バッドエンドはもう来ない……

白い黒猫

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フジワラのいない世界

そして朝が来る

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 私はワイングラスを持った状態で周囲を見渡す。
 自分がコテージではなくホテルに戻っていることに呆然とする。スマホを見るとやはり零時過ぎ。
 どこかで、あの崖が原因であそこで死んだから繰り返しているだけ。だからもう繰り返しは終わったと考えていた。今回は死んでもいないのに元に戻っている事にショックを受けていた。
 逆に無理にでも自殺して無駄死にしなくて良かったと思う。

 フジワラに連絡をと思ったが、ほぼ一日一緒にいてそのまま行動をする予定でいただけに連絡先交換なんかもしていない。
 スマホで『藤原歩』で検索してみるがあのフジワラは見つからない。
 フジワラアユムでも探すが出てこない。画家とか大学で講師をしていると言っていたのに見つからない。
 やはり幻の存在だったのだろうか? そんな馬鹿な事も考える。

 私は朝を待って、ホテルをチェックアウトし荷物をコインロッカーに放り込んでから、タクシーに乗り込む。
 今回は無口な運転手の為に一時間程の間をスマホで。慈悲心鳥の伝説というのを色々調べてみる事にする。
 フジワラはそんな特別な場所でもないと言っていたが、結構色々な曰くのある場所だと分かった。
 元々処刑場というのも本当で、そこで処刑された人は埋葬されずに崖から遺体を落とされたらしい。その事もあり、成仏できない霊の溜まり場となっているという。
 あのフジワラに激似の銅像の人物が処刑されたのもあの崖。
 冤罪で十一久刻が処刑された後、崖の上に激しい竜巻が発生しそが辺りを荒らし消えた時には十一久刻の遺体が忽然と姿を消していたらしい。
 冤罪を捏造し十一久刻を死に追いやった不死原渉助は竜巻の時に受けた怪我で歩けぬ身体となってしまう。
 不死原渉助はケガに苦しみ死ぬまで、十一久刻が可愛がっていた慈悲心鳥はジューイチジューイチと鳴いて責め続けた。彼の妻と子供も後を追うように亡くなった事もあり、これは十一久刻の祟りとされ、彼の魂を鎮めるために慈悲心鳥神社が建てられた。
 気持ち悪いと思ったのは十一久刻が亡くなったのが千二百七十七年七月十一日の午前中であること。

 今の現象は十一久刻の呪いだという事なのだろうか?

 呪われたという不死原氏の名前についても引っかかった。読み方を調べると【フジワラ】【フジハラ】【フシハラ】とある。
 もしフジワラが不死原さんであるのなら、十一久刻にとって憎むべき血筋となる。
 崖での怪奇現象について、聞いた時に不快そうな感じだったのはこの因縁があるからだろうか?

 慈悲心鳥崖へ三回目の今日より少し早めに到着した。
 崖の銅像のある広場に言ってみたが、そこに誰もいなかった。国道まで戻り神社の駐車場を見てみるが、フジワラの車は停まっていない。ということはまだ来ていないということだろう。
 私はもう一度崖に戻り、改めて十一久刻の像を見つめる。見れば見るほどフジワラにしか見えない。
 フジワラが不死原渉助の子孫ならば、何故十一久刻に似ているのか?

 不死原歩で検索をかけようとしたが、この崖は電波の調子があまりよくないようでネットが使えない。

 広場の入り口を気にしながらベンチでフジワラを待つが。もう三回目に現れて一緒に車で移動していた筈の時間になっても現れる気配もない。
 立ち上がり、駐車場へと向かう。来るとしたら車だろうから。しかしフジワラの車は何処にも停まっていない。
 地震の時刻も迫ってくる。どうすれば良い?

 ミキト君がこの辺りは崖が崩れただけで道路も無事ではあったと言っていたのを思い出す。
 私はこの辺りで一番人がいそうな神社に行く事にした。
 神社の階段を息を切らせながら登り境内に入った時は十時五十六分だった。地震の時は何処にいるのが安全なのだろうか? お堂の後ろに巨大な木が見えた。
 大きな木は根が張っているために安全だという事を聞いた事があるような気がする。
 私は吸い寄せられるように木のほうへと向かう。
 木は樹齢百年の神木らしく、紙垂と縄もついていてどこか頼もしい感じもした。
 私は怯えながら、十一時十分過ぎにくる地震の時間をまつ。ここにフジワラが居ない事も不安を倍増する。
 スマホが耳障りな音を発するのと同時に揺れが始まる。
 キャンプ場にいた時よりも強い揺れに私は立っていられなくなり座り込む。縋る相手がいなので神木に抱きつきながら恐怖の時間を耐えた。
 揺れが収まっても、足腰が立たず立ち上がれない。一人で震えていると近づいてくる人の気配がした。
「大丈夫ですか」
 声をかけてきてくれのは、作務衣を着た男性でフジワラでなかった。
「怪我はありませんか? 怖かったですよね。ひとまずこっちへ」
 駆けつけてくれたのはこの神社の人だったようだ。
 畳の集会所のような部屋に案内された。この神社に参拝していた人をここで保護されていた。
 周りの人は近所の人のようで名前で呼び合っている。それぞれの家族の安否を確認して無事であることを皆で喜び合う。私はそんな横で記憶通りの事を告げるテレビ画面を見つめていることしか出来ない。
 十人前後のがいるのに、よそ者のは私は孤独だった。
 宮司さんが方々と連絡を取り合って情報を収集してくれていたようで、ミキト君が言っていたのと同様の説明をしてきたが、ここはキャンプ場とは異なり神社後ろには田畑や住宅街があるらしい。
 そのためここにいる人は内陸へ向かう道で帰れて、国道を使わず移動できる人ばかりだった。その為余震がおさまってきたタイミングで解放された。
 そして私一人が取り残される。
「申し訳ないね。こんな場所でお待たせさせてしまって。今お祭り前で他の場所がワサワサしていて、人様をお通しできるところがここしかなくて」
 宮司さんがペットボトルのお茶をお盆に乗せて差し出してくる。
「ありがとうございます。お茶頂きます。あのまま外でどうすれば良いか分からなかったので助かりました」
 宮司はニコニコと優しい笑みを返してくる。
「まあ、ここは安全だから! ひさとき様が守ってくれるから」
 ひさとき様。十一久刻の事だろ。この地に恨みをもつ怨霊がそんな助けてくれるものなのだろうか? と私は失礼な事を考える。
十一ジュウイチ久刻さん。下の崖のところで像を見ました」
 話すと宮司さんは少し眉を寄せる。
「ああ、十一と書いてトカズと読むんですよ! 珍しい名前でしょ? 
 あの像、先程の地震で崖が崩れたということで無事だといいのですが」
 地震であの像が無事なのは知っているが、ここで主張するのもおかしいので黙っておく。
「あの像は……」
「あれはね、実はひさとき様の子孫の作品なんですよ。表情とか雰囲気とかも良かったでしょ?」
 嬉しそうに語られて悩む。
「はい、素敵でした。優しそうで。十一さんってどういう人物なんですか? 思っていた感じと少し違っていて」
 そう話すと宮司さんは苦笑する。
「もしかして久刻様の怨霊話を聞いてしまって、おっしゃってますよね。
 あれはね~物語としては面白いですけどね~完全なフィクションですから」
 やや迫力のある笑みを宮司さんは浮かべた。フジワラも怨霊の話をすると少し口調を変えてきた。ここの人にとってこの話題は地雷だったのだろうか? 私は内心話の聞き出し方を間違えたことに気がついた。
 
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