5 / 35
第一種接近遭遇
まずは目の前の事から
しおりを挟む
こうして答えに悩まれると、別の意味で困る。
私は、返答しにくそうにする清酒さんの顔をハラハラと見上げた。そんな私の顔に気が付き、清酒さんはフワリと笑う。
「半分は冗談かな?」
そして清酒さんの口から出ていた言葉に、若干傷つく。かといって、全面本気でも困るのだが。
私は『そうですよね』と小さい声で応える。
フォークで皿の上のトーストとレタスを一緒に突き刺し口にいれた。
ドレッシングとトーストの相性が思った以上に美味しい。上に散らされた粉チーズがまた、良い風味を与えている。しかしその感動も気分を持ち上げてはくれなかった。
「でも半分は本気。というか、付き合いを申し込んだのは冗談ではなく本気だよ。
といっても結婚するかどうかまでは分からない。君だってそうだろ?」
どう答えるべきなんだろうか? まだ私は二十五歳、結婚なんて先の事だと思っているのは事実。しかも清酒さんとお付き合いしたからとそこまでの関係になるのかなんて分からない。
「じゃあ、なんであんなプロポーズみたいな事をおっしゃったんですか?」
清酒さんは、困ったように笑う。そして、言葉を探しているのかカップを取り珈琲を一口のむ。
「あそこまで言わないと、君は、気付いてくれないからかな?」
私はその言葉に首を傾げるしかない。
「今まで、君にさり気なく、アプローチしてきたんだけ。しかしずっとスルーされ続けていていたから」
「へ?」
私は考えるより先に、そんな言葉を発していた。そんな記憶がまったくないからだ。
「最初は、振られたのかと思ったけど、そのわりにその後の態度があまりにも普通だったから。
コレは通じてないんだなと気が付いた。それで色々なアプローチの仕方を試していたんだ」
私は首を傾げ、一生懸命記憶を辿るが思い出せない。
「そしてああいうインパクトのある事を言わないと、通じないなという結論に。そういう意味では今度は伝わっただろ?」
インパクト……。私ってそこまで鈍かったのだろうか? 私は悩む。でもその理由に思い当たる節はある。
私は男の人が怖い、というよりもう恋愛するのが怖い。そういった言葉を社交辞令もしくはお世辞として逃げてきていた所があったかもしれない。
「すいませんでした。なんか色々な意味で」
清酒さんは笑って首をふる。
「それはそれで楽しんでいたから」
楽しんでいたからって……いったい私は……。私は口を閉じるのを忘れポカンとする。
清酒さんって、こういう人だったんだろうか? 改めて思う。
職場を訪れるときは誠実で朗らかで感じの良い営業マン。みんなと楽しそうに会話を楽しんでいる。私と二人っきりの時は良い相談役で冷静でいて暖かい言葉をかけて元気つけてくれる。良いお兄さんという印象があった。
年齢は私より三歳上。社会人としても先輩であることから、大人っぽい人に見えていた。
「……それだったら……良かったです……」
私の言葉に、また笑っているのをみると、やはり楽しんでというのは本当なようだ。
楽しんでいるという意味をあまり深く考えたくなかったので、取りあえず食べる事に集中する。
しかしモヤモヤとしたまま、一日を過ごすのも嫌なので口を開く。
「ところで、なんで私と付き合おうなんて思ったのですか? 私って美人でもないし、性格も良くないし」
清酒さんは、不思議そうに目を丸くする。
「『この子、いいな』と思うのに理由ってある? なんか気に入ったから、もう少し深く知りたいと思ったんだ。それに君は可愛いよ、性格も顔も」
営業な事もあり、清酒さんは褒め上手な所がある。
お世辞という感じではなく、素直に相手が心地よく感じるレベルの言葉を発してくる。それは今までも多かった。しかし後半の言葉は素直に受け取る事ができない。
こんな私のどこが可愛いというのだろうか? 首を傾げるしかない。
「別に付き合うからって、結婚を最終目標にとか、すぐに男女の関係に! とかいうつもりではないよ。
仕事上だけでなく、互いにもっと理解しあって近付きたいというだけだから、深く考えることはないよ。
とりあえず俺をマメゾンの清酒さんではなく、清酒正秀として見て欲しかっただけ。
俺もそう見てもいいよね? 煙草わかばさん!」
その言葉に、私にとって困るような要素も感じられなかったので、コクリと素直に頷いた。そんな私にニコリと清酒さんは笑う。いつも知っている笑顔のようだが、やや目力が強く感じた。
私はその視線に軽くフリーズする、何も言えずその目をジッと見つめ返してしまう。
「まずは、今日という日を楽しもうね」
笑顔のままそう言いながら清酒さんは私から企画書に視線を移す。
視線が逸れた事で私は解凍され清酒さんをジックリ観察する余裕が出来る。仕事している時と違って下ろされた前髪。大きな手で紙を繰っていく様子、スーツとは異なり少し見える胸元。
私は目の前の清酒さんは、今までと変わらない人な筈なのに何かが違って見えた。それは、服装の違いや、友人というラベルが別のラベルに変わった為だけでは、ない気がする。
気分を落ち着けるために、珈琲を一口飲む。
今、私が感じているドキドキはどういう意味での動悸なんだろうか? 不安? それとも……。
私は小さく息を吐き気持ちを入れ替える。
まずは今日の事を考えよう。
今は、この目の前の料理を美味しく頂くことにして、パンサラダへとフォークを伸ばした。
私は、返答しにくそうにする清酒さんの顔をハラハラと見上げた。そんな私の顔に気が付き、清酒さんはフワリと笑う。
「半分は冗談かな?」
そして清酒さんの口から出ていた言葉に、若干傷つく。かといって、全面本気でも困るのだが。
私は『そうですよね』と小さい声で応える。
フォークで皿の上のトーストとレタスを一緒に突き刺し口にいれた。
ドレッシングとトーストの相性が思った以上に美味しい。上に散らされた粉チーズがまた、良い風味を与えている。しかしその感動も気分を持ち上げてはくれなかった。
「でも半分は本気。というか、付き合いを申し込んだのは冗談ではなく本気だよ。
といっても結婚するかどうかまでは分からない。君だってそうだろ?」
どう答えるべきなんだろうか? まだ私は二十五歳、結婚なんて先の事だと思っているのは事実。しかも清酒さんとお付き合いしたからとそこまでの関係になるのかなんて分からない。
「じゃあ、なんであんなプロポーズみたいな事をおっしゃったんですか?」
清酒さんは、困ったように笑う。そして、言葉を探しているのかカップを取り珈琲を一口のむ。
「あそこまで言わないと、君は、気付いてくれないからかな?」
私はその言葉に首を傾げるしかない。
「今まで、君にさり気なく、アプローチしてきたんだけ。しかしずっとスルーされ続けていていたから」
「へ?」
私は考えるより先に、そんな言葉を発していた。そんな記憶がまったくないからだ。
「最初は、振られたのかと思ったけど、そのわりにその後の態度があまりにも普通だったから。
コレは通じてないんだなと気が付いた。それで色々なアプローチの仕方を試していたんだ」
私は首を傾げ、一生懸命記憶を辿るが思い出せない。
「そしてああいうインパクトのある事を言わないと、通じないなという結論に。そういう意味では今度は伝わっただろ?」
インパクト……。私ってそこまで鈍かったのだろうか? 私は悩む。でもその理由に思い当たる節はある。
私は男の人が怖い、というよりもう恋愛するのが怖い。そういった言葉を社交辞令もしくはお世辞として逃げてきていた所があったかもしれない。
「すいませんでした。なんか色々な意味で」
清酒さんは笑って首をふる。
「それはそれで楽しんでいたから」
楽しんでいたからって……いったい私は……。私は口を閉じるのを忘れポカンとする。
清酒さんって、こういう人だったんだろうか? 改めて思う。
職場を訪れるときは誠実で朗らかで感じの良い営業マン。みんなと楽しそうに会話を楽しんでいる。私と二人っきりの時は良い相談役で冷静でいて暖かい言葉をかけて元気つけてくれる。良いお兄さんという印象があった。
年齢は私より三歳上。社会人としても先輩であることから、大人っぽい人に見えていた。
「……それだったら……良かったです……」
私の言葉に、また笑っているのをみると、やはり楽しんでというのは本当なようだ。
楽しんでいるという意味をあまり深く考えたくなかったので、取りあえず食べる事に集中する。
しかしモヤモヤとしたまま、一日を過ごすのも嫌なので口を開く。
「ところで、なんで私と付き合おうなんて思ったのですか? 私って美人でもないし、性格も良くないし」
清酒さんは、不思議そうに目を丸くする。
「『この子、いいな』と思うのに理由ってある? なんか気に入ったから、もう少し深く知りたいと思ったんだ。それに君は可愛いよ、性格も顔も」
営業な事もあり、清酒さんは褒め上手な所がある。
お世辞という感じではなく、素直に相手が心地よく感じるレベルの言葉を発してくる。それは今までも多かった。しかし後半の言葉は素直に受け取る事ができない。
こんな私のどこが可愛いというのだろうか? 首を傾げるしかない。
「別に付き合うからって、結婚を最終目標にとか、すぐに男女の関係に! とかいうつもりではないよ。
仕事上だけでなく、互いにもっと理解しあって近付きたいというだけだから、深く考えることはないよ。
とりあえず俺をマメゾンの清酒さんではなく、清酒正秀として見て欲しかっただけ。
俺もそう見てもいいよね? 煙草わかばさん!」
その言葉に、私にとって困るような要素も感じられなかったので、コクリと素直に頷いた。そんな私にニコリと清酒さんは笑う。いつも知っている笑顔のようだが、やや目力が強く感じた。
私はその視線に軽くフリーズする、何も言えずその目をジッと見つめ返してしまう。
「まずは、今日という日を楽しもうね」
笑顔のままそう言いながら清酒さんは私から企画書に視線を移す。
視線が逸れた事で私は解凍され清酒さんをジックリ観察する余裕が出来る。仕事している時と違って下ろされた前髪。大きな手で紙を繰っていく様子、スーツとは異なり少し見える胸元。
私は目の前の清酒さんは、今までと変わらない人な筈なのに何かが違って見えた。それは、服装の違いや、友人というラベルが別のラベルに変わった為だけでは、ない気がする。
気分を落ち着けるために、珈琲を一口飲む。
今、私が感じているドキドキはどういう意味での動悸なんだろうか? 不安? それとも……。
私は小さく息を吐き気持ちを入れ替える。
まずは今日の事を考えよう。
今は、この目の前の料理を美味しく頂くことにして、パンサラダへとフォークを伸ばした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる