スモークキャットは懐かない?

白い黒猫

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フルシティロースト

リプレイ

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 それからはイベントを行いそうな企業を回る時手下てがを伴って珈琲サーバーの紹介をした。そして種を蒔いて回る。
  手下だけでなく他の営業もそういう方面への利用も視野に入れて動き出した事で少しずつ結果が見えてきた。住宅展示場にも置いて貰う事となった。
  手下も自力で、ボードゲーム専門店内にあるプレイルームや、珈琲を専門にしていない飲食店等といった新規の客を見つけてきたようだアイツ本来の陽気さや図々しさ戻ってきた。
  そして新しい部下である相方さかたは、相変わらず元気に走り回っている時間と共に恍けたミスや大ボケ行動も減少してきた。彼曰く『緊張して舞い上がっていたから、色々恥ずかしい事もしてきましたけど、もう大丈夫です! 落ち着きました』とのこと。あんなに笑顔で楽しそうに緊張する人は初めて見たが、気合い込めすぎて空回りしていた歯車が合ってきたようだ。力みすぎていた肩の力も抜け、彼の持ち味である人懐っこさが仕事にはまってきたように思う。前ほど彼の整いすぎた顔に戸惑い覚えたり言動に驚いたりする事も少なくなった。俺自身が相方という存在に慣れてきたということもあるのかもしれない。

  そんな相方の話を聞きながらナイル料理専門店で煙草さんは笑いながら聞いている。 
 「でも、分かる気がします。私もまだ人の事いえないけど、あの時って兎に角必死で周り見ずに突っ走っているから」
  俺は丁度一年前の煙草さんの姿を思い出し、一生懸命頑張る彼女に八つ当たりしてしまった事を思い出し苦笑してしまう。そんな俺の笑いを煙草さんは勘違いしたのだろう。
 「あの頃の自分が無様なのは分かっていますよ! 清酒さんにも色々お恥ずかしいところお見せしていたので、清酒さんも呆れられていましたものね」 
  恥ずかしそうにそんな事いってきたので、俺は慌てて否定する。 
 「いや、煙草さんや相方は、そういう初々しく可愛げがある事はいいなと思います。俺の場合かなり生意気なだけで今にして思えば恥ずかしかったなと思いまして」 
  言い訳だが最近何となく感じてきていた本音の言葉だった。鬼熊さんに事あるごとに『可愛げの無い』と言われる理由が何となく最近分かってきたような気もした。相方や煙草さんは素直で勤勉だ。俺だって努力して人の意見をちゃんと聞いてきた。しかし妙なプライドが作用して、随分生意気な返しをしてきたように思う。
  煙草さんは顔を傾げるよう見上げてくる。 
 「青酒さんが、相方くんみたいに陽気で元気に『チワ~』って入ってきて仕事しているのは想像できませんものね。 
  きっと最初から颯爽としていて、凛々しく仕事していたのでしょうね」
 煙草さんはそう言って少し遠くを見るような目をしてフワリと笑う。どういう俺を想像してきるのだろうか? 別の意味で怖い。そして『チワ~』って? アイツどんな挨拶しているのか? 
 「いや、かなり青かったと思いますよ」 
  今も青いけれど、あの頃はプライドだけ高くそんな自分の青さにも気づかず偉そうで『この新人は何様?』と思われていたと思う。 
 「新人時代ってどんな感じだったのでしょうか?」
  改めて聞かれると恥ずかしい。そして相方の様に笑える失敗エピソードがあるわけでもなくソツなく全てをこなしてきて語る程のモノも何もない。ニコニコと期待に満ちた笑みを向けられるとつらい。 
 「名前のせいで、酒に誘われるのには参りましたね。最初の挨拶の時も、ある客先に部長が『新しく入った清酒を伴って参ります』と伝えたものだから、相手は美味しい清酒持ってくると勘違いしておつまみ用意して待っていたことも……」 
  煙草さんは吹き出してそのまま笑い続ける。煙草さんは今お酒を飲んでいるからか感情がいつも以上に豊かでフランクになっている。『何馴れ馴れしくしているんだ?』という不快さはなく、煙草さんが俺の前で寛いでいて楽しくしているのを感じるのは何故か嬉しかった。 
 「流石に私は灰皿とライター用意されたことはないです!」
 「そういえば、『わかば』って煙草あるんですよね」 
  それを言うと珍しく煙草さんは、顔を嫌そうに顰め憂鬱な顔になる。 
 「そうなんですよ! 私の両親煙草吸わないから分からなかったらしいです。 
  新緑の綺麗な季節に生まれたから『わかば』にしたそうです。これから生き生きと元気に育つようにと」
  俺の身体が一瞬だけ強ばる。固まった頬の筋肉を動かし何とか誤魔化し笑みをつくる。頭の中で同じような言葉を言った人物が浮かび上がったからだ。

 『新緑の美しい季節だったから『初芽はじめ』にしたみたい。太陽の光浴びてスクスク元気に育ちますようにって!』

  煙草さんとは異なり、どこか哀し気な表情でそう言っていた初芽の姿が脳裏でリプレイする。春の嵐や寒の戻りにも耐えながらも成長をしていく『初芽』、青空に向かって葉を広げ育っていく『わかば』。同じ意味の言葉の筈なのに、それぞれなんとピッタリな名前なのだろうかと思う。
  今まで初芽と煙草さん、女性という以外共通点などないと思っていた二人に思いもしない所で似ている所を知り良く分からない衝撃を受けた。その衝撃が何なのかはこの時の俺には分からなかった。

 「そして父は 信正のぶまさで『 SHINSEI』とも読めて 、母は望で『ホープ』、弟は平和ひろかずで『ピース』と、いう感じで見事煙草一家になってしまったんですよ」

 煙草さんの囀りのような無邪気な言葉を聞きながら、俺の心は初芽の姿を映し出していた。いつもは強気なのに俺が愛の言葉を囁くと動揺して顔を赤くしてシャイに照れる姿、お酒飲むと甘えん坊になり俺に身体を寄せて可愛くなる姿。俺に腕を絡ませ寄せてくる唇。思い出せば思い出す程切なくなってくる気持ち。全然自分が立ち直ってない事に気がつく。
 「清酒さん?」
  煙草さんの言葉にハッと我に返る
「清酒さん名前はどういう意味を込めてつけられたんですか?」
  俺はその言葉に苦笑する。
 「俺はそんな愛をもってつけられてないですよ。祖父が字面がよいからとつけたと聞いています」
  名前からいっても面白いところのない俺。期待するような内容でもないのに煙草さんは『なるほど』と真面目な顔で頷く。
 「たしかに『清酒正秀』ってかっこいいですよね。美味しそうな日本酒っぽいし」
 「おいしそう……」
  そう言われたのは初めてだ。煙草さんはニッコリ笑って頷く。
 「淡麗辛口『清酒正秀』ってありそうですよ! 呑んでみたいですもの」

  プッ

 その言い方があまりにも可笑しくてつい吹き出してしまう。
 「俺は呑めないけどね」
  ビールを呑んでいた煙草さんは笑い続ける俺を不思議そうに見つめている。
 「清酒さんって、本当にお酒呑めないんですか」
  俺は頷くと、なぜか納得できないように首を傾げる。
 「ご家族も皆ダメだとか?」
  俺は首を横にふる。
 「両親はあまり強くはないかな? でも姉は強いみたいですね。だからそういう仕事をしています」
 「酒造メーカーですか?」
  何故か嬉しそうにそう煙草さんは言葉を挟む。
 「まあ、そういったらそうですが、神戸のワイナリーです」
  煙草さんが今度は吹き出す。そしてそのままケタケタと涙出すまで笑いだす。そこまで面白いとは思わないのだがツボだったようだ。
 「そういえば、我が家は煙草さんのように家族の名前も面白くはないですが、姉は『澪』といいます。そういうスパークリング清酒あるみたいですね」
  煙草さんの目が好奇心満ちた感じで輝く。そしてスマフォを手にして何やらメモをしている。
 「スパークリング清酒美味しそうですね! 今度呑んでみます! そしてお味を報告しますよ!」
  姉自身は美味しそうな人物ではないし、その日本酒の味はどうでも良いが、俺は笑みだけを返しておく。
 「俺は流石に、『わかば』とか『ピース』を吸う事はしないかな?」
  俺がそう言うと、煙草さは一瞬固まり真っ赤になって慌てる。すこしセクハラっぽい言葉になってしまったのだろうか?
 「だ、ダメですよ!! 煙草吸うのは身体に毒です!!
  それに、わかばってスッゴク不味いらしいですから!
それ以前に煙草なんてラメですからぁ! 煙草いけません!
 吸っちゃダメですよぉ!」
  別に吸っているわけでも、吸いたい訳でもないのに、煙草さんは俺に説教しだす。かなりアルコールが入っている事もあるのだろう。顔も赤くて少しだけ呂律が回ってない。
 「分かってます? 煙草ダメ!」
  唇尖らせ、そう俺を見上げてくる煙草さん。『煙草さん』が『煙草吸ったらダメ』と言いながら唇尖らせてくる。馬鹿な事をつい考えてしまい笑ってしまう。厚みのある唇は確かにキスしたら美味しいのかもしれない。俺は邪な考えを払うように頭を横にふる。そしてこっちを大真面目な顔で見上げてくる煙草さんに向かって微笑む。
 「大丈夫ですよ。煙草を吸ったことないし、実は吸いたいと思った事もないんですから。
  でも煙草さんとこうしてご飯食べるのは楽しいですね」
 煙草さんは何故か照れて一瞬目をキョロキョロと動かす。
 「それは大丈夫! 許す!」
  そう言ってからハッとした顔をして目を伏せる。
 「いえ、許すとかじゃなくて……私も楽しくて大好きです! 清酒さんの事が!
……じゃなくて、清酒さんと食べる事が大好きです。あ、いえ、清酒さんの事好きですよ、その……変な意味ではなくて」
 必死に誤解ないように言葉を続ければ続ける程ドツボに嵌っていく煙草さんが何かオカシイ。可笑しくて笑ってしまう、
 「大丈夫ですよ! 分かっていますから。
  煙草さんは俺にとっても最高の食べ友達です。一緒に食べていても楽しいし、美味しく食事ができる」
  俺は煙草さんが言いたかったと思われる言葉を代弁すると、煙草さんは嬉しそうに笑い頷く。
 「そう、ソレです! 清酒さんとご飯食べると美味しいし! 楽しいし! 明日への活力が沸いてくるんです」
 「それは、良かった。
  改めてこれからもよろしくお願いします。お互いの明日の活力の為に」
  煙草さんはニッコリ笑い、ビールを掲げて乾杯を求めてくる。
 「こちらこそ、よろしくお願いします! 二人の友情に」
  ビールと炭酸水のコップが合わされる。確かに煙草さんって、最高の友達なのかもしれない。俺の触れて欲しくない所に入ってこないし、一緒にいても楽しい。男女の友情は難しく、どちらかに恋人ができるまでの間の食べ友達となるとは思うが、今はこの柔らかい心地よい関係を続けたいと思った。
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