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第四種接近遭遇
電話越しに見えた何か
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『仕事が忙しい』という言い訳が多くなる。
妙に優しい。
携帯電話を手放さなくなる。
意味もなくプレゼントをくれた。
それが浮気している男の兆候。
私は昼休み職場に散らばっていた女性誌の『男の浮気はこう見破れ!』という特集を読み溜め息をついた。
そして最近の清酒さんの事と照らし合わせてみる。
先週、サプライズプレゼントをくれたのは、私の誕生日という意味がしっかりあった。
仕事が忙しそう。それで会える時間が激減しているのは事実。
一緒にいる時の様子は変わらないけど、何か考え事している事が若干増えた気がする。気のせいかもしれないけれど。
優しいのは元々なのでそういう意味では変化はなし。三月四月五月と月日が経つにつれ、セクシーというか、エロさか増していっているだけ?
スマフォは……。それぞれの部屋に居るときは私のスマフォと並んで充電状態で放置されている。これはセーフ?
でもあの電話は何だったのだろうと私は悩む。
普通会社の携帯にはそんな私用な電話なんてかけてこないだろう。だとしたら重大な電話をかけてきたのだろうか? 新人があんな時間に?
私はスマフォを取り出しFoursquareのアプリを見てみる。
清酒さんは今日の朝、いつものように喫茶店で珈琲を飲んでから出勤。それ以後記録なし。
というより最近めっきり行動記録が減っている。
通っていたジムにもここ三週間行ってないようだ。
夜ご飯も何処で食べているとかの記録がない。コレをどうとるべきなのだろうか?
週末私と食事をしていたら『なんか久しぶりに、まともなモノが食えた』と嬉しそうに言っていた。その事から、忙しくてちゃんと食事が取れてないとも考えられる。
そんなにマメゾンの営業マンの四月って忙しいものなのだろうか? 去年の事を思い出そうとする。会社に来ている時と、一緒に食事をした時の事しか思い出せない。
それ以外の清酒さんの行動なんて見当もつかない。でも、月二度程平日に私とスケジュールを合わせながら食事するくらいの余裕はあったようにも思える。
『最近、忙しそうだね。何か大変な事でもあったの?』
そう聞いても、笑って首を横にふる。
『別に、まあちょっと雑用が多いだけかな』
そういう言葉が返ってくるだけで、様子がまったく分からない。まあ仕事が仕事だけにそう人にベラベラ話す事は出来ないと言うこともあるのだろう。マメゾンな事とか仕事の事はほとんど口にしない。
私がしているような、悩みを打ち明けたり、愚痴を言ったりする事も全くなかった事にも気がつく。
昼休みも終わり、私は雑誌をラックに戻し自分の仕事に戻る事にした。席に着こうとすると、田邊さんが声をかけてくる。
「タバちゃん、あのさ、チョット清酒くんに連絡をとって欲しいんだけど」
私がマメゾン担当だからで、その田邊さんの言葉に他意はないのに、少しギクリとしてしまう。
「え? まだ珈琲とかありますけど」
先週の水曜日に清酒さんが訪れた事もあり、備品に欠けているものはない。私の言葉に、田邊さんは首を横にふる。
「いやね。金曜日に急遽本社の方のイベントで、レティーのチョコ菓子の試食会が行われる事になったんだ。
どうせなら、喫茶店形式で、落ち着いて楽しんでもらおうという事になった。そこでマメゾンさんに協力してもらいたくて。俺今から別の打ち合わせに出てしまうから、代わりに話をつけて貰いたいけど良いかな?」
田邊さんは、そう言って私に企画書のコピーを渡してくる。今日は月曜日なだけに、時間もそんなにない。私は頷きすぐ連絡して結果を田邊さんに連絡する約束をして送り出した。
深呼吸をして、お仕事モードに切り替えマメゾンの営業部に電話をかける。
『マメゾン営業部でございま~す』
すると、ややビジネスルールから外れた第一声に私は戸惑う。もう配属されて一ヶ月近くたつのに、この応対で良いのだろうか? と心配になった。
マメゾンさんは大抵『ありがとうございます。
マメゾン営業部の○○です』とキチンとした受け答えをする人しかいなかったように思えた。その妙に伸びた語尾で、名乗らなくても相手がなんとなく分かった。
「あの、いつもお世話になっております。Joy Walker の煙草と申します。清酒さんいらっしゃいますでしょうか」
暫く無言。
『今出かけているみたいです。夕方には戻ると思いますよ~』
まあ、この時間は外に出ている事が多いだろうなとは納得する。
「申し訳ありませんが至急連絡したい案件がありまして」
と言おうとしたら……。
『だから、後でお電話下さい、では』
ガチャン
「あっ」と止める暇もなく切られてしまった。私はツーツーと音のする受話器を持ったまま呆然としてしまう。
え? コレなに?
他の人ならば、代わりに用件を聞いてくれる。直ぐに清酒さんに連絡をするなり、誰かが代わりに動いてくれるなりして対応してくれたはず。
こんな門前払いは初めて。コレは私だからこういう対応なのだろうか? こないだ編集長がああいう対応をしたから。
嫌そこまでの事すら考えていないのかもしれない。もう一度マメゾンの営業部に電話をするのも躊躇うものがあった。
私は引き出しから名刺の入ったバインダーを取り出し清酒さんの名刺を探す。
清酒さんのプライベートのスマフォに仕事の電話をするのはチョット違う気がする。
会社の携帯に電話する事にした。やはり客先にいる為か、鳴らしてもなかなか出てくれない。
どうしたものかと悩んでいたら、五分程して清酒さんから会社に電話があった。そこで私は田邊さんからの用件を伝える
『ありがとうございます。珈琲サーバー数台とカップの用意という感じですね。
企画書を見せて頂けたらどのくらい用意するのがよいかを計算して直ぐに見積もりをお出しします。
会場とイベントの規模が分かる資料を送って頂けますでしょうか? PDFでメールして頂けたら、外でも確認できますから』
流石清酒さん、繋がりさえしたら話が早いと感心しながら私は会話を続ける。
田邊さんにも、安心してもらえる報告が出来そうだとホッとした。
『……所で、タバさんコチラに電話してくるのは、珍しいよね? 何で直接、俺にこの連絡してきたの?』
いきなり、素の口調の清酒さんの声が電話から聞こえる。外部の音からみて、車に乗ったみたいだ。
恐らくは客先の会社から歩いて車に移動している最中だったのだろう。
私は猪口さんではないかという個人的見解はあえて言わなかった。電話しても対応してくれずに切られてしまった旨を仕方が無く伝える。
電話の向こうで何だか不穏な空気を感じた。何か具体的な音がしたという訳ではないけれど確かに何か怖い空気が受話器から流れてくる。
『あの野郎ーー』
聞いた事のない低い険悪なトーンの清酒さんのボゾっとしたつぶやき。
「あの、清酒さん?」
思わず、戸惑いの声が出てしまう。
『それは申し訳ありませんでした。そんな対応した者には、二度とこんなこと無いように厳しく言い聞かせますので』
その後滑らかな仕事モードの言葉が続いたが、一見いつもの爽やかな清酒さんのようでなんというか恐い……? しかも『厳しく』の部分に力が入っていたような気がするのは気のせいだろうか?
『このお返事の連絡はタバさんに? それとも田邊さんにどちらにした方が宜しいでしょうか?』
良かった、いつもの清酒さんに戻ったようだ。
私はボードを見ると、田邊さんはかなり大きい案件の事で出ているようで、今日は戻ってこられそうもないし。直接の連絡は難しい。
「田邊は、今日一日バタバタしているようなので、取りあえずは私の方にお願いします」
相手に見える訳ではないのに電話で頭を下げてしまうのは私の変な癖。清酒さんと連絡しながら、パソコンのメールソフトを立ち上げ、田邊さんに報告メールを作成する。
『了解いたしました、資料の方宜しくお願いします。すぐに対応致しますから』
仕事仕様の清酒さんに、私の仕事仕様で返す。清酒さんにさえ話が繋がればもう心配はなさそうだ。私はホッとしながら電話を切る。
もらった資料を見て、清酒さんが必要でかつ、流しても大丈夫な情報のある部分だけをスキャナーにかける。
PDF化して清酒さんに送っておいた。コレで大丈夫だろう。
人心地ついた所で、思い出す。先ほどの清酒さんの空気。一瞬垣間見たというか聞いた感じでは、清酒さんかなり怒っているような様子。
アレは何だったんだろうか? 私がお酒で迷惑をかけた時も、こういうトーンの怖さはなくむしろ冷静。
私の状況を見つつ会話をしてくれる優しさもあった。
直接顔をみた訳ではないから、何ともいえないけれど。初めて見た清酒さんの一面に戸惑う。
この件については問題なく進むだろうから深い事は考えるのを止めよう。田邊さんの携帯に状況説明のメールを送信した。
妙に優しい。
携帯電話を手放さなくなる。
意味もなくプレゼントをくれた。
それが浮気している男の兆候。
私は昼休み職場に散らばっていた女性誌の『男の浮気はこう見破れ!』という特集を読み溜め息をついた。
そして最近の清酒さんの事と照らし合わせてみる。
先週、サプライズプレゼントをくれたのは、私の誕生日という意味がしっかりあった。
仕事が忙しそう。それで会える時間が激減しているのは事実。
一緒にいる時の様子は変わらないけど、何か考え事している事が若干増えた気がする。気のせいかもしれないけれど。
優しいのは元々なのでそういう意味では変化はなし。三月四月五月と月日が経つにつれ、セクシーというか、エロさか増していっているだけ?
スマフォは……。それぞれの部屋に居るときは私のスマフォと並んで充電状態で放置されている。これはセーフ?
でもあの電話は何だったのだろうと私は悩む。
普通会社の携帯にはそんな私用な電話なんてかけてこないだろう。だとしたら重大な電話をかけてきたのだろうか? 新人があんな時間に?
私はスマフォを取り出しFoursquareのアプリを見てみる。
清酒さんは今日の朝、いつものように喫茶店で珈琲を飲んでから出勤。それ以後記録なし。
というより最近めっきり行動記録が減っている。
通っていたジムにもここ三週間行ってないようだ。
夜ご飯も何処で食べているとかの記録がない。コレをどうとるべきなのだろうか?
週末私と食事をしていたら『なんか久しぶりに、まともなモノが食えた』と嬉しそうに言っていた。その事から、忙しくてちゃんと食事が取れてないとも考えられる。
そんなにマメゾンの営業マンの四月って忙しいものなのだろうか? 去年の事を思い出そうとする。会社に来ている時と、一緒に食事をした時の事しか思い出せない。
それ以外の清酒さんの行動なんて見当もつかない。でも、月二度程平日に私とスケジュールを合わせながら食事するくらいの余裕はあったようにも思える。
『最近、忙しそうだね。何か大変な事でもあったの?』
そう聞いても、笑って首を横にふる。
『別に、まあちょっと雑用が多いだけかな』
そういう言葉が返ってくるだけで、様子がまったく分からない。まあ仕事が仕事だけにそう人にベラベラ話す事は出来ないと言うこともあるのだろう。マメゾンな事とか仕事の事はほとんど口にしない。
私がしているような、悩みを打ち明けたり、愚痴を言ったりする事も全くなかった事にも気がつく。
昼休みも終わり、私は雑誌をラックに戻し自分の仕事に戻る事にした。席に着こうとすると、田邊さんが声をかけてくる。
「タバちゃん、あのさ、チョット清酒くんに連絡をとって欲しいんだけど」
私がマメゾン担当だからで、その田邊さんの言葉に他意はないのに、少しギクリとしてしまう。
「え? まだ珈琲とかありますけど」
先週の水曜日に清酒さんが訪れた事もあり、備品に欠けているものはない。私の言葉に、田邊さんは首を横にふる。
「いやね。金曜日に急遽本社の方のイベントで、レティーのチョコ菓子の試食会が行われる事になったんだ。
どうせなら、喫茶店形式で、落ち着いて楽しんでもらおうという事になった。そこでマメゾンさんに協力してもらいたくて。俺今から別の打ち合わせに出てしまうから、代わりに話をつけて貰いたいけど良いかな?」
田邊さんは、そう言って私に企画書のコピーを渡してくる。今日は月曜日なだけに、時間もそんなにない。私は頷きすぐ連絡して結果を田邊さんに連絡する約束をして送り出した。
深呼吸をして、お仕事モードに切り替えマメゾンの営業部に電話をかける。
『マメゾン営業部でございま~す』
すると、ややビジネスルールから外れた第一声に私は戸惑う。もう配属されて一ヶ月近くたつのに、この応対で良いのだろうか? と心配になった。
マメゾンさんは大抵『ありがとうございます。
マメゾン営業部の○○です』とキチンとした受け答えをする人しかいなかったように思えた。その妙に伸びた語尾で、名乗らなくても相手がなんとなく分かった。
「あの、いつもお世話になっております。Joy Walker の煙草と申します。清酒さんいらっしゃいますでしょうか」
暫く無言。
『今出かけているみたいです。夕方には戻ると思いますよ~』
まあ、この時間は外に出ている事が多いだろうなとは納得する。
「申し訳ありませんが至急連絡したい案件がありまして」
と言おうとしたら……。
『だから、後でお電話下さい、では』
ガチャン
「あっ」と止める暇もなく切られてしまった。私はツーツーと音のする受話器を持ったまま呆然としてしまう。
え? コレなに?
他の人ならば、代わりに用件を聞いてくれる。直ぐに清酒さんに連絡をするなり、誰かが代わりに動いてくれるなりして対応してくれたはず。
こんな門前払いは初めて。コレは私だからこういう対応なのだろうか? こないだ編集長がああいう対応をしたから。
嫌そこまでの事すら考えていないのかもしれない。もう一度マメゾンの営業部に電話をするのも躊躇うものがあった。
私は引き出しから名刺の入ったバインダーを取り出し清酒さんの名刺を探す。
清酒さんのプライベートのスマフォに仕事の電話をするのはチョット違う気がする。
会社の携帯に電話する事にした。やはり客先にいる為か、鳴らしてもなかなか出てくれない。
どうしたものかと悩んでいたら、五分程して清酒さんから会社に電話があった。そこで私は田邊さんからの用件を伝える
『ありがとうございます。珈琲サーバー数台とカップの用意という感じですね。
企画書を見せて頂けたらどのくらい用意するのがよいかを計算して直ぐに見積もりをお出しします。
会場とイベントの規模が分かる資料を送って頂けますでしょうか? PDFでメールして頂けたら、外でも確認できますから』
流石清酒さん、繋がりさえしたら話が早いと感心しながら私は会話を続ける。
田邊さんにも、安心してもらえる報告が出来そうだとホッとした。
『……所で、タバさんコチラに電話してくるのは、珍しいよね? 何で直接、俺にこの連絡してきたの?』
いきなり、素の口調の清酒さんの声が電話から聞こえる。外部の音からみて、車に乗ったみたいだ。
恐らくは客先の会社から歩いて車に移動している最中だったのだろう。
私は猪口さんではないかという個人的見解はあえて言わなかった。電話しても対応してくれずに切られてしまった旨を仕方が無く伝える。
電話の向こうで何だか不穏な空気を感じた。何か具体的な音がしたという訳ではないけれど確かに何か怖い空気が受話器から流れてくる。
『あの野郎ーー』
聞いた事のない低い険悪なトーンの清酒さんのボゾっとしたつぶやき。
「あの、清酒さん?」
思わず、戸惑いの声が出てしまう。
『それは申し訳ありませんでした。そんな対応した者には、二度とこんなこと無いように厳しく言い聞かせますので』
その後滑らかな仕事モードの言葉が続いたが、一見いつもの爽やかな清酒さんのようでなんというか恐い……? しかも『厳しく』の部分に力が入っていたような気がするのは気のせいだろうか?
『このお返事の連絡はタバさんに? それとも田邊さんにどちらにした方が宜しいでしょうか?』
良かった、いつもの清酒さんに戻ったようだ。
私はボードを見ると、田邊さんはかなり大きい案件の事で出ているようで、今日は戻ってこられそうもないし。直接の連絡は難しい。
「田邊は、今日一日バタバタしているようなので、取りあえずは私の方にお願いします」
相手に見える訳ではないのに電話で頭を下げてしまうのは私の変な癖。清酒さんと連絡しながら、パソコンのメールソフトを立ち上げ、田邊さんに報告メールを作成する。
『了解いたしました、資料の方宜しくお願いします。すぐに対応致しますから』
仕事仕様の清酒さんに、私の仕事仕様で返す。清酒さんにさえ話が繋がればもう心配はなさそうだ。私はホッとしながら電話を切る。
もらった資料を見て、清酒さんが必要でかつ、流しても大丈夫な情報のある部分だけをスキャナーにかける。
PDF化して清酒さんに送っておいた。コレで大丈夫だろう。
人心地ついた所で、思い出す。先ほどの清酒さんの空気。一瞬垣間見たというか聞いた感じでは、清酒さんかなり怒っているような様子。
アレは何だったんだろうか? 私がお酒で迷惑をかけた時も、こういうトーンの怖さはなくむしろ冷静。
私の状況を見つつ会話をしてくれる優しさもあった。
直接顔をみた訳ではないから、何ともいえないけれど。初めて見た清酒さんの一面に戸惑う。
この件については問題なく進むだろうから深い事は考えるのを止めよう。田邊さんの携帯に状況説明のメールを送信した。
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