俺の部屋はニャンDK 

白い黒猫

文字の大きさ
上 下
49 / 62

「任せなさい!」と言われたけど何を?

しおりを挟む
 イマイチ水分の足りない梅雨になるとニュースは伝えている。ジメジメしていない分、洗濯物も渇くので助かってはいるがダムの貯水率には不安が残るとか言われているが、俺にはどうしようもない。
 俺はというと猫のお世話をして、アパートの皆と他愛ない会話を楽しみ、大学生活をして、柑子さんとマッタリ。そういった相変わらずの毎日を送っている。
 シングや柑子さんは希望の会社にいくつかにエントリーして、二次までいった! 最終で落ちたとか大騒ぎしながらも頑張っている。
 そんな六月、編集部の我有さんが部屋にやってきた。
「え! 再販!」 
 近くまでくる用事があったからと我有さんはアパートにまできてくれて、モノを愛でている。
 我有さんはモノの熱烈なファン。
 モノも猫のご飯やオヤツの試供品をもってきてくれる良いファンである我有さんを大事な顧客と考えているようだ。いつもの小憎たらしい様子はうそのように猫を被って可愛く対応している。膝の上にのってお強請りモードである。
 結構このようなチャッカリした所がある。そしてなかなかの役者である。野良時代からファンには対応が良い。それ以外は塩対応だったが、モノファンは誰にも媚びを売らない態度がツボだったようだ。
 我有さんもそういう性格を知っているだけに、自分に可愛く接するモノが可愛くて堪らないという。
 お茶と茶菓子として、スアさんの手作りクッキーがのった卓袱台越しに俺は我有さんを見つめ返す。サバは俺の横に座り一緒に何故か卓袱台を囲んでいる。
 オレのマネージャー的なその応対は何なのだろか?
「評判良いのよ! テレビや新聞でもチョイチョイ取り上げられたのも大きいけどね。
 何? うれしくないの?」
「いえ!……嬉しいです! ただ実感がなくて。俺の本がそんなに人に読んで貰えたということに。
 それに驚愕していると言いますか」
 お金がまた入る事はもちろんだが、それだけ読んでくれた人がいだ事が嬉しい。ジワジワと喜びが込み上げてくる。
 我有さんは楽しそうに目を細めコチラを見ている。
「乕尾くんは面白い子よね。
 結構ね、一冊本出すと性格変わるって人も多いのよ。良い意味でも悪い意味でも。
 大先生気取りになり態度デカくなったりしたり、編集という存在をあからさまに下にみたり」
「そんな人が……」
 我有さんはニヤニヤと笑う。
「また猫の飼い主さんは、元々ウチの子が最高! って人多いから、口煩い猫マネージャーと化して激しく出版社に売り込みかけてきたり。舞い上がってしまう人も多いのよ。まぁそれだけ嬉しい事ではあるでしょうから」
「はぁ」
 俺は差し出された契約書にサインをする。
「でも、まったく変わらない乕尾くんは面白いなと……のんびりとしている」
  俺は初めての作業ばかりで混乱し色々パニクっていたと思う。
 しかも俺の応対が面白いって。どういう態度を返せば正解だったのだろうか?
 そう悩んでいるといきなり玄関のドアが開く。
「トラ! エントリーシート添削してくれぬか……。
 邪魔したな……またくる。あっ醤油借りるぞ! 
 客人、ようお出でなすった。ゆるりと遊ばされい」
 シングは言いたい事だけを言って、醤油の大ボトル持って出ていった。使い方間違えた日本語にツッコム暇もなかった。
 以前も打ち合わせの時、似たような事があったので我有さんは慌てることも無く面白そうにみている。
 この卓袱台の上のクッキーも、さっき隣のスアさんが出勤前に俺の部屋にお客様がいると気がついて持ってきてくれたもの。
 このアパートの住民は隣人というより家族のようなものだから、部屋にいたら姉や兄のようなものが挨拶してきたりするのは普通のこと。
「彼、四年なんだ! 就活も大変ね~」
「色々頑張っていますよ~。
 という俺も他人事でもなくて。
 インターンシップとかどうするか俺も今悩んでいて」
「どちら方面を目指しているの?」
 契約書類をクリアファイルに入れながら我有さんは聞いてくる。もう契約は終わったから、フリートークタイムへと突入していたようだ。
「それがまだ定まっていないから、悩んでいるんですよね……。
 理工系を募集をしている方面の会社を受けようかとは思っているのですが」
 我有さんはフンフンと頷き楽しそうに人の話を聞く。
 人を相手にする仕事のためだろう。こういう雑談の仕方も上手い。さりげなく自分の、体験を話す事で俺の話しを引き出してくる。
 我有さんは実は新聞記者を目指していたという。
 全て落ちて雑誌記者になり……色々あって今編集者としてバリバリ働いているという。バイタリティ溢れる生き様が素敵である。
「そう言えばさ、乕尾くんはあの商店街のYouTube番組の取材や撮影や編集もやっているのよね?
 そっち方面も結構強いの? 撮影とか、機械扱いとか」
 俺は首を傾げる。
「強いというか……まぁ好きです。
 今どき誰もがYouTuberになれる時代なので、大した事でもないですが」
「すごいわよね~最近の若い子は何でも使いこなせて……っ! ちょっと失礼しますね」
 と言いながら、スマフォを手に弄っている。どこからか連絡が来てそれに対応しているようだ。
 流石編集者というべきだろう。こういう所のフットワークが軽く、改稿作業で俺が質問のためか連絡入れても、直ぐに返事がきていた。
 ジローさんもそうで、こういうレスポンスが本当に早い。仕事をするにおいてこういった事がいかに大切で、その積み重ねがしっかりした信頼関係を作るものなのだと学ばせてくれる。
 最近世界の見方が変わってしまい、働いている人が気になって仕方がない。
 様々な仕事をしている人を見てはそれを自分に置き換えシミュレーションという謎の妄想をする癖がついた。
 我有さんは今度は電話がかかってきたようで少し離れて受けている。
「ナベちゃ~ん、良い子見つけたわよ! 可愛いし性格も良くて! 貴方も気に入ると思うよ。
 ずっと弟子欲しいと言ってたじゃない! 本社が回してくるのはゴミばかりと言ってたじゃない!
 だったら自分で捕まえにいかないと!」
 電話で話す我有さんをみて、サービスタイムは終了とばかりにモノは離れ涼しい台所の板間にいき寝転がる。
 サバは俺の腕に手を絡ませ遊べと請求してくる。俺はまだ接客中だと目で語りかけるが通じてないのか、目があったからスタートとばかりに俺の腕に抱きつき甘え出す。
「まぁ他所から引き抜くのも手だけどね、でも一から自分で育てるのも楽しいのでは? 
 めんどくさい? ってあんたハゲ長と違って愛嬌ないんだから人を口説く力もないでしょう。となると自分で育ててつくるしかないでしょ! 人材を」
 そんな人の仲介とかの仕事もするなんて、編集者というのも大変そうだ。
 俺の本を出版する時も装丁デザイナー、校正の人など関係者と俺の間を走り回っていた。人と人を結んでモノを作り上げていくのが我有さんの仕事の在り方。
「その子の資料送っておくから、検討して!」
 そういう言葉で我有さんは締めくくり電話を切る。
「ごめんね。
 あと、ということだからこの後の事は私に任せて!」
 俺は頷き「よろしくお願いします」と返す。それが再販作業の事だと思ったから、もう俺のする作業もないから全面お任せするしかない。
 我有さんはニッカリと明るく笑い元気に部屋から去っていった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳

勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません) 南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。 表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。 2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田楽屋のぶの店先日記〜殿ちびちゃん参るの巻〜

皐月なおみ
歴史・時代
わけあり夫婦のところに、わけあり子どもがやってきた!? 冨岡八幡宮の門前町で田楽屋を営む「のぶ」と亭主「安居晃之進」は、奇妙な駆け落ちをして一緒になったわけあり夫婦である。 あれから三年、子ができないこと以外は順調だ。 でもある日、晃之進が見知らぬ幼子「朔太郎」を、連れて帰ってきたからさあ、大変! 『これおかみ、わしに気安くさわるでない』 なんだか殿っぽい喋り方のこの子は何者? もしかして、晃之進の…? 心穏やかではいられないながらも、一生懸命面倒をみるのぶに朔太郎も心を開くようになる。 『うふふ。わし、かかさまの抱っこだいすきじゃ』 そのうちにのぶは彼の尋常じゃない能力に気がついて…? 近所から『殿ちびちゃん』と呼ばれるようになった朔太郎とともに、田楽屋の店先で次々に起こる事件を解決する。 亭主との関係 子どもたちを振り回す理不尽な出来事に対する怒り 友人への複雑な思い たくさんの出来事を乗り越えた先に、のぶが辿り着いた答えは…? ※田楽屋を営む主人公が、わけありで預かることになった朔太郎と、次々と起こる事件を解決する物語です! ※歴史・時代小説コンテストエントリー作品です。もしよろしければ応援よろしくお願いします。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ラスト・チケット

釜瑪 秋摩
ライト文芸
目が覚めたら真っ白な部屋にいた。 いつの間にか手にしていたチケットで 最後の七日間の旅にでる。 オムニバス形式で七人が送る七日間の話――。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...