113 / 115
バレンタインチョコ詰め合わせ
シッカリ見てね
しおりを挟む
煙草さん二十五歳、清酒さん二十九歳のバレンタイン風景です。
失恋の痛手からも立ち直り、気になる子も出来てきたようです。
※ ※ ※
俺の前にはニッコリとした可愛い笑顔。それに俺は社会人になり鍛えあげられたとびきりの営業スマイルを返す。
目の前にいる煙草さんの手にはピンクの包み。そして当日でなくバレンタインのある週の取引先。気持ち良い程の義理チョコである。
「バレンタイン少し早いですから、私からの愛です♪ 受け取って下さい!」
俺に対してそんな言葉を言うのかと、苦笑しそうになるのを我慢する。
というのもこの目の前の女性、この俺を先日見事に振ってくれた相手だから。
振ったというのは語弊があるかもしれない。かなりストレートに告白したはず。しかし何故か社交辞令と受け取ったようで伝わらなかったのだ。
したがって絶賛口説き中の相手。
食事に誘えば嬉しそうについてくる。
単なる仕事の付き合いだけにしては多すぎるメールと電話の数。
好意は抱かれているとは思う。しかしさらに先の関係になかなか踏み出せない。なんか甘い空気に全くならないのだ。
この相手の明るさと無邪気さが、その状況では弊害となっている。
「そうそう、俺からもバレンタインプレゼントあるんですよ。」
俺はマメゾンの営業販促用のチョコを煙草さんに渡す。
彼女はチョット驚いたように目を開く。そして受け取った赤い包みをジーと見てニンマリ嬉しそうに笑う。
この子程、モノのあげ甲斐のある人っていないかもしれない。本当に贈り物を嬉しそうに受け取る。
態とらしい言葉と態度でなく『良いモノ貰っちゃった♪ 嬉しい~♪』というオーラを吹き出させるのだ。
「ありがとうございます♪ 皆でいただかせてもらいます!」
珈琲を煎れ直している俺を見て、煙草さんはハッとした顔をする。
「そうだ! 珈琲とチョコも美味しいですが、餡子も良いですよね!
松永堂さんか大福貰ったんです一緒に食べましょうよ!」
そして止める間もなくデスクのある部屋に走り、包みもって戻ってくる。
「今日編集長も井上先輩もいなくて。
共に楽しめる人いないんですよ。……田邉さんは餡子苦手。太田さんはダイエット中で食べてくれない。他部署に配るには数がなくて」
そう寂しげに言われると断る事も出来ない。
「でしたら。頂きます」
そう挨拶して大福を一つ貰うことにする。
それを満足そうに見つめていた煙草さんは大福の入ったパッケージを一旦給湯室のシンクに置く。俺が煎れたばかりの珈琲をプラスチックカップに注ぎ恭しく差し出してくる。
美味しいけど大福は口が甘くなり困るから助かる。しかしここで俺がセットした珈琲をこうして振舞われるのは何か不思議である。
煙草さんも大福に手を伸ばし、嬉しそうに齧りつき珈琲を飲み満足げに笑う。
「この組み合わせも最高ですよね。餡子と珈琲、もしかしてクリームとよりも好きかもしれません」
俺は笑い頷く。
「ですね。名古屋の方発祥で餡子珈琲ってメニューもありますからね。
餡子バージョンのアフォガードなんですよ。餡子をてんこ盛りにしたカップに珈琲注ぐという。
餡子の甘さと珈琲の苦味が絶妙にマッチして旨いんだ」
煙草さんは感心したように俺の話を聞いている。そんな大した事言ってないのに。キラキラした瞳でコチラを見ている。この子と話しているとこんな感じでなんか気持ちよい。
「美味しそうですね! ソレ!
でも名古屋に行かないと駄目なんですよね……」
そう言い、また大福を一口食べ珈琲を楽しんでいる。
「東京でも、それ味わえる喫茶店いくつかあるよ」
そう言うと目を輝かせ俺を見上げてくる。
「今度連れていってあげようか?」
「はい! 是非!」
お店教えてあげれば良いだけなのに、そう誘うと直ぐにのってくる。そこが可愛いけど心配な所。
もう少し警戒心もった方が良いのに。と狙っている俺が案じるのも変な話。
「じゃあ、今週の木曜日でもどっかで夕飯食べるついでに行きますか!」
あえてバレンタインに予定を入れてみる。それで気づくのか?
それとも何だかのリアクションしてくるのか? それで今後の攻め方もより見えてくる。
「了解です! 木曜日ですね。絶対ですよ!! 楽しみ♪」
普通に返されてしまった。気付いてくれていたら、そこから話持っていけたのに残念。逆に少なくともその日に予定はないらしい。
ふと見ると、煙草さんの頬に大福の粉がついている事に気がついた。
俺は自分の頬を指で示してその事を教えると反対の頬を慌てて擦る。その猫のような仕草が可愛い。つい手を伸ばし粉のついている方の頬を撫でてしまう。
すると目を見開き驚き、その後照れてバタバタする。
「取れましたよ」
俯きモゴモゴとお礼を返してくる。思わずフフフと笑ってしまうと、ますます恐縮されてしまう。
「俺の方は大丈夫ですか?」
そう聞くと、顔を上げ真面目な表情で俺の顔をシゲシゲと見つめてくる。そして丸い瞳を細めて笑う。
「大丈夫です! 異常ありません。いつもの素敵な清酒さんです」
なんかその言い方に笑ってしまう。
「じゃあ、今後も何か問題ある時は教えてくださいね。次の場所で恥ずかしくないように」
煙草さんは素直に頷く。
「任せて下さい! シッカリ見ますから!
清酒さんも私に何か異常あれば教えてくださいね! 約束ですよ!」
明るくそう言う煙草さんに俺も頷く。
「だったら今後はより、注意してシッカリ煙草さんを見る事にするね」
そう言うと、煙草さんは少し顔を赤くする。しかしキッと顔を上げ『約束ですよ!』と返してくる。
こう言う可愛らしい姿は、俺だけに見せているのか、他の男の前でも見せているのか悩ましい。
あまり呑気に構えているのもそろそろ止めたほうが良いかもしれない。
「心強いよ」
さて、どうしようか? 俺はニッコリと煙草さんに微笑んだ。
※ ※ ※
時間軸的には、煙草さんが主人公の【私はコレで煙草を辞めました?】の物語が始る一月前の話です。
失恋の痛手からも立ち直り、気になる子も出来てきたようです。
※ ※ ※
俺の前にはニッコリとした可愛い笑顔。それに俺は社会人になり鍛えあげられたとびきりの営業スマイルを返す。
目の前にいる煙草さんの手にはピンクの包み。そして当日でなくバレンタインのある週の取引先。気持ち良い程の義理チョコである。
「バレンタイン少し早いですから、私からの愛です♪ 受け取って下さい!」
俺に対してそんな言葉を言うのかと、苦笑しそうになるのを我慢する。
というのもこの目の前の女性、この俺を先日見事に振ってくれた相手だから。
振ったというのは語弊があるかもしれない。かなりストレートに告白したはず。しかし何故か社交辞令と受け取ったようで伝わらなかったのだ。
したがって絶賛口説き中の相手。
食事に誘えば嬉しそうについてくる。
単なる仕事の付き合いだけにしては多すぎるメールと電話の数。
好意は抱かれているとは思う。しかしさらに先の関係になかなか踏み出せない。なんか甘い空気に全くならないのだ。
この相手の明るさと無邪気さが、その状況では弊害となっている。
「そうそう、俺からもバレンタインプレゼントあるんですよ。」
俺はマメゾンの営業販促用のチョコを煙草さんに渡す。
彼女はチョット驚いたように目を開く。そして受け取った赤い包みをジーと見てニンマリ嬉しそうに笑う。
この子程、モノのあげ甲斐のある人っていないかもしれない。本当に贈り物を嬉しそうに受け取る。
態とらしい言葉と態度でなく『良いモノ貰っちゃった♪ 嬉しい~♪』というオーラを吹き出させるのだ。
「ありがとうございます♪ 皆でいただかせてもらいます!」
珈琲を煎れ直している俺を見て、煙草さんはハッとした顔をする。
「そうだ! 珈琲とチョコも美味しいですが、餡子も良いですよね!
松永堂さんか大福貰ったんです一緒に食べましょうよ!」
そして止める間もなくデスクのある部屋に走り、包みもって戻ってくる。
「今日編集長も井上先輩もいなくて。
共に楽しめる人いないんですよ。……田邉さんは餡子苦手。太田さんはダイエット中で食べてくれない。他部署に配るには数がなくて」
そう寂しげに言われると断る事も出来ない。
「でしたら。頂きます」
そう挨拶して大福を一つ貰うことにする。
それを満足そうに見つめていた煙草さんは大福の入ったパッケージを一旦給湯室のシンクに置く。俺が煎れたばかりの珈琲をプラスチックカップに注ぎ恭しく差し出してくる。
美味しいけど大福は口が甘くなり困るから助かる。しかしここで俺がセットした珈琲をこうして振舞われるのは何か不思議である。
煙草さんも大福に手を伸ばし、嬉しそうに齧りつき珈琲を飲み満足げに笑う。
「この組み合わせも最高ですよね。餡子と珈琲、もしかしてクリームとよりも好きかもしれません」
俺は笑い頷く。
「ですね。名古屋の方発祥で餡子珈琲ってメニューもありますからね。
餡子バージョンのアフォガードなんですよ。餡子をてんこ盛りにしたカップに珈琲注ぐという。
餡子の甘さと珈琲の苦味が絶妙にマッチして旨いんだ」
煙草さんは感心したように俺の話を聞いている。そんな大した事言ってないのに。キラキラした瞳でコチラを見ている。この子と話しているとこんな感じでなんか気持ちよい。
「美味しそうですね! ソレ!
でも名古屋に行かないと駄目なんですよね……」
そう言い、また大福を一口食べ珈琲を楽しんでいる。
「東京でも、それ味わえる喫茶店いくつかあるよ」
そう言うと目を輝かせ俺を見上げてくる。
「今度連れていってあげようか?」
「はい! 是非!」
お店教えてあげれば良いだけなのに、そう誘うと直ぐにのってくる。そこが可愛いけど心配な所。
もう少し警戒心もった方が良いのに。と狙っている俺が案じるのも変な話。
「じゃあ、今週の木曜日でもどっかで夕飯食べるついでに行きますか!」
あえてバレンタインに予定を入れてみる。それで気づくのか?
それとも何だかのリアクションしてくるのか? それで今後の攻め方もより見えてくる。
「了解です! 木曜日ですね。絶対ですよ!! 楽しみ♪」
普通に返されてしまった。気付いてくれていたら、そこから話持っていけたのに残念。逆に少なくともその日に予定はないらしい。
ふと見ると、煙草さんの頬に大福の粉がついている事に気がついた。
俺は自分の頬を指で示してその事を教えると反対の頬を慌てて擦る。その猫のような仕草が可愛い。つい手を伸ばし粉のついている方の頬を撫でてしまう。
すると目を見開き驚き、その後照れてバタバタする。
「取れましたよ」
俯きモゴモゴとお礼を返してくる。思わずフフフと笑ってしまうと、ますます恐縮されてしまう。
「俺の方は大丈夫ですか?」
そう聞くと、顔を上げ真面目な表情で俺の顔をシゲシゲと見つめてくる。そして丸い瞳を細めて笑う。
「大丈夫です! 異常ありません。いつもの素敵な清酒さんです」
なんかその言い方に笑ってしまう。
「じゃあ、今後も何か問題ある時は教えてくださいね。次の場所で恥ずかしくないように」
煙草さんは素直に頷く。
「任せて下さい! シッカリ見ますから!
清酒さんも私に何か異常あれば教えてくださいね! 約束ですよ!」
明るくそう言う煙草さんに俺も頷く。
「だったら今後はより、注意してシッカリ煙草さんを見る事にするね」
そう言うと、煙草さんは少し顔を赤くする。しかしキッと顔を上げ『約束ですよ!』と返してくる。
こう言う可愛らしい姿は、俺だけに見せているのか、他の男の前でも見せているのか悩ましい。
あまり呑気に構えているのもそろそろ止めたほうが良いかもしれない。
「心強いよ」
さて、どうしようか? 俺はニッコリと煙草さんに微笑んだ。
※ ※ ※
時間軸的には、煙草さんが主人公の【私はコレで煙草を辞めました?】の物語が始る一月前の話です。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相方募集中!
白い黒猫
キャラ文芸
珈琲豆メーカーのマメゾンの営業部に新人として入った相方友寄(さかたともき)。童顔で女顔の彼が目指すは尊敬する先輩のように仕事の出来る恰好良い男になる事。その為に先輩である清酒さんを見習って頑張るが……。
カワイイ癒し系女の子が好きで頑張っている相方くん。しかし彼は肉食系女子から超モテる男の子。でも自前の明るさと天然なスルー力で頑張ります。
『私はコレで煙草を辞めました?』のスピンオフ作品で、珍名で頑張る人の物語です。一人の社会人奮闘記なだけなので、元の物語を知らなくても問題はまったくありません。


クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる