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プロローグ
零の世界
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2025年7月11日に太平洋側から近畿地方へと上陸した台風は、そのまま日本を舐めるように北上する。
暴風に加え豪雨を伴っている台風は通り過ぎた場所にシッカリと無惨な傷跡を残していった。それが11日には関東へと移動してきた。
幾分勢いは弱まったとはいえ、雨と風は交通機関の乱れを多発させ人々を混乱に陥らせている。
道路も閑散としており、走っている車はバスやトラックなどこのような悪天候でも動かざる得ない車両のみ。歩道も同様で、こんな横殴りの雨の中でも外出する必要性のある人のみ。傘も役に立たない状況でレインコートをはためかせながら無言で道を歩いている。
佐竹愛花もこんな天候の中でも動かさるを得ない一人だった。
第二志望の企業の面接試験を終え、エレベーターに乗り大きく息を吐く。
ゆっくりと就活モードの外面が剥がれて、あどけなさを感じさせる愛花本来の表情が戻っていく。
とはいえ彼女の頭の中は、終えたばかりの面接のことで一杯一杯。
自分の受け答えは悪くはなかったとは思うものの、気付かないところで、ミスをしてしまったのではないか? という不安は消えない。
こんな台風にも負けずに選考を受けにきたという事が、どの程度考慮してもらえるのか? そんな事を考えているうちに一階のエントランスへ到着した。
相変わらず激しい雨の外を見て、愛花は別の意味でのため息をつきながら、大きめのバッグに畳んで入れていたレインコートを取り出し着込む。
行きの時に濡れたままバッグにしまっていた為に雨のすえた匂いもしてあまり心地よいものでもない。しかし大切なリクルートスーツを少しでも守る為には仕方が無い。
フードも被り一歩外に出た途端に、容赦ない雨と風が愛花を襲ってきて、思わず鞄を抱きしめ体をすくませる。
辺りを見渡すと、街路樹が狂ったように風に揺れており、自分がただではすまない勢いの風の中にいることに気がつく。こんな状況で歩くのは危険だというのは、呑気だと人から言われる愛花でも察する事ができた。
近くに避難できるところはないかと視線を巡らせた。
愛花は必死に考える。デパートやショッピングモールなどは最適だろうが、ここから少し距離がある。この近くにあるのは老舗系の小店舗のみ。冷やかしで雨宿りするには向かない。
道挟んで反対側の二階が喫茶店であることに気がついた。
そちらへ走り出したところ、歩いてきた男性にぶつかる。
転けそうになったところを男の腕が伸びて支えてくれたことで事なきをえた。
お礼を言おうと顔を上げると、野生みのある精悍な顔立ちの男性が不快そうに愛花を見下ろしていた。
思いがけない格好良い男性との接触に、愛花は一瞬恋愛映画や小説にあるような展開を妄想してしまうが、それは瞬間に弾けて消滅することになる。
「危ねえな! 何、突然ぶつかってきてるんだよ!」
相手から繰り出されたのは、『大丈夫ですか?』とコチラの気遣う言葉ではなく罵倒だったから。
なまじ整った顔立ちだけあり、怒りを孕んだ表情は愛花に恐怖を与える。
そもそも普通の生活をしていて人から怒鳴られるという体験もそうあることではないから、愛花の身体は竦み何もできずに立ち尽くすしかできなかった。
そんな愛花の態度は、余計に相手を苛立たせたようだ。その男はさらに言葉を続けようと口を開く。
二人ともその時、周囲に気を配っていなかったから気がつけなかった。近くのチョコレートショップの看板がガチャガチャと異様な音をたて揺れていた事を。そして暴風に耐えきれなくなったその看板が破裂音を上げてから壁から離れ、回転しながら二人の方へと吹き飛んできていた事にも気がつけていなかった。
次の瞬間、重い鉄でできた看板は二人の体を容赦なく破壊して、さらに二人を地面に押し付け身体を潰した。
暴風に加え豪雨を伴っている台風は通り過ぎた場所にシッカリと無惨な傷跡を残していった。それが11日には関東へと移動してきた。
幾分勢いは弱まったとはいえ、雨と風は交通機関の乱れを多発させ人々を混乱に陥らせている。
道路も閑散としており、走っている車はバスやトラックなどこのような悪天候でも動かざる得ない車両のみ。歩道も同様で、こんな横殴りの雨の中でも外出する必要性のある人のみ。傘も役に立たない状況でレインコートをはためかせながら無言で道を歩いている。
佐竹愛花もこんな天候の中でも動かさるを得ない一人だった。
第二志望の企業の面接試験を終え、エレベーターに乗り大きく息を吐く。
ゆっくりと就活モードの外面が剥がれて、あどけなさを感じさせる愛花本来の表情が戻っていく。
とはいえ彼女の頭の中は、終えたばかりの面接のことで一杯一杯。
自分の受け答えは悪くはなかったとは思うものの、気付かないところで、ミスをしてしまったのではないか? という不安は消えない。
こんな台風にも負けずに選考を受けにきたという事が、どの程度考慮してもらえるのか? そんな事を考えているうちに一階のエントランスへ到着した。
相変わらず激しい雨の外を見て、愛花は別の意味でのため息をつきながら、大きめのバッグに畳んで入れていたレインコートを取り出し着込む。
行きの時に濡れたままバッグにしまっていた為に雨のすえた匂いもしてあまり心地よいものでもない。しかし大切なリクルートスーツを少しでも守る為には仕方が無い。
フードも被り一歩外に出た途端に、容赦ない雨と風が愛花を襲ってきて、思わず鞄を抱きしめ体をすくませる。
辺りを見渡すと、街路樹が狂ったように風に揺れており、自分がただではすまない勢いの風の中にいることに気がつく。こんな状況で歩くのは危険だというのは、呑気だと人から言われる愛花でも察する事ができた。
近くに避難できるところはないかと視線を巡らせた。
愛花は必死に考える。デパートやショッピングモールなどは最適だろうが、ここから少し距離がある。この近くにあるのは老舗系の小店舗のみ。冷やかしで雨宿りするには向かない。
道挟んで反対側の二階が喫茶店であることに気がついた。
そちらへ走り出したところ、歩いてきた男性にぶつかる。
転けそうになったところを男の腕が伸びて支えてくれたことで事なきをえた。
お礼を言おうと顔を上げると、野生みのある精悍な顔立ちの男性が不快そうに愛花を見下ろしていた。
思いがけない格好良い男性との接触に、愛花は一瞬恋愛映画や小説にあるような展開を妄想してしまうが、それは瞬間に弾けて消滅することになる。
「危ねえな! 何、突然ぶつかってきてるんだよ!」
相手から繰り出されたのは、『大丈夫ですか?』とコチラの気遣う言葉ではなく罵倒だったから。
なまじ整った顔立ちだけあり、怒りを孕んだ表情は愛花に恐怖を与える。
そもそも普通の生活をしていて人から怒鳴られるという体験もそうあることではないから、愛花の身体は竦み何もできずに立ち尽くすしかできなかった。
そんな愛花の態度は、余計に相手を苛立たせたようだ。その男はさらに言葉を続けようと口を開く。
二人ともその時、周囲に気を配っていなかったから気がつけなかった。近くのチョコレートショップの看板がガチャガチャと異様な音をたて揺れていた事を。そして暴風に耐えきれなくなったその看板が破裂音を上げてから壁から離れ、回転しながら二人の方へと吹き飛んできていた事にも気がつけていなかった。
次の瞬間、重い鉄でできた看板は二人の体を容赦なく破壊して、さらに二人を地面に押し付け身体を潰した。
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