上 下
34 / 35
第四種接近遭遇

ふと漏れてしまった本音 ~<レシピ>ネギ背負いブタ~

しおりを挟む
 私はその日、仕事が終わったら家に飛び帰り、シャワーを軽く浴び着替える。お泊まり出来るように着替えと、冷蔵庫で使えそうな食材をかばんに入れて部屋を飛び出た。電車に乗って通いなれてきた清酒さんの部屋のある駅に到着。駅前のスーパーで買い物して、ドキドキしながら借りた鍵で清酒さんの部屋に入る。
「おじゃましま~す」
 清酒さんはまだ仕事中だから、勿論返事はない。けれど、そう挨拶して私はそそくさと中に入る。スーパーのレジ袋をテーブルに置き周りを見回してみる。
 最初に来た時とあまり変わってない。
 ソファーに雑誌と新聞が放り投げてあって、流しには朝食べた後であるであろう食器が置かれている。そこに清酒さんの生活の影を感じて嬉しくなる。
 まず、お米を研ぎ炊飯器にセット。
 私は流しに置かれたままの食器を洗い片付けてから夕飯の準備を始める事にした。
 長ネギを縦に細かく切り白髪ネギをつくり、それをめんつゆにつけ込む。
 タマネギを千切りにしてお皿に広げ放置。トースターでアジの干物を焼き、レタスを千切り水にさらす。トマト、セロリーといった野菜をカットした。トースターで焼けたアジを割いておく。
 他の野菜とともに皿に盛りつけてナンプラーとレモンで作ったドレッシングを掛けて馴染ませる。
 サラダの準備があらかた出来たのでなめこの味噌汁を作成することにする。
 味噌汁の鍋の火をとめ、食器棚にあった小鉢に家からもってきたひじきの煮物を盛りつけておいた。
 そんな事をやっていると私のスマフォから音楽が流れてくる。
『やっと仕事も終わって、会社出られたよ。今どこ?』
 清酒さんから帰るメールである。
『もう清酒さんの部屋に来ています! 夕飯も着々と出来てますから、そのまま真っ直ぐ帰ってきて下さいね♪』
 そうメールを返して、身もだえる程嬉しくなる。何か、こうして食事を作って待っているって凄く楽しい。
 ワクワクするし、テンションも上がる。もう一つの鍋を出しお湯を入れ用意しておく。
 テーブルを拭いて、雑誌と新聞をまとめて重ねラックに片付ける。お箸とひじきの鉢とサラダだけをテーブルにセット。
 食器棚の中のお皿二枚とお茶椀を取り出す。探してみたけれど味噌汁椀が見つからなかったので、カフェオーレマグで代用する事にした。
 落ちつがずイソイソして部屋を歩き回っていると、ようやく玄関のベルが鳴る音がする。私は玄関まで走り、扉を開けて「おかえりなさい!」と出迎えた。
 ここは清酒さんの家。お客様である私がこういうのはオカシイけれど、この場合はこれが正しい気がした。
 ニッカニッカの顔になって迎えた私を、清酒さんは顔を傾けて見下ろしフフフと笑う。
「ただいま。プリン買ってきたよ」
 清酒さんはケーキ屋の箱を持ち上げて私に示す。なんでもない筈のこのやり取りにムズムズする。プリンが嬉しいからではなく状況が嬉しいからだ。
 私は清酒さんが着替えている間、沸騰させたお湯でブタのしゃぶしゃぶ用の肉を茹でる。
 湯切りした肉をお皿に盛りつけてその上にめんつゆにつけ込んでおいた白髪ネギをのせる。そして残った汁も少し垂らす。
「うまそ! でも今度は酔わないよね?」
 私の背後からのぞき込んでくる清酒さんにドキリとする。私は『そこは、大丈夫』と力強く頷いた。
 ブタシャブのお皿は清酒さんに運んでもらう。
 なめこの味噌汁をカフェオーレマグに注いでテーブルに持っていく。二人で顔を見合わせて食事を楽しむ事にした。
 今日は清酒さんが酔っぱらうという事もなく無事に楽しく食事を終える事が出来た。
 食事が終わり私が食器を洗っている間に、清酒さんが珈琲を淹れている。

 二人でテレビを見ながらソファーに並んでプリンと珈琲を楽しんでいた。
 凄く楽しい時間。しかしマッタリすることで気持ちも落ち着いてくる。そうすることで昼に感じた良く分からない気持ちが湧き起こってくる。私はチラリと隣の清酒さんを見上げる。
 清酒さんは『ん?』という顔をして、食べ終わったプリンの器をテーブルに置き私の肩に手を回してくる。
「あのさ、清酒さん。今そんなに、お仕事大変なの?」
 清酒さんは、首を傾げ私を見下ろす。
「色々、トラブルがあって大変そうだなと思って……」
 私が遠慮がちにそう続けると、清酒さんが不快気に顔を顰める。
「それに、異動出来なかった事も、そんなにショックだったの?」
 肩に回されていた手が離れ、清酒さんは乱れていない髪の毛を整えるように手を動かす。
 眉を寄せ顔を顰めて、明らかな怒りを示す清酒さん。その顔をみて言わなかった方が良かったかなと後悔してしまう。
相方さかたに何聞いた? ったくアイツ何ベラベラと」
 低い声になる清酒さんに、『シマッタ』と思う。今日の今だけに、情報源がモロバレである。
「相方くんは何も、ただ私が気になって聞いただけ! へ、編集長も、そ、そんな事言っていて」
 私は首をブルブルとふり、そう言っておく。この調子だと、相方くんが怒られそうだ。
 私の困ったような顔に清酒さんは一旦怒りを静める。
「……あのさ、それを聞いて私……清酒さんに対して何か……」
 改めて落ち着いて向き合った事で私は、間が辛くてさらに語り出す。清酒さんは真面目な顔で上半身を捻り身体から私の方に向けちゃんと聞こうという態度をみせている。
「寂しかったというか、むかついたの。スゴク!」
 清酒さんは『えっ』驚いた顔をしたけれど、言った私はもっと驚いた。

 ※   ※   ※ 


ネギ背負いブタ


材料
ブタ肉 しゃぶしゃぶ用 300g
めんつゆ
長ネギ


1 長ネギを白髪ネギ状態にカットする。
2 容量の薄さにしためんつゆに(1)の長ネギを漬け込んでおく。
3 ブタ肉を茹でて、お湯を切る
4 (3)の肉の上に(2)のネギを盛りつけ、長ネギをつけておいたつゆを回しかける
しおりを挟む

処理中です...