バッドエンドの向こう側

白い黒猫

文字の大きさ
上 下
2 / 14
愛花の世界

不運な女

しおりを挟む
 私は自分を不幸だとは思わないけれど、不運な女だと思う。
 人生の重要なイベントの時にことごとく大変な事が起こる。
 高校生のときや大学受験の際、いつも雪が降り交通機関が乱れ、大変だったという記憶しかない。
 旅行に行くと大概、雨。
 修学旅行も小学校の時は二日とも雷を伴う大雨で楽しむところではなく、中学校は台風結局旅館で待機となった。高校の修学旅行は世界的に感染症が流行してしまったために中止となった。

 第二希望の企業の就職試験の日に大型台風が来て、世界から取り残されてしまった。

 台風で荒れまくっている今日という日で良い事は一つある。それは私のお気に入りのこの書店が空いていると言うこと。
 ウッディーなインテリアの中、天井まである本棚に並ぶ膨大な本。洋画に出てくるオシャレな古き良き時代の図書館か、豪邸にある図書室のよう。
 売っているのは本だけではなく雰囲気のある文房具や雑貨、オシャレな家電までも売っていて、お店を歩くだけでも楽しい。
 店の中にはソファーや椅子も多く配されていて、併設のカフェで買ったドリンクを飲みながら気ままに本を楽しめるようになっている。
 それなりに多くの座る場所が用意されているのに関わらず、通常は席は塞がってしまい座ることもできない。しかし今日は台風のため人もまばらで、私は気分に合わせて今日を楽しむ席を選ぶ事ができる。
 お気に入りなのは、外の景色が楽しめるソファー席、窓に当たる雨で歪んだ風景を楽しみながら海外の写真集などを楽しむこと。
 しかし今日はあえて外の景色が見えない体を包むような大きめな一人がけソファーのある席にする。
 近くにはフェイクの暖炉があり、少し離れた所に大きいテレビも置かれセレブの住む豪邸のリビングのような空間となっている。
 いつもは映画などが流れているテレビだが、台風の今日は天気の情報を店員さんも仕入れたいからか通常のテレビ番組が流れている。
 流れているのは天気情報のみで台風が今どこにいて、どんな被害をもたらしているかという話ばかりをしている。
 今日選んだのはフランスに住むバイオリンニストがパリでの生活を紹介したエッセイ。それとアートディレクターがパリの街中での愉しみ方を伝えているガイドブック。今の気分はフランス。この二冊で妄想も捗りそうだ。
 今日はコーヒーではなくカフェラテを手に、最高に素敵な空間でほんの世界へと没入する。
 心の中で膨らませたフランスでの楽しいおしゃれな生活の妄想の世界を漂う。
 ふと現実に戻り視線を巡らせても、私のいる空間も非現実的なお洒落な世界のために妄想は弾けることもない。思う存分私は自分の世界を愉しめる。
 一人の時間が苦痛ではないし、妄想型文学少女の私にとって、この場所は何十時間でもいても飽きることのない最高の空間だった。
 少し暗くて高級感のあるレトロな空間、そして書店の中にあらゆる世界へと誘ってくれる本という名のどこでもドア。ここにいれば世界が私のすぐ側にある素敵な場所。
 私は更にフランスへの妄想を愉しむために、読み終わった本をお代わりの本を探しに行くことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界終わりで、西向く士

白い黒猫
ホラー
 ある事故をきっかけに土岐野 廻の世界はすっかり終わってしまう。  その為、引きこもりのような孤独な生活を何年も続けていた。  暇を持て余し、暇潰しのにネットで配信されているコンテンツを漁る毎日。  色々やって飽きた廻が、次に目をつけたのはウェブラジオだった。  適当な番組を選んで聞いた事により、ギリギリの平和を保っていた廻の世界は動き出す……  11:11:11シリーズ第二弾   他の作品と世界は同じなだけなので単体で楽しめます。  小説家になろうでも公開しています。

11:11:11 世界の真ん中で……

白い黒猫
ホラー
それは何でもない日常の延長の筈だった。 いつものように朝起きて、いつものように会社にいって、何事もなく一日を終え明日を迎える筈が……。 七月十一日という日に閉じ込められた二人の男と一人の女。 サトウヒロシはこの事態の打開を図り足掻くが、世界はどんどん嫌な方向へと狂っていく。サトウヒロシはこの異常な状況から無事抜け出せるのか?

The Last Night

泉 沙羅
ホラー
モントリオールの夜に生きる孤独な少女と、美しい吸血鬼の物語。 15歳の少女・サマンサは、家庭にも学校にも居場所を持てず、ただひとり孤独を抱えて生きていた。 そんな彼女が出会ったのは、金髪碧眼の美少年・ネル。 彼はどこか時代錯誤な振る舞いをしながらも、サマンサに優しく接し、二人は次第に心を通わせていく。 交換日記を交わしながら、ネルはサマンサの苦しみを知り、サマンサはネルの秘密に気づいていく。 しかし、ネルには決して覆せない宿命があった。 吸血鬼は、恋をすると、その者の血でしか生きられなくなる――。 この恋は、救いか、それとも破滅か。 美しくも切ない、吸血鬼と少女のラブストーリー。 ※以前"Let Me In"として公開した作品を大幅リニューアルしたものです。 ※「吸血鬼は恋をするとその者の血液でしか生きられなくなる」という設定はX(旧Twitter)アカウント、「創作のネタ提供(雑学多め)さん@sousakubott」からお借りしました。 ※AI(chatgpt)アシストあり

優しくて美しい世界

白い黒猫
ホラー
 大好きな優しくて格好よいセンセイは私の自慢の恋人。  そんなセンセイに会うために、センセイの住む街へと向かったけれど……   貢門命架の愛が狂っていくのか? 愛で世界は狂っていくのか? 11:11:11シリーズ作品。 と言っても同じ設定の世界での物語というだけで、他の作品知らなくても全く問題ありません。

シカガネ神社

家紋武範
ホラー
F大生の過去に起こったホラースポットでの行方不明事件。 それのたった一人の生き残りがその惨劇を百物語の百話目に語りだす。 その一夜の出来事。 恐怖の一夜の話を……。 ※表紙の画像は 菁 犬兎さまに頂戴しました!

兵頭さん

大秦頼太
ホラー
 鉄道忘れ物市で見かけた古い本皮のバッグを手に入れてから奇妙なことが起こり始める。乗る電車を間違えたり、知らず知らずのうちに廃墟のような元ニュータウンに立っていたりと。そんなある日、ニュータウンの元住人と出会いそのバッグが兵頭さんの物だったと知る。

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...