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財布を拾っただけなのに
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俺の部屋卓袱台の上には、苺大福二個、蜜柑大福二個、おはぎ二個、道明寺二個、鯛焼き四匹が並べる。
「貰ったんだけど俺一人では食べきれなくて」
それを二匹の猫と、ジローさんとスアさんとシングと囲んでいる。モノは自分が食べられないモノだと察したのか離れていって陽だまり部分にいき丸くなった。
「凄いわね! コレどうしたの?」
スアさんの言葉に俺はどう説明するか悩む。
「口止め料?」
そう言うとキョトンとされた。俺は皆に今日あったことを説明することにした。
商店街を歩いていたら、道に猫が落ちていた。サバトラ模様でふっくらしていて、サバとは異なりつぶらな瞳が可愛い。猫でふと目があってそこにいることに気がついた。気がついた。
それはホンモノの猫ではなく両手に乗るくらいの猫の顔の形したポーチ。そのままそこにあると人から踏まれそうだ。
とはいえ拾ったものの、落とした人が周りにいる様子もない。
そこで交番に届ける事にした。こんな可愛いポーチ無くした人はショック受けて探しまくっているだろうから。
お巡りさんにも渡せば良いのかと思ったのだがそういう訳にもいかないらしい。
中身を確認し持ち主が現れなかった場合のこの拾得物の取得権を主張するか放棄するかを選ばさせられる。
もし持ち主があらわれず、かつ俺が所有権を放棄したらこのポーチは廃棄処分になるだろうということ。それはあまり可哀想なので主張する事にした。
それになんか今後の話のネタになるかな? とか邪な想いがよぎってしまった。
そして落とした日付と時間、拾った場所等書類に書いたらお巡りさんは猫の後頭部にあるファスナーを開けて中をあらため始める。
目の端で猫のアタマから出てきたモノに驚いてしまう。
いきなりお札が出てきたからだ。中身は三万七千円と小銭がジャラジャラと大量のレシート。
この猫さん、なんとお財布だったようだ。唖然と商店街のショップのスタンプカードとかまで出てくる様子を見つめてしまった。
お財布ならば、落とした人も大変だ……と落とした人の気持ちを考えて青くなっていると、交番のドアが激しく開けられ俺は身体をビグッと震わせてしまった。
振り向くとゼイゼイと息を切らせた五十代くらいのご婦人が立っていた。グレーのコートに猫のブローチをつけ、猫の顔のバッグに食材の詰まった猫柄のエコバッグを下げている。
「お財布落としました! 届けられていませんか!!
可愛い猫のお財布なんですが……」
そう話しながら机の上には置かれた猫にハッとした顔になる。落とし主が無事現れたようだ。
「この方が届けてくれました。
中においくらくらい入っていました?」
明らかにその女性が持ち主だとわかっているのだろうが、お巡りさんは女性にポーチの中のものを言わせて確認作業をしている。
まあ、無事落とし主も現れたので俺の役割も終わったと安心して帰ろうとするとご婦人に捕まえられた。
「まって、お礼をさせて!」
失礼にならないように手を離そうとするが手が離れない。
「いえ、いいですよそんな事! 無事見つかって良かったですね」
そう返すが頑なに「それでは私の気が済まない何か買わせて」と言うので近所の和菓子屋さんの鯛焼きを一つだけ買って貰うことにした。
そして手続き終わるまで待たされ手渡されたのがこの和菓子だった。
「口止め料というより謝礼金では?」
ジローさんは抹茶をたてながら俺に当然の質問をしてくる。
「いえね、そのご婦人曰く、鯛焼きは謝礼金で、他の和菓子は『オトウチャンにお財布落とした事バレると怒られるから言わんといてね! コレ口止め料やから』と……」
「なんだ、商店街の知り合いなのか? その女子は」
シングは聞いてくるが、俺は顔を横に振る。
「いや、全く知らない人。だからその旦那様も誰だか知らない」
そう言うと三人は吹き出す。
「まぁ、これだけお礼をしたくなるほどその婦人は乕尾に感謝していたということだろうね」
そう結論をつけて、ジローさんのたててくれたお茶で美味しくお菓子を頂く事にした。
そして一週間後俺。
一緒に向かう通学路、柑子さんがニコニコ俺に言ってきた。
「ナツくん、こないだお財布拾って交番に届けたんだって?」
「え? なんで知っているの?」
「商店街で噂になってたよ、やはりナツくんは誠実で良い男だって」
非常に不味い……口止め料を貰ってまで秘密を約束したのにそんなに人の耳に入っているとは……。気が付かなかったけど商店街の人だった? 旦那様の耳にも入ってしまった可能性がある。
俺は内心焦りながらゴニョニョと柑子さんに言葉を返すことしか出来なかった。
漏れたとしたら……ジローさんから? 大学につき俺はジローさんに連絡し状況を確認したところビックリした話が返ってきた。
「あぁ、そのご婦人TERAKOYAの生徒さんでね、自分で周りに楽しそうに話していたよ。それで聞いた事ある話なので乕尾の写真見せたらやっぱりそうだった。
だから気にする事ないよ、旦那様にも帰って即『今日とてもラッキーな事あったのよ』も話してお財布無くしていた事バレて怒られたとも笑って話をしていたから。
そしてその人、社交的な方なので『TERAKOYAの若旦那が落とした財布を拾ってくれて助かった。本当に良い子だ』と買い物した先々で自慢げに話していたそうだから、それで広まったのでは?」
俺はその話を聞いて思わず仰け反る。日本語が堪能なジローさんだけど、その社交的という言葉の意味少し間違えていると思う。
ただ財布を拾っただけなのにドえらい事になっていた。暫く商店街で買い物するのが恥ずかしい日々が続いてしまった。
「貰ったんだけど俺一人では食べきれなくて」
それを二匹の猫と、ジローさんとスアさんとシングと囲んでいる。モノは自分が食べられないモノだと察したのか離れていって陽だまり部分にいき丸くなった。
「凄いわね! コレどうしたの?」
スアさんの言葉に俺はどう説明するか悩む。
「口止め料?」
そう言うとキョトンとされた。俺は皆に今日あったことを説明することにした。
商店街を歩いていたら、道に猫が落ちていた。サバトラ模様でふっくらしていて、サバとは異なりつぶらな瞳が可愛い。猫でふと目があってそこにいることに気がついた。気がついた。
それはホンモノの猫ではなく両手に乗るくらいの猫の顔の形したポーチ。そのままそこにあると人から踏まれそうだ。
とはいえ拾ったものの、落とした人が周りにいる様子もない。
そこで交番に届ける事にした。こんな可愛いポーチ無くした人はショック受けて探しまくっているだろうから。
お巡りさんにも渡せば良いのかと思ったのだがそういう訳にもいかないらしい。
中身を確認し持ち主が現れなかった場合のこの拾得物の取得権を主張するか放棄するかを選ばさせられる。
もし持ち主があらわれず、かつ俺が所有権を放棄したらこのポーチは廃棄処分になるだろうということ。それはあまり可哀想なので主張する事にした。
それになんか今後の話のネタになるかな? とか邪な想いがよぎってしまった。
そして落とした日付と時間、拾った場所等書類に書いたらお巡りさんは猫の後頭部にあるファスナーを開けて中をあらため始める。
目の端で猫のアタマから出てきたモノに驚いてしまう。
いきなりお札が出てきたからだ。中身は三万七千円と小銭がジャラジャラと大量のレシート。
この猫さん、なんとお財布だったようだ。唖然と商店街のショップのスタンプカードとかまで出てくる様子を見つめてしまった。
お財布ならば、落とした人も大変だ……と落とした人の気持ちを考えて青くなっていると、交番のドアが激しく開けられ俺は身体をビグッと震わせてしまった。
振り向くとゼイゼイと息を切らせた五十代くらいのご婦人が立っていた。グレーのコートに猫のブローチをつけ、猫の顔のバッグに食材の詰まった猫柄のエコバッグを下げている。
「お財布落としました! 届けられていませんか!!
可愛い猫のお財布なんですが……」
そう話しながら机の上には置かれた猫にハッとした顔になる。落とし主が無事現れたようだ。
「この方が届けてくれました。
中においくらくらい入っていました?」
明らかにその女性が持ち主だとわかっているのだろうが、お巡りさんは女性にポーチの中のものを言わせて確認作業をしている。
まあ、無事落とし主も現れたので俺の役割も終わったと安心して帰ろうとするとご婦人に捕まえられた。
「まって、お礼をさせて!」
失礼にならないように手を離そうとするが手が離れない。
「いえ、いいですよそんな事! 無事見つかって良かったですね」
そう返すが頑なに「それでは私の気が済まない何か買わせて」と言うので近所の和菓子屋さんの鯛焼きを一つだけ買って貰うことにした。
そして手続き終わるまで待たされ手渡されたのがこの和菓子だった。
「口止め料というより謝礼金では?」
ジローさんは抹茶をたてながら俺に当然の質問をしてくる。
「いえね、そのご婦人曰く、鯛焼きは謝礼金で、他の和菓子は『オトウチャンにお財布落とした事バレると怒られるから言わんといてね! コレ口止め料やから』と……」
「なんだ、商店街の知り合いなのか? その女子は」
シングは聞いてくるが、俺は顔を横に振る。
「いや、全く知らない人。だからその旦那様も誰だか知らない」
そう言うと三人は吹き出す。
「まぁ、これだけお礼をしたくなるほどその婦人は乕尾に感謝していたということだろうね」
そう結論をつけて、ジローさんのたててくれたお茶で美味しくお菓子を頂く事にした。
そして一週間後俺。
一緒に向かう通学路、柑子さんがニコニコ俺に言ってきた。
「ナツくん、こないだお財布拾って交番に届けたんだって?」
「え? なんで知っているの?」
「商店街で噂になってたよ、やはりナツくんは誠実で良い男だって」
非常に不味い……口止め料を貰ってまで秘密を約束したのにそんなに人の耳に入っているとは……。気が付かなかったけど商店街の人だった? 旦那様の耳にも入ってしまった可能性がある。
俺は内心焦りながらゴニョニョと柑子さんに言葉を返すことしか出来なかった。
漏れたとしたら……ジローさんから? 大学につき俺はジローさんに連絡し状況を確認したところビックリした話が返ってきた。
「あぁ、そのご婦人TERAKOYAの生徒さんでね、自分で周りに楽しそうに話していたよ。それで聞いた事ある話なので乕尾の写真見せたらやっぱりそうだった。
だから気にする事ないよ、旦那様にも帰って即『今日とてもラッキーな事あったのよ』も話してお財布無くしていた事バレて怒られたとも笑って話をしていたから。
そしてその人、社交的な方なので『TERAKOYAの若旦那が落とした財布を拾ってくれて助かった。本当に良い子だ』と買い物した先々で自慢げに話していたそうだから、それで広まったのでは?」
俺はその話を聞いて思わず仰け反る。日本語が堪能なジローさんだけど、その社交的という言葉の意味少し間違えていると思う。
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