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死から一回、逃げてみる
自殺の理由
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時々輪キャンプ場に着いたのは十時三十一分。
受付はその時はまだ来場者が少なかったのか空いていたために、直ぐに係の人が来てしまう。
「いらっしゃいませ~ご予約の方ですか? ってアユム先生?!」
明るめに髪を染めた若い感じの係員はにこやかに笑いかけてきて、フジワラの方を見て目を丸くする。知り合いだったようだ。
車を運転していることから察してはいたが、フジワラが私以外の人にも認識できる存在であったことに少しホッとする。
状況が状況だけに、この世のものでは無い幽霊的なモノでは無いかと疑っていた。
「あれ? ミキトくん! 帰ってきてたの?」
ミキトくんと呼ばれた子は髪を明るめに染めていて今時の若者という感じ。
フジワラの言葉に少し気まずそう頬を掻く。
「実は東京で就活に失敗しちゃって……。そんな時にタダムさんに声をかけて頂いて……」
フジワラは柔らかい笑み返す。
「そうか、君がここで元気に働いていて嬉しいよ」
フジワラの言葉にミキトくんは、照れ臭そうに笑う。
素直で人あたりが良くて良い子に見える。
「お陰様で楽しくやってますよ! アユム先生は、デートっすか?
バーベキューエリアもまだ空いてますよ!」
顔馴染みの為か、ミキトくんは口調砕けたものになっているが、フジワラは叱るでもなく普通に対応している。
「いや、デートではないよ」
「あ、お仕事の方だったんですね!
綺麗な方ですし」
一人で納得しているミキトくんをよそに、フジワラは悩む。
チラリと時計を確認する。
「コテージに空きある?」
ミキトくんは嬉しげに頷く。
「空いてますよ! キャンセルが出てしまって。
ほら! 台風が来る来る詐欺してたでしょ!
それで……」
フジワラは頷き私に相談することもなくコテージをレンタルしてしまう。
私自身、今何をすべきか分からなくてぼんやりしていたこともある。
今の時間は十時四十二分、この後起こるであろう事に不安だけが込み上げてくる。
「キャンセルで特選豪華バーベキューコースの食材丸々余っちゃてるから、野菜とか破棄することになるからサービスでもっていきますよ!」
「そういう事は止めよう、正規の料金払うからもらうよ」
そんな話をミキトくんとしながら受付をすませたフジワラは車に戻ってきた。
時間は五十四分。フジワラも時計にチラと視線を向ける。
「ギリギリかな。でもここは高台の平地。あそこにいるよりかは安全だと思います。
それに最悪孤立しても食糧はありますから」
私は頷く。キャンプ場はこの場所さえ無事ならば被災避難として悪くは無いだろう。
しかしその場合私はこの男ずっと一緒にいないといけなくなる。
それはそれで悩ましい気もした。
車は後ろにちょっとした竹林の横にあるログハウスのコテージ横に横付けされた。
私はハンドバッグを手にフジワラに続いて車を降り一緒に玄関に向かう。
コテージに入ると心地よい木の香りが私を包む。
入って直ぐに広めのリビングが広がっており、中央に少し段が下がった場所がありそこに囲炉裏があり、ここでも火を囲んで食事ができるようになっている。
オーブンとしても使える感じの薪ストーブとウッディーな家具で統一されたカントリーな空間。
こんな時でなければ私は感嘆の声をあげて喜んでいただろう。
「念の為、玄関を開けたままにしておいて」
私に指示をしてからフジワラはウッドデッキに続く大きなガラスのドアを開いていっている。
壁の時計を見ると十時五十八分。
「アユムさーん、食材持ってきました!」
ミキトくんがウッドデッキの方から声をかけてくる。横にはクーラーボックスなどが載った台車がある。
ウッドデッキの方をみると、そちらでもバーベキューが楽しめるようにでバーベキューコンロが置いてある。
「そこに置いといてくれたら良いよ」
フジワラはそういうが、ミキトくんは飲み物の入った箱を持ち上げてログハウスに入ってくる。
特選BBQセット追加になったのでなったので注文の申し込み書類への記入がまだあるようだ。
ミキトくんはドリンクをカウンターに置きその上に載せていた書類をフジワラに示す。
「サービスでワインも持ってきましたから!
これは俺の一存ではないですよ!
上司であるワタルさんの指示ですから!
アユム先生が特選コースの食材を引き受けてくれて助かったと」
「そんなの良かったのに……」
フジワラはさりげなく私の手を引きミキト君に近づく。
フジワラがその前、天井に視線を向けた事でファン付きシーリングライトの下からテーブルの近くの場所に私を移動させてくれたことに気がついた。
「ドリンク、冷えているの持ってきたので良かったらどうぞ。外は暑かったでしょ?」
背をむけカウンターで申し込み書類を書くフジワラの近くで、ただ立っている私にミキトくんは話しかけてくれる。
彼は高校時代フジワラに家庭教師してもらい大学に無事合格出来たのだと、何故か自慢げに話してくる。
それだけフジワラの事が大好きで、慕っているようだ。
私は自分が喉が酷く乾いていた事に今更気が付き有難くミネラルウォーターのペットボトルを頂くことにする。
喉を潤してから再びキャッブをしっかり閉める。
時計の針はそうしているうちにも進み、十一時を超えていく。
フジワラも時計を気にしつつ、三人の立ち位置と周りに地震が来た時に危なくなるものはないか気にしているようだ。
ここなら地震がきても直ぐにテーブルの下に隠れられる。
「ところで、俺が此処に来た事を周りに触れ回ってない?」
フジワラは記入した書類をファイル戻しミキトくんにわたす。
「ってお忍びだったんですか? 現場視察とか。
話したのはワタルさんだけですよ!」
「お忍びって……それに何を視察するんだ……俺が……」
突然三人のスマホが耳障りな警告音を発する。画面を見ると11:10:01の文字。
緊急事態を知らせる音。それに身体をびくつかせた直後にグラっつという小さい揺れを感じた。
それがジワジワと強くなっていく。周りのキャンプ場中から悲鳴が上がる。
「テーブルの下に!
ミキトくんも危ないからこっちに」
フジワラはミキトくんにも声をかけ三人でテーブルの下に隠れた。
建物も揺れているが家具が倒れるというほどでじゃないように感じる。
「なんか長いですね」
ミキトくんが不安そうな声を上げる。
ギジギシ揺れる建物を不安そうに見上げているしかできない。
三人で身体を引っ付けて揺れに耐えていると、地震の揺れは次第に収まった。
「とまった?」
私はそっとテーブルの下かから顔を出す。
揺れはもう感じない。
部屋の様子も何かが落ちたりといった変化はない。元々置物とか少ないと事もあるのだろう。
三人でテーブルの下から抜け出てウッドデッキに出て外の様子をみると、そこは地震の前と変わらぬ光景が広がっている。
突然の地震に動揺したことによりざわめきは残っているが平和な光景。
「大丈夫でした?」
フジワラと私にミキトくんは聞いてくる。私たちが大丈夫なのは見ても分かるのだろうが、何か話さずにいられないから声に出したというところだろう。
スマホをチェックすると今私達のいた地域に震度六の地震が起こったらしい。
「とりあえず状況を確認してきます。
余震がまたくるかもしれないので十分注意してくださいね。
ここは竹林の傍ですし、津波危険地域ではないので安全ですから」
ここ職員としてのモードが戻ったのか、部屋の設備に異常がないかチェックしてから、ミキトくんは出て行った。
私は部屋に戻りへたり込む。崖での恐怖が蘇ってきたから。
フジワラが慌てたように近づき起こしてくれて二人がけソファーへと移動させてくれた。
新しいペットボトルの水を持ってきてくれてローテーブルに置いてくれた。
私はペットボトルを開けようとするが身体の震えで上手く開かない。見かねて代わりにフジワラが開け私に持たせてくれる。震えながら一口飲む。少しだけ落ち着いてくる。
今の状況をどう判断するのか? 自殺しようとしていただけに「助かった」と喜ぶのもなんか違う気がする。
ローテーブルの上のテレビにあるリモコンが目に入る。私は手に取り電源を入れる。
何か情報が得られないかと思ったから。
色んな事が、この短い間に起こりずぎて脳が処理出来ない。
ブレイキングニュースとして、ここで震度六の地震があったこと津波情報はないということだけをアナウンサーは繰り返しているだけ。
フジワラはそんな私が大丈夫そうだと判断したのか、側を離れた。
外に置かれたままの食材の入ったクーラボックスや野菜の入ったダンボールを部屋に持ち込みテーブルに置く。
そのままどこか行ったので、私はキッチン部分に行き、肉などの食材を大きな冷蔵庫にしまう。
キャンプと言いつつ、ここはテレビでよく紹介される芸能人等のオシャレな別荘みたいだ。
車に置いてあった自分の荷物のリュックを持ってフジワラは電話しながら戻ってくる。
家族や知り合いの無事を確認しているようで、何か問題が起きていないか確認している。
私が食材をしまっているのを見て、電話を終えたフジワラもドリンクをドリンク専用の冷蔵庫へと移動させていく。
テレビが普通に使えて、冷蔵庫も冷えている。
ここはなんの問題もないようだ。
キャンプ場といいつつコテージなので冷房器具も完備の快適空間。
素敵なバーベキューが楽しめそうな食材を見つめながら、私は何しているのだろう? と思ってしまう。
つけっぱなしのテレビのニュースを気にしながら淡々と作業しているフジワラに視線を向ける。
「貴方は何者なの? 何故か何度も私の邪魔をするの? そしてこの状況はなになの!」
私の矢継ぎ早な質問にフジワラは困ったような顔をする。
「最初に会った時に話したと思いますが、フジハラアユム。この近所に住んでいる。
画家で、他に大学で講師とかもしています。
逆に確認させてもらいますね。
俺は貴方と会ったのは今日で三回目という認識で大丈夫ですよね?」
私は大きく頷く。
「そうよ! そしてなんなの! この状況!」
フジワラは悩むようにしばらく黙り込む。
「俺にも分かりません。
だから状況を一つずつ整理させてください」
私は頷くしかない。一人でこの不思議過ぎる状況を考えても何も分からず、何も進まなかったから。
「俺は一回目の今日は、君と二人で崖から落ちて死んだ。
二回目は俺は投身自殺して死んで。そのまま崖に残っていた君も地震の為に亡くなった。
そして三回目が今。これで合っていますよね?」
私は頷く。
「明らかに自分が死んだと感じた後、何故か今日の始まりに戻ってるの。
最初は夢だと思った。でもあの崖に行ったら貴方がいて……」
「俺も同じ感じですね」
冷静な口調でそう返される。
「貴方は自分もあそこで死ぬ筈だったみたいな事言っていたけどその意味は?
地震であそこが崩れることを知ってたの?」
フジワラは苦笑し顔を横にふる。
「俺も君と同じ目的であそこに行っていましたので。
それで来てみたら君がいたという所です」
何故、フジワラはこんな話を冷静に何でもない事のような感じで話すのだろうか?
この男が少し気持ち悪いと思ったのは、この冷静さだということも気がつく。
「だったら、何故、私の自殺を二度も邪魔したの!」
フジワラは私が変なことを聞いてきたといわんばかりに目を見開く。
「……逆の立場だったら? あそこに自殺しようと思って辿り着いたら先客がいた。
貴方ならどうしていました?
『奇遇ですね、自分もここに死にきたんです。これも何かの縁、共に飛び降りましょう』なんて事にはならなくないですか?」
私はそう言われ言葉に詰まる。フジワラに『ちょうど良かったです。では一緒に死にましょう』なんて言われていたら、あのように邪魔されるよりも更に嫌だっただろう。
フジワラという人物を見ていて、色々違和感しかない。自殺志願者にしては悲壮感がないような気がする。しかも先程ミキトくんとの対話を見ていても、人間関係も良好に築ける人で、自殺を考えなきゃならないほどの事情がある人にも感じない。
そして、この男は何の躊躇いもなく飛び降りた。
「何故、貴方は自殺をしようなんて考えたの?」
フジワラはその言葉に傷に触られたかのように顔を顰める。触れられたくない事を聞かれた人間の顔で、今まで見てきた中で一番人間臭い表情に見えた。
「……昨晩……愛を失いました」
「はぁ?」
返ってきたのがあまりにも自殺の原因としてはありきたりで、逆にありえない内容だったので私は驚く。
「……つまり女にフラれただけということ!?
しょうもない理由で死のうと思ったの?
あんたいくつよ!
そんな事で死んでいたら命がなんぼ合っても足りないわよ!」
フジワラは私の言葉に怒るでもなく困った人をみるように笑う。
「そういう貴方はどうなの?
でも、どんな理由であろうと俺は、君の理由を馬鹿にするつもりも否定するつもりはありません。
だって人が死を考えた程の理由。
その人にとってそれ程強い意味があったと思いますから」
静かにそう返されて私は何も言えなくなる。でも人からも慕われて、安くはないコテージや食材の料金を何の躊躇いもなく買っていることからお金もそれなりに持っている感じ。
車も安いのではないモノだった気がする。人生において恋愛以外何の問題もないような人が自殺しようとしているというのは何か違う気がした。
受付はその時はまだ来場者が少なかったのか空いていたために、直ぐに係の人が来てしまう。
「いらっしゃいませ~ご予約の方ですか? ってアユム先生?!」
明るめに髪を染めた若い感じの係員はにこやかに笑いかけてきて、フジワラの方を見て目を丸くする。知り合いだったようだ。
車を運転していることから察してはいたが、フジワラが私以外の人にも認識できる存在であったことに少しホッとする。
状況が状況だけに、この世のものでは無い幽霊的なモノでは無いかと疑っていた。
「あれ? ミキトくん! 帰ってきてたの?」
ミキトくんと呼ばれた子は髪を明るめに染めていて今時の若者という感じ。
フジワラの言葉に少し気まずそう頬を掻く。
「実は東京で就活に失敗しちゃって……。そんな時にタダムさんに声をかけて頂いて……」
フジワラは柔らかい笑み返す。
「そうか、君がここで元気に働いていて嬉しいよ」
フジワラの言葉にミキトくんは、照れ臭そうに笑う。
素直で人あたりが良くて良い子に見える。
「お陰様で楽しくやってますよ! アユム先生は、デートっすか?
バーベキューエリアもまだ空いてますよ!」
顔馴染みの為か、ミキトくんは口調砕けたものになっているが、フジワラは叱るでもなく普通に対応している。
「いや、デートではないよ」
「あ、お仕事の方だったんですね!
綺麗な方ですし」
一人で納得しているミキトくんをよそに、フジワラは悩む。
チラリと時計を確認する。
「コテージに空きある?」
ミキトくんは嬉しげに頷く。
「空いてますよ! キャンセルが出てしまって。
ほら! 台風が来る来る詐欺してたでしょ!
それで……」
フジワラは頷き私に相談することもなくコテージをレンタルしてしまう。
私自身、今何をすべきか分からなくてぼんやりしていたこともある。
今の時間は十時四十二分、この後起こるであろう事に不安だけが込み上げてくる。
「キャンセルで特選豪華バーベキューコースの食材丸々余っちゃてるから、野菜とか破棄することになるからサービスでもっていきますよ!」
「そういう事は止めよう、正規の料金払うからもらうよ」
そんな話をミキトくんとしながら受付をすませたフジワラは車に戻ってきた。
時間は五十四分。フジワラも時計にチラと視線を向ける。
「ギリギリかな。でもここは高台の平地。あそこにいるよりかは安全だと思います。
それに最悪孤立しても食糧はありますから」
私は頷く。キャンプ場はこの場所さえ無事ならば被災避難として悪くは無いだろう。
しかしその場合私はこの男ずっと一緒にいないといけなくなる。
それはそれで悩ましい気もした。
車は後ろにちょっとした竹林の横にあるログハウスのコテージ横に横付けされた。
私はハンドバッグを手にフジワラに続いて車を降り一緒に玄関に向かう。
コテージに入ると心地よい木の香りが私を包む。
入って直ぐに広めのリビングが広がっており、中央に少し段が下がった場所がありそこに囲炉裏があり、ここでも火を囲んで食事ができるようになっている。
オーブンとしても使える感じの薪ストーブとウッディーな家具で統一されたカントリーな空間。
こんな時でなければ私は感嘆の声をあげて喜んでいただろう。
「念の為、玄関を開けたままにしておいて」
私に指示をしてからフジワラはウッドデッキに続く大きなガラスのドアを開いていっている。
壁の時計を見ると十時五十八分。
「アユムさーん、食材持ってきました!」
ミキトくんがウッドデッキの方から声をかけてくる。横にはクーラーボックスなどが載った台車がある。
ウッドデッキの方をみると、そちらでもバーベキューが楽しめるようにでバーベキューコンロが置いてある。
「そこに置いといてくれたら良いよ」
フジワラはそういうが、ミキトくんは飲み物の入った箱を持ち上げてログハウスに入ってくる。
特選BBQセット追加になったのでなったので注文の申し込み書類への記入がまだあるようだ。
ミキトくんはドリンクをカウンターに置きその上に載せていた書類をフジワラに示す。
「サービスでワインも持ってきましたから!
これは俺の一存ではないですよ!
上司であるワタルさんの指示ですから!
アユム先生が特選コースの食材を引き受けてくれて助かったと」
「そんなの良かったのに……」
フジワラはさりげなく私の手を引きミキト君に近づく。
フジワラがその前、天井に視線を向けた事でファン付きシーリングライトの下からテーブルの近くの場所に私を移動させてくれたことに気がついた。
「ドリンク、冷えているの持ってきたので良かったらどうぞ。外は暑かったでしょ?」
背をむけカウンターで申し込み書類を書くフジワラの近くで、ただ立っている私にミキトくんは話しかけてくれる。
彼は高校時代フジワラに家庭教師してもらい大学に無事合格出来たのだと、何故か自慢げに話してくる。
それだけフジワラの事が大好きで、慕っているようだ。
私は自分が喉が酷く乾いていた事に今更気が付き有難くミネラルウォーターのペットボトルを頂くことにする。
喉を潤してから再びキャッブをしっかり閉める。
時計の針はそうしているうちにも進み、十一時を超えていく。
フジワラも時計を気にしつつ、三人の立ち位置と周りに地震が来た時に危なくなるものはないか気にしているようだ。
ここなら地震がきても直ぐにテーブルの下に隠れられる。
「ところで、俺が此処に来た事を周りに触れ回ってない?」
フジワラは記入した書類をファイル戻しミキトくんにわたす。
「ってお忍びだったんですか? 現場視察とか。
話したのはワタルさんだけですよ!」
「お忍びって……それに何を視察するんだ……俺が……」
突然三人のスマホが耳障りな警告音を発する。画面を見ると11:10:01の文字。
緊急事態を知らせる音。それに身体をびくつかせた直後にグラっつという小さい揺れを感じた。
それがジワジワと強くなっていく。周りのキャンプ場中から悲鳴が上がる。
「テーブルの下に!
ミキトくんも危ないからこっちに」
フジワラはミキトくんにも声をかけ三人でテーブルの下に隠れた。
建物も揺れているが家具が倒れるというほどでじゃないように感じる。
「なんか長いですね」
ミキトくんが不安そうな声を上げる。
ギジギシ揺れる建物を不安そうに見上げているしかできない。
三人で身体を引っ付けて揺れに耐えていると、地震の揺れは次第に収まった。
「とまった?」
私はそっとテーブルの下かから顔を出す。
揺れはもう感じない。
部屋の様子も何かが落ちたりといった変化はない。元々置物とか少ないと事もあるのだろう。
三人でテーブルの下から抜け出てウッドデッキに出て外の様子をみると、そこは地震の前と変わらぬ光景が広がっている。
突然の地震に動揺したことによりざわめきは残っているが平和な光景。
「大丈夫でした?」
フジワラと私にミキトくんは聞いてくる。私たちが大丈夫なのは見ても分かるのだろうが、何か話さずにいられないから声に出したというところだろう。
スマホをチェックすると今私達のいた地域に震度六の地震が起こったらしい。
「とりあえず状況を確認してきます。
余震がまたくるかもしれないので十分注意してくださいね。
ここは竹林の傍ですし、津波危険地域ではないので安全ですから」
ここ職員としてのモードが戻ったのか、部屋の設備に異常がないかチェックしてから、ミキトくんは出て行った。
私は部屋に戻りへたり込む。崖での恐怖が蘇ってきたから。
フジワラが慌てたように近づき起こしてくれて二人がけソファーへと移動させてくれた。
新しいペットボトルの水を持ってきてくれてローテーブルに置いてくれた。
私はペットボトルを開けようとするが身体の震えで上手く開かない。見かねて代わりにフジワラが開け私に持たせてくれる。震えながら一口飲む。少しだけ落ち着いてくる。
今の状況をどう判断するのか? 自殺しようとしていただけに「助かった」と喜ぶのもなんか違う気がする。
ローテーブルの上のテレビにあるリモコンが目に入る。私は手に取り電源を入れる。
何か情報が得られないかと思ったから。
色んな事が、この短い間に起こりずぎて脳が処理出来ない。
ブレイキングニュースとして、ここで震度六の地震があったこと津波情報はないということだけをアナウンサーは繰り返しているだけ。
フジワラはそんな私が大丈夫そうだと判断したのか、側を離れた。
外に置かれたままの食材の入ったクーラボックスや野菜の入ったダンボールを部屋に持ち込みテーブルに置く。
そのままどこか行ったので、私はキッチン部分に行き、肉などの食材を大きな冷蔵庫にしまう。
キャンプと言いつつ、ここはテレビでよく紹介される芸能人等のオシャレな別荘みたいだ。
車に置いてあった自分の荷物のリュックを持ってフジワラは電話しながら戻ってくる。
家族や知り合いの無事を確認しているようで、何か問題が起きていないか確認している。
私が食材をしまっているのを見て、電話を終えたフジワラもドリンクをドリンク専用の冷蔵庫へと移動させていく。
テレビが普通に使えて、冷蔵庫も冷えている。
ここはなんの問題もないようだ。
キャンプ場といいつつコテージなので冷房器具も完備の快適空間。
素敵なバーベキューが楽しめそうな食材を見つめながら、私は何しているのだろう? と思ってしまう。
つけっぱなしのテレビのニュースを気にしながら淡々と作業しているフジワラに視線を向ける。
「貴方は何者なの? 何故か何度も私の邪魔をするの? そしてこの状況はなになの!」
私の矢継ぎ早な質問にフジワラは困ったような顔をする。
「最初に会った時に話したと思いますが、フジハラアユム。この近所に住んでいる。
画家で、他に大学で講師とかもしています。
逆に確認させてもらいますね。
俺は貴方と会ったのは今日で三回目という認識で大丈夫ですよね?」
私は大きく頷く。
「そうよ! そしてなんなの! この状況!」
フジワラは悩むようにしばらく黙り込む。
「俺にも分かりません。
だから状況を一つずつ整理させてください」
私は頷くしかない。一人でこの不思議過ぎる状況を考えても何も分からず、何も進まなかったから。
「俺は一回目の今日は、君と二人で崖から落ちて死んだ。
二回目は俺は投身自殺して死んで。そのまま崖に残っていた君も地震の為に亡くなった。
そして三回目が今。これで合っていますよね?」
私は頷く。
「明らかに自分が死んだと感じた後、何故か今日の始まりに戻ってるの。
最初は夢だと思った。でもあの崖に行ったら貴方がいて……」
「俺も同じ感じですね」
冷静な口調でそう返される。
「貴方は自分もあそこで死ぬ筈だったみたいな事言っていたけどその意味は?
地震であそこが崩れることを知ってたの?」
フジワラは苦笑し顔を横にふる。
「俺も君と同じ目的であそこに行っていましたので。
それで来てみたら君がいたという所です」
何故、フジワラはこんな話を冷静に何でもない事のような感じで話すのだろうか?
この男が少し気持ち悪いと思ったのは、この冷静さだということも気がつく。
「だったら、何故、私の自殺を二度も邪魔したの!」
フジワラは私が変なことを聞いてきたといわんばかりに目を見開く。
「……逆の立場だったら? あそこに自殺しようと思って辿り着いたら先客がいた。
貴方ならどうしていました?
『奇遇ですね、自分もここに死にきたんです。これも何かの縁、共に飛び降りましょう』なんて事にはならなくないですか?」
私はそう言われ言葉に詰まる。フジワラに『ちょうど良かったです。では一緒に死にましょう』なんて言われていたら、あのように邪魔されるよりも更に嫌だっただろう。
フジワラという人物を見ていて、色々違和感しかない。自殺志願者にしては悲壮感がないような気がする。しかも先程ミキトくんとの対話を見ていても、人間関係も良好に築ける人で、自殺を考えなきゃならないほどの事情がある人にも感じない。
そして、この男は何の躊躇いもなく飛び降りた。
「何故、貴方は自殺をしようなんて考えたの?」
フジワラはその言葉に傷に触られたかのように顔を顰める。触れられたくない事を聞かれた人間の顔で、今まで見てきた中で一番人間臭い表情に見えた。
「……昨晩……愛を失いました」
「はぁ?」
返ってきたのがあまりにも自殺の原因としてはありきたりで、逆にありえない内容だったので私は驚く。
「……つまり女にフラれただけということ!?
しょうもない理由で死のうと思ったの?
あんたいくつよ!
そんな事で死んでいたら命がなんぼ合っても足りないわよ!」
フジワラは私の言葉に怒るでもなく困った人をみるように笑う。
「そういう貴方はどうなの?
でも、どんな理由であろうと俺は、君の理由を馬鹿にするつもりも否定するつもりはありません。
だって人が死を考えた程の理由。
その人にとってそれ程強い意味があったと思いますから」
静かにそう返されて私は何も言えなくなる。でも人からも慕われて、安くはないコテージや食材の料金を何の躊躇いもなく買っていることからお金もそれなりに持っている感じ。
車も安いのではないモノだった気がする。人生において恋愛以外何の問題もないような人が自殺しようとしているというのは何か違う気がした。
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普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』
そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・
※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。
様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。
小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。
ラヴィ
山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。
現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。
そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。
捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。
「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」
マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。
そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。
だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。
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