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第二種接近遭遇
離れていく?
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「ただいま戻りました~」
私は会社に戻り編集室の扉を元気に開ける。
「タバさん、お帰りなさい」
いつものように聞こえる声に加え、清酒さんの声と笑顔がそこにあった。私は予期しなかった清酒さんの姿に、少しドギマギしながら挨拶を返し自分の席につく。
今日はまだ珈琲も消耗品も切れてない 。
清酒さんは一日に納品に訪れて十五日くらいに機材や消耗品等問題がないか様子を見に来る。しかし今日は月末後の週で訪問のタイミングではない。
私の不思議そうな視線も気にせず、清酒さんは羽毛田編集長への方へと顔を向ける。
「お電話での内容を私なりにまとめて企画書にしてみました。編集長から見て問題がなければ、コレを広報部の方に持ち込ませて頂きます。
昨日広報部と企画部の部長と休憩室で会った時に、さわりだけお話しておきました。反応も悪くはなかったです。後は話の持っていき方ですね」
なるほど、今日は編集長に呼び出されて。別件の仕事の話をしにきたらしい。
私は印刷会社から戻ってきたゲラを井上先輩に渡した。
デスクに戻りPCを立ち上げ、給湯室に行きマグカップに珈琲を注ぐ。
いつになくサーバーに多めの珈琲があった。香りも良いことから、清酒さんがコレを淹れたモノである事だと理解する。
机に戻っても、古い私のPCはまだ起動していなかった。私はため息をつき目を上げると一メートルくらい前で会話する清酒さんと編集長の姿が見えた。交わされる会話もなんとなく目と耳に入ってくる。
清酒さんが編集部の他の人と話をしているのを見る。私と話している時以上に出来る男に感じた。仕事の話をしている事もあるのだろう。冗談とか馬鹿な会話をしていても、学生同士の会話にはない余裕というか大人を感じる。
「上手くいけば、四月は新しい読者も増える時でもあるから、華やかにしたいんだよね~。読者プレゼントとか!」
編集長がギョロっとした目でチラリと清酒さんに対して上目遣いをする。
この方は、顔のパーツがはっきりしていて、丸くて赤ら顔で頭が薄い。そのような表情をすると達磨に見える。それ故に男性でオッサンでありながら、お強請りしてもガメつくなく可愛い。そこが不思議である。
清酒さんもその顔に思わず笑っている。
「うちの課だと、いかにも販促用という感じでショボい物しかないですよ。サンプルの文字の入った珈琲や社名の入っただけのタンブラーだと微妙ですよね?
読者の方が喜ぶモノなら、広報部の人を狙った方が」
私はやっと起動した画面に視線を戻す。
マウスを動かしデスクトップのワードのアイコンをクリックして、報告書のテンプレートを呼び出した。
鞄から手帳とスマフォを取り出し、書類袋から今日もらった資料を出す。
「ならばさ、清酒さんのポケット マネーで良いから♪ ボクとの最後の仕事の記念にさ!」
『最後』という言葉に思わず反応して、顔を上げてしまう。清酒さんは苦笑して編集長を見ている。
「いたいけな若造の財布を苛めないで下さいよ! それに最後って何ですか?」
清酒さんは探るように編集長を見る。編集長はニヤニヤといやらしい笑顔だけを返す。
「私の知らない事で、ウチの部長から何か聞かれているのですか?」
清酒さんの怪訝そうな言葉に、編集長はブルブルと顔を横にふる。
「イヤイヤイヤ。この企画書が、君の言う『お手伝い』にしてはシッカリと作られすぎているからさ。てっきり人事異動が決まっていてコレを手土産に四月から他の課に遷るのかと思ったのさ」
清酒さんは明らかに、落胆した表情になる。
チラっと清酒さんの目が私を見たような気がしたので、私は慌てて視線をディスプレイに戻す。しかし耳だけはシッカリと二人の方向へと向けたまま。
フーという清酒さんのため息が聞こえる。
「なんだ、ようやく決まったのかと、一瞬喜んで損しましたよ。考えてみたらそうですよね。
ウチの会社は転勤を伴うほどの大きな移動意外は、本当に一週間前とかにいきなり……。
社外の人にそんな話がもう漏れる訳ないですよね」
「悪い、悪い。
でも、もう君も来年で六年目だしさ、そろそろ移動とか来ちゃうのかなと思ったんだ。でも君は移動を喜ぶか、ボクとの別れをさ!」
フッと噴出す清酒さんの口から漏れる音。私はとりあえず手を動かし、タイトルから入力していく。
清酒さんが営業から移動になると、こうして会えなくなる。その事に少なからずショックを受けていた。
「もちろん羽毛田編集長と今までのように会えなくなるのは寂しいです。
とはいえ商品企画方面の仕事は入社前から希望していたのですよ。その為に資格も色々ととっていますしね。アピールもしていつ移動になってもいけるように準備だけはしている状況です。
もし決まったら笑顔で送り出して下さいよ!
とはいえ他の課という事もありえる。サラリーマンはそこが辛い所ですよね。
まあどうなるにせよ、移動が決まったら暖かく送り出して下さいよ」
「えぇぇええ~それはどうしようかな。担当替えたら契約切ると部長を脅そうかな~」
漫才のような会話をし始める二人に、その会話を聞いていた編集部の人は皆笑いだす。
しかし私は何か笑えなかった。営業マンとしての清酒さんしか知らない。私にとってそうでない仕事をしている清酒さんというのが何か想像できなかった。
よく分からないけれど商品企画って研究室のようなところ? 新しい味の珈琲を作っていくという仕事なのだろうか? 白衣とか着て? 頭の中で白衣姿の清酒さんというどうでも良い創造を膨らませる。
「でもさ~君がいなくなるとけっこう営業はピンチなのでは?」
「いえいえ。何ですかその私が営業のヌシてあるかのような扱いって。
こんな若造の存在で有無で左右されるなんて、どれだけ脆弱な会社なんですか!」
清酒さんが担当でなくなったらショックをうけるお客様は多いだろうな? と私は本文を入力しながらそう思う。
マメゾンの他の営業マンは時々代わりにくる人をみても良い感じの人が多い。優秀でキチンとした人ばかり。
ウチの事務所に入っている他にも様々な業者が出入りしている。しかし清酒さんのように皆が訪問を楽しみにしているような営業マンは他にいない。カーペットを取り替えてさっさと去っていく。植物だけを見て、言葉少なめに帰って行ったりという感じ。
清酒さんは来たら皆から親し気に話しかけられている。清酒さんも一ヶ月に二度くらいしか会わないはずの人の名前をちゃんと覚えているようだ。その人とのそれぞれの会話を楽しんでいる。私は備品担当だけに話すことも一番多い。
初初対面の印象『スーツ姿も決まっていてなんかスマートで格好いい人』というモノだった。
『清酒です。宜しくお願いします。
しかし、清酒と煙草って、すごいコンビが出来てしまいましたね』
担当になった私に対して、そのように笑顔で挨拶してきた清酒さんのことを思い出す。こうして三年間仕事上で付き合ってきた訳だ。
そして今、お試しとはいえ恋人同士であるらしい私達。この職場に清酒さんが来なくなると、この職場でのコンビも解散となる。
清酒さんと私はどうなるのか? 恋人という繋がりはどれほどの強度をもった絆なのだろうか? 私はボンヤリとそんな事を思っていたら、清酒さんと目が合う。
清酒さんはフッと表情を緩め笑いかけてきた。恥ずかしくなり、慌てて視線をディスプレイに戻しキーボードを打つ手を再開させる。
編集長との話が終わったのだろう清酒さんが私の席に来て声をかけてくる。
内容は『コーヒーサーバー関係で何か問題がないか?』といった業務のことである。
私はそれに首を横にふり、『大丈夫です』と笑顔で答える。恋人という事になった所為か? 今の話を聞いてしまった所為なのか? 職場で会話するのが照れくさい。
清酒さんはいつもと変わらない笑顔を返し頷き、私の頭をポンポンと撫でる。そういえば昔から清酒さんは私の頭をよく撫でる。
私の髪は猫っ毛の為に、まとまりが悪い。よく跳ねていたりする。つい気になり撫でて直したくなる気持ちは分かるが子供扱いをされているようで少し寂しい。
「もう、なんでそんないつも私の頭を触るんですか!」
少しムッとした顔をしてそう文句を言うと清酒さんはフフっと笑う。
「つい? なんか猫を撫でているみたいで気持ちいいんだよね。この頭」
子供扱いよりもさらに悪く、動物扱い……。
私の気分はさらに微妙なものになる。
「何か要望なり気になる事があれば、いつでも連絡ください」
清酒さんは、眉をよせている私を面白そうにみながら、そういう定型文句を言い去っていった。数分後スマフォが震え清酒さんからの、食事の誘いのメールが届く。
色々気になる事もあったので、短い了承の返事を出し仕事に集中することにした。
私は会社に戻り編集室の扉を元気に開ける。
「タバさん、お帰りなさい」
いつものように聞こえる声に加え、清酒さんの声と笑顔がそこにあった。私は予期しなかった清酒さんの姿に、少しドギマギしながら挨拶を返し自分の席につく。
今日はまだ珈琲も消耗品も切れてない 。
清酒さんは一日に納品に訪れて十五日くらいに機材や消耗品等問題がないか様子を見に来る。しかし今日は月末後の週で訪問のタイミングではない。
私の不思議そうな視線も気にせず、清酒さんは羽毛田編集長への方へと顔を向ける。
「お電話での内容を私なりにまとめて企画書にしてみました。編集長から見て問題がなければ、コレを広報部の方に持ち込ませて頂きます。
昨日広報部と企画部の部長と休憩室で会った時に、さわりだけお話しておきました。反応も悪くはなかったです。後は話の持っていき方ですね」
なるほど、今日は編集長に呼び出されて。別件の仕事の話をしにきたらしい。
私は印刷会社から戻ってきたゲラを井上先輩に渡した。
デスクに戻りPCを立ち上げ、給湯室に行きマグカップに珈琲を注ぐ。
いつになくサーバーに多めの珈琲があった。香りも良いことから、清酒さんがコレを淹れたモノである事だと理解する。
机に戻っても、古い私のPCはまだ起動していなかった。私はため息をつき目を上げると一メートルくらい前で会話する清酒さんと編集長の姿が見えた。交わされる会話もなんとなく目と耳に入ってくる。
清酒さんが編集部の他の人と話をしているのを見る。私と話している時以上に出来る男に感じた。仕事の話をしている事もあるのだろう。冗談とか馬鹿な会話をしていても、学生同士の会話にはない余裕というか大人を感じる。
「上手くいけば、四月は新しい読者も増える時でもあるから、華やかにしたいんだよね~。読者プレゼントとか!」
編集長がギョロっとした目でチラリと清酒さんに対して上目遣いをする。
この方は、顔のパーツがはっきりしていて、丸くて赤ら顔で頭が薄い。そのような表情をすると達磨に見える。それ故に男性でオッサンでありながら、お強請りしてもガメつくなく可愛い。そこが不思議である。
清酒さんもその顔に思わず笑っている。
「うちの課だと、いかにも販促用という感じでショボい物しかないですよ。サンプルの文字の入った珈琲や社名の入っただけのタンブラーだと微妙ですよね?
読者の方が喜ぶモノなら、広報部の人を狙った方が」
私はやっと起動した画面に視線を戻す。
マウスを動かしデスクトップのワードのアイコンをクリックして、報告書のテンプレートを呼び出した。
鞄から手帳とスマフォを取り出し、書類袋から今日もらった資料を出す。
「ならばさ、清酒さんのポケット マネーで良いから♪ ボクとの最後の仕事の記念にさ!」
『最後』という言葉に思わず反応して、顔を上げてしまう。清酒さんは苦笑して編集長を見ている。
「いたいけな若造の財布を苛めないで下さいよ! それに最後って何ですか?」
清酒さんは探るように編集長を見る。編集長はニヤニヤといやらしい笑顔だけを返す。
「私の知らない事で、ウチの部長から何か聞かれているのですか?」
清酒さんの怪訝そうな言葉に、編集長はブルブルと顔を横にふる。
「イヤイヤイヤ。この企画書が、君の言う『お手伝い』にしてはシッカリと作られすぎているからさ。てっきり人事異動が決まっていてコレを手土産に四月から他の課に遷るのかと思ったのさ」
清酒さんは明らかに、落胆した表情になる。
チラっと清酒さんの目が私を見たような気がしたので、私は慌てて視線をディスプレイに戻す。しかし耳だけはシッカリと二人の方向へと向けたまま。
フーという清酒さんのため息が聞こえる。
「なんだ、ようやく決まったのかと、一瞬喜んで損しましたよ。考えてみたらそうですよね。
ウチの会社は転勤を伴うほどの大きな移動意外は、本当に一週間前とかにいきなり……。
社外の人にそんな話がもう漏れる訳ないですよね」
「悪い、悪い。
でも、もう君も来年で六年目だしさ、そろそろ移動とか来ちゃうのかなと思ったんだ。でも君は移動を喜ぶか、ボクとの別れをさ!」
フッと噴出す清酒さんの口から漏れる音。私はとりあえず手を動かし、タイトルから入力していく。
清酒さんが営業から移動になると、こうして会えなくなる。その事に少なからずショックを受けていた。
「もちろん羽毛田編集長と今までのように会えなくなるのは寂しいです。
とはいえ商品企画方面の仕事は入社前から希望していたのですよ。その為に資格も色々ととっていますしね。アピールもしていつ移動になってもいけるように準備だけはしている状況です。
もし決まったら笑顔で送り出して下さいよ!
とはいえ他の課という事もありえる。サラリーマンはそこが辛い所ですよね。
まあどうなるにせよ、移動が決まったら暖かく送り出して下さいよ」
「えぇぇええ~それはどうしようかな。担当替えたら契約切ると部長を脅そうかな~」
漫才のような会話をし始める二人に、その会話を聞いていた編集部の人は皆笑いだす。
しかし私は何か笑えなかった。営業マンとしての清酒さんしか知らない。私にとってそうでない仕事をしている清酒さんというのが何か想像できなかった。
よく分からないけれど商品企画って研究室のようなところ? 新しい味の珈琲を作っていくという仕事なのだろうか? 白衣とか着て? 頭の中で白衣姿の清酒さんというどうでも良い創造を膨らませる。
「でもさ~君がいなくなるとけっこう営業はピンチなのでは?」
「いえいえ。何ですかその私が営業のヌシてあるかのような扱いって。
こんな若造の存在で有無で左右されるなんて、どれだけ脆弱な会社なんですか!」
清酒さんが担当でなくなったらショックをうけるお客様は多いだろうな? と私は本文を入力しながらそう思う。
マメゾンの他の営業マンは時々代わりにくる人をみても良い感じの人が多い。優秀でキチンとした人ばかり。
ウチの事務所に入っている他にも様々な業者が出入りしている。しかし清酒さんのように皆が訪問を楽しみにしているような営業マンは他にいない。カーペットを取り替えてさっさと去っていく。植物だけを見て、言葉少なめに帰って行ったりという感じ。
清酒さんは来たら皆から親し気に話しかけられている。清酒さんも一ヶ月に二度くらいしか会わないはずの人の名前をちゃんと覚えているようだ。その人とのそれぞれの会話を楽しんでいる。私は備品担当だけに話すことも一番多い。
初初対面の印象『スーツ姿も決まっていてなんかスマートで格好いい人』というモノだった。
『清酒です。宜しくお願いします。
しかし、清酒と煙草って、すごいコンビが出来てしまいましたね』
担当になった私に対して、そのように笑顔で挨拶してきた清酒さんのことを思い出す。こうして三年間仕事上で付き合ってきた訳だ。
そして今、お試しとはいえ恋人同士であるらしい私達。この職場に清酒さんが来なくなると、この職場でのコンビも解散となる。
清酒さんと私はどうなるのか? 恋人という繋がりはどれほどの強度をもった絆なのだろうか? 私はボンヤリとそんな事を思っていたら、清酒さんと目が合う。
清酒さんはフッと表情を緩め笑いかけてきた。恥ずかしくなり、慌てて視線をディスプレイに戻しキーボードを打つ手を再開させる。
編集長との話が終わったのだろう清酒さんが私の席に来て声をかけてくる。
内容は『コーヒーサーバー関係で何か問題がないか?』といった業務のことである。
私はそれに首を横にふり、『大丈夫です』と笑顔で答える。恋人という事になった所為か? 今の話を聞いてしまった所為なのか? 職場で会話するのが照れくさい。
清酒さんはいつもと変わらない笑顔を返し頷き、私の頭をポンポンと撫でる。そういえば昔から清酒さんは私の頭をよく撫でる。
私の髪は猫っ毛の為に、まとまりが悪い。よく跳ねていたりする。つい気になり撫でて直したくなる気持ちは分かるが子供扱いをされているようで少し寂しい。
「もう、なんでそんないつも私の頭を触るんですか!」
少しムッとした顔をしてそう文句を言うと清酒さんはフフっと笑う。
「つい? なんか猫を撫でているみたいで気持ちいいんだよね。この頭」
子供扱いよりもさらに悪く、動物扱い……。
私の気分はさらに微妙なものになる。
「何か要望なり気になる事があれば、いつでも連絡ください」
清酒さんは、眉をよせている私を面白そうにみながら、そういう定型文句を言い去っていった。数分後スマフォが震え清酒さんからの、食事の誘いのメールが届く。
色々気になる事もあったので、短い了承の返事を出し仕事に集中することにした。
応援ありがとうございます!
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