俺の部屋はニャンDK 

白い黒猫

文字の大きさ
上 下
58 / 62

普通の世界

しおりを挟む
 身も蓋もない親の話で良かったのか、俺はそっと田邊さん師匠の顔を見上げる。
「当たり障りのない話で濁したり、盛ったりしてこなかったから、まあ合格かな。
 乕尾くんらしい話で楽しかったよ」 
 田邊さんはそのように感想を述べてくれた。変に盛ってウケを狙いに行かなくて良かったと安堵する。
「乕尾くんのご両親がどのような人かを聞きたかったのではなく、君がどう家族というネタを解説してくるかを聞きたかったんだ」
「私はご両親の事を知りたくて聞いていたけどね!
 思っていたよりも面白い人で楽しめた!」
 田邊さんの言葉にテンポよく有子さんが続き俺はどちらに反応すべきか困る。
 田邊さんが余計な事は言うなと叱るように有子さんを軽く睨み、有子さんは肩を竦め二カリと笑って誤魔化した。
「乕尾くんは最初、自分の両親を普通で面白くないと言っていたけど、普通ってなんなんだろうな。
 そもそもこの世の中の大半は普通だ」
 俺はコチラに話しかけてきた田邊さんの言葉をじっくりと考える。普通なモノが多いから、特別なモノが目立つそれは当たり前なのかもしれない。俺は頷く。
「家庭なんて日本にある家の殆どが、所謂一般家庭。
 君も自分の家族は普通の平凡な人達と最初言ったが、逆に普通って結構幅広い世界なんだ。そこには色々面白いモノがちらばっている所でもある。
 それに家族というのはなかなかネタの宝庫だとも思わないか?
 それなりの時間共に過ごしているから面白い話は一つや二つあるし、本人は普通だと思っていても他の人から見たら普通で無いこともあったりする」
 確かに不思議なローカルルールが産まれがちなのも家族という小さな社会。
「一般に普通と思われているモノに個別性を見出しそこを魅力として語れるか? それがこの我々の仕事でもある」
 田邊さんはそこで言葉を切る。
 俺はこの会社で皆がしている仕事を思い起こす。色んな素敵なお店や商品を紹介したり、素敵な過ごし方の提案。
「俺たちが取材しているのは街にあるいっけんよくあるような普通のお店が殆どなんだ。世界的な職人が仕事しているような特別なお店ばかりではない。
 でも、そこならではの素敵さを、いかに見つけ人に紹介出来るか? それをしているのがウチの仕事だ。
 それに普通な世界の中の方が面白い何かが埋もれているもんなんだよ」
 確かにミシュランガイドに載っているとか、創業百年とか、皇室御用達とか、そんなお店は一部だろう。しかしそんなのではなくても素敵なお店はいっぱいある。
 根来山森商店街のように。
 確かに知らない人が見たら普通の肉屋や八百屋等のお店が並ぶありふれた商店街。でも俺から見たら素敵な店ばかり。
 俺は脳内で根来山森商店街をぶらりとうろつきショップを楽しむ。やはり最高に落ち着くし楽しい素敵な場所だと再認識する。
「物事を調べて纏めるという訓練をしてきたから、一歩先に進んでみるか? 
 今度は君の眼で見て感じたものをアウトプットする訓練をしよう」
 田邊さんはそう言って笑う。
 俺は背筋を伸ばし次の言葉を待った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

田楽屋のぶの店先日記〜殿ちびちゃん参るの巻〜

皐月なおみ
歴史・時代
わけあり夫婦のところに、わけあり子どもがやってきた!? 冨岡八幡宮の門前町で田楽屋を営む「のぶ」と亭主「安居晃之進」は、奇妙な駆け落ちをして一緒になったわけあり夫婦である。 あれから三年、子ができないこと以外は順調だ。 でもある日、晃之進が見知らぬ幼子「朔太郎」を、連れて帰ってきたからさあ、大変! 『これおかみ、わしに気安くさわるでない』 なんだか殿っぽい喋り方のこの子は何者? もしかして、晃之進の…? 心穏やかではいられないながらも、一生懸命面倒をみるのぶに朔太郎も心を開くようになる。 『うふふ。わし、かかさまの抱っこだいすきじゃ』 そのうちにのぶは彼の尋常じゃない能力に気がついて…? 近所から『殿ちびちゃん』と呼ばれるようになった朔太郎とともに、田楽屋の店先で次々に起こる事件を解決する。 亭主との関係 子どもたちを振り回す理不尽な出来事に対する怒り 友人への複雑な思い たくさんの出来事を乗り越えた先に、のぶが辿り着いた答えは…? ※田楽屋を営む主人公が、わけありで預かることになった朔太郎と、次々と起こる事件を解決する物語です! ※歴史・時代小説コンテストエントリー作品です。もしよろしければ応援よろしくお願いします。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳

勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません) 南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。 表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。 2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

吾輩は野良の猫である

シュンティ
現代文学
野良の猫の吾輩が書いた短編集である。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~

椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。 あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。 特異な力を持った人間の娘を必要としていた。 彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。 『これは、あやかしの嫁取り戦』 身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ―― ※二章までで、いったん完結します。

処理中です...