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シティーロースト

likeの意味で

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 何が楽しいかイマイチ分からないハロウィン騒ぎに街が盛り上がっていた十月も終わり、十一月に入り日本は少し落ち着きを取り戻す。
  久しぶりに訪れたJayWalkerさんで煙草さんは、珍しく落ち込んでいた。というよりぶすくれているというのだろうか?
  そして俺の顔みて申し訳なさそうに頭を下げる。
 「清酒さん、申し訳ありません。私の力不足の為に」
  俺は恐縮するふりをして頭を横にふる。
 「いえいえ、逆に思った以上の健闘に驚いていた状態です」
  納得行かないように俺をキッと見上げる。
 「もうミスター珈琲は貰ったものと思っていたのに」
  俺がなれる筈もないのに、煙草さんは絶対に俺がミスター珈琲となれると信じていたようだ。
 「珈琲ならばいくらでも奢りますから、そんなに落ち込まないで」
  煙草さんはその言葉に慌てて首を振る。
 俺は結局四位という結果となった。その他の上位の人が皆いわゆるアイドル顔のイケメン。その中でこの俺はかなり頑張ったと思う。投票した人にも抽選で二千円分の珈琲カードが当たるということで、それなりに盛り上がっていたこの企画。気楽に参加した人は、写真の情報だけで選ぶのだからそうなるのも当然なのかもしれない。男も所詮顔なのだ。
 「違いますよ! 賞品が目当てではないんです! 清酒さんこそが相応しいと思ったから!!
  だから取材で会う人に会う人に清酒さんの事をアピールして投票お願いして、頑張ったんですよ!」
  どうりで、妙に俺に入れてくれたと言ってくれている人の人数を遥かに上回る程票数が多かった筈である。ここでそんな活動が行われていたとは。しかしミスター珈琲なんて称号そこまで価値あるものとも思えないのだが……。
 「ありがとうございます。煙草さん気持ちはすごく嬉しいです。
  煙草さんのように俺がミスター珈琲と見てくれる人がいると思うとそれが良い刺激になって、これからも頑張らないという初心に戻れましたよ」
  俺がそう言うと、煙草さんはハッとした顔をして照れる。
 「いえ、逆ですよ。清酒さんと話すと私も、仕事をバリバリする元気もらえるんです」
  恐らくこの子は、俺だけでなく色んな物から刺激をうけたり、楽しんだりしてエネルギーをチャージしているんだろうなと思う。
 「本当の事です。この企画の時に、ちょっと怪我してしまったという事があっただけに、あの投票コメントの数々にものすごく力付けられたというか、助けられました」
  あのコメントの数々は、本当に俺にとって大きな衝撃だった。あんな風に仕事において胸が熱くなった瞬間なんて無かったかもしれない。改めて営業の仕事というのを客観的に感じる事ができたし、俺なりに色々考えさせられた。
  この時期にあったミスター珈琲のイベントは俺にとって、思っていた以上にその意味は大きかったかもしれない。うっかりそういう事を漏らしてしまった俺に煙草さんはフワリと笑う。
 「私が推薦したのは清酒さんが素敵な人で、大好きだからなんです」
  俺は思わずその言葉に固まってしまう。
 「私だけじゃなくみんなも、清酒さんが大好きなんですよ! だからそういった言葉を清酒さんに向けて送ったんだと思います」
  『like』の意味の好きという言葉は彼女の口癖のようなものというのを思い出す。一瞬でも変に考えた自分が少し恥ずかしくなる。
  煙草さんはこういう天然なところがある。しかしそこが彼女の最大の魅力。
  女の子らしいけど女っぽくはない。そこがこういう仕事においても話がしやすい所がある。男に媚売ってくるような相手だと、こうも俺もこうも気楽に会話を楽しめてないだろう。とはいえそのストレートすぎる言葉には戸惑う事も多い。
 「あ、ありがとうございます」
  煙草さんはこういう性格だからだろう。人の懐に飛び込む事が上手い。その為に、顧客を俺に紹介してくれる事もある。それは美容院だったり、設計事務所だったりと大口相手ではなかったものの、面白い世界との付き合いを広げることが出来ていた。しかしその時に彼女は俺をどのような言葉で薦めていたのだろうか? 今考えると怖い所がある。俺は実は高く上げられていたハードルの場所に知らずに踏み込んでいたのかもしれない。
 「しかしあんな人が、ミスター珈琲なんて納得できません!」
  まだ文句いっている煙草さんに笑ってしまう。
 「いやいや、この子は実際ミスター珈琲の前にも、ブラジル君はこの子の方がピッタリだ! と評判になっていた人物なのですよ」
  煙草さんはキョトンとした顔をする。
 「まあ、マスコットのブラジル君には似ているかもしれませんが……。珈琲じゃなくてココアとかチョコレートドリンクというイメージよね」
  ハハハと笑ってしまう。ミスター珈琲になった人物は、見た目は、女の子みたいなカワイイ男の子。確かに珈琲なイメージではない。
 「まあ、そういう意味ではそうかもしれませんが……」
  眉を寄せたその顔も、なんか惚けた感じで可愛らしい。
 「ウチの会社では納得の結果なんですが。その子実はそう見えてタダモノではないですし。その子がいるとその店の売り上げが大幅にアップするという」
  『そうなんですか』と興味なさげに煙草さんは呟いた。俺も白鶴部長に話聞いてなければ興味もなかったと思うが『伝説のバイト君』がまさかこういうタイプだとは思わなかった。とはいえ俺もコレがそうなのと思っただけでそれ以上の興味もなかったので話はまた別の話題へと移りそのままこのミスター珈琲の事は頭の奥へと追いやってしまった。そして別の雑談を楽しみ煙草さんと別れて会社へと戻る事にした。
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