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新しい年になりました
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猫を二匹連れての帰省も難しいことと、年末年始は時給が高い。下宿学生にとってその間の稼ぎは大きい! 俺は親よりもお金をとってしまった。
クリスマスはバイト先で過ごし、大晦日までバイトをしてアパートで年越しをする。
ジローさんが作った蕎麦と高級らしいシャンパン(俺は未成年なので呑ませてもらえなかったが)。
チーズ、スモークサーモンなどと共に皆で食べながら紅白を見る。
年明けとともに皆で挨拶を交わし、そのまま皆で根来神社に初詣。
商店街組合の人と餅つきに参加してお汁粉を楽しみアパートに戻り一旦解散する。
再びジローさんの部屋に集まりお節をつつく。何故だろうか?
メンバーの半分以上が日本人ではないのに、いつも以上にジャパネスクな正月を過ごしている。
四段の重箱に入った立派な豪華なお節なんて初めて目にする。
海老、数の子、なます、栗きんとん、田作り、伊達巻、昆布巻、錦玉子、筑前煮……それにお雑煮とお屠蘇。
多分パーフェクトな日本の正月料理なのではないだろうか?
嬉しそうに、それぞれの料理の名前とその込められた意味を説明するジローさん。
その話を聞きながら、改めてお節という物の存在を思い出す。
話を聞きながら、頭に浮かんでくるのは母親のこと。
我が家でも昔は母がお節を作ってくれていたことがあった。でもいつのまにかお節はなくなりお雑煮とすき焼きとかの鍋を食べて過ごすようになった。
俺は自分の皿に盛り付けられた想いの篭ったジローさんの料理に感謝の気持ちを込めて、手を合わせて頂くことにする。
一つ一つ味わって食べる。
そんな俺をジローさんは可笑しそうに笑う。皆もニヤニヤと見ている。
「トラオは日本人で食べ慣れておるだろ! 俺らがそう喜ぶのは分かるが」
シングの言葉に俺は首を縦とも横と判断付きにくい角度で振る。
「いや、こういうお節料理って改めて考えたら凄いよね。一つ一つ想いと手がかかっていて……
そして実家ではこんな風にお節はなかったから……」
いやかつてはあった。母親もジローさんのように、料理の説明をして俺に勧めてくれた。
そう返している時に過去に俺がお正月の度に言ってしまったとんでもない言葉を思い出す。
『お節って古臭い感じだよね? 精進料理みたいで不味いし、食べたいモノが何も無い』
そんな生意気な事を言った俺。
「確かに時代にあってないかもな~。もうご馳走感は無くなっているよな」
父親は俺に怒るでもなく、そんな同意の言葉を返す。そんな感じの会話お正月の度に何度か交わしていた気がした。
気がつくと我が家からお節は消える。すき焼きとか蟹鍋とか、俺たちにとってわかりやすいご馳走に変わってしまった。
なぜ俺の家からお節が消えた? 理由は歴然である。
今にして思えば、心無い事を言ってきたと思う。俺たちの為に一生懸命作ったのに、それを全否定していたのだ。
お節は品数も多いのに創作時間は短い。
忙しなく台所にこもっている母親の事を気にせず、呑気にテレビ見ていた俺と父。
なぜ手伝おうともしなかったのか?
そういう状態なのに『そろそろ蕎麦にしないか~』なんて更に手を煩わせていた。
心の中で抑えきれない悔悟の念から皆にその事を話していた。呆れられるかと思ったが、何故か皆楽しそうに俺を見ている。
「俺、最低ですよね」
突然スアさんに抱きしめられて頭をグリグリ撫でられる。
皆に昨日から飲み続けている状態で。
お屠蘇も入って酔っぱらっているし新年朗らかモードなのもあるのだろう。きっと今ノラーマンがどんなつまらないネタをやってもウケる筈。
「どの国でも変わらないのね~。男の子のバカは。
でも気が付けて落ち込んでいる所が、可愛い♪」
タマさんはスアさんの胸から抜け出し起き上がろうとしている俺に、手を伸ばし起きるのを助けてくれる。
「でもさ、その事にその年齢で気付けたのは偉いんでは?
俺なんて今トラの話聞いて、似たことしてきた過去の自分に反省しているくらいだから」
タマさんはそう言いながら「なぁ」とシマさんに同意を求める。シマさんは頷き、白味噌に入ったお餅を食べる。
そう言えば白味噌のお雑煮なんて珍しい。
美味しいけどなんか物足りない。母親の作った鶏肉とかワラビとか大根とか野菜のいっぱい入ったお雑煮では無いことに違和感がある。
「俺らなんて、大人になってからでも、ジローさんにも失礼な事言ったもんな~!
この雑煮、実は大阪風の雑煮で俺らがワガママ言って作って貰ってるんや。
最初はお吸い物で餅と三葉の入った上品なやつでな。こんなの雑煮やないやん! って」
ジローさんは笑う。
「いや、様々な日本人の友達に聞いて良く分かったよ。
実はお雑煮の方がお節よりも奥が深い正月料理だって。
日本人にとってのソウルフードなんだと理解した。
今面白いから色々研究している所」
フフっと三宅さんが笑う。
「確かに。友達でも、結婚して結構揉めている奴もいるからな。どちらの実家の雑煮でいくのかで争うみたい。そして強い方の味になるんだよ! 雑煮は」
シングはイマイチ理解できないようで首を傾げる。それにタマさんはフフッと笑い説明を始める。
「雑煮って同じ料理名で言われているけど、地域によって内容がまったく違うんだ。汁物であるという事だけが共通点。具材はその土地土地で違う。また醤油仕立てだったり、すましだったり、味噌にしても地域によって使われる味噌が違うし」
そう改めて聞くとお雑煮って何なんだろうか? 俺が思っているお雑煮は皆からしてみたら違うと言われるものとされる。
スアさんは、興味ありげにミケさんの家の雑煮を聞いている。なんか魚介系なようでそれはそれで美味しそうだが、お雑煮? とも思う。
「結構評判いいんだ。島の人に作って振る舞うと喜ばれる。なんなら明日スーパーも開くから作ってみようか? 正月だし、俺も食べたくなった」
ミケさんの言葉にスアさんは嬉しそうに頷いている。ミケさんの雑煮は食べてみたいけど、コレはお邪魔だろうか? なんて事も考える。
「そういえば、トラオの実家のお雑煮ってどういう感じなの?」
ジローさんはそんな事を聞いてくる。
「ん? 母親が新潟のもので、ごった煮みたいな感じ? 鶏肉にゼンマイに大根に蒲鉾? あと銀杏とか竹輪も入っていたかな……あと椎茸? 兎に角、汁より具が多い感じで、それでお腹いっぱいになるんです! それでもう正月は満足って感じで」
そう実家の雑煮は具沢山で、汁物というより煮物に近い感じで、一杯での満足感は半端なかった。
ジローさんは首を傾げる。
「ゼンマイは珍しいよね? お味噌は?」
俺は首を傾げる。余り何味とか気にせず生きてきた。でも味噌ではなかった。
「いや味噌は入ってない。醤油味? あと出汁はなんだろう……もう具の色んな風味が溶け出していて旨いんです」
ジローさんは青い目を細めて微笑み俺を見ている。
「乕尾、君のお母さんは自分の雑煮をそんな風に嬉しそうに食べる息子がいて幸せだな」
ジローさんの言葉に俺はイヤイヤと頭を横にふる。
「正月なこともあるし、親に新年の挨拶を兼ねて電話したら?
お礼と謝罪するにはいい機会では」
部屋で充電してもらっていた俺のスマフォをジローさんは取り俺に渡す。
「へ? 今?」
ジローさんは頷く。
「別に恥ずかしい事でもないし、いいだろ?
あっそれに乕尾の家の雑煮に興味あるから。その後お話したいな」
「ここで?」
ジローさんは頷く。
「皆で君の謝罪を見守るから」
ニッコリと笑うジローさん。何ですか? その罰ゲーム
皆からの「デ・ン・ワ」コールが発生して俺はかけざるを得なくなる。
どうか親は留守でいてくれと、仕方がなく電話をかけるが、三コール目で出られてしまう。
『あら、ナツ? どうしたの』
母親の陽気な声が聞こえる。
「いや、新年だし挨拶をと思って」
何故かケタケタと笑う声が。
『嬉しいわ~。あけましておめでとう!』
「あけましておめでとうございます。
今年も宜しくおねがいします」
何故だろうか? 今日幾度となく繰り返していた筈のこの言葉がムズ痒くて恥ずかしい。
『帰らないといっていたから、もうそのまま挨拶もなしで過ごす気かと思っていたから嬉しいわ』
「ご近所さんが、ご両親にちゃんと挨拶しなさいと……。
それとゴメン」
ン? という声が返ってくる。
「お節、母さんが一生懸命作ってくれていたもの。俺、文句ばかり言っていたよね?
同じアパートに住んでいるお兄さんの作ったお節とお雑煮食べていて改めて気が付いたんだ。母さんに何で、感謝の言葉一つもかえせなかっただろうかと。」
俺は真面目に言っているのに、電話の向こうからブブッと笑う声が返ってくる。
『可愛い子供には旅させろって、本当ね。
外に出すとこんなに大人になるなんて』
母親はそういうが、俺は旅をしている訳ではない。
「大人じゃないよ。まだまだ子供。まだ成人もしていないし」
『当たり前じゃない!
逆にすぐオッサンになられてもつまらないじゃない!
でもそのお友達スゴイわね~お節を作るなんて。私はね、もう面倒臭いから止めたのに。
それに料理あまり得意じゃないし! お父さんとアンタがイマイチだというのも分かる出来だったし』
やはり傷つけたのだと分かり申し訳ない気持ちに苛まれる。
「そんな事はない。ゴメン」
「謝らないで。
やめたことで寧ろ一緒に紅白とは家族との団欒時間も増えたから。コレはコレでありかなと思わない?
……ところで、お兄さんと言っていたけど、本当にお兄さん?
もしかして彼女に作ってもらって怒られたから電話かけてきたわけではないわよね」
俺は母親の言葉に驚き、速攻否定する。
「違うよ! ジローさんといって同じアパートに住む人で男性!
そんな彼女なんて作っている余裕あるわけないだろ!」
精神的な意味でも、経済的な意味でも、今余裕はない。
その流れでジローさんが電話で挨拶することになり結局母は住民全員との挨拶を楽しみ電話は終わる。
後になって父と挨拶していなくて良かったのだろうか? と気が付いたが遅かった。新年用のパンツを送ってくれた事のお礼くらいはするべきだった。後でLINEでお礼を言っておこう。
お陰で俺がノラーマンという芸能人と同じアパートに住んでいた事。YouTubeチャンネルの製作に携わっている事。ブログをやっていて来月その事で猫雑誌に掲載される事などを全部親にバレてしまう。
ブログ以外の事は隠していた訳ではない。あえて話す事でもないと思っていたから話をしてもいなかった。
過去の俺の暴言よりも、まったく今の状況を連絡していなかった事で母親から怒られる結果となった。
『サバちゃんの風邪大丈夫?』
以後母親のコメントがブログやTwitterにつくようになって、非常に小っ恥ずかしい気持ちになる。
速攻電話して『恥ずかしいから見ないで』と頼むが、やめてくれる母親ではない。
『何言っているの!! 世界に向けて発信しているものよね? 当然私も見る権利があるわよ!』
確かに正論ではある。
『それに、電話を寄こさない息子が元気に立派にやっている様子が分かるから嬉しいの。あと身びいき抜きにしてあのブログ面白いわよ! モノちゃんサバちゃんカワイイし♪』
まあ、親に見られて困るような内容はそんなに書いてはいない。
「そもそも親に読まれて困るような内容を、ネットに流す方が問題。そういう視線を感じながらやるのは良い事では?」
スアさんにもそう言われたので、現状を受け入れる事にした。
そして一月末に送られてきた仕送りの小包を開けて『アレ?』と俺は思う。
猫用オヤツに猫缶に猫用ヒーター。俺用の食材が明らかに減って、サバとモノへの贈り物が追加となっていた。
クリスマスはバイト先で過ごし、大晦日までバイトをしてアパートで年越しをする。
ジローさんが作った蕎麦と高級らしいシャンパン(俺は未成年なので呑ませてもらえなかったが)。
チーズ、スモークサーモンなどと共に皆で食べながら紅白を見る。
年明けとともに皆で挨拶を交わし、そのまま皆で根来神社に初詣。
商店街組合の人と餅つきに参加してお汁粉を楽しみアパートに戻り一旦解散する。
再びジローさんの部屋に集まりお節をつつく。何故だろうか?
メンバーの半分以上が日本人ではないのに、いつも以上にジャパネスクな正月を過ごしている。
四段の重箱に入った立派な豪華なお節なんて初めて目にする。
海老、数の子、なます、栗きんとん、田作り、伊達巻、昆布巻、錦玉子、筑前煮……それにお雑煮とお屠蘇。
多分パーフェクトな日本の正月料理なのではないだろうか?
嬉しそうに、それぞれの料理の名前とその込められた意味を説明するジローさん。
その話を聞きながら、改めてお節という物の存在を思い出す。
話を聞きながら、頭に浮かんでくるのは母親のこと。
我が家でも昔は母がお節を作ってくれていたことがあった。でもいつのまにかお節はなくなりお雑煮とすき焼きとかの鍋を食べて過ごすようになった。
俺は自分の皿に盛り付けられた想いの篭ったジローさんの料理に感謝の気持ちを込めて、手を合わせて頂くことにする。
一つ一つ味わって食べる。
そんな俺をジローさんは可笑しそうに笑う。皆もニヤニヤと見ている。
「トラオは日本人で食べ慣れておるだろ! 俺らがそう喜ぶのは分かるが」
シングの言葉に俺は首を縦とも横と判断付きにくい角度で振る。
「いや、こういうお節料理って改めて考えたら凄いよね。一つ一つ想いと手がかかっていて……
そして実家ではこんな風にお節はなかったから……」
いやかつてはあった。母親もジローさんのように、料理の説明をして俺に勧めてくれた。
そう返している時に過去に俺がお正月の度に言ってしまったとんでもない言葉を思い出す。
『お節って古臭い感じだよね? 精進料理みたいで不味いし、食べたいモノが何も無い』
そんな生意気な事を言った俺。
「確かに時代にあってないかもな~。もうご馳走感は無くなっているよな」
父親は俺に怒るでもなく、そんな同意の言葉を返す。そんな感じの会話お正月の度に何度か交わしていた気がした。
気がつくと我が家からお節は消える。すき焼きとか蟹鍋とか、俺たちにとってわかりやすいご馳走に変わってしまった。
なぜ俺の家からお節が消えた? 理由は歴然である。
今にして思えば、心無い事を言ってきたと思う。俺たちの為に一生懸命作ったのに、それを全否定していたのだ。
お節は品数も多いのに創作時間は短い。
忙しなく台所にこもっている母親の事を気にせず、呑気にテレビ見ていた俺と父。
なぜ手伝おうともしなかったのか?
そういう状態なのに『そろそろ蕎麦にしないか~』なんて更に手を煩わせていた。
心の中で抑えきれない悔悟の念から皆にその事を話していた。呆れられるかと思ったが、何故か皆楽しそうに俺を見ている。
「俺、最低ですよね」
突然スアさんに抱きしめられて頭をグリグリ撫でられる。
皆に昨日から飲み続けている状態で。
お屠蘇も入って酔っぱらっているし新年朗らかモードなのもあるのだろう。きっと今ノラーマンがどんなつまらないネタをやってもウケる筈。
「どの国でも変わらないのね~。男の子のバカは。
でも気が付けて落ち込んでいる所が、可愛い♪」
タマさんはスアさんの胸から抜け出し起き上がろうとしている俺に、手を伸ばし起きるのを助けてくれる。
「でもさ、その事にその年齢で気付けたのは偉いんでは?
俺なんて今トラの話聞いて、似たことしてきた過去の自分に反省しているくらいだから」
タマさんはそう言いながら「なぁ」とシマさんに同意を求める。シマさんは頷き、白味噌に入ったお餅を食べる。
そう言えば白味噌のお雑煮なんて珍しい。
美味しいけどなんか物足りない。母親の作った鶏肉とかワラビとか大根とか野菜のいっぱい入ったお雑煮では無いことに違和感がある。
「俺らなんて、大人になってからでも、ジローさんにも失礼な事言ったもんな~!
この雑煮、実は大阪風の雑煮で俺らがワガママ言って作って貰ってるんや。
最初はお吸い物で餅と三葉の入った上品なやつでな。こんなの雑煮やないやん! って」
ジローさんは笑う。
「いや、様々な日本人の友達に聞いて良く分かったよ。
実はお雑煮の方がお節よりも奥が深い正月料理だって。
日本人にとってのソウルフードなんだと理解した。
今面白いから色々研究している所」
フフっと三宅さんが笑う。
「確かに。友達でも、結婚して結構揉めている奴もいるからな。どちらの実家の雑煮でいくのかで争うみたい。そして強い方の味になるんだよ! 雑煮は」
シングはイマイチ理解できないようで首を傾げる。それにタマさんはフフッと笑い説明を始める。
「雑煮って同じ料理名で言われているけど、地域によって内容がまったく違うんだ。汁物であるという事だけが共通点。具材はその土地土地で違う。また醤油仕立てだったり、すましだったり、味噌にしても地域によって使われる味噌が違うし」
そう改めて聞くとお雑煮って何なんだろうか? 俺が思っているお雑煮は皆からしてみたら違うと言われるものとされる。
スアさんは、興味ありげにミケさんの家の雑煮を聞いている。なんか魚介系なようでそれはそれで美味しそうだが、お雑煮? とも思う。
「結構評判いいんだ。島の人に作って振る舞うと喜ばれる。なんなら明日スーパーも開くから作ってみようか? 正月だし、俺も食べたくなった」
ミケさんの言葉にスアさんは嬉しそうに頷いている。ミケさんの雑煮は食べてみたいけど、コレはお邪魔だろうか? なんて事も考える。
「そういえば、トラオの実家のお雑煮ってどういう感じなの?」
ジローさんはそんな事を聞いてくる。
「ん? 母親が新潟のもので、ごった煮みたいな感じ? 鶏肉にゼンマイに大根に蒲鉾? あと銀杏とか竹輪も入っていたかな……あと椎茸? 兎に角、汁より具が多い感じで、それでお腹いっぱいになるんです! それでもう正月は満足って感じで」
そう実家の雑煮は具沢山で、汁物というより煮物に近い感じで、一杯での満足感は半端なかった。
ジローさんは首を傾げる。
「ゼンマイは珍しいよね? お味噌は?」
俺は首を傾げる。余り何味とか気にせず生きてきた。でも味噌ではなかった。
「いや味噌は入ってない。醤油味? あと出汁はなんだろう……もう具の色んな風味が溶け出していて旨いんです」
ジローさんは青い目を細めて微笑み俺を見ている。
「乕尾、君のお母さんは自分の雑煮をそんな風に嬉しそうに食べる息子がいて幸せだな」
ジローさんの言葉に俺はイヤイヤと頭を横にふる。
「正月なこともあるし、親に新年の挨拶を兼ねて電話したら?
お礼と謝罪するにはいい機会では」
部屋で充電してもらっていた俺のスマフォをジローさんは取り俺に渡す。
「へ? 今?」
ジローさんは頷く。
「別に恥ずかしい事でもないし、いいだろ?
あっそれに乕尾の家の雑煮に興味あるから。その後お話したいな」
「ここで?」
ジローさんは頷く。
「皆で君の謝罪を見守るから」
ニッコリと笑うジローさん。何ですか? その罰ゲーム
皆からの「デ・ン・ワ」コールが発生して俺はかけざるを得なくなる。
どうか親は留守でいてくれと、仕方がなく電話をかけるが、三コール目で出られてしまう。
『あら、ナツ? どうしたの』
母親の陽気な声が聞こえる。
「いや、新年だし挨拶をと思って」
何故かケタケタと笑う声が。
『嬉しいわ~。あけましておめでとう!』
「あけましておめでとうございます。
今年も宜しくおねがいします」
何故だろうか? 今日幾度となく繰り返していた筈のこの言葉がムズ痒くて恥ずかしい。
『帰らないといっていたから、もうそのまま挨拶もなしで過ごす気かと思っていたから嬉しいわ』
「ご近所さんが、ご両親にちゃんと挨拶しなさいと……。
それとゴメン」
ン? という声が返ってくる。
「お節、母さんが一生懸命作ってくれていたもの。俺、文句ばかり言っていたよね?
同じアパートに住んでいるお兄さんの作ったお節とお雑煮食べていて改めて気が付いたんだ。母さんに何で、感謝の言葉一つもかえせなかっただろうかと。」
俺は真面目に言っているのに、電話の向こうからブブッと笑う声が返ってくる。
『可愛い子供には旅させろって、本当ね。
外に出すとこんなに大人になるなんて』
母親はそういうが、俺は旅をしている訳ではない。
「大人じゃないよ。まだまだ子供。まだ成人もしていないし」
『当たり前じゃない!
逆にすぐオッサンになられてもつまらないじゃない!
でもそのお友達スゴイわね~お節を作るなんて。私はね、もう面倒臭いから止めたのに。
それに料理あまり得意じゃないし! お父さんとアンタがイマイチだというのも分かる出来だったし』
やはり傷つけたのだと分かり申し訳ない気持ちに苛まれる。
「そんな事はない。ゴメン」
「謝らないで。
やめたことで寧ろ一緒に紅白とは家族との団欒時間も増えたから。コレはコレでありかなと思わない?
……ところで、お兄さんと言っていたけど、本当にお兄さん?
もしかして彼女に作ってもらって怒られたから電話かけてきたわけではないわよね」
俺は母親の言葉に驚き、速攻否定する。
「違うよ! ジローさんといって同じアパートに住む人で男性!
そんな彼女なんて作っている余裕あるわけないだろ!」
精神的な意味でも、経済的な意味でも、今余裕はない。
その流れでジローさんが電話で挨拶することになり結局母は住民全員との挨拶を楽しみ電話は終わる。
後になって父と挨拶していなくて良かったのだろうか? と気が付いたが遅かった。新年用のパンツを送ってくれた事のお礼くらいはするべきだった。後でLINEでお礼を言っておこう。
お陰で俺がノラーマンという芸能人と同じアパートに住んでいた事。YouTubeチャンネルの製作に携わっている事。ブログをやっていて来月その事で猫雑誌に掲載される事などを全部親にバレてしまう。
ブログ以外の事は隠していた訳ではない。あえて話す事でもないと思っていたから話をしてもいなかった。
過去の俺の暴言よりも、まったく今の状況を連絡していなかった事で母親から怒られる結果となった。
『サバちゃんの風邪大丈夫?』
以後母親のコメントがブログやTwitterにつくようになって、非常に小っ恥ずかしい気持ちになる。
速攻電話して『恥ずかしいから見ないで』と頼むが、やめてくれる母親ではない。
『何言っているの!! 世界に向けて発信しているものよね? 当然私も見る権利があるわよ!』
確かに正論ではある。
『それに、電話を寄こさない息子が元気に立派にやっている様子が分かるから嬉しいの。あと身びいき抜きにしてあのブログ面白いわよ! モノちゃんサバちゃんカワイイし♪』
まあ、親に見られて困るような内容はそんなに書いてはいない。
「そもそも親に読まれて困るような内容を、ネットに流す方が問題。そういう視線を感じながらやるのは良い事では?」
スアさんにもそう言われたので、現状を受け入れる事にした。
そして一月末に送られてきた仕送りの小包を開けて『アレ?』と俺は思う。
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