上 下
2 / 59
BEFORE

(希望+夢)×(愛+優しさ)=キーボ君

しおりを挟む
 俺が入る事になったキーボ君とはそもそも何者なのか?
  見た目は青いクラゲに、手足が生えた感じでレインボーカラーの飾りのついた黄色いベレー帽っぽいのが頭にのっている。
  資料を見ると『希望が丘駅前商店街、ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘にやって来たみんなのお友達』とあり、希望と夢の妖精らしい。『希望』とか『夢』とか、何故そんな漠然としたものをマスコットにしたのか? 希望と夢に、愛と優しさを掛け合わせた結果この青い謎の生物となったようだ。頭にのっている黄色いベレー帽みたいのは帽子ではなく、『希望』らしい。そして虹色の飾りは『愛の取っ手』でエコバックを表現してあり『地球に優しく』を訴えているらしい。絶対後付けの設定だ。

  で、それらを全部踏まえた感じでキーボ君を演じて欲しいと、ムチャ振りされた。
  着てみると結構重い。昔の潜水服着ているような気分だ。成る程、目の部分全体が透けていて外部を見られるようだ。中は真っ暗という訳ではなく、全体からぼんやりと光が透けている為意外と明るい。
 「きゃー、可愛い」
  可愛らしく声を上げる雪さん。
 「いいじゃない! 素敵よ」
  ニコニコ笑いそういう籐子女将の言葉に頷く澄さん。
 「本当に、透ユキくんにピッタリだわ! 似合うよね~」
  何故か感心したように紬さんはそう言ってくる。
  キグルミに似合うもピッタリもないと思うのだが、よく分からない絶賛の声に俺は微妙な顔するしかなかった。しかし褒めている叔母達には、ニヤリと笑った満足気なキーボ君の顔しか見えていないだろう。
  彼女達に言われるままに、手を挙げたり、歩いてみたり、ターンしてみたりと動いては歓声をもらい、なんだか妙な気分だった。

  一時間後、流石に初めてのキグルミを着て疲れて、ソファーで炭酸水を飲みながら休憩させてもらうことにする。しかし皆さんは元気なままで、横で女性五人はまだキーボ君を囲んで『あ~だ、こ~だ』と話し合っている。そしてキグルミ大改造が慣行される。内側にはペットボトルをセット出来るドリンクホルダーと、私物? を入れる為のポケットと、何故か荷物をかけられるフックがつけられた。

 「これで、居住性はかなり良くなったと思うから、頑張ってね!」
  集団で笑顔でそう言われると、俺は頷くしかない。もう完全に後には退けない。お礼をいいつつキーボ君(改)を怖ず怖ずと受け取った。

  今週末の節分祭りで、お披露目となりそれから、神出鬼没に登場しては商店街を盛り上げて行くという、ザックリとしたスケジュールによりキーボ君プロジェクトはスタートした。
  そう思いながらJazz Bar黒猫の上にある叔母の家で、タオルを頭と首に巻き、水のペットボトルを仕込みキーボ君を着る。細い出入り口をムニ~と身体を潰してなんとか通り抜け、背中のチャックを開け後ろ手で玄関の鍵を閉めてそれをジーンズのポケットにつっこみ内側から後ろのチャックを閉じる。エレベーターのボタンを一階押すつもりが、二階も同時に押してしまったものの何とか下に降りる事が出来た。お祭り総合本部となっている篠宮酒店の倉庫を先ずは目指すことにした。その倉庫まで十メートルくらい。しかも商店街から一本後ろの小道にあるので、こんな格好でも目立たないで移動出来るだろう。
   一番の不安は、果たしてこの青い謎の生物が皆に受け入れられるのか? 俺はキーボ君を上手くやれるのか? 人の前に出るのもあまり得意ではない俺が。振り向くとエレベーターの扉に、俺ではなく、青いキーボ君がぼんやりと映っている。不安をこっそり打ち明けた叔父の根小山 杜さんの言葉を思い出す。
 『せっかく自分ではない別のモノになれるチャンスではないか! 転ぼうが、失敗しようが、見ているヤツからしてみたら、それは青いぬいぐるみキーボ君の姿。だから何も恐れる事はないだろ!』
  そう、今は東明透でも、透明人間でもない、俺はキーボ君なんだ!
  そう言い聞かせ、俺は深呼吸をしてキーボ君の第一歩を踏み出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。 国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街はパワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。 その商店街にあるJazzBar『黒猫』にバイトすることになった小野大輔。優しいマスターとママ、シッカリしたマネージャーのいる職場は楽しく快適。しかし……何か色々不思議な場所だった。~透明人間の憂鬱~と同じ店が舞台のお話です。 ※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に商店街には他の作家さんが書かれたキャラクターが生活しており、この物語においても様々な形で登場しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。 コラボ作品はコチラとなっております。 【政治家の嫁は秘書様】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】  https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ 【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376  【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

マインハールⅡ ――屈強男×しっかり者JKの歳の差ファンタジー恋愛物語

花閂
ライト文芸
天尊との別れから約一年。 高校生になったアキラは、天尊と過ごした日々は夢だったのではないかと思いつつ、現実感のない毎日を過ごしていた。 天尊との思い出をすべて忘れて生きようとした矢先、何者かに襲われる。 異界へと連れてこられたアキラは、恐るべき〝神代の邪竜〟の脅威を知ることになる。 ――――神々が神々を呪う言葉と、誓約のはじまり。

王子様な彼

nonnbirihimawari
ライト文芸
小学校のときからの腐れ縁、成瀬隆太郎。 ――みおはおれのお姫さまだ。彼が言ったこの言葉がこの関係の始まり。 さてさて、王子様とお姫様の関係は?

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...