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フルシティロースト

チグハグな告白

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 煙草さんとの世界旅行はいつもちょっと食べ過ぎる。しかしそれが後悔には繋がらず楽しかったという感情だけに満たされる。
  今日も頑なに割り勘を申し入れるのをヤレヤレと思いながらカードで支払い、煙草さんが納得し受け入てもらえるキリの良い金額だけを受け取る。そういえば初芽も奢られるのが嫌いだったと思い出す。交互に外食の時に奢りあったり、なんだかの別の形で返してきたりして一方的に世話される事を嫌がった。男に奢られて当然という女もどうかと思ったものだけど、そういう所に少しもどかしさを感じたものだった。奢るからエライとか、奢られるからどうだという訳ではないと思うのだが。それに俺はどうでもよい相手は奢らない。だからそれなりの想いや感謝の気持ちなりがあるからなのに、初芽も煙草さんも割り勘に拘る。俺は何故ここで初芽を思い出すのかと苦笑しながらサインをしてレシートをうけとり、先にお店を出た煙草さんを追いかける。

  シュバットが余程好みにあったのか、かなり陽気な酔っ払いとなった煙草さんを連れて歩く。踊るようなステップで歩いたかと思うと、俺の腕に抱きついて甘える。こういう感じも久しぶりである。そういえば初芽も酔っぱらっているときだけは無邪気になって甘えてくれた。俺は頭の初芽を追い払い、煙草さんの頭を撫でる。フワフワとした緩いカーブを描いた髪は柔らい。この子はどこもかしこも柔らかいんだろうなと思う。
 「大丈夫か? かなり酔っぱらっているだろ」 
  煙草さんにそう言うと、煙草さんはブルブル頭を横にふって否定する。何故酔っ払いって、自分が酔っている事を否定するものなのだろうか?
 「ぜっんぜん 大丈夫ですよ~」
  俺は目を細め疑わしいという表情を返す。
 「本当か? 家まで送ってあげようか? 足取りも怪しいし」
  そう言うと、煙草さんは姿勢を正して顔を横にふる!
 「めっそうもない! 私ごときの為に清酒さんの手を患わすなんてこと出来ません!
  私はホント大丈夫ですから! 家どころか、カザフスタンまで歩いて帰れますから!」
  おい! っとツッコまなかったのは、俺が酔っぱらってなくて理性があったから。
 「……やはり」
  冷静に返すと、煙草さんはハッとした顔をしてから真面目な顔をつくる。
 「冗談です! ちゃんと電車で帰りますから! はい!」
  俺の視線で、素早くこういう反応を返してくるから大丈夫ではあるようだ。
 「心配だよ、煙草さんが」
  煙草さんは俺の言葉に酒のせいではなく顔を真っ赤にさせ、オロオロする。初芽と違って、照れとか動揺をハッキリ出してくれる所が本当に可愛い。俺はその頬に手を添える。柔らかくて滑らかなその感触も心地よい。
 「清酒さん! ダメですよ!彼女でもないのにそんな家まで送ったりこんな事をしたり……したら……」
  真っ赤な顔で俺を、見上げてくる煙草さんが唇を少し尖らせてそんな言葉をブツブツ言ってくる。ふっくらした唇がまた美味しそうに見える。

 「だったら俺の彼女になる? そしたら気にすることもない」

  煙草さんの丸い目がますます丸くなる。そして暫く見つめあっていたが、突然煙草さんがバタバタ慌て出す。その表情は嫌がってはいない、ただただ動揺しているだけとは思う。
 「え……、 あ、 そんな、私なんかが清酒さんの彼女なんて……」
  ニコリと笑って見つめている俺をチラチラ視線向けては恥ずかしそうに目逸らす煙草さんが面白すぎでにやけてしまう。その表情がいけなかったのかもしれない。

 「そ、そんなの……ありえません!!」

  そう返された時には俺は少し唖然としてしまった。さっきアレだけ俺への熱い想いを語っていたのに?! 『ありえない』?!
 「私のようなドジでおバカな子供が、清酒さんの彼女なんて! そんな夢のような話信じられる訳ないです! ダメですよ」
  どういう流れ? コレは? と煙草さんの必死な言葉をオレは聞き続ける。
 「清酒さん、本当にダメですよ! 私が信じたらどうするんですか! そして清酒さんの質の悪いストーカーになったりしたら大変ですよ! あっ、いえ、私は分をわきまえていますから、そんな事をしませんし、大丈夫です! 今迄通り崇めさせて頂きますが、他の女の子ならば真に受けちゃいますよ!! 清酒さんのそう言う言葉は女の子をトキメかせるですから! もう、天に登るかのような気持ちになっちゃうんだから――」
  お酒入っている事もあり、煙草さんの言っている事はこの内容の繰り返しで、なぜか俺は叱られている。
  俺ってそんなに口先だけで、女の子を口説く男だと思われているんだろうか?
 「俺そんなに軽薄な男に見える?」
  そう反論すると、煙草さんはブルブル頭を横にふる。
 「いえ、清酒さんは、大人で立派な男性です! それはもう。だからこそああいう事簡単に言ったらダメなんです! 自分を安売りするような事言ったらダメなんです!」
  言い方は軽かったけど気持ちは本気だと伝えようと試みたけど、相手は酔っ払い。理論が空回りして届かない。オカシイ俺の事は【スゴイ人】【最高に素敵な男性】と言いつつ、何故俺が彼氏となることをここまで必死に拒むのか分からない。
  これは仕切り直した方が良いかもしれない。酔っ払っている時に告白しても忘れられて無かった事になる可能性も高い。仕方がなく諦めて駅まで二人で歩くことにした。同じホームだけど、乗る電車は別。

  今振った人の隣とは思えない感じで、煙草さんはニコニコ楽しそうにしていて俺に話しかけてくる。そのあまりにも普通の様子に逆に拍子抜ける。やはり酔っ払いに告白するものではない。煙草さんお酒が入ると陽気になる方で、質の悪い酔い方はしないと思っていたが、少しその認識を改めなければらならないのかもしれない。楽しくお話することはできても、繊細で真面目な会話をするのに向いていない。空の三日月の話になったり、近くの自動販売機で売っているドリンクの新製品の話になったりと次から次へと話題は変わっていて、俺にいつになくじゃれつき多弁である。周りのモノに脊髄反射で反応しているだけで、俺という人間だけを見てくれない。その様子を見て怒りを感じるというより笑えてくる。
  それを静に聞いている俺に煙草さんは顔を近づけてきて悪戯っこのように笑う。
 「ところで、次どこの国行きますか?」
  告白じみたあのよく分からないやりとりは、俺達の関係をギクシャクさせるどころか、何の変化ももたらせていないようだ。煙草さんは興味津々といった顔で俺を見上げている。
 「うーん、アジア・ヨーロッパもかなり行ったし、南米も何気に行っているから、アフリカ大陸でも攻めてみる?」
  煙草さんの顔がニヤリとする。
 「いいですね~なんか象とかキリンとか面白い肉食べられそうですね!」
 「いや、それは流石にないのでは?」
 「そうか~っ! あっ、電車きました!」
  ホームに入ってくる電車で会話が中断される。電車の開いた扉へと進む煙草さんの背中を少し寂しく見送るとクルリと振り返る。
 「ではお休みなさい! そして次はアフリカで!」
  手を上げそう元気に挨拶して電車に飛び乗る。そして俺の姿が見えなくなるまで中でブンブン手をふって去っていった。あれだけ元気ならば途中で寝てしまう事もないだろう。俺もホームの反対にきた電車に乗り家に帰ることにする。電車の中でスマフォが着信する。

  【今ネットで確認したら、結構アフリカ料理もイッパイあるようです!象さんキリンさんは無理でもホロホロ鳥とかダチョウとワニは食べられるようですよ!】

 煙草さんからのメールに俺はフフと電車の中で声を出して笑ってしまった。
  まだまだ時間もチャンスもタップリある。ゆっくり攻める事にした。
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