バッドエンドの向こう側

白い黒猫

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愛花の世界

初めての尾行

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 調べるといっても、ググっただけなのでそう大した事が分かる訳もない。
 Facebookに書かれた個人情報と、殺された時にネットで流れた情報だけ。

 人探し、浮気調査を専門に行う調査会社【とおあまりひとつ】の事務員

 今日で二十九歳になる女性。

 どうやらヒューチャーというお笑いコンビの古井という人とお付き合いしていて同棲をしているらしい。

 分かったのはそれだけ。恋人の芸人はクズで有名だったようだが、警察に連れて行かれたのは重要参考人ではなく事情聴取と遺体確認のためだったようだ。

 人探し、浮気調査といったことを専門の会社【とおあまりひとつ】。変な名前なので印象に残っている。
 これは古代数詞で、昔の日本は十までを数えそれ以上は余りものという考え方があった。この会社は『他の人にとっては余計なモノだけど依頼者にとっては重要であるだろう物事を調べます』という意味でこの名前にしたようだ。
 上手い表現とは思えないが、この会社の所長はどこか自慢げにその説明をHPで紹介していた。
 多分○○事務所だけだとインパクトに欠けるから、こういう名前にしたのではと思う。

 窓の外を見ると十二時過ぎで晴れ間が見えて来ている。朝あれだけ猛威を振るっていた台風も関東から去っていったようだ。今は嫌になる程晴れ渡り、逆に午前中のあの雨と風は何だったのかと思う。
 私は立ち上がり着替えて外へと飛び出す。
 HPを見ながら佐藤周子の会社まで来てしまった。
 しかしどうすれば良い? 

 単なる大学生が冷やかしで、会社に飛び込んで行く訳にもいかない。

 仕方がないので会社の前にあるイートインスペースのあるコンビニに、飛び込みアイスコーヒーを飲みながら事務所のある方を見張る。
 事務所は二階にあり、ブラインドもしまっているので中の様子は全く見えない。
 ふと思う。何故、事務員である佐藤周子は夕方に通り魔に襲われたのか? 
 そんな事を考えていると事務所のある階段から一人の女性が降りてくる。
 半袖のベージュのブラウスに黒のタイトスカートに歩きやすそうな高さのヒール。いかにも働いている女性という格好。ネットで散々顔を見ていた佐藤周子さんだ! 
 テレビ画面に出てきた写真は野暮ったい感じに思えたが、こうして生で見てみると派手さはないものの綺麗な人だと思った。
 そもそもテレビに出ていたのは高校時代の卒業アルバムっぽかった。事件に巻き込まれて死ぬとそんな写真がテレビで晒されることになるんだと思うと、少しゾッとした。

 私は日除けの帽子を深めに被り、コンビニを飛び出した。
 佐藤周子さんは何かを確認するようにスマホを一度見てから、駅の方へと歩き出す。
 改札を通り迷う素振りもなく駅へのホームの、階段を登っていく。
 体力のない私はエスカレーターで追いかける。
 ホームでハンカチで汗を拭っているものの、その隣にいる汗ダラダラで暑さから虚な顔になっているオジサンとは違い、暑苦しくもなくクールな感じに見えた。
 私が仕事をするようになったらこんな感じで、駅とかでも背筋を伸ばし颯爽としている人になりたいなと思ってしまう。
 就活が始めたころから始まった私の癖で、働いている人を見て、同じ行動をしている自分を重ねて妄想する。
 そうして、働く自分という像を組み立て、就職活動に挑んでいた。今は趣味でそういった行為を楽しんでいるだけ。
 ループが解消された時に、内定をゲットするために完璧な面接の受け答えを模索していた時期もあったが、もう元の日常に戻れる気もしなくなって辞めてしまった。
 
 そして今、生まれて初めて人を尾行している。それが意外にドキドキもあり楽しくなってくる。こういう遊びをしてみることも面白いのかもしれない。

 不思議なことで佐藤周子さんを尾行することで、見守っているような気分にもなってきて、勝手に同調し親近感を覚えてくる。

 九段下で降りたので、私も隣のドアから降りてそのまま後をつける。どうやら区役所に用があったようで受付に用紙を渡して何かの書類を申請しているようだ。
 離れたところで、背筋を伸ばした姿勢で椅子に座り待っている佐藤周子さんの様子を伺う。
 番号が呼ばれたのか、佐藤周子さんは椅子から立ち上がり、カウンターで何かの書類を受け取りクリアケースにそれを入れてからバッグにしまう。
 用事が済んだという感じで区役所を後にする。
 私もそっとその後を追いかける。
 駅の方に戻るのかと思ったが、佐藤周子さんは牛ケ淵の橋を渡り北の丸公園へと入っていく。

 私はその後ろ姿を見て緊張する。この先の公園で佐藤周子さんは殺されたから。
 私は一瞬躊躇うが、勇気を出し、その後を追った。
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