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ニュー・クロップ

スモークというよりも、存在が煙たい猫 

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 恋人の部屋で目覚める朝。
 若干気だるさを含んだ幸せな一時の筈。
 今日は土曜日な事もあり、ダラダラしても問題なく、まだ布団で微睡みながら恋人である初芽はじめの寝顔を楽しむつもりだった。
 しかしこの一時をいつもジャマするヤツがいた。
 ソイツは寝室の棚から態々俺に向かって飛び降りて来て、俺の身体を踏みつけながら移動して、俺と初芽の間を陣取り、俺の彼女に甘える。
 灰色の尻尾で俺の顔をパタンパタンと叩きながら。
 長居だけしている客を追い出そうとしている古本屋の親父のように。
  俺はソイツにムカつきながらベッドから出て落ちている衣類を拾い上げ身に付けていく。
 「あっごめんね、またマールが起こしちゃった?」 
  そっと出たつもりだったけど、猫が甘えてきたのと俺がベッドから離れた気配で、初芽も目を覚ましてしまったようだ。
 初芽は甘えてきている猫を嬉しげに抱きしめながら俺に声をかけてくる。
 「まあね、初芽はどうする? もう起きる?」
  初芽は猫を撫でながら『ウーン』と声をあげる。
 「もう少し寝ていたいな~昨日結局遅くまで起きていたし、この時間を楽しみたい」
  ふにゃ~とした顔で笑う。
 切れ上がった瞳でいつもはキツく感じるその顔も寝起きだけは、トロンとしていて可愛く見えた。
 ペットの猫とじゃれている様子も、飼い主と猫というよりも猫が二匹戯れているように見える。
 初芽の腕の中で可愛がられている灰色の猫がニヤリと嫌な笑いを浮かべてコチラをみて『どうだ、羨ましいか?』と言っている。
 というかそのように見えた。
 「それは失礼しました。
 無理させちゃいました? お詫びに一時間後くらいに、美味しい朝食と珈琲を用意することにいたします」
  初芽が嬉しげにフフフフフと笑う。
 「ありがと、嬉しぃ……」
  そう言いながら、再びまどろみの世界に戻っていったようだ。
 灰色の猫がさっきまで俺のいた場所をしっかり陣取りそこで丸くなっている。
 意地っ張りで甘えてくる事の少ない恋人が数少なくかわいくなるベッドの上での朝の姿。
 しかしそれを堪能したいものの、このように邪魔者がいて思うように楽しめない。
 おかしい、昨晩に寝室のドアはしっかり閉めて追い出しておいた筈なのに猫の野郎はシッカリ寝室に入り込んで朝の俺の楽しみを邪魔しにきた。
 ドアノブ回す扉って猫にあけられるとは思えないのだか、どうやって入ってきたのか?

  この恋人の飼っている猫は、シャルトルーとマンチカンあたりのミックスならしい。
 彼女はそれらの良いとこ取りの可愛い子という。
 俺からみたタヌキのようなシルエットの、手足が短く妙にマッチョでズングリムックリでふてぶてしい顔をしたムカつく猫でしかない。
 灰色の毛に見えるが、初芽曰くこの猫はスモークという毛色で、毛先の八割は濃いグレーで、根元は白いという非常に珍しい毛色なようだ。
 俺にとってはこの猫の毛が根元が白かろうがどうでも良い話。根元は白いかもしれないが、腹の中が真っ黒なのが問題なのだ。
  その腹黒の猫とは最初から相性が悪かった。初めて部屋に上がった時も俺を見るなりシャーと牙を剥いて威嚇してきやがった。
 初芽がまずソイツを宥める事からしなければならず、その後も二人で良い感じになろうとするのを尽く邪魔してきて、何度も楽しい一時を台無しにしたことか。

  部屋で猫が待っている事が気になるようで、彼女の部屋に泊まる事の方が多い。
 それだけにそれなりに俺も気を使ったし対策を講じてきた。
  所詮動物。しかも相手は猫である。さまざまなアプローチで歩み寄ろうとはした。
 最初は猫といったらコレだろうと猫じゃらしを使ってみた。
 コッチを警戒しながら離れた所にいる灰色の猫に笑顔を作りつつ猫じゃらしを仕掛けるが、ヤツは最初こそ目を見開きコチラを見たがその後『何下らない事やってんだよ。
 そんな子供じみたこと俺がやると思っているのか』というシラッとした反応を返してきた。
  他に猫の玩具を買ってきて試してみた事もあった。
 音のするボールは耳と目は動かし反応するけれど遊ぶ事もしなかった。
 後で聞いてみたら俺の居ない時は追い掛けまわして遊んでいるらしい。
 猫用の縫いぐるみは、反応は一番あった。しかしくわえて振り回し、激しく執拗に猫パンチを喰らわせる様子を見ると、気に入っているというより別の意図を感じ愛情よりも憎々しさをより覚えたものだ。
 ヤツとは絶対に仲良くなれない何かを感じた。
  そして、よく分からない三角関係がこうして未だに続いている。
 もう相手にするのはやめて極力無視する事にしているが、それはそれでヤツがコチラにこのように攻撃しかけてくるから困ったモノである。
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