、人に迷惑をかけないためと言っているけど結局は逃げだろ?
 真実を周りに伝えた時の反応が怖いから、自己完結して結論だけ出した。
 ま、俺たちには関係のない話だ。
 いいんじゃね!それも」
 悔しいが何も言い返せなかった。そっと消えて皆に忘れて欲しいと思っているのは本心。しかし十一のいうように、私の事をずっと気にして欲しい、忘れないでいつまでも愛していて欲しいと思う気持ちをある。
「そうですね、あなた方には関係のない。私の人生ですから」
 私は無理やり笑顔を作り、そう返す事しかできなかった。
「そりゃそうだ! って怒るなよ渉夢」
 十一は画面を睨みつけている不死原にだけ謝る。
「お前って、なんでいつもそうなんだよ!
 佐藤さん申し訳ありませんコイツ本当こういうヤツで。
 不快な気持ちにさせてしまって」
 不死原は私にそう謝罪してくるが私は顔を横に振る。
 不死原は容赦なく言葉を放ってくる十一に対して違和感は覚えていなさそうなので、元々こういう性格なようだ。
「いえ、若干耳に痛い話でした……しかし」
 そこまで言って言葉を止める。自殺志願者の私にここまで厳しい意見を言ってくるということは、十一は不死原も自殺しようとしていたことを知らないのだろうか? となると下手なことは言えない。この場が余計にややこしくなる。
「こういう会話するためではないだろ。こうして繋げたのは」
 不死原はため息をつき、話題を変えようとしてくれている。
 私は深呼吸して気持ちを落ちるかせる。
「ところで、十一さんは、そちらでどういう生活をされているんですか?」
 十一は片眉をあげる。
「ん? 気ままに暮らしてるよ。
 朝四時に目が覚めるから、その後家で本読んだり絵を書いたり、日帰りにはなるけど台風避けながら旅行行ったり」
「え? 零時ではなく四時なんですか?」
 私は聞き返す。
「ああ、それより早くには起きれないな。一日が終わると、朝四時の家のベッドに戻る。あんたは違うのか?」
「はい、零時に戻ります」
 不死原は私たちの話を聞きながらジッと考えている。
「確かに俺も戻るのはいつも同じ時間だな」
 十一は視線を不死原をチラリとみてから私に戻す。
「つうことはあんた寝てないとか? そりゃ羨ましいな、一日丸々自由に使えるなんて、俺の一日はどう頑張っても二十時間だから」
 私は顎に手をそえ考え事に集中している不死原をみながら、零時すぐに彼に連絡しても返事が明け方になっていたことの理由に気がつく。起床時間は変えられないようだ。
 返事が来るのは六時過ぎだったような気がする。そこが不死原の起床時間なのだろう。
「この現象って自由なようで意外と縛りもあるんだな。他に何があるんだろ?」
 十一は絡みモードから雑談モードになっているようで普通に会話してもらえるようになったようだ。
「十一さんは、もしかしてずっと一人で過ごされていたんですか?」
 十一は鼻で笑う。
「な訳ないだろ! 渉夢のところに飯食いに行ったり遊んだり、ダチと飲みに行ったりもしてるよ。
 別に世界に俺一人しかいないわけではないからな」
 本当にこの男は自由気ままに過ごしているようだ。
 考えてみたら一年前の世界なので当然不死原はいるのは当たり前。
 不死原は自分の名前がでたことで顔を画面に向ける。
「そちらの世界にいる俺ってどうなんだよ?」
「変わんねえよ。俺が我儘いうと怒るし、悩みを相談したら親身になって話を聞いてくれる」
 不死原は首を傾げる。
「相談って何を」
 この男が人に悩みを打ち明けるように見えないからつい聞いてしまう。
「この状況について」
 あっさり答える十一。
「それを不死原さんは信じてくれたの?」
 十一は頷く。
「初め冗談だと思ってうけていたけど、付き合いが長いだけに俺が本当のことを言っていることを察してくれた。
 それに俺がループしているという証明の仕方もそれなりに試行錯誤して考えて伝えるようにしたからな」
 その言葉で十一もこの現象に陥った当時悩み苦しみ、彼なりに苦労していたんだと察する。
 そしてその相談を身近な存在にしたのも当然のこと。
「信じてくれて、俺のために色々調べてくれたよ。
 そしてお前が今出してきたような事も見つけてくれた……」
 私が見せた資料に反応が薄かったのは既に認識していたかからのようだ。
 十一はそこで大きなため息をつく。
「だが零時を超えると、何も知らない状態に戻っちまう。最初から説明し直すという面倒臭いこと繰り返していた。
 だからさ、そっちの渉夢は零時超えても話がそのまま通じることにはちょっと感動しちまった」
 十一は無邪気に見える顔で笑う。一人でこんな世界にいた彼に少し同情する。
「残刻……」
 気遣うような不死原に十一は笑う。
「とはいえコッチのお前も、普通にお前だから。もうそんな相談をするという面倒くさい事を考えなければ普通に楽しく付き合えてるぞ」
「なんか妙な気分だな、俺の知らない所で俺とお前が好き勝手何かしているって」
 親友と言っていただけに不死原も仮面はなく素顔で十一と話しているように見えるし、十一も私に対してとは異なり親しみのある態度で不死原に話しかけている。
 私の存在を思い出したのか十一が、こちらを見る。
「ループ現象の特徴だけどさ、俺以外の人はループ現象の事知らないだけで普通に過ごしている。
 とは言え俺が接触しなければ今日そいつが過ごすであろう行動を毎回しているみたいだけど、俺に対して普通に反応して意志をもって接してくる。
 昨日も聞いたけど、渉夢お前は俺がこの一日散々お前とつるんでいた記憶は全くないんだよな?」
 不死原は頷く。
「残念ながらあの日にそんな楽しい記憶はない。
 事故の連絡をうけて皆でかけつけて……」
 そこまで言って不死原は顔を顰め頭を横に振る。
「そか、じゃあ俺がこちらの渉夢に働きかけても、お前の今の状況は変わらないと言うことか……」
 不死原は大きく息をはく。十一が一番に考えたのは自分のことより親友を救おうということだったようだ。
「そもそもお前が話をした俺って、その後どうなっているんだろうな。七月十二日を迎えていたとしたら、その十二日の世界でお前はどうなっているんだ? それは俺たちのこの時間でのことも同じだけど」
「少なくとも俺の世界はお前の世界はそういう意味では繋がってない。となると考えるだけ無駄では?
 俺は散々お前にこの現象のことをこっちで話をした。
 しかしお前には全く伝わってない。となると確認する術は全くない。
 それより気になるんだ。あの崖ってどうなったんだ?」
 どこか楽しげに十一はそんな事を聞いてくる。
「お前の像は奇跡的に無事らしいが。それくらいしか聞けてない
 自衛隊だか警察だかがあの道路を封鎖していて近寄れないらしいし」
 私はスマホを操作し、そろそろ出てくるテレビ局のヘリからの動画を探す。
「こんな感じのようです」
  見つけた動画を画面に向ける。
「おぉ、かなり大きく抉れたな。で久刻さん本当に無事だ♪」
 やはり自分の作品がどうなったのか気になるのだろう。
 動画の中でまだ無事な自分の作品を嬉しそうに十一は見つめる。
「ここでさ、あの時間に何が変な事が起こってないか確認してみないか?」
 不死原と私はとんでもないことをいう十一に視線を向ける。
「あそこにまた行けと? 崩れない部分で」
 十一はイヤイヤと頭を横に振る。
「お前にそんな危ないことさせるわけないだろ! いくら生き返るとしても。
 カメラをあそこに前もって仕掛けたら何か変なことが起こっていたら確認できるんじゃないかと」
「そもそもあそこに定点カメラとか仕掛けてないの?」
 今更だが自殺の名所ならそう言ったものを置かれていてもおかしくはない。
「ねえよ、なんの需要があるんだよ」
「私がいうのも変ですが、自殺を予防するためにとか」
 十一が笑う。
「ここ十年ほど、年に一度あるかどうかだ。そのことのために、ずっと見張っている人を作るわけないだろ。あそこに花壇を作ったり像をたてたりと公園化してからますます飛び降りなんて起こらなくなってた」
 そんな状態なのに、よりにもよって同じ日の同じ時間に二人の自殺志願者が来るなんてどういう偶然なのだろうか? 私は思う。不死原も苦笑している。
「しかしカメラ仕掛けるにしても、どう撮影した画像を回収するんだ?」
 不死原の言葉に十一はなぜか自慢げな顔をする。
「俺の部屋に SIMカメラがある。まだ保証内だから使えるはずだ」
「なんでそんなものが?」
 私のつい出た質問に十一は鼻で笑う。
「俺の家の後がなんかいつもガサガサ煩かったから調べるために使ったんだ。駆除を頼むのも正体でも調べとこうと思って。イノシシならいいけど、熊とかならそれなりの準備しないと、真壁のオッサンらがヤバいからな」
 こういう事って田舎では普通のことなのだろうか?
 次の日、不死原が十一の家に行きカメラを持って崖にセットしに行くこととなった。
 その後不死原が取ってくれたホテルで夕飯は一緒にとったがそのあとはそれぞれで過ごすことにした。不死原は不死原でカメラの設置の仕方などを二人で詰めたいとかですることもあったようだ。
 私は疲れも出てきたのか、その日はシャワーだけ浴びてそのまま早くに眠ってしまった。

 ※    ※    ※    
    
『ヒロちゃん、大変なんだ。ウチのお母さんが腰痛めて入院になっちゃったんだ。
 そのせいで婆ちゃんのお世話もできない』
『え? 大変じゃない! すぐ行ってあげないと』
『でも、俺一人行っても役に立たないから意味ないじゃん。ヒロちゃん一緒に行ってくれない?』
 家族が大変な時に頼ってもらった。そういうふうに思ってしまい愚かだと思うけど私はこの時少し嬉しかった。
 そして無理して頑張って結果がコレ。笑うしかない。

 ループ現象に巻き込まれてからみる夢は、何故か過去の再生ばかり。それも体験しているよいうより、客観的にその場面を眺めている自分の意思を感じる。
 これはどういう現象なのだろうか? もしかしてこれは一種の走馬灯? そんな馬鹿な事も考えてしまった。
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