スモークキャットは懐かない?

白い黒猫

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初芽の季節(物語が始る前の世界)

私に丁度良い温かさ

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 欲しかったのは、ロマンチックな時間ではなくて貴方の温もりだけ。
 だから私は態々こんな寒い日に、恋人の正秀をクリスマスムードも何もない公園へとデートに誘った。
 空には重たい雲が立ち込めていて、地面からもジンジンと冷たさが伝わってくる。
 こんな日に、公園にくる人なんていないのだろう。見渡す限り誰もいない。

 正秀は皮肉屋のようでいて真っ直ぐな人。優しすぎるから、逆に甘えてしまうとどんどん依存してしまいそうで、それが怖くて意地を張る。
 三十前後になり素直に甘える事が出来なくなっている。酒を飲んで酔っ払ったふりをしてやっと、この年下の恋人にジャレつき甘えた仕草をしてきた。
 今も寒さを理由にその腕にしがみつき、身体を寄せて歩いていた。
「そんなに寒がるならば、こんな寒い所に来なければ良かったのに」
 呆れた様に言いながらも笑い、腕を外し私の肩に回し包みこむように抱き寄せてくれる。
「北海道育ちだから寒さには強いのよ! 私は。逆にコレくらいの気温を寒いという貴方がひ弱よ」
 我ながら可愛くない言葉を言い続けていると思う。こんなのだから正秀にもよく『本当に可愛くない』という言葉を良く言われてしまう。
 だからといって、今更可愛くできるわけもない。
 彼が年下であることを態と持ち出して、お姉さん風を吹かす。
「そう言う君の頬っぺた、スッゴク冷たいよ」
 私の頬に添えられる正秀の手の暖かさに私は泣きたくなるくらいの安らぎを感じる。
「そういえば手が暖かい人は、心が冷たいというよね。正秀はどうなのかしら?」
 寒さでこわばる顔を無理やり笑顔にしてそんな事を言う私に、彼は気を悪くする事もなくフッと笑う。
「そう言えば、初芽の身体は何処も冷たいよね」
 確かに冷え性の私は、いつも冷たい手足で正秀を驚かせ雪女呼ばわりされるくらいである。
「だったら俺を冷してよ、そして二人で丁度良い体温になろう。そして、俺の心を温めてくれない?」
 キザな事を言っているようだが、彼の場合言葉を飾って言っているのではない。本気から発生させた言葉。その為か不思議と自然に聞こえる。
 こう言う言葉を喜んでいても、頬を赤らめ可愛い反応を返す程若くも、初でもない。
「いいけど、私の体温で正秀が凍えてしまわない?」
 そう言いながら、私はその男らしい逞しい腰に手を回し抱き締める。
「逆に初芽が溶けてなくなるなよ」
 正秀が私を抱きしめ返してくる。誰もいない公園で抱きしめ合う。お互いの体温で、それぞれの何かが融解していくのを感じて、心地良い。

「あっ」

 寄せていた胸を通して、正秀の声が聞こえる。少し身体を離し改めて辺りを見渡すと、空から白いものがゆっくりと舞い降りてきていた。
「寒いはずだ! 降ってくるなんて」
 正秀の言葉に頷き、抱き締めていた腕を離す。音もなくゆっくりと景色が白く染まっていくのをボンヤリと見続ける。直ぐに背後から正秀が抱きしめてくれたから、寒さよりも彼の体温が温かいという感覚の方が強い。
 私たちはしばらくその体勢で、静かに変化していく風景を見続けた。
 景色が色をなくすにつれ、街から音を消えていくようだ。静寂の世界に二人取り残されたような錯覚を覚える。
 正秀の大きな手が私の頭に積もったモノを払ってくることで、私は我に返る。
「この景色は綺麗だけど、このままずっと見ていたら風邪を引きそうだ。そろそろ部屋に戻らない?」
 柔らかく笑う正秀に、私は素直に頷く。
「そうね、だったら部屋で正秀の淹れた珈琲を飲みたいな!」
 私の言葉に、フフッと嬉しそうに正秀は笑った。
「仰せの通りに、心をこめて淹れさせていただきましょう」
 私は、背伸びして正秀の髪にも積もった氷の結晶を払い落す。
「その前に、熱いシャワー浴びた方が良さそうね」
 そう言うと彼の目が細められ、ニヤリと笑う。
「二人で、一緒に? 良いね」
 あえてその言葉に答えない。私はその腕をとり抱きしめるようにして引っ張り、公園の出口へといざなう。私のせいでスッカリ凍えさせてしまったこの身体を暖めるために、黙って無彩色の街の中歩き出した。綺麗ではあるものの静かで淋しい世界。私たちは互いの体温だけを感じながら。


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