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AFTRE
【商店街夏祭り企画】花火と浴衣、そして金魚
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下に降りると、Blue Mallowの出店はもう終了していて、杜さん、澄さん、小野くんに加え、なぜか璃青さんのお母さんが黒猫の出店で仕事をしていた。四人でというか、澄さんとお母さん二人は楽しそうに売り子をしていて、それを杜さんはニコニコと見守り、小野くんは女性の会話に入れないのだろう少し引いて、仕事に専念している。
「どうも、お母さんまでお手伝いしてくださり申し訳ありません」
そう璃青さんのお母さんに挨拶するとお母さんはコロコロと笑い出す。
「あら、やだ、可愛い子にお母さんなんて呼ばれると照れちゃうわ~!」
ちょっと馴れ馴れしいかったかも、と反省する。澤山さんと呼ぶべきだったのだろうか? と今になって思う。そうなると璃青さんと区別つかないから悩ましい。
「璃青さんは? どちらに?」
なんかお母さん、少しお酒を飲まれたのだろうか? ものすごく元気というかテンションが高く、笑顔が弾けている。
「娘は、今閉店処理しているんですよ」
なるほどと、頷く。
「まあ、花火始まってしまったら商店街には人減るので、俺達も閉店だ。澤山さん、ウチのベランダから花火が結構見えるんですよ。良かったらご一緒にみませんか」
「まあ、素敵。いいんですか? 何だか図々しくありません?」
杜さんは、お母さんに話しかけている。今日一日隣でお仕事してスッカリ仲良くなったようだ。
そうしていると璃青さんが戻ってくる。
「璃青さん、皆でウチの庭で花火見ようという話になっているんだ。璃青さ……」
「そう言えば璃青さんはここの花火大会は初めてだよな。だったら是非河川敷で、近くで見るのをお薦めするよ!
ユキくん案内してあげたら?」
杜さんが珍しく俺の言葉を遮るようにそんな事言ってくる。
結構根小山ビルヂングから見ても充分綺麗なのだが、そう言われてしまうと、続けられなくなる。
「でしたら澤山のお母さんも一緒に行かれますか?」
そう聞いてみると、お母さんはブルブルと頭を横にふる。
「この歳になると人混みが辛いのよね。二人で行ってらっしゃい」
ここには小野くんもいるのになぜ、二人限定なのだろうか? 小野くんを見ると目が合う。
「お、俺は友人と約束あるので」
そうなのかと頷き、璃青さんを見る。彼女も約束がある可能性もある。するとお母さんと視線を合わせ、他人には分からない母子の無言の会話をしていた。
「璃青さん、約束があるのでしたら、気にせずそちらを優先してください」
そう言うと、璃青さんは慌てたように顔を横にふる。
「ううん。約束なんてないよ。ただユキくんに無理に付き合ってもらうみたいで悪いかな、って」
「そんな事ないですよ。このあと商店街ブラブラするか、部屋でノンビリ花火見るかという感じで、これと言った予定ないですので」
そう返すと 、フフと笑う。
「だったら、ご一緒してもいい?」
俺は笑みを返して頷く。
「澤山さん、璃青さんは俺が責任っもってエスコートしますので」
お母さんは俺の言葉にニコニコと笑う。
「この子、昔からちょっと抜けてる所があるのよねぇ。でも、ユキくんみたいにしっかりした男性と一緒なら安心ね。お任せしちゃって申し訳ないけど、よろしくね!」
何をもって俺がシッカリしているとしたのか謎だが、お母さんにそう任されてしまった。
二人は浴衣姿で河原ませの道を歩く。少しずつ辺り暗くなっていくのに、人は増えていく。俺や璃青さんに他の人の身体あ容赦なくぶつかってくる。ウッカリするとはぐれそうだ。俺は手を伸ばし璃青さんの手を握る。さっきとは逆に、今度は俺が璃青さんをエスコートする。会場が近づくにつれ人も増え、璃青さんの手が離れないようにと、握る力が強くなる。直に感じる肌の暖かさと軟らかさが心地良い。
「この辺りって、こうなっていたのね! 引っ越してきてからずっと駅周辺だけで過ごしていたから、実は河川敷に来るのも今日が初めてなのよ♪」
風に髪を靡かせながら璃青さんが呟く。
「ここ、結構良いところなんだよ。時間によって全然違う味わい見せるし。朝は特にオススメかな? 走ってて気持ち良い」
璃青さんはヘエと相槌を打つ。
「そうなんだ。ユキくんはよく来るの? ここ」
威勢のよい声で客を呼んでいる屋台が並ぶ前を二人で歩く
「ランニングコースですからね」
「えぇっ」
璃青さんは目を丸くしてコチラをみてくる。そんなに俺がランニングするのって意外なのだろうか?
「ユキくん、身体鍛えてるんだぁ……」
「……鍛えているわけではないけど、少しは体力つけねいと思って。キーボくんをちゃんとする為にも」
何故かキーボくんの名前を出したら納得してくれる。確かに俺は軟弱に見える体系と顔なのでスポーツとほど遠い印象があるので仕方がないのかもしれない。
「キーボくんの為かぁ。エライエライ」
璃青さんの言葉になんかガックリする。
「……ところで、お腹空いてませんか? 何か食べます?」
先ほどから興味ありげに屋台を見ていた璃青さんは、途端に目を輝かせ頷く。そして小走りでたこ焼きの屋台へと走り並び、コチラを見てニッコリ笑う。
「なんかね、大タコいいなぁ、って。ここ、美味しそうよね。ここでもいいかな?」
ただボーと屋台を見ていた俺とは異なり、璃青さんはちゃんとチェックしていたようだ。確かにそこの屋台は他の所よりも並んでいる人が多い。
並んでやっと入手できたたこ焼きは確かに中がアツアツトロトロで美味しかった。また二人でつつきながら楽しく食べた時間が楽しかったのもあるのかもれない。そのまま花火までの時間を、面白そうなものを次々楽しむ。屋台といったらテキ屋な感じの人がやっているイメージが強かったが、シェフ帽子かぶって串ステーキを売っている人、簡易カフェスタンドがあったり、ケバブやタコライスという感じでのを外国人が売っていたりと、かなり変わってきているようだ。
「最近の屋台って、見たことないのとか面白いものがいっぱいあるのね」
璃青さんはそう言いながら、雪花氷という台湾風かき氷を口に入れて幸せそうに笑う。そして視線を金魚釣りの屋台に視線を向ける。
「そういえば、わたし、子供の時から金魚釣りさせてもらえなかったのよね。釣るのが下手だったのもあるんだけど、親にその後のお世話大変でしょって言われちゃって」
俺の家は、こういう所すら連れていってもらえなかった。
「ウチは、危ないからって行かせてももらえなかった。そして杜さんに初めて連れていってもらった時は嬉しかったな」
フフフと璃青さんが笑う。
「子供時代のユキくんって、きっともっと可愛かったんだろうな………」
カワイイ……。俺をずっと悩ましてきた言葉。小学校まではよく女の子と間違われていた。
「璃青さん、金魚すくいしてみませんか?」
話をそらすために、金魚の屋台へ誘う。
「あっ」
俺が二匹目の金魚を洗面器に入れたときに、璃青さんのホイが破れてしまう。一匹も取れずに穴の開いたホイを恨めし気に見つめる。そんな璃青さんに気を取られていたために、自分の手元に視線を戻すと俺のホイも破れていた。二匹の金魚の入ったビニールを下げて歩いていると、璃青さんはまだ凹んでいるようだ。そして今度はヨーヨー釣りの屋台に視線をやり、俺をみてニヤリと笑う。その目はやる気に満ちている、意外と開けず嫌いなようだ。今回はうまく濡らさずに水ヨーヨーを釣ることができだようで、璃青さんの顔がパァと明るくなる。そして見事ゲットしたヨーヨーをもってコチラをいて嬉しそうに笑った。
流石に来るのが遅かった事もあり桟敷席の後ろから立ったままでの花火鑑賞となる。そして最初の花火があがった瞬間に自分の中の何かも弾けた気がした。
杜さんの言うように近いだけに、花火の音も直に胸に振動として伝わってくる感じでドキドキする。最初の打ち上げが終わった後二人で顔を見合わせて笑う。璃青さんの上気し少し頬を赤らめた顔、キラキラした瞳が俺と同じように興奮しているのが分かった。
『わぁ』、とか、『ほぉ』とかいう言葉しかなく、二人で夢中で花火を見つめる。迫力ある音に少しビビったように璃青さんが腕にギュッとしがみつき、音がする度にビクリと震える。しかし表情を見ると、楽しんでいるようでその瞳はまっすぐ空を見上げていて、その目の中でも花火が弾けている。俺の視線に気が付いたのか、コチラに視線を動かす。そして微笑む。
「すごい綺麗!まるで花火が降ってくるみたい。わたし、こんな近くで花火を見るの、初めてなの」
その通りだったので、俺も頷き二人で再び艶やかな空を見上げる。興奮も冷める間もなく、花火は打ち上がり続け、二時間もあっという間だった。最後の花火が終わったのを見終わって二人で『はぁ』と同時にため息をつく。そして顔を見合せると、璃青さんは何故かギョッとしたような顔をして抱きついていた手を離し距離をとる。
そのあと、何故か不自然な感じで黙ったまま帰路につくことになる。行きとは違い、全員が駅方面に移動する為に若干混乱している。璃青さんは人に押され辛そうにしている。俺はその細い肩に手を回し守る為に抱き寄せた。璃青さんはビクリと身体を震わせたけど、人込みで他の人にぶつかっれまくりどうしようもなくなっていた事で、俺にしがみつき耐える。
人込みを避けるために、裏道へと逃げ二人でホッとする。スペースが出来た事で二十センチくらいの距離をとり家に向かう事にするが、璃青さんが少し足を引きずっているのに気が付いた。
「どうしたの? もしかして足痛めました」
俺の言葉に、璃青さんは困ったように笑う。
「ううん。足は大丈夫なんだけど、どうやら草履の鼻緒がとれかかっているみたいなの」
怪我をした訳ではない事にホッとする。
「大丈夫?」
璃青さんはこっちに気を使うように笑い頷く。
「ん、多分大丈夫。家まではなんとかもつと思う」
俺は手を璃青さんに差し伸べる。
「じゃあ無理せずゆっくり歩きますか」
璃青さんは少し戸惑う仕儀を見せるけれどその手をとりそのまま二人で手を繋いで帰った。
「この花火大会、こんなに人がいるなんてビックリした! 結構人気のある花火大会だったのね」
璃青さんは根小山ビルヂングの下についたとき、そう言いながら、手をすっと恥ずかしそうにひっこめる。
「俺も驚きました」
若干距離をとった璃青さんのこと気になったけど、あえて普通に言葉を返した。
何故だろうか? 璃青さんの顔が悲しげに見える。
「迷惑かけてごめんなさい。今日はエスコート、どうもありがとう」
「迷惑だなんて。俺は楽しかったですよ、璃青さんと花火見れて。……そうだ、良かったらこの金魚、貰ってくれませんか?」
ふと手で下げていた金魚を思いだしそういってみる。
「ユキくんがせっかく取ったのに。貰っちゃっていいの?」
「俺の?というか二人で一緒にとった金魚ですよね。それに璃青さんすごく必死になって金魚狙っていたから。欲しかったんですよね?」
金魚の群を真剣な表情で見つね狙っていた姿を思い出す。
「うん、そうね。欲しかった、かな。嬉しいよ。ありがとう、大事に飼うね。明日、早速水槽とこの子たちのご飯を買いに行ってくる」
その言葉に、金魚飼うのには、色々用意すものがある事に今更だが気が付く。
「そういえばそういったモノも必要でしたね!だったら明日買いに行きましょうか」
すると、璃青さんは慌てる。
「えっ?ど、どうかな。そんなに大きい水槽でなければ。だって二匹だし………」
もしかして俺、煙たがれている?
「いや、水槽とかそういったのって軽くないですよ!そもそも荷物持ちとか、俺を色々頼ってくれっていいましたよね?」
俺でも荷物持ちにはなれる
「や、いいよいいよ、さすがに悪いよ!これは飼い主になったわたしの責任でもあるんだから。気にしないで?」
そう言われると若干、意地になっている自分を感じる。
「釣ったのは俺だから、俺にも義務があります!」
役立たずと思われるのも悲しい。そこで無駄な押し問答になる。
「ダメだよそんなの。わたしも行くよ」
なんか必死なった自分と、一生懸命な自分がオカシクなる。
「璃青さん、意外と頑固ですね」
「そ、そっちこそ」
二人で笑ってしまうと、空気がんとも穏やかになる。
「…………俺って、璃青さんからみて、そんなに頼りないですか?」
ついでだから、気になる事を聞いてみる。
「え?」
キョトンとして、すぐに璃青さんは首を横に振る。『そんな事全くないよ~むしろ逆で……』モゴモゴと恥ずかしそうそう言いコチラを見上げてくる。その言い方から遠慮していうだけなのが分かった。
「明日、朝から商店街の皆で片付けがあるから、それが終わったら一緒に行きましょう」
また、一人で無理しないように、そう言い切る事にした。
「……わかったわ。じゃあ、よろしくお願いします」
ヤレヤレという感じましそう言って瑠璃青さんは溜め息をつく。少し呆れられたよいだけど、金魚を渡してしまっただけに、それが璃青さんの負担にならないようにしたかった。
「お休みなさい。今日は一日お疲れ様でした、ゆっくり休んでくださいね」
そう挨拶すると、何故か璃青さんは面白そうに笑う。
「ユキくんもお疲れ様でした。……お休みなさい」
俺は璃青さんがお店に入る気配をかんじながらビルの階段登る。手元から今まで持っていた金魚がいなくなったのと、一人になったのとで少し寂しく感じた。
翌日、中央広場の舞台の撤去と花火大会客が置いていった大量のゴミの掃除のため商店街皆で協力して作業のお片付けをする。時たま、違う作業をしている璃青さんに目があってしまう。するとニッコリ笑ってコチラに手を振ってくれるのを見て、昨日強引過ぎて気を悪くされた感じはない事にホッとして俺も手を振り返す。
そして作業が終わり、二人で一旦家に戻り着替えてから、駅前デパートにあるペットショップを訪れた。
たかだか金魚二匹とはいえ、水槽と、中に敷く砂利、ブクブクしながら酸素を送るエアレーション、汚れたお水をろ過する循環ポンプ、水道水のカルキ抜き、バクテリア、水質安定剤、水槽内の苔のお掃除をしてくれるヤマトヌマエビ、そして餌と水草と、結構用意すべきものが多いのに呆然とする。
店員さんと楽し気に話をしていた璃青さんがお金を普通に払おうとするのを見て俺は慌てる
「釣ったのは俺ですよ」
「飼い主はわたしよ?」
「だからって、こんなに沢山買って頂くわけにはいきませんよ」
そんな言いあいになってしまい、レジの人も困っているが、ここは譲れない。しかし、璃青さんは一歩も引かない。
「……じゃあね、エビさんと餌と水草だけお願いしてもいい?」
なんか妥協で一部だけを俺に渡して、さっさとカードで支払をお願いしてしまった。
「わかりました、今日のところは妥協します。その代わり、養育費として餌は俺がずっと買ってもいいですよね。あと、要るものがまた出てきたら、その都度買いに来ますから」
このままだと、俺は勝手に金魚押し付けた、無責任の人になってしまう。
「……わかったわ」
帰りはせめてと水槽や、エアレーション、汚れたお水をろ過する循環ポンプ、砂利といった重い荷物を俺が持って帰る。Blue Mallowに戻り、二人で準備することにする。
「水槽はお店に置こうと思うの。インテリアにもなるし、ユキくんも、いつでもこの子たちに会いに来れるでしょう?」
お店の中の棚に、瑠璃さんの指示し場所に水槽を置く。その様子を満足そうに見守り、瑠璃さんは俺にニッコリと笑う。なんかその言葉が無性に嬉しかった。
「そうですね。きっと見に来ますよ。餌のこともありますし。では早速水槽をセットして、金魚を移してあげましょう」
二人でセットした水槽に、二匹の金魚が元気に泳ぎだしたのを見てホッとして二人で顔を見合わせて笑う。動物って実は、まったく飼った事なかったけど、この金魚の面倒を見ているうちに凄く可愛く思えてきた。水槽の中を気ままに泳ぐ金魚の姿を飽きることもなく見つめ続けてしまい、瑠璃さんに呆れられた。
「どうも、お母さんまでお手伝いしてくださり申し訳ありません」
そう璃青さんのお母さんに挨拶するとお母さんはコロコロと笑い出す。
「あら、やだ、可愛い子にお母さんなんて呼ばれると照れちゃうわ~!」
ちょっと馴れ馴れしいかったかも、と反省する。澤山さんと呼ぶべきだったのだろうか? と今になって思う。そうなると璃青さんと区別つかないから悩ましい。
「璃青さんは? どちらに?」
なんかお母さん、少しお酒を飲まれたのだろうか? ものすごく元気というかテンションが高く、笑顔が弾けている。
「娘は、今閉店処理しているんですよ」
なるほどと、頷く。
「まあ、花火始まってしまったら商店街には人減るので、俺達も閉店だ。澤山さん、ウチのベランダから花火が結構見えるんですよ。良かったらご一緒にみませんか」
「まあ、素敵。いいんですか? 何だか図々しくありません?」
杜さんは、お母さんに話しかけている。今日一日隣でお仕事してスッカリ仲良くなったようだ。
そうしていると璃青さんが戻ってくる。
「璃青さん、皆でウチの庭で花火見ようという話になっているんだ。璃青さ……」
「そう言えば璃青さんはここの花火大会は初めてだよな。だったら是非河川敷で、近くで見るのをお薦めするよ!
ユキくん案内してあげたら?」
杜さんが珍しく俺の言葉を遮るようにそんな事言ってくる。
結構根小山ビルヂングから見ても充分綺麗なのだが、そう言われてしまうと、続けられなくなる。
「でしたら澤山のお母さんも一緒に行かれますか?」
そう聞いてみると、お母さんはブルブルと頭を横にふる。
「この歳になると人混みが辛いのよね。二人で行ってらっしゃい」
ここには小野くんもいるのになぜ、二人限定なのだろうか? 小野くんを見ると目が合う。
「お、俺は友人と約束あるので」
そうなのかと頷き、璃青さんを見る。彼女も約束がある可能性もある。するとお母さんと視線を合わせ、他人には分からない母子の無言の会話をしていた。
「璃青さん、約束があるのでしたら、気にせずそちらを優先してください」
そう言うと、璃青さんは慌てたように顔を横にふる。
「ううん。約束なんてないよ。ただユキくんに無理に付き合ってもらうみたいで悪いかな、って」
「そんな事ないですよ。このあと商店街ブラブラするか、部屋でノンビリ花火見るかという感じで、これと言った予定ないですので」
そう返すと 、フフと笑う。
「だったら、ご一緒してもいい?」
俺は笑みを返して頷く。
「澤山さん、璃青さんは俺が責任っもってエスコートしますので」
お母さんは俺の言葉にニコニコと笑う。
「この子、昔からちょっと抜けてる所があるのよねぇ。でも、ユキくんみたいにしっかりした男性と一緒なら安心ね。お任せしちゃって申し訳ないけど、よろしくね!」
何をもって俺がシッカリしているとしたのか謎だが、お母さんにそう任されてしまった。
二人は浴衣姿で河原ませの道を歩く。少しずつ辺り暗くなっていくのに、人は増えていく。俺や璃青さんに他の人の身体あ容赦なくぶつかってくる。ウッカリするとはぐれそうだ。俺は手を伸ばし璃青さんの手を握る。さっきとは逆に、今度は俺が璃青さんをエスコートする。会場が近づくにつれ人も増え、璃青さんの手が離れないようにと、握る力が強くなる。直に感じる肌の暖かさと軟らかさが心地良い。
「この辺りって、こうなっていたのね! 引っ越してきてからずっと駅周辺だけで過ごしていたから、実は河川敷に来るのも今日が初めてなのよ♪」
風に髪を靡かせながら璃青さんが呟く。
「ここ、結構良いところなんだよ。時間によって全然違う味わい見せるし。朝は特にオススメかな? 走ってて気持ち良い」
璃青さんはヘエと相槌を打つ。
「そうなんだ。ユキくんはよく来るの? ここ」
威勢のよい声で客を呼んでいる屋台が並ぶ前を二人で歩く
「ランニングコースですからね」
「えぇっ」
璃青さんは目を丸くしてコチラをみてくる。そんなに俺がランニングするのって意外なのだろうか?
「ユキくん、身体鍛えてるんだぁ……」
「……鍛えているわけではないけど、少しは体力つけねいと思って。キーボくんをちゃんとする為にも」
何故かキーボくんの名前を出したら納得してくれる。確かに俺は軟弱に見える体系と顔なのでスポーツとほど遠い印象があるので仕方がないのかもしれない。
「キーボくんの為かぁ。エライエライ」
璃青さんの言葉になんかガックリする。
「……ところで、お腹空いてませんか? 何か食べます?」
先ほどから興味ありげに屋台を見ていた璃青さんは、途端に目を輝かせ頷く。そして小走りでたこ焼きの屋台へと走り並び、コチラを見てニッコリ笑う。
「なんかね、大タコいいなぁ、って。ここ、美味しそうよね。ここでもいいかな?」
ただボーと屋台を見ていた俺とは異なり、璃青さんはちゃんとチェックしていたようだ。確かにそこの屋台は他の所よりも並んでいる人が多い。
並んでやっと入手できたたこ焼きは確かに中がアツアツトロトロで美味しかった。また二人でつつきながら楽しく食べた時間が楽しかったのもあるのかもれない。そのまま花火までの時間を、面白そうなものを次々楽しむ。屋台といったらテキ屋な感じの人がやっているイメージが強かったが、シェフ帽子かぶって串ステーキを売っている人、簡易カフェスタンドがあったり、ケバブやタコライスという感じでのを外国人が売っていたりと、かなり変わってきているようだ。
「最近の屋台って、見たことないのとか面白いものがいっぱいあるのね」
璃青さんはそう言いながら、雪花氷という台湾風かき氷を口に入れて幸せそうに笑う。そして視線を金魚釣りの屋台に視線を向ける。
「そういえば、わたし、子供の時から金魚釣りさせてもらえなかったのよね。釣るのが下手だったのもあるんだけど、親にその後のお世話大変でしょって言われちゃって」
俺の家は、こういう所すら連れていってもらえなかった。
「ウチは、危ないからって行かせてももらえなかった。そして杜さんに初めて連れていってもらった時は嬉しかったな」
フフフと璃青さんが笑う。
「子供時代のユキくんって、きっともっと可愛かったんだろうな………」
カワイイ……。俺をずっと悩ましてきた言葉。小学校まではよく女の子と間違われていた。
「璃青さん、金魚すくいしてみませんか?」
話をそらすために、金魚の屋台へ誘う。
「あっ」
俺が二匹目の金魚を洗面器に入れたときに、璃青さんのホイが破れてしまう。一匹も取れずに穴の開いたホイを恨めし気に見つめる。そんな璃青さんに気を取られていたために、自分の手元に視線を戻すと俺のホイも破れていた。二匹の金魚の入ったビニールを下げて歩いていると、璃青さんはまだ凹んでいるようだ。そして今度はヨーヨー釣りの屋台に視線をやり、俺をみてニヤリと笑う。その目はやる気に満ちている、意外と開けず嫌いなようだ。今回はうまく濡らさずに水ヨーヨーを釣ることができだようで、璃青さんの顔がパァと明るくなる。そして見事ゲットしたヨーヨーをもってコチラをいて嬉しそうに笑った。
流石に来るのが遅かった事もあり桟敷席の後ろから立ったままでの花火鑑賞となる。そして最初の花火があがった瞬間に自分の中の何かも弾けた気がした。
杜さんの言うように近いだけに、花火の音も直に胸に振動として伝わってくる感じでドキドキする。最初の打ち上げが終わった後二人で顔を見合わせて笑う。璃青さんの上気し少し頬を赤らめた顔、キラキラした瞳が俺と同じように興奮しているのが分かった。
『わぁ』、とか、『ほぉ』とかいう言葉しかなく、二人で夢中で花火を見つめる。迫力ある音に少しビビったように璃青さんが腕にギュッとしがみつき、音がする度にビクリと震える。しかし表情を見ると、楽しんでいるようでその瞳はまっすぐ空を見上げていて、その目の中でも花火が弾けている。俺の視線に気が付いたのか、コチラに視線を動かす。そして微笑む。
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そのあと、何故か不自然な感じで黙ったまま帰路につくことになる。行きとは違い、全員が駅方面に移動する為に若干混乱している。璃青さんは人に押され辛そうにしている。俺はその細い肩に手を回し守る為に抱き寄せた。璃青さんはビクリと身体を震わせたけど、人込みで他の人にぶつかっれまくりどうしようもなくなっていた事で、俺にしがみつき耐える。
人込みを避けるために、裏道へと逃げ二人でホッとする。スペースが出来た事で二十センチくらいの距離をとり家に向かう事にするが、璃青さんが少し足を引きずっているのに気が付いた。
「どうしたの? もしかして足痛めました」
俺の言葉に、璃青さんは困ったように笑う。
「ううん。足は大丈夫なんだけど、どうやら草履の鼻緒がとれかかっているみたいなの」
怪我をした訳ではない事にホッとする。
「大丈夫?」
璃青さんはこっちに気を使うように笑い頷く。
「ん、多分大丈夫。家まではなんとかもつと思う」
俺は手を璃青さんに差し伸べる。
「じゃあ無理せずゆっくり歩きますか」
璃青さんは少し戸惑う仕儀を見せるけれどその手をとりそのまま二人で手を繋いで帰った。
「この花火大会、こんなに人がいるなんてビックリした! 結構人気のある花火大会だったのね」
璃青さんは根小山ビルヂングの下についたとき、そう言いながら、手をすっと恥ずかしそうにひっこめる。
「俺も驚きました」
若干距離をとった璃青さんのこと気になったけど、あえて普通に言葉を返した。
何故だろうか? 璃青さんの顔が悲しげに見える。
「迷惑かけてごめんなさい。今日はエスコート、どうもありがとう」
「迷惑だなんて。俺は楽しかったですよ、璃青さんと花火見れて。……そうだ、良かったらこの金魚、貰ってくれませんか?」
ふと手で下げていた金魚を思いだしそういってみる。
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「俺の?というか二人で一緒にとった金魚ですよね。それに璃青さんすごく必死になって金魚狙っていたから。欲しかったんですよね?」
金魚の群を真剣な表情で見つね狙っていた姿を思い出す。
「うん、そうね。欲しかった、かな。嬉しいよ。ありがとう、大事に飼うね。明日、早速水槽とこの子たちのご飯を買いに行ってくる」
その言葉に、金魚飼うのには、色々用意すものがある事に今更だが気が付く。
「そういえばそういったモノも必要でしたね!だったら明日買いに行きましょうか」
すると、璃青さんは慌てる。
「えっ?ど、どうかな。そんなに大きい水槽でなければ。だって二匹だし………」
もしかして俺、煙たがれている?
「いや、水槽とかそういったのって軽くないですよ!そもそも荷物持ちとか、俺を色々頼ってくれっていいましたよね?」
俺でも荷物持ちにはなれる
「や、いいよいいよ、さすがに悪いよ!これは飼い主になったわたしの責任でもあるんだから。気にしないで?」
そう言われると若干、意地になっている自分を感じる。
「釣ったのは俺だから、俺にも義務があります!」
役立たずと思われるのも悲しい。そこで無駄な押し問答になる。
「ダメだよそんなの。わたしも行くよ」
なんか必死なった自分と、一生懸命な自分がオカシクなる。
「璃青さん、意外と頑固ですね」
「そ、そっちこそ」
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「…………俺って、璃青さんからみて、そんなに頼りないですか?」
ついでだから、気になる事を聞いてみる。
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キョトンとして、すぐに璃青さんは首を横に振る。『そんな事全くないよ~むしろ逆で……』モゴモゴと恥ずかしそうそう言いコチラを見上げてくる。その言い方から遠慮していうだけなのが分かった。
「明日、朝から商店街の皆で片付けがあるから、それが終わったら一緒に行きましょう」
また、一人で無理しないように、そう言い切る事にした。
「……わかったわ。じゃあ、よろしくお願いします」
ヤレヤレという感じましそう言って瑠璃青さんは溜め息をつく。少し呆れられたよいだけど、金魚を渡してしまっただけに、それが璃青さんの負担にならないようにしたかった。
「お休みなさい。今日は一日お疲れ様でした、ゆっくり休んでくださいね」
そう挨拶すると、何故か璃青さんは面白そうに笑う。
「ユキくんもお疲れ様でした。……お休みなさい」
俺は璃青さんがお店に入る気配をかんじながらビルの階段登る。手元から今まで持っていた金魚がいなくなったのと、一人になったのとで少し寂しく感じた。
翌日、中央広場の舞台の撤去と花火大会客が置いていった大量のゴミの掃除のため商店街皆で協力して作業のお片付けをする。時たま、違う作業をしている璃青さんに目があってしまう。するとニッコリ笑ってコチラに手を振ってくれるのを見て、昨日強引過ぎて気を悪くされた感じはない事にホッとして俺も手を振り返す。
そして作業が終わり、二人で一旦家に戻り着替えてから、駅前デパートにあるペットショップを訪れた。
たかだか金魚二匹とはいえ、水槽と、中に敷く砂利、ブクブクしながら酸素を送るエアレーション、汚れたお水をろ過する循環ポンプ、水道水のカルキ抜き、バクテリア、水質安定剤、水槽内の苔のお掃除をしてくれるヤマトヌマエビ、そして餌と水草と、結構用意すべきものが多いのに呆然とする。
店員さんと楽し気に話をしていた璃青さんがお金を普通に払おうとするのを見て俺は慌てる
「釣ったのは俺ですよ」
「飼い主はわたしよ?」
「だからって、こんなに沢山買って頂くわけにはいきませんよ」
そんな言いあいになってしまい、レジの人も困っているが、ここは譲れない。しかし、璃青さんは一歩も引かない。
「……じゃあね、エビさんと餌と水草だけお願いしてもいい?」
なんか妥協で一部だけを俺に渡して、さっさとカードで支払をお願いしてしまった。
「わかりました、今日のところは妥協します。その代わり、養育費として餌は俺がずっと買ってもいいですよね。あと、要るものがまた出てきたら、その都度買いに来ますから」
このままだと、俺は勝手に金魚押し付けた、無責任の人になってしまう。
「……わかったわ」
帰りはせめてと水槽や、エアレーション、汚れたお水をろ過する循環ポンプ、砂利といった重い荷物を俺が持って帰る。Blue Mallowに戻り、二人で準備することにする。
「水槽はお店に置こうと思うの。インテリアにもなるし、ユキくんも、いつでもこの子たちに会いに来れるでしょう?」
お店の中の棚に、瑠璃さんの指示し場所に水槽を置く。その様子を満足そうに見守り、瑠璃さんは俺にニッコリと笑う。なんかその言葉が無性に嬉しかった。
「そうですね。きっと見に来ますよ。餌のこともありますし。では早速水槽をセットして、金魚を移してあげましょう」
二人でセットした水槽に、二匹の金魚が元気に泳ぎだしたのを見てホッとして二人で顔を見合わせて笑う。動物って実は、まったく飼った事なかったけど、この金魚の面倒を見ているうちに凄く可愛く思えてきた。水槽の中を気ままに泳ぐ金魚の姿を飽きることもなく見つめ続けてしまい、瑠璃さんに呆れられた。
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【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】
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【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】
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【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】
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蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
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幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
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隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
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