俺の部屋はニャンDK 

白い黒猫

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パーティーは始まった

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 サバの快気祝いパーティーは前回の飲み会とほぼ同じメンバーが集った。
 最近少し忙しくなったタマさんとシマさんも奇跡的にオフで出席できる。
 あの時いて今回欠席なのはシロネコさんだけ。ライブハウス経営のシロネコさんはこの季節は仕事が忙しいようだ。
 現住民以外での参加はクロネコさんとキティーさん。そして柑子かんこさん
 住民である筈のミケさんの方が影は薄いくらいである。コレはミケさんの印象が薄いのではない。
 よく来る三人が個性的過ぎて、インパクトも強すぎると言うべきかもしれない。
 ミケさんは会えてないものの、アレ以後ネットで交流出来て親しくしてさらに仲良くなった。
 アパートに戻ってきたら土産話を楽しんでいる。今回も美味しいという東北のお酒を『俺の代わりに』と送ってきてくれた。
 俺はそのお酒に【ミケさんからの贈り物です!】という付箋を貼っておく。
 そのお酒に先ほどからクロネコさんが興味ありげな視線を送っている。酒好きにはシッカリ分かる良いお酒なのだろう。

 メンバーの殆どが同じアパートという事もあり、開始時間なんて関係なく好きな時間に顔を出す。
 他の部屋や商店街をうろつきと気儘な動きをしている。
 何となく皆のノリで気がついたのだが、サバの為というより皆で楽しく飲みにきただけのようだ。
 クロネコさんもシロネコさんもキティーさんも普段からアパートにも遊びに来る事が多い。
 その時いたメンバーで何となく集まり飲み会をしている。その為久しぶりとか、会えなくて残念な感じもしない。
 今回もそのノリの延長で良かったのだと当日気がついた。

 いつもと違うのは、会場作りから皆が手伝ってくれる所。通常飲み会の会場になるのは、シアさんの部屋かジローさんの部屋で集まって即始まる。
 それらの部屋は住民が友人も多い事から常に人を迎える準備が出来ている。
 その為にあえて準備も何もないのだが、今日は皆が何故か会場作りから手伝ってくれた。
 俺の部屋にこれだけの人が集まるには、色々足りないものが多かったから。
 俺の部屋は卓袱台しか料理を置く家具がない。物置とスアさんの部屋からテーブルを借りた。
 キッチンの壁の方に置き料理を並べ、ドリンクはキッチンの調理台の方に並べる事にした。
 和室の方にはスアさんとシングの部屋から借りたクッションを配された。
 料理をキッチンでバイキング方式で各自で取って、和室で寛ぎながら食べられるようにする。
 食器とコップは百均で買った使い捨ての物。食器を改めて人数分揃えるのも大変だし、こうすると捨てるだけですむ。
 後片付けも簡単だと言うことを学んだ。

 テーブルにシアさんがテーブルクロスをかけてくれた。
 シングの部屋の単色のシンプルなクッションに、スアさんの部屋の花柄のクッション。合わさるとなかなかオシャレになり俺の部屋に思えない。ファブリックでこんなに部屋が見間違えるようになることは驚きだ。
 テーブルに並んでいるのは俺が作った魚屋さんで売っていた刺身の切れ端で作ったカナッペ。
 それに干物と玉ねぎのサラダ。今回俺なりに少し料理を頑張ってみた。
 シングがバイトしている店のカレーとナンとタンドリーチキン。
 シマさんとタマさんが買ってきた商店街の焼き鳥とか揚げ物。コレだけでもかなり豪華。
 ジローさんは手鞠寿司と何かを湯葉で巻いたという天婦羅。
 あと何かを巻いてオシャレになった白菜漬けを作って持ってきてくれた。
 シアさんは彩りが半端なく美しいサンドイッチ。多分唐揚げだと思うが上にハーブとかトマトとかが美しく乗せられている料理。それに華やかな色彩のサラダ。
 二人の料理の腕は半端なく、料理を写真に撮りたくなるというシチュエーションが理解できた気がした。
 インスタ映えというのはこういうモノをいうのだろう。
 実際飲食店で働いて料理を担当しているシアさんは兎も角、ジローさんの作る料理の美しさは素人離れしている。
「南蛮人はホームパーティ好きだという。
 パーティー料理を作るのに慣れているのからでは?」
 料理の素晴らしさに感動していた俺に、シングから色んな意味でズレた答えが帰ってきた。
「南蛮人に……フランス人って入るんだっけ?」
 言ってからコレって今聞くまでもない、どうでも良い事だったと気が付く。
 それにジローさんのハイスペックさはフランス人がお洒落で社交的な性格だからというのと少し違う気がする。
 それにジローさんの作ってきたものはフランス料理からは程遠い。
「紅毛人か……」
 シングはそう呟き納得したように頷く。
 しかし俺はその言葉についての正解が分からないのでスルーして、会場準備を続けることにした。とはいえすぐにすることもなく皆でマッタリすることになった

 約束の時間の十分前にやってきた柑子かんこさんは、既に皆揃っており寛いでいる状況に目を丸くする。
「いや、皆はこのアパートに住んでいるし。元々この部屋にいるようなものなのだから!」
 俺は遅刻してきたかのように謝る柑子さんにあわててそう説明する。
 視線を落とすと柑子さんの手に可愛い布にくるまった何かが見えた。
 そうすると柑子さんは何故か恥ずかしそうに顔を赤くする。
「あ、これ、チーズケーキ焼いてきたのですが……」
 何故かもってきた手作りのチーズケーキを恥ずかしがりながら出してくる柑子かんこさん。
「ケーキ! コレ手作りなんですか! すごい! 美味そう!」
 オレンジの輪切りが美しく並んだケーキが素敵すぎて、俺はつい興奮しながらそう声をあげてしまう。
 しかし柑子さんはイヤイヤと照れたように顔を横にふった。
 動物についてはキリッとした凛々しい感じでいつも語っている柑子さん。
 それなのに他の事になると、このように控えめで可愛い感じになるのが柑子かんこさんの不思議な所。
「貴方が藪動物病院の柑子かんこさんね!
 サバとトラオとジローとマシロがお世話になっています~。
 アタシはトラオくんの隣にすむシアよ~」
 シアさんが笑顔で近づいて話しかけてくれる。
「まあ、素敵なケーキ♪ 嬉しいわ~アチラのむさ苦しい男どもに食べさせるのは勿体ないくらいカワイイ~♪
 あとで女子だけで食べない?」
 キティーさんも近づいてきてそう話しかけて部屋に誘った。
 二人の明るく軽いノリにで柑子かんこさんの緊張もほぐれる。
 既に顔見知りであるジローさんも声を掛けて皆に紹介する。お陰で柑子さんはそのまま自然に場に溶け込めたようだ。

「サバもお蔭様でこんなに元気になりました! コレも皆さんに温かく支えて頂いたお蔭です! 本当にありがとうございました!」
 全員が揃った事で俺のそんな挨拶で乾杯をしてパーティーは始まる。
 主役であるサバは床の間クローゼットにハマりこみ、つまらなそうな顔。
 そしていつの間にか部屋にいたモノはキッチンを歩きながら料理を物珍しそうに見上げている。コレは料理を狙っているように見えるだけに注意が必要かもしれない。
 俺はサバとモノを呼んで、カナッペに乗せる材料にした刺身の残りを二匹にあげることにした。
 先にお腹を満たしておく方が安全だろう。
「君たちも今日はご馳走なんだね~」
 二匹にご飯を上げている俺に、柑子さんが声を掛けてくる。
「一応主役と、その家族ですから」
 言葉は通じていない筈なのにサバは顔を上げて不満げに鼻にシワ寄せている。
 異議が何かあるようにニャーと鳴くが刺身に戻る。
「サバちゃん元気になったね~。
 こんなに美味しそうにご飯も食べて。しかもパーティーまで開いてもらうなんて本当に愛されニャンコさんなのね」
 そう言いながら柑子さんがサバの頭を撫でると嫌そうに顔をひき避け、睨んで口を開け威嚇の表情を見せる。
「サバっ! そんな態度を取らない!
 こんな風に人見知りが激しいし、性格も顔も、可愛くないのに。それが不思議で」
 サバを宥めながらそう言うと柑子さんはクスクス笑う。
「猫は元々人に媚びない誇り高い動物だから。そこが堪らないという人も多いですよね。
 そういう意味ではプライドも高くて猫らしい猫さんね!」
 柑子さんに俺は首を傾げるしかない。誇り高く毅然とした態度が素敵だから皆がサバを愛している。
 そういう事とはなんか違う気がする。
「そうそう、トイレトレーニング!
 柑子さんのアドバイスに従ったら直ぐに覚えてくれました。ありがとうございます!」
 そう、サバとの同居で一番の問題はトイレだった。
 我慢して我慢して部屋の隅でして俺に怒られて気まずそうにするという事を繰り返す。
 それなのに相談した柑子さんに言われたようにすると驚く程、簡単に解決したのだ。
 サバのオシッコを吸わせたティッシュを猫用トイレに置いておくだけ。
 それだけで突然猫用トイレを、トイレであることを理解してくれたのである。目から鱗だった。
「トラオ! 客様をこんな寒い所に! ちゃんとレディーをおもてなししないと。柑子ちゃんコチラに座って」
 シアさんは俺にそう注意をして、柑子さんを和室へと促す。
 何か料理でも彼女の為に用意しようと離れようとしたら、隣に座らされる。
「今日初めて会った人ばかりだから。
 貴方がついて、回りと会話させてやらないとダメでしょ!」
 そう耳打ちされる。シアさんはキッチンに行き俺と柑子さんに紙皿に乗せた料理を持ってきてくれた。
 そのままシアさんは他の人からも注文をうけドリンクを用意しようとしている。
 シアさんはお仕事モードになっているようだ。
「シア、君もだよ! そう仕切りたがるのは悪い癖だ。飲み物なんてそれぞれが勝手にやるから」
「そうそう! シアさんもコッチで話しましょうよ! この肉旨いっす!」
 ジローさんがそう声をかけてくれて、シマさんがそう受ける。お蔭で皆揃って和やかに輪となり楽しい会が始まった。
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