バッドエンドの向こう側

白い黒猫

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愛花の世界

名無しの権兵衛

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 夜考えて出した結論。ループしている世界を認識して自由に動けているのは、周子お姉様ではなく、あの男の方。
 周子お姉様は今日過ごすはずだった行動しか出来ない。そうなると悪意を持って近付くあの男の凶行から逃げられない。
 どうすれば良い?
 私は居ても立っても居られなく着替えて、暴風雨の中レインコートを着込んで周子お姉様の務める会社へと急ぐ。
 私が会社の前についたのは九時少し前だった。私と同じようにレインコートを着込んで台風の中、出勤してくる周子お姉様の姿が見えた。
 私は無事であることにホッとする。
 お向かいにあるコンビニに入り私は会社を見張る事にする。
 ホットコーヒーを買い、イートインスペースに座り周子お姉様のいるビルをジッと見つめていた。
 しばらくすると、隣に誰かが座ったようだが、気にせずビルを見張り続ける。
「おお、怖い。
 お前、ずっとこうして周子ちゃんに、ストーカー行為してたのか?」
 突然話し掛けられて、私の身体はビクリと震える。隣を見ると長身の体格の良い男がアイスコーヒーを手にコチラを見下ろしている。
 前回、周子お姉様を襲っていたあの男だと、直ぐに気が付く。逃げようとするが腕を掴まれる。
「まぁ、そう警戒するなよ。俺たちの仲じゃん、愛花ちゃん」
 見知らぬ男から名前を呼ばれ私はゾッとする。
「あ、貴方は誰?」
 男は顔を傾け私を見つめてくる。腕はまだ掴まれたまま離れない。
「俺? 名乗る程の者でもありませんという感じ?」
「ふ、ふざけないで!」
 何故かコチラがワガママ言って困られせいるという感じのヤレヤレといった表情をされる。
「じゃあ、名無しの権平とでもしておこか。
 アンタは佐竹愛花、年齢二十二歳。常葉大学文学部日本文学学科四年。住んでいる所は千葉県……最後まで住所言った方が良い?」
 私は顔を横に振る。それ以上聞くのが怖すぎる。私の事を相手が全て知っている事が恐怖でしかない。
 男はニコニコと愛想よく話しているので、遠くにいるコンビニ店員もコチラを全く気にしていない。
 むしろ台風の中、突然飛び出した家族を心配して追いかけてきた兄くらいにか見えてないのかもしれない。
「場所変えて話そうか? 逃げて良いが、そうすると次はお前の家にお邪魔させてもらうから」
 ここで逃げても意味が無いと言われて私は従うしかない。
 腕を掴まれたまま連れていかれたのはラブホテル。
 暗い廊下を足をすくませながら歩く私を見て男は笑いかけてくる。
「そう怖がるなよ。お前がバカな事をしようとしない限り何もしねえよ」
 そう言われても、全く安心が出来ない。
 カードキーを使い入ったのはモノトーンで統一された部屋。あるのは無駄大きなベッドと大きな鏡の前にあるソファー。
 男はベッドの方ではなく、ソファーの方に私を連れていき放り出すように座らせる。
 ソファーに座って気が付く。目の前の床に謎の金具があり、視線をあげるとフックとか怪しげなモノがいくつか天井から下がっている。そしてその前の一面の鏡……。
 ここは所謂SMを楽しむ人の為の部屋?! 私はビビる。
「愛花ちゃん何か飲む? ジュース? それともお酒?」
 完全に怯え、何も答えることができない。
 男は水の入ったペットボトルとビールの缶をもって戻ってくる。そして私の隣にドカりと座り水のペットボトルを私に手渡し、自分はビールの缶のプルトップを開ける。
 目の前に二人並んで座る私たちの姿が見える。逃げなきゃ! とは思うけど、身体がすくんで動けない。
 【Welcome to hell】とヤバそうな意味の文字と骸骨のイラストの描かれたTシャツと、細身のジーンズを履いた名無しの権兵衛と名乗った男。
 【HAPPY?】という文字の入ったファンシーな猫のイラストのTシャツにコットンパンツ姿の私。なんとも不思議な組み合わせである。
「どうする? 記念すべき再会に乾杯でもする?」
 私は男を睨みつけることしか出来ない。しかし直ぐに逸らしていまう。そうすると、鏡に映る私の置かれた現状が見えるだけ。
「可愛くねえな。せっかく会いに来てやったのに。
 数奇な運命を共にしている仲間だろ」
 男は気持ち悪いことを言ってくる。
「……何故、私の事をそんなに?」
「さあね……」
 男は惚ける。昨日会ったばかりで何で男は私の事にそこまで詳しいのか?
「昨日初めて会ったのに、なんでそんなに私の事詳しいのよ!」
「あらら、冷たいね。
 会ったのは今日で三度目だろ?」
 男の言葉に私は首を傾げるしかない。
「七月十一日、銀座の道路でぶつかるという劇的な出会いをしたのに、覚えてないか~」
 男の言葉で私は思い出す。就職試験を終えてビルを出た場所でぶつかった男の事を。確かにあの時、私を怒鳴りつけてきたのもこの男だった。
 あの時のあの後の記憶はなく、私はこのループ現象に巻き込まれている。
「今思い出しました……あの時何かあったの……でしょうか?」
 男は私をチラリと見てンーと声を出す。
「アンタは、あの時死んだ」
「は……?」
 思いもしない言葉に私はそんな声を漏らしてしまう。
「あの近くにあったチョコレートショップの看板がぶち当たってお陀仏。
 そのショックでこのループ現象に巻き込まれているって訳!」
 サラリととんでもない事を男は言ってきた。
「あ、貴方は?」
「この世界の支配者的な? そんな感じ。
 アンタはこの世界に迷い込んでしまったイレギュラーな存在。余計な認識をもってしまったままループを続けている」
 やはりこの男はこのオカシナ世界のことを知っている。
 男はニヤリと笑うが、その笑みをスッと引かせ真顔になる。
「それより、何で俺の邪魔をした?」
 笑顔で愛想良かった顔が、笑みが無くなることで凄みが出て怖くなる。
「当たり前でしょ! 周子お姉様にあんな事を!」
「周子お姉様ね~。
 そっちもそっちで怪しい感じだな。意外と周子ちゃん厄介な人たらしだな。
 でもこの世界、他にそういう関係を求める相手はいっぱいいるだろう?
 周子ちゃんは大人しく俺に寄越して、お前は別に愛を求める女を探せ!
 何ならパートナーを求めるレズが集まる良いお店でも探して教えてやろうか?
 そもそも周子ちゃんはレズではないから、そういう関係まで持っていくのも面倒だぞ」
「私もレズではないわよ! 
 周子お姉様はいい人なの! 親切で、優しくて……優しくて……いい人なの」
 バカみたいな言葉しか出てこないが、必死に殺されるべき人ではないと訴える。
「貴方こそ、善良な周子お姉様を狙わなくても!
 人を殺したいならこの世界、もっと他に殺されても仕方がない悪人とか嫌な奴とかイッパイいるでしょ! そういう人を殺せば良いじゃん!」
 男は呆れたようにため息をつく。
「俺を、誰彼構わず殺したがる殺人鬼のように言うなよ。
 俺は理由があって周子ちゃんに罰を与えているの!」
「罰ってなによ! そんな殺されなきゃならないような事を、周子お姉様はしないでしょ!」
 男の目が細められる。
「するんだよ、一年後に」
 突拍子も無いことを男が言う。
「は?」
 ふざけているようではなく、顔は真剣な雰囲気に見えた。
「許されない事を」
「……だから過去に戻って殺したと? でもそれなら何で何回も殺すの?」
 一年後に周子お姉様がすることを止めたいのなら、一度殺せばすむこと。
 男は大きくため息をつく。
「繋がってねぇからな。この世界とあの周子ちゃんのいる世界が」
 男の言ってる言葉の意味が分からない。
「ならば意味無いじゃん」
 男はビールを煽り飲み終わった缶を床に放り投げる。
「確かに意味はねぇが、俺の気分は少しは晴れる」
「そんな貴方の八つ当たりに付き合わされて周子お姉様が可哀想!」
 私の言葉に男は視線を私に向けてまっすぐ見つめてくる。怖くて目をそらす。
「……確かに可哀想ではあるな。
 周子ちゃんは、バカみたいにお人好しで。
 そしてとても哀れで可哀想な女……。
 そう言えば、あんたの事もずっと気にしていた。こんな世界に陥って苦しんでないのかって。
 面倒みてやれないのか? って」
 周子お姉様の話が出てきて私は視線を男に戻してしまう。
「え? 周子お姉様が私のことを? でも周子お姉様は私の事は……」
「この世界の周子ちゃんは、なんも知らないよ。
 俺が言ってるのは一年後の世界の周子ちゃん」
 普通に聞いていたら、この男が狂っていると思う。ループ現象を続けている世界に私が居るだけに、それが妄想とは言いづらい。
 とはいえ、私の事を気にかけてくれている周子お姉様がいるという事実は少し嬉しい。どういう状況なのかは分からないが。
「その一年後の周子お姉様と貴方の関係は?」
 男は少悩む。
「ん? ………友達にはなるのかな?」
「なら、なんで殺すの?!
 もしかして一年後の周子お姉様にフラれたの?
 その八つ当たりをここで殺してしているとか!」
 男は不快そうに顔をしかめる。まさか図星だったのだろうか? 
 何度も殺すという異様な執着。それは恋愛感情から来るものだったのならある意味シックリくる。
 男が激昂するかと身構えたが、むしろ冷静になり何やら考えているようだ。
「俺が周子ちゃんをね~。
 そういう方向でチョッカイかけるのも、ありっちゃありか……。
 なかなか良い身体もしてそうだしな。俺・も・あの身体を味合うのは良いかも♪
 愛花ちゃん、俺が周子ちゃんを殺さないのなら文句はないんだろ?
 だから殺るのはなしにするよ。別の意味でヤルことにした」
 別の方向で不味い事を言ってしまった気がする。
「周子お姉様に、変なことしないでよ!」
 男ニヤリと嫌な笑いをする。
「変な事? いや、イイコトだよ。 
 そもそもアンタが気にする事は、何もねえだろ?
 アンタと違って周子ちゃんは、0時越えたら記憶もリセットされる。何されても、な~んにも傷付くことも無い!」
 気になる事しかない。
「だったら代わりにアンタが八つ当たりうけてくれる? 
 周子ちゃん相手なら、まだ俺はイケると思うけど、アンタのようなガキにはそそられない。立つ気もしない。
 だから痛め続けることだけになると思うけど……。
 あっ、アンタの場合は記憶が蓄積されていくから辛いだろうな~」
 私は逃げるように距離を取ろうとするが真横に座られているので肩を掴まれ戻される。
「俺が呼び出した時に来てくれて、俺にされるがまま痛みに苦しんでくれれば良い。
 そしたら周子ちゃん構うのを勘弁してやる。
 まぁ周子ちゃんに手を出す場合は……ダチではあるから、コレからは優しく愛でてやるつもり。どっちがいい?」
 とんでもない選択肢を迫る男に私は何も答えられない。
 答えに迷っていたら、床に放り投げられた。
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