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ミディアムロースト

結婚する理由

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 人生にとって大事な買い物であるエンゲージリング。それを買うのに清瀬くんも流石に俺に丸投げという訳ではなく色々彼なりにリサーチして、お店もある程度は絞っていたようだ。それに俺はついて行って、思ったままの意見を述べて、それをうけて清瀬くんが悩むというやりとり。
「どうかな~コレ、カワイイけど?」
「ちょっと若すぎるかな?」
 俺がそういうと、眉をよせジロっとコチラを見る。
「だって、これって今だけするのではなくて一生ものなんだろ? だったら長く楽しめるデザインの方がよいと思う」
俺の言葉に納得したように頷き、またウーンと悩んでいる。
男二人でああでもないこうでもないとリングを選ぶ。それはそれで楽しかった。自分が部外者であるという事で気ままであることもあるようだ。
 そして同時に清瀬くんを羨ましいと思う俺もいた。そして考えるのは初芽との事。一緒に暮らし、ずっと一緒にいるという生活。それはどういう感じなのだろうか? 一緒にいることで、必死になると自分の事を後回しにしてしまう彼女のフォローをしていけるような気もする? しかし同時に不安もある。自分が彼女を支えきれるのかという。そして彼女と俺との間に子供が出来たらどうなるのか?
それ以前に、俺がプロポーズしたら初芽は喜んでくれるのだろうか? 正直言って自信ない。
 
 そして散々悩んだ結果、清くんは一つの指輪を選んだ。上下に分かれたプラチナの中に一カラットのダイヤが嵌ったデザインで瞳のように見えるその指輪を、清くんは『サッカー場を上から見たみたい』だと言ってニッコリ笑った。その幸せな未来を真っすぐ見据えたその瞳が、俺にはまぶしくも見えて俺は思わず目を細めてしまった。
 満足のいく買い物の終わった清くんの驕りでそのあと一緒に飯を食う。
 シーズン中ということで、明日も練習あるということで、アルコールなしだったが、清くんは躁状態でご機嫌な様子。
「そういえば、どうやって鬼熊さんと出会ったの?」
 清くんは、視線を少し遠くに向けニカっと笑う。
「病院! 俺は大きな怪我をしてクサッてて、彼女はお父さんの看病してて……」
 それで、俺はどの時期に二人が出会ったか納得する。俺の表情で察してくれたんだろうそれ以上の話はしなかった。鬼熊さんにとってかなり辛い時間を支えたのが清くんだったんだと気づく。
「で、何をきっかけに結婚の決意を?」
 少し微妙な空気なってしまった場を、わざと芸能記者みたいに聞いておどけてみて話題を変えることにした。
「決意? そんなのないよ! スッゴク美雪が好きだから、もっと一緒にいたいと思っただけ」
 あっけらかんとした、その迷いもない言葉に俺は呆気にとられて言葉を返せない。
「美雪といると、俺パワーでるんだ! 楽しいんだ」
 ここまでハッキリ堂々と惚気られると、気持ちいい。思わず笑ってた。彼らしい言葉過ぎて。清くんも流石にテヘヘと照れて笑った。
「なんかどう反応していいのか迷うな。俺にとって、鬼熊さんって何ていうか何なんだろ? 仲間? というか兄貴というかそういう存在だから」
 清くんはキョトンとした顔をする。
「兄貴ですか?」
 恋人の前でその言葉はかなり失礼なのは分かっていたが、それが一番近い言葉だった。
「それだけ頼れる存在で、営業部の中でも男気あるというか、男前というか、仕事ぶりがカッコいいんだよ。冷静だし、頭もいいし、包容力があって。俺なんか太刀打ちできないというのかな」
 俺の言葉を、まるで自分が褒められているかのように嬉しそうに聞いてウンウンと清くんは頷く。そして彼自身も熱く語りだす、鬼熊さんがいかににスゴく良い女なのか? そしてどれほど好きなのかを語り続ける。
「で、正秀さんところはどうなの?」
若干ぼんやりしていたところに、そう突然ふられて我に返る。
「うーん、どうなんだろうな。ただ、彼女が俺との結婚を望んでいるかがわからない」
 不思議そうに清くんが、俺を見る。
「なんで? 互いに好きなんだろ?」
 俺は素直に頷く。なんか清くんの前だと、気取る事もバカらしくなるそういうキャラだから俺も素になるようだ。
「だけど、俺と初芽にとっては、結婚はそんな簡単で単純な問題ではない。好きだからだけで突っ走れる程には」
 イマイチ意味が分からないという顔で清くんはウーロン茶を飲む。
「フーン。でも結婚する時は、俺達呼んでよ! お祝いに駆けつけるから」
 俺はフフと思わず笑ってしまう。
「その前に、まず君たちの結婚を俺達に祝わせて」
 清君は、明るく笑って頷く。その笑顔は俺には眩しく見えた。
 
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