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BEFORE

オフ会で生まれたモノ

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 色んな事があって若干疲れを感じながら黒猫での通常業務に戻った。まだオープンしたてで、barにきたというより軽めの夕飯を楽しみきたサラリーマンとか、カフェ替わりに食事前の一時過ごす女性、待ち合わせのカップルとかがまったりしている感じ。演奏しにきている学生も聞かせる為というか、音合わせをすませ指ならしも兼ねて音で遊んでいる。
  Jazzに充たされた、何処か切なく大人なディープさを漂わせた遅い時間帯の黒猫店内も良いのだが、この時間帯ならではのスローな空気も俺は好きである。


 カララァァァァァラァァァァアア

 なんか昼間にも聞いたような元気な音がしてBarの入り口の扉が開く。するとそこにまた二号さんが立っていた。そんなはずはないと、顔を横に振る。改めて見ると違った。精悍な顔立ちの男性が『よ!』と手を上げ俺を見てニヤリと笑う。なんかダメだ、その人物の顔がどうしてもキーボ君二号に見える。
「よお、素では初めまして」
 俺に近づいてきてそう挨拶する。
「二号、さん?」
 やはりこの声からもキーボ君二号の安住さんである。
「安住です、初めまして」
「あ、どうも、東明です」
 昼間に手を繋いで一緒に歩いた関係なのに何処か他人行儀な挨拶を交わす。なんとも不思議な感。これはネットのオフ会に近い感覚なのだろうか? 着ぐるみオフという意味ではオフ会であっているのかもしれない。
 立ったままなのも可笑しいので中に促すと、カウンターの中にいる杜さんに挨拶してカウンター席に座る。その時少し足を引き摺っているのに気がついた。
「安住さん、足、どうしたんですか?」
そう聞くと安住さんは、ばつが悪い顔をする。
「ああ、これ? 訓練中にドジって」
訓練中? 先程の万引き犯との取っ組みあいではなく?
「怪我してたんですか?」
「軽い捻挫程度で大したことないから……」
 そう聞くと頬をボリポリ掻きながらそう答える安住さん。そんな怪我しているような人に仕事押し付けていたという事実にも落ち込むし、安住さんにも頭にきた。
「なんで、怪我していたのにあんな無茶したんですか!」
 無茶だけでない、怪我した身体でどうしてキーボ君の仕事引き受けたりしたのか? だったら最初から『足が負傷してあるから無理!』と俺にふってくれれば良かったのに。
「この程度の怪我はいつものことだし大したことないさ。ま、あと一週間ぐらいで元通り」
 そう言ってニカッと明るく笑う。
「大事な身体じゃないですか! もっと大切にしないと!」
 安住さんは普通の仕事ではない。特に身体が基本。足を引き摺るような怪我していたら業務に支障をきたす筈。
「俺はもともと頑丈な人間だからさ、そんな心配すること無いんだって」
 尚も能天気な口調で安住さんはそんな事言ってくる。そして考えるこの人黒猫に何しに来たのだろう?Jazzが好きな人にも見えないし。
 大の大人がBarにしにくる事と言ったら聞くまでもないだろう。お酒を呑みにきたと言うことになる。
 そしてこう言う感じの人だから、『酒は薬だから、いっぱい飲めば怪我も吹き飛ぶ』とか言いそうである。
 それに傷み止めとか飲んでいたら、余計にお酒はまずそうだ。となると身体に優しく怪我に良さそうなモノ与えるべきだろう。
「おーい、東明くーん、聞いてるか―?」
 声に気が付き安住さんに視線を向けると、ヘラっと笑って手を俺の目の前で振ってくる。少し自分の世界にいたようだ。
「別にこれ、東明君のせいじゃないんだからそんな気にすること無いんだぞ?」
 安住さんは笑いながらそう言うが、怪我しているのにキーボ君の仕事をさせ無理させたのは俺である。
「今スムージーでも作りますから座っていてください!」
 言ってからスムージーは悪くないかもしれないと気がつく。欲しい効能をチョイスして作成出来る。
「お、おう・・・?」
 そう答える安住さんを後にしてカウンターに入る。
 ミキサーをセットして、さて何スムージーにしようかと悩む。
坑酸化作用に、カルシウムも欲しいから豆乳の半量を牛乳にして、キュウイにリンゴにほうれん草、モロヘイヤ、アボガドと色々放り込んでミキサーを回す。味を確認すると効能重視で作った為が少し青臭い。冷凍バナナとパインも加え臭み取りにレモンとハチミツを加えさらに回す。結果スゴい色のスムージーが大量に出来上がる、味は……悪くない。でも通常のスムージーと比べてかなりドロ~としていて気持ち悪い。
 小さいグラスに分けてjazzバンドのメンバーに配り試して見ることにする。意外と見た目気にせず、皆笑顔で受け取り嬉しそうに飲んで『旨い』と喜んでくれたから大丈夫だろう。
 残りを大ピッチャーに注ぐ。並々に注がれたどす黒い緑の液体を持っていくと、安住さんも流石にひいてはいた。
「なあ東明君、これは……」
「キウイとリンゴを使ったスムージーです、美味しいですよ」
 なるべくさりげなさを装ってそう促した。
他にも色々入れたけれど、全部説明するのは正直面倒である。薄暗い店内だから分かり辛くなっているけれど、確かに見た目ホラーな色調のドロドロの飲み物を出した認識はある。
「そっか……ヨモギじゃないんだな?」
 安住さんはヨモギが相当嫌いなようだ。だから孝子さんのクッキーに悲鳴あげていたのかと納得する。
「違いますよ」
 恐る恐るといった様子で大ジョッキに口をつける安住さん。意外と食べ物には慎重な所があるようだ。そして飲んで驚いた顔をしてから笑顔になる。
「美味い」
 そう言って更にゴクゴク飲んでくれたのを見てホッとした。
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